禁裏付武家単語

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禁裏付武家とは、江戸幕府の職制の一つである。
関連する役職として仙洞付武家、女院付武家等についても説明する。

概要

江戸幕府は摂家・武家伝奏・議奏を機能させることで公家を通じて朝廷を統制させる一方、京都所司代など京都へ武家を派遣することによっても朝廷を統制させる仕組みを構築していった。これこそが、禁裏付武家、仙洞付武家、女院付武家等である。

この始まりは徳川秀忠の娘・和子が後水尾天皇に入内したことである。和子には徳川家康の側室である阿茶局をはじめとした多くの女房に加え、旗本の弓家多昌吉が執事として供奉し、これが女院付武家（このころは厳密にいえば女御付武家ではある）の始まりであった。元和9年（1623年）の弓家多昌吉の死によって、後任として大橋親勝、さらに天野長信が加わり、以後女院付武家の定員は二名となった。

こうして徳川家光は寛永3年（1626年）に中宮御所御制法を発布。天野長信、大橋親勝の両名が中宮御所の門の出入りの監督や、出入りする町人たちとの折衝役になることが規定された。

さらに寛永20年（1643年）に、それまでの徳川家に連なっていた明正天皇から、血縁関係のない後光明天皇に譲位されると、幕府は禁裏付武家・新院付武家を新設する。このうち禁裏付武家には高木守久、天野長信が、新院付武家には中根正次、榊原元義が、女院付武家には野々山兼綱、大岡忠吉が任じられた。
さらに禁裏付武家には「御黒印の条約」が職務規定として示され、「表向之御用」を除いて、御所の門の警備と禁裏でかかる諸経費の監査、および禁裏全体の監視が命じられたのであった。

こうして、禁裏付武家は配下の与力・同心たちとともに御所の門を警備し、一方で奥や口向を取り仕切っていた女官「両頭」のうち長橋局とともに、彼女の配下の御執次衆を支配下に置いたのであった。

なお、仙洞付は『翁草』によると上皇の崩御の際に役職にいた人物そのものは江戸に帰還するが、配下の与力・同心たちは一代のみ引き続き勤めるため、『京都武鑑』には欄自体は残っている。

禁裏付武家の定員は二名で、旗本から任じられた。また、その配下には数十人の与力・同心がおかれていたが、梶川家など与力は事実上世襲されていたようだ。こうした与力・同心は、慶応3年（1867年）の王政復古の大号令に伴い、いったんは遊撃隊として大阪に配備されたが、新衛組と改称したのち廃止され、京都に戻ってきた。明治維新後は近代社会に適応していき、その後は杳として知れない。

柳営補任による一覧

禁裏付（1人目）

歴代	名前	通称	期間
1	天野長信	豊前守	寛永20年8月～承応2年3月
2	青木義綱	新五兵衛→遠江守	承応2年11月28日～寛文11年2月28日
3	前田直勝	牛右衛門→安芸守	寛文11年2月5日～延宝元年2月13日
4	石谷武清	五右衛門→長門守	延宝元年3月9日～延宝7年12月
5	石川成久	彦五郎→信濃守	延宝8年2月6日～貞享3年5月28日
6	久留島通定	左兵衛→出雲守	貞享3年6月27日～元禄11年5月28日
7	山口直重	孫次郎→安房守	元禄11年5月28日～正徳3年2月29日
8	小宮山昌方	庄九郎→丹後守	正徳3年2月29日～享保8年3月9日
9	松平忠一	石見守	享保8年4月6日～元文4年7月1日
10	曽根景年	五郎兵衛→因幡守	元文4年7月1日～寛保2年6月6日
11	田中勝方	一郎右衛門→出羽守	寛保2年6月15日～寛延4年10月28日
12	長田元鋪	山城守→越中守	寛延4年10月28日～明和4年1月15日
13	天野正景	助次郎→近江守	明和4年1月28日～安永6年6月15日
14	渡辺直	喜右衛門→筑後守	安永6年6月21日～天明5年3月29日
15	建部広般	甚右衛門→大和守	天明5年4月11日～寛政元年7月28日
16	有田貞勝	與九郎→播磨守	寛政元年7月28日～寛政6年9月16日
17	神保長孝	四郎右衛門→紀伊守	寛政6年10月3日～寛政10年10月16日
18	曲淵景露	和泉守	寛政10年12月23日～寛政11年12月27日
19	加藤則陳	玄蕃	寛政11年1月11日～享和元年4月28日
20	池田政貞	雄次郎→筑前守	享和元年5月1日～文化6年8月2日
21	土屋正儒	長三郎→筑後守	文化6年8月12日～文化15年4月24日
22	渡辺幸	喜右衛門→筑後守	文政元年5月19日～文政5年12月1日
23	松平定朝	左金吾→伊勢守	文政5年12月1日～文政10年8月9日
24	後藤行明	佐渡守	文政10年8月17日～文政11年6月24日
25	野一色義儔	外記→信濃守	文政11年7月8日～天保4年7月8日
26	中根正摸	平十郎→壱岐守	天保4年7月8日～天保8年12月27日
27	田村顯彰	隼人→伊勢守	天保9年1月28日～天保13年9月
28	渡辺尚	小膳→筑後守	天保13年11月8日～弘化3年6月2日
29	内藤忠明	安房守	弘化3年7月28日～嘉永2年9月24日
30	岡部豊常	主税→備後守	嘉永2年10月8日～嘉永6年12月26日
31	大久保忠良	彦左衛門	嘉永7年1月22日～文久元年9月14日
32	滝川具知	播磨守	文久元年8月15日～文久2年7月27日
33	小栗政寧	右膳→長門守→下総守	文久2年5月18日～元治元年2月15日
34	粕屋義明	筑後守	文久3年12月28日～元治元年9月5日
35	遠山資尹	隠岐守	元治元年3月16日～慶応2年10月
36	菊池隆吉	伊予守	慶応2年11月4日～20日
37	岡部	三右衛門→肥前守	慶応3年6月～12月9日

禁裏付（2人目）

歴代	名前	通称	期間
1	高木久延	善七郎→伊勢守	寛永20年8月～万治元年3月1日
2	小田切須直	喜兵衛→美濃守	万治元年5月15日～寛文2年7月18日
3	服部具常	久右衛門→備後守	寛文2年7月9日～延宝2年6月29日
4	牧野成時	数馬→摂津守	延宝2年7月9日～天和元年6月19日
5	佐野正行	吉之丞→修理大夫	天和元年8月22日～貞享4年10月13日
6	須田盛輔	市兵衛→大隅守	貞享4年10月15日～元禄9年3月28日
7	松野助義	八郎兵衛→壱岐守→河内守	元禄9年3月28日～元禄14年8月18日
8	曽根長賢	五郎兵衛→能登守	元禄14年8月28日～寛延7年10月18日
9	久留正清	十左衛門→伊勢守	寛永7年10月19日～享保10年9月25日
10	川勝広豊	刑部	享和10年10月18日～享保11年1月17日
11	村上正直	東市正	享保11年2月3日～享保14年10月22日
12	桑山元武	伊兵衛→丹後守→下野守	享保14年11月18日～元文6年1月11日
13	三枝守隆	伝蔵→伊勢守	元文6年1月11日～延享3年3月12日
14	山木正信	五郎左衛門→筑前守	延享3年4月1日～宝暦6年3月1日
15	田付景林	又四郎→越後守→筑後守	宝暦6年4月1日～明和6年6月17日
16	松平康兼	舎人→肥前守→信濃守	明和6年6月17日～明和8年8月8日
17	高力長昌	式部→土佐守	明和8年9月28日～安永4年5月21日
18	永井直該	采女→甲斐守	安永4年7月1日～安永5年7月
19	水原保明	善次郎→摂津守	安永5年7月20日～寛政3年5月3日
20	石谷清茂	肥前守	寛政3年5月11日～寛政9年9月19日
21	丸毛俊隆	勘左衛門→長門守	寛政9年9月19日～享和2年8月8日
22	小島正苗	孫右衛門→安芸守	享和2年8月28日～文化8年閏 2月12日
23	渡辺胤	久蔵→阿波守	文化8年閏 2月24日～文化14年1月20日
24	曽我助弼	七兵衛→豊前守	文化14年2月2日～文政3年8月13日
25	森川氏昌	金右衛門→美濃守	文政3年9月10日～文政8年5月9日
26	梶野良材	土佐守	文政8年6月1日～天保2年4月11日
27	本目正珍	帯刀→讃岐守	天保2年4月28日～天保3年6月17日
28	竹川明直	善兵衛→播磨守	天保3年7月17日～天保4年12月27日
29	小笠原信賢	兵庫→安芸守	天保4年12月27日～天保13年8月20日
30	明楽茂正	大隅守	天保13年8月24日～嘉永2年1月20日
31	内藤正令	遠江守	嘉永2年2月8日～嘉永5年4月24日
32	長谷川清福	甚兵衛→肥前守	嘉永5年5月9日～安政2年5月7日
33	都筑峯重	駿河守	安政2年5月22日～安政5年4月6日
34	大久保忠寛	右近将監→伊勢守	安政5年5月20日～安政6年2月26日
35	阿部正外	兵庫→越前守	安政6年3月9日～文久元年11月11日
36	松平清秀	次郎兵衛→伊勢守→若狭守	文久元年11月16日～慶応3年1月
37	星野千之	備中守	慶応2年11月14日～12月8日
38	大久保忠恒	筑後守	慶応3年1月～12月9日

禁裏付（3人目）

歴代	名前	通称	期間
1	牧義道	修理→相模守	慶応元年11月7日～慶応3年
2	星野成美	豊後守	慶応3年10月1日～12月9日

女院付（東福門院）

歴代	名前	通称	期間
1	弓気昌義	多源七郎→摂津守	元和7年6月18日～元和9年5月12日
2	大橋綱重	與惣右衛門→越後守	元和7年6月18日～？
3	天野長信	小三郎→豊前守	元和9年8月28日～寛永20年8月31日
4	大岡忠吉	兵蔵→美濃守	寛永20年8月30日～明暦2年4月16日
5	板橋政郡	五左衛門→志摩守	明暦2年8月1日～寛文6年5月7日
6	野々山兼綱	新兵衛→丹後守	寛永20年8月31日～寛文4年4月6日
7	野々山兼吉	新兵衛→肥前守	寛文3年10月8日～寛文12年3月22日
8	簗田直次	宇兵衛→隠岐守	寛文6年8月18日～延宝6年6月15日
9	久留勝周	十左衛門→和泉守	寛文12年5月25日～延宝6年6月15日

本院付（明正天皇）

歴代	名前	諱	期間
1	中根正次	但馬守	寛永20年8月31日～？
2	榊原元義	市郎右衛門→淡路守	寛永20年8月31日～承応3年10月
3	深津正貞	彌一郎→越中守	承応3年1月28日～万治3年3月8日
4	中川忠幸	勘三郎→飛騨守	承応3年11月29日～寛文10年11月19日
5	岡部久綱	庄左衛門→土佐守	寛文11年2月5日～貞享4年8月7日
6	松下房利	彦兵衛→伊賀守→豊前守	万治6年4月13日～寛文13年7月30日
7	神尾守政	孫右衛門→下総守→伊予守	寛文13年9月13日～元禄5年6月25日（配下から刀傷）
8	市岡正房	左大夫→但馬守	元禄5年6月27日～元禄8年7月18日
9	小栗信重	十郎右衛門→備中守	元禄5年6月27日～元禄9年11月13日

新院付（後西天皇）

歴代	名前	通称	期間
1	鈴木重高	治左衛門→淡路守	寛文3年1月15日～寛文13年2月13日
2	小笠原信吉	七左衛門→丹波守	寛文3年1月15日～延宝5年9月13日
3	山口信吉（許之？）	庄兵衛→壱岐守→内蔵頭	寛文13年3月19日～貞享2年2月19日
4	岡部盛次	三右衛門→筑前守→伯耆守	延宝6年5月13日～貞享2年2月21日

本院付（東山天皇）

歴代	名前	通称	期間
1	赤井盤公	六兵衛→信濃守	寛永6年4月13日～12月17日
2	日根野弘長	庄次郎→備中守	寛永6年4月13日～12月17日

仙洞付（霊元天皇）

歴代	名前	通称	期間
1	北条元氏	新左衛門→播磨守	貞享4年2月18日～元禄6年1月11日
2	牧長高	七左衛門→下野守	貞享4年2月18日～元禄5年3月23日
3	徳永昌清	十左衛門→備前守	元禄5年3月23日～元禄12年8月27日
4	柴田康能	七左衛門→日向守	元禄6年1月28日～元禄11年3月25日
5	平岩親庸	金左衛門→若狭守	元禄11年3月28日～元禄16年6月23日
6	山中基俊	五郎左衛門→丹波守	元禄12年8月28日～寛永元年10月7日
7	荒木政羽	十左衛門→志摩守	元禄16年6月28日～正徳5年10月26日
8	山田重伯	三大夫→伊勢守	寛永元年10月9日～享保8年11月10日
9	長崎元仲	伊豆守→伊予守	正徳5年12月28日～享保4年5月23日
10	榊原政殊	采女→周防守	享保4年8月15日～享保6年10月4日
11	本多直上	彌五郎→大和守	享保6年11月12日～享保16年11月15日
12	大久保忠義	一郎右衛門→備前守	享保8年10月28日～享保14年11月3日
13	市岡正次	左大夫→但馬守	享保14年11月28日～享保17年6月
14	石尾氏茂	市兵衛→阿波守	享保17年1月15日～享保17年6月

仙洞付（中御門天皇）

歴代	名前	通称	期間
1	赤井直綱	図書→相模守	享保19年12月1日～元文2年4月11日
2	山岡景照	源右衛門→播磨守	享保19年12月1日～元文2年4月11日

院付（桜町天皇）

歴代	名前	通称	期間
1	山口直倫	孫次郎→安房守	延享4年2月12日～寛延3年4月
2	鈴木利祐	源五右衛門→飛騨守	延享4年2月12日～寛延3年4月

仙洞付（後桜町天皇）

歴代	名前	通称	期間
1	浅野長壽	隼人→河内守	明和7年10月12日～安永3年10月
2	中西元義	主水→伊予守	明和7年10月12日～明和8年3月1日
3	久永政温	修理→相模守	明和8年3月12日～明和9年10月
4	妻木頼栄	平四郎→因幡守	明和9年10月26日～安永3年10月22日
5	有馬則雄	采女→阿波守	安永3年10月24日～安永5年10月13日
6	堀直昌	三六郎	安永3年10月24日～11月8日
7	庄田安久	小左衛門→下総守	安永3年11月12日～安永7年7月29日
8	松浦信種	與次郎→越中守→越前守	安永5年10月24日～安永9年6月17日
9	三枝守歳	豊前守	安永7年8月4日～寛永5年8月8日
10	本間季道	十右衛門→佐渡守	天明5年7月12日～寛政3年8月24日
11	福島正昭	左兵衛→備後守	寛政5年8月8日～寛政9年4月11日
12	安部信富	安吉→駿河守	寛政3年9月18日～寛政10年5月31日
13	大久保忠良	甚兵衛→大隅守	寛政9年5月28日～享和3年11月26日
14	米津田将	小大夫→周防守	寛政10年6月10日～享和3年2月8日
15	水野忠良	伯耆守	享和3年2月17日～文化8年6月5日
16	山木正富	若狭守	享和3年11月30日～文化5年11月
17	桜井藤強	庄兵衛→備中守	文化5年12月3日～文化11年5月9日
18	織田信節	図書→信濃守	文化8年6月24日～文化11年5月9日

仙洞付（光格天皇）

歴代	名前	通称	期間
1	渡辺胤	阿波守	文化12年1月20日～文政2年1月11日
2	小笠原直信	政之助→豊前守	文化12年1月20日～文政9年1月11日
3	喜多村正秀	山城守→石見守	文政2年1月11日～文政3年10月8日
4	成瀬正育	吉右衛門→因幡守	文政3年10月24日～文政10年11月24日
5	永井直尭	靭負→筑前守	文政9年1月31日～天保5年12月27日
6	御手洗正暉	五郎兵衛→出雲守	文政10年12月12日～天保3年閏 11月8日
7	竹内幸綽	五六左衛門→大隅守	天保3年12月12日～天保6年7月25日
8	堀田正路	式部→土佐守	天保6年1月19日～天保13年1月15日
9	堀利堅	小四郎→伊賀守	天保6年9月20日～天保7年11月8日
10	鈴木政房	九郎右衛門→備前守	天保7年12月8日～天保10年12月
11	角南国英	主水	天保10年3月15日～6月13日
12	大島義彰	久左衛門→丹波守	天保10年7月10日～天保13年1月15日