ラヴクラフト最大の誤算とは、クトゥルフ神話がクトゥルフ神話という体系をとっちゃった事である。
ラヴクラフトとはアメリカ合衆国の幻想・恐怖小説家で、フルネームは「ハワード・フィリップス・ラヴクラフト」。複数の作家が同じ世界観(アイテム)を作中で共有する事によって生み出された、クトゥルフ神話の創始者である。また、世界的に有名と言って差し支えない魔術書「ネクロノミコン(アル=アジフ)」の生みの親でもある。
ラヴクラフトは創作に際し、自身の作品や作家仲間を通じて、共通のアイテムやモチーフを多用した。その目的はあたかも、世界中の神話の背後に共通する宇宙的深淵を湛えた事実や、それを基にした神話や信仰という“隠された世界の実相”があるかのように演出することにあった。
これは、彼の作品の多くは「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」であったことが要因になっている。コズミック・ホラーでは構造上、人間には想像もつかないほど巨大な存在を描かざるを得ない。結果として“根拠の無い奔放な小説家の想像の産物”が生まれてしまうわけだが、これではホラーに欠かせないリアリティを持たせる事など不可能に近い。
そこで、両者をどうにか共存させるために考え出されたアイディアこそ、クトゥルフ神話だったのではないかと推察することができる。つまり、まるで関係の無い複数の作品間に同名のアイテムを登場させ、更には実在する土着信仰と結びつけるという鼻薬まで嗅がせて読者の想像力を働かせ、読者が自ずと“隠された世界の実相”を暴き出し、自らの想像力によって恐怖してしまうように施された、隠される事で機能する大掛かりな仕掛けであったのだ。
…と、いうことは?
実は、読者側にクトゥルフ神話が広まってしまった時点でネタバレしてしまったことになる。
このネタバレをしちゃったのが、ラヴクラフトの愛弟子とも言うべきダーレスである。ダーレスのフォローをすれば、彼は単に師であるラヴクラフトに相応の(世間的な)評価を与えたかっただけで、もちろん悪意があってこの壊滅的ネタバレを行ったのでは無いことを申し添えておきたい。
だが、結果としてダーレスや後に続いた作家たちの手によってクトゥルフ神話は体系化されてしまい、読者をも巻き込んだシェアワールドとして広く知れ渡ることになったのだった。
ところが!!
そんなことはどうでもよかったと(御大も思うんじゃないかなぁと)思えるほどの誤算が、本邦において生じる。
日本で「クトゥルフ神話」を最初に大きく扱ったのは江戸川乱歩であるとされている。その乱歩が広めたクトゥルフ神話はやがて、ラヴクラフトが想像もしなかったであろう方へと向かい始める。
この先鞭をつけたのは、「出海まこと」著、「士郎正宗」絵による問題作『邪神ハンター』と見ていいだろう。エロという視点では、掲示板でも挙げられた「後藤寿庵」著の『ALICIA・Y(コミックペンギンクラブで連載)』があり、また擬人化という視点からは、「澁澤工房」著の『ANGEL FOYSON(電撃大王で連載)』を推す声もある。
そもそも、この記事の初版が「最大の誤算」タグの派生記事として書かれている事からもわかるように、記事名そのものは完全なネタである。
が、やはりラヴクラフト最大の誤算は、本邦におけるクトゥルフ神話の展開であったのではないだろうか。オカルト、ホラー、魔術といったクトゥルフ神話が持つ属性は、世間的に背徳的とされるものである。少なくとも誉められる類のものでは無い。そういったものを忌避し、あるいは耽美的に見せる事でより効果的に背徳を煽り、また恐怖を呼び起こすのが、多くの表現者達の間で長く主流であった事は間違いない。
しかし、その為のアイテムとして作られた「邪神」や「魔導書」に対して恐怖を抱くどころか、あろうことかマクガフィンの枠からも取り出して、それに人格を与えて好意を寄せる者達がいた。しかも彼らは下心も顕わに擬人化し、「萌え」と呼び、更に「可愛い」という肯定的な属性さえ与えてしまったのだ。
現在の日本におけるクトゥルフ神話の“最尖端”を見たラヴクラフトは、どんな感想を述べるであろうか。ただ、これが想定の範囲かと問われれば、誤算であるという回答が得られるのは想像に難くあるまい。
今は泉下にある御大の手元に「這いよれ!ニャル子さん」他が届かないことを祈るばかりである(合掌)。
日本人に見つかった結果などと言われるが、実際にはそうでもない。
そもそもにおいて、クトゥルフの擬人化しかも女体化は1949年にデヴィット・H・ケラーの『最終戦争』という作品ですでに行われている。
1980年代には結婚生活に夢見る乙女な性格のクトゥルフが登場する『I Cthulhu』なんて作品もあるし。
老魔術師の主人公が異次元から帰ってきたらイケメンスーパーサイボーグになっており、さらに人外ツンデレヒロインと共に活躍する『タイタス・クロウサーガ』もこの手の話からは外せない。
なにせダーレスは単なるパルプフィクションで消え行く運命だったクトゥルフ作品を盛り上げる為、多くの作家仲間と共に単なるコズミックホラーに留まらない様々な作風を模索していたのである。
なのでこうした作品は日本のみならず、海外でも負けず劣らずに自由な作風なクトゥルフ作品が今も生まれ続けているのだ。
掲示板
383 ななしのよっしん
2022/11/11(金) 19:47:04 ID: eD0ZOcmhdp
深淵を覗き込むとき、深淵もまた、こちらを覗き見ている
深淵は日本人の方だったのかもしれない
384 ななしのよっしん
2023/09/25(月) 13:03:40 ID: 45M1fXgU4F
>>381
未訳だが以下のシナリオとサプリが発売中
19世紀後半の北アメリカ大陸を舞台にしたゴールドラッシュ時代の西部劇シナリオ。
>>【シャドーオーバースティルウォーター(Shadows over Stillwater) 販売サイトDrivethrurpg】
>>https://
>>【ダウン・ダーカー・トレイル(Down Darker Trails) 販売サイトDrivethrurpg】
>>https://
解説動画※キーパー視点では丁寧な解説。プレイヤー視点では一部ネタバレあり。
>>【新クトゥルフ神話TRPG】西部開拓時代シナリオ集シャドーオーバースティルウォーターを解説してみた
>>https://
(省略しています。全て読むにはこのリンクをクリック!)
385 ななしのよっしん
2024/03/16(土) 20:38:10 ID: UTVM/ncUzm
人知を超えたモノに対する畏怖って日本での万物八百万の神という考えとは親和性が高いから
そこに僅かでも人間臭さを見い出せば神ですら擬人化萌えする日本には相性悪いよねってのはすごく分かる
急上昇ワード改
最終更新:2024/04/26(金) 22:00
最終更新:2024/04/26(金) 22:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。