ニーベルングの指環(Der Ring des Nibelungen)とは、リヒャルト・ワーグナーが制作・発表した4部作の楽劇作品である。
「ニーベルンクの~」や「~の指輪」と表記されている場合もある。
概要
ワーグナーが制作した楽劇の中で最も長いことはもちろん、全オペラの中でも飛び抜けて長い。そのため通常は次のとおり4分割されて4日間にわたり展開される。
ちなみに上演時間が最も短いのは『ラインの黄金』の約2時間半、最も長いのは『神々の黄昏』の4時間半(休憩を除く)であり、演者にも観客にも体力が求められる。
- 序夜 『ラインの黄金』(Das Rheingold)
- 第1日 『ワルキューレ』(Die Walküre)
- 第2日 『ジークフリート』(Siegfried)
- 第3日 『神々の黄昏』(Götterdämmerung)
4日も要することからも分かるように、非常に物語のスケールが広大である。
北欧神話と叙事詩「ニーベルンゲンの歌」、特に英雄シグルズ(ジークフリート)の伝説を基に展開される壮大な神話劇となっている。特に「ラインの乙女」や「ワルキューレ」などの単語は、北欧神話よりこちらを先に思いつく人も少なくない。なお登場するワルキューレの名前はワーグナーオリジナルのものもあり、北欧神話におけるワルキューレ(ヴァルキュリャ)とはまた少し異なっている。その点の詳細は、ワルキューレ(楽劇)の記事を参照。
制作当初はシグルズの伝説を元とする『ジークフリートの死』のみだったが、構想段階で物語が膨らみ、大幅に内容が増えた。
制作開始は1848年、ワーグナー35歳の時だったが、完成したのは26年後の1874年である。何しろあまりに時間がかかった為、バイエルン王ルートヴィヒ2世は完成を待たずして出来たものから上演するように催促している。
1869年9月22日に『ラインの黄金』、1870年6月26日に『ワルキューレ』が初演となり、1876年8月13日、第1回バイロイト音楽祭にて全曲世界初演となったが、ぶっちゃけ演出面でコケてしまった為に世間の論評は辛辣なものとなり、これによってワーグナーは鬱を患うほどだった。
日本では1967年に『ワルキューレ』が部分初演され、1984年から1年1作で全曲初演となった。その後も4年がかりで完結させるパターンが多い。
北欧神話をモチーフとしたRPG「ヴァルキリープロファイル」を始め、北欧神話系の設定を取り入れているゲームやコミック、ライトノベルなどでは設定を膨らませるため、本作から題材をとることが多い。
劇内容
序夜:ラインの黄金
- 第一場
「父なる」ライン川の水底。そこには3人の美しい水精「ラインの乙女」がおり、水底に眠るラインの黄金を護り続けていた。
そこに闇の国ニーベルハイムのしょっぱい小人アルベリヒが現れ、乙女たちにエッチな方の愛を求めるが、すげなく拒絶される。しかしそこで迂闊にも乙女の一人が「ラインの黄金から造られた指環は世界を支配できる魔力を持つが、指環を造れるのは愛情を断った者だけである」と小人に囁く。アルベリヒはそれを聞くと「小人に愛など要らぬ!」とばかりに乙女たちから黄金を強奪してしまう。
アルベリヒは闇の国に戻ると、得た黄金から「一つの指環」を作り上げる。代償として彼は誰も愛せなく、愛されなくなってしまった。 - 第二場
巨人族によって建造された壮麗なる神城ヴァルハラ。その巨人たちは依頼者である神々の王ヴォータンから「報酬に美の女神フライアを与える」と契約されていた。しかしヴォータンやその妻フリッカはフライアを手放すのが惜しくなり、フライア自身もむくつけき巨人の下へ行くつもりはなかった。そこでヴォータンは狡猾なる火の神ローゲの助力を得て巨人たちに報酬を変えさせようとした。
しかし巨人族の兄弟ファゾルドとファフナーは「ならばアルベリヒの持つ指環・黄金と引き換えだ」とし、フライアをさらってしまう。神々は苦心の末にローゲを地下世界にある闇の国へ送り、アルベリヒの指環と黄金を手に入れて来るよう指示する。 - 第三場
その頃アルベリヒは闇の国ニーベルハイムの恐怖の大王となっていた。指環の魔力により地下世界を支配し、他の小人達を無理やり使役して地下の鉱脈から莫大な富を得、愛なき独裁政権を築き上げていたのである。
そこにローゲ登場。ローゲは変質した兄を憂うアルベリヒの実弟ミーメの助力を得て、アルベリヒとのとんち勝負に勝つ。アルベリヒはカエルに姿を変えさせられ、ひきこもり内弁慶生活から荒波高い北欧社会に引きずり出されることになった。 - 第四場
とこんなわけで小人の初めての支配者体験はクソミソな結果に終わったのでした。
二度と愛情を得られないうえ、指環どころかしりの毛までむしり尽くそうとする神々を憎んだアルベリヒは、その指環に呪いをかけた。
「指環の所持者は必ずや不幸の末に酷死する運命にあり、その運命は指環が我が元に戻るまで消えないだろう」と。
ヴォータンはノーリスクで指環を手に入れて喜んでいたが、巨人兄弟の兄ファゾルドは「女神より指環がほしい」と邪心を抱き、弟ファフナーの制止を振り切って、女神フライアはアルベリヒの財産と引き換えだと迫った。
世界を支配できる指環(呪いつき)か美の女神か、と悩むヴォータンの前に全能の女神エルダが現れ「指環を持っていると必ずや神々の黄昏(ラグナロク)」が訪れるだろう」と忠告。ヴォータンは不承不承ながらも指環を兄弟に渡す。
指環を手にした途端、小人の呪いが所有欲となって兄弟を侵食。壮絶な殺し合いの末にファフナーが兄ファゾルドを撲殺して指環を勝ち取る。呪いの魔力に戦慄を禁じえないヴォータンであった。序夜閉幕。 - 続きは第2部「ワルキューレ(楽劇)」へ!
よくある疑問と答え
随時加筆&修正予定。
- 完成まで26年かかったってマジ?
→ 正しい。脚本執筆に5年、作曲に21年(中断期間込み)かかっている。ちなみに最初に脚本が書き上がったのが「神々の黄昏」で、その後に残り3作を書き、「神々の黄昏」の内容に修正を加えて発表した。
構想当初のタイトルは「ジークフリートの死」だった。
- なんでジークフリートが主人公なのに北欧神話とか出てくるの?
→ 当時唱えられていたエッダのシグルズ物語がジークフリート伝説の元ネタ説やジークフリート伝説北欧起源説が理由。ワーグナーとしてはより原点に近い物語をオペラで描くつもりだった。
- 英雄だとか神々だとか、この作品中二臭くない?
→ 映画文化やテレビ文化すら未発達の当時のドイツ(や周辺各国)では俳優を使った劇をしようと思ったらオペラ含む演劇ぐらいしかないのが実情。そして演劇の伝統として「シリアスな物語は神話の英雄や神々の世界観で、コミカルな物語は人間の世界観で」というものがあったため、当時の伝統に則れば何もおかしなことはない。
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関連項目
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