UH-1とは、アメリカのベル・エアクラフトが開発した汎用輸送ヘリコプターである。
概要
累計で1万6000機以上が生産されて世界69ヶ国で運用されている、西側諸国のベストセラーヘリコプターである。
初飛行は1956年で、米陸軍向けの緊急搬送ヘリコプターHU-1として正式採用、1959年から量産が開始された。正式なニックネームは「イロコイ(イロクォイとも)」だが、配備時の型番「HU-1」から「ヒューイ」と呼ぶ者も多い。UH-1の兄弟であるAH-1を「ヒューイコブラ」と呼ぶのもそのせいである(1962年にHU-1はUH-1に改称されている)。
軽量・高出力なターボシャフトエンジンを天井に配置する事で、キャビンスペースを有効に使用でき、野戦運用を考慮した堅牢な構造になっている。着陸のために下方視界を広く取れるよう機長側(左側)の計器版の幅がやや短くなっているのも特徴である。
UH-1は、1964年に大規模な介入が開始されたベトナム戦争で主力ヘリコプターとして広く使用された。 UH-1は物資輸送、兵員輸送、負傷者の緊急搬送、電子線、地上攻撃などあらゆる任務で使用され、汎用ヘリコプターに名に恥じない活躍を見せた。特に、UH-1は兵員輸送に大量に使用され、今日のヘリボーン戦術の基礎を作り上げた存在である。
歴史
ベストセラーヘリコプターUH-1の歴史は余りにも長い。今や世界中で官民問わずあらゆる場面で使用されている。その為、この項では軍用モデルに限るなどある程度端折って解説する。
より詳細な解説はwikipediaを参照のこと。
全ての始まり ~モデル204の開発~
1952年、アメリカ陸軍は練習機、負傷者緊急搬送用に新たな汎用ヘリコプターの選定を開始したのだが、既存の機種はどれも整備性に難があり、尚且つ出力が不足しているものばかりだった。
そこで、翌年の1953年、陸軍は新型汎用ヘリコプター計画を開始し、国内航空機メーカー20社に開発要求なされ、ベル・ヘリコプターとカマン・エアロスペースの2社が名乗りを上げた。その後、ベルは新規開発したモデル204を、カマンは自社のH-43により強力なエンジンを搭載したモデルをそれぞれ提出した。
そして検討の結果、1955年ベル社のモデル204が選定され、陸軍はベル社に3機の試作機を製作するよう指示した。陸軍は試作機にXH-40の仮制式名を付与し、1956年10月20日に最初の1機が初飛行した。1957年、残りの2機も製造され、その後新たにYH-40の仮制式名を付与し各種運用試験の為にさらに6機製造するよう指示した。
運用試験の末、陸軍はベル社と100機の製造契約を結び「HU-1A」として制式採用、「イロコイ」と命名された。…のであるが配備された部隊では採用名の「HU-1(HU-I)」から「ヒューイ」の愛称で呼ばれることが多かったとか。その名は製造元であるベル社が右のフットペダルに「HUEY」と刻むほど人気であったが、米軍内で公式に使用されることはほとんど無かった。1962年9月の命名法改正後で制式された全てのモデルの名称が「UH-1」に改正されたのだが、「イロコイ」の名は改正されなかった。なんでや。
さらなる発展 ~モデル204Bへの発展~
HU-1Aはヘリコプターとしては先進的なターボシャフトエンジンが搭載されておりこの点は賞賛されたが、陸軍が行った運用試験においては、搭載するT53-L-1Aエンジンの770馬力では出力不足だと判明した為、ベル社に改善を要求。ベル社はこれに応じて、モデル204(UH-1A)を元にエンジンを960馬力のT53-L-5へ換装し、胴体を若干延長してキャビン容積を増やし、7人の兵員か、4つの担架と軍医1人を搭載できるモデル204Bを開発した。
モデル204Bは陸軍での運用試験の後、「HU-1B(後にUH-1Bへ改名)」として採用され1960年製造開始、翌1961年に陸軍への引き渡しが開始された。また、空軍・海兵隊でもUH-1Bを基にしたUH-1E/Fが採用されている。
ベトナム戦争での教訓 ~モデル205の誕生~
これら"ショートモデル"と呼ばれるモデル204シリーズは一応の成功を収めたものの、陸軍内ではさらに輸送能力を高め、より多く人員を輸送できるモデルが求められた。
これを受けてベル社は1960年、エンジンを1100馬力を発揮するT53-L-9に換装、胴体を更に40cm延長してキャビンを広げ、モデル204の約2倍である15名もの兵員、または貨物1,800 kg を搭載できるようにした「モデル205」を開発した。陸軍はモデル205にYUH-1Dの仮制式名を与えベル社に7機の試作機を生産するよう指示。陸軍での各種テストを行った後、1963年に「UH-1D」として制式採用された。さらにエンジンを1400馬力を発揮する新型のT53-L-13に換装した「モデル205A-1」も開発され、これも陸軍で「UH-1H」として採用された。
輸送能力に優れたUH-1D/Hは、それまでのUH-1A/Bに代わって軽輸送任務の主力として使用された。
この為従来のUH-1A/Bにはこれら輸送部隊を援護する武装ヘリとしての役割が新たに与えられ、ロケット弾や機関銃を搭載したガンシップへと改装された。しかし、あくまで汎用ヘリであるUH-1に武装を施した程度では能力不足であり、後述の攻撃ヘリであるモデル209「AH-1」が開発されることとなる。
さらなる高みへ ~モデル205/アドバンスド モデル205~
ベル社は、1970年代後半、モデル205と後述のモデル212を元に1500馬力を発揮するT53-L-17エンジンを搭載するなどの改良を加えた「モデル205B」を開発した。モデル205Bは乗員数こそモデル205と同じ14名だったが、エンジンが強化されたことにより貨物搭載量は、機内で4800kg、機外で5100kgまで搭載できるようになった。
しかし、開発された時期が悪かった。当時は
- ベトナム戦争が終結した直後で、軍はM16やM14やなど余剰兵器のバラマキ処理で手一杯だった。
- 後継の汎用戦術輸送機システム(後のUH-60)の開発が既にスタートしていた。
- ベル社では既に信頼性の高い双発型のモデル212が存在おり、既に各国・各機関への販売が始まっていた。
という状況でえあり、モデル205Bは見向きもされず、結局5機が製造・販売されたのみであった。
むしろこの状況で何故開発した…
だが、捨てる神あれば拾う神あり。1980年代、日本で陸上自衛隊向けにUH-1Hをライセンス生産していた富士重工業が、同様にモデル205を元に改良を加えた「モデル205B-2/アドバンスト205B」の開発を提案。ベル社はこの誘いに乗り、富士重工主導で開発が進められた。…のだが、実際は富士重工単独での開発であり機体の80パーセントを国産技術としている。
1988年、試作機が初飛行し、1993年より陸上自衛隊で「UH-1J」として制式採用され、配備が開始された。
このモデル205B-2/アドバンスド205Bは、機体構造はモデル205を踏襲しているが、エンジンは1800馬力を発揮するT53-L-703に換装され、コックピットは暗視ゴーグルに対応、機種にワイヤーカッターを装備し、映像伝送装置又は赤外線監視装置を備えるなど、各種近代化改修が施されている。
世界初の攻撃ヘリ ~モデル 209~
この辺りに関しては、AH-1やAH-56の項に詳しいので、詳細はそちらを参照のこと。
ベトナム戦争中、陸軍はUH-1Dの採用で職にあぶれたUH-1A/Bに武装を施し、ガンシップとして輸送ヘリの援護、地上攻撃に使用してみたものの、所詮は輸送ヘリのUH-1A/Bではやはり限度があり、なんやかんやで専用の攻撃ヘリコプターが開発されることとなった。
この新型攻撃へり計画では、かの有名な変態企業ロッキード社のAH-56が選定され、開発が進められることになったのだが、諸般の事情で開発が遅延し、本格的な配備が1970年以降になる事が判明。
これはいかん!と陸軍はAH-56が配備されるまでの繋ぎとして、「暫定攻撃ヘリ」として既存の汎用ヘリの中から攻撃ヘリに改修できるものの選定を開始。各社から既存の汎用ヘリに武装を施した案が提出されるなか、ベル社はこんなこともあろうかとUH-1を元に大改造を施した「モデル209」を提出。そして、トライアルを勝ち抜いて見事、暫定攻撃ヘリの座を射止めることとなった。
モデル209には「AH-1Gヒューイコブラ(後にコブラへ改称)」の制式名称が与えられ、1966年4月に試作機2機に続き、量産機100機の発注がなされた。そして1967年に実戦に投入された。
モデル 209はUH-1を元に、攻撃に特化した機体として開発されたであるが、ベースであるUH-1の面影は殆ど残っていないといっていい。というか動力系統とテイル部分以外はほぼ新規設計である。
エンジンはUH-1と同じものが搭載されているが、胴体が被弾率・被発見率を下げる為、極限まで薄くなっている(全幅は僅か99cm!)ため、最高速度は236km/h→352km/hにまで向上している。
兵員室を廃しすることで搭載量を武装の搭載に回し、コックピットをタンデム配置に変更、新型の火器管制システムを搭載、機首下部に機銃を装備したターレット配し、胴体中央左右に各種武装を搭載できるスタブウイングを装備するなど、大幅な改良が加えられており、そのため従来の武装ヘリより効果的に尚且つ大きな火力を発揮する事が可能になっている。
モデル209改めAH-1は世界初の攻撃ヘリとして、現在でも世界11ヵ国で運用されている。
アメリカ陸軍では、AH-1Gを元に各種改良を加えてながら運用し、最終型のAH-1F以降は後継の戦闘ヘリ AH-64にその座を譲った。海兵隊では、G型を元に海兵隊仕様に変更したAH-1J、J型を双発化したAH-1T、T型に近代化改修を加えたAH-1Wを開発・配備した。そして魔改造に定評がある海兵隊では、W型を元に新規開発更なる改修を加えたAH-1Zを開発した。
双発型の開発 ~モデル208/212/412~
モデル 208
ベル社は、モデル205を元にエンジンを双発化して信頼性を向上させた試作機、「モデル208」を開発した。
エンジンはコンチネンタルT51を基に開発された1540馬力を発揮するXT67が2機搭載されており、1965年4月29日に初飛行した。1968年5月1日、最初の発注がカナダによりなされたが、発注に当たっては、いくつかの改良が要請された。これを基に開発されたのが、後述のモデル212である。
モデル 212
ベル社はカナダ軍の要請を受け、試作機であるモデル208を基に、幾つかの改良を施した「モデル212」を開発した。最大の改良点はエンジンをXT76から2000馬力を発揮するプラット·アンド·ホイットニー·カナダPT6Tへの変更だが、そのほかにも、動力系が全体的に改設計されており、機内容積拡張のため機首部を延長している。
2機のエンジンの2本のタービンは、1本のローターシャフトへまとめて出力され、メインローターを駆動する。その為、たとえ片方のエンジンが停止しても残ったエンジンで飛行を継続できるなど、単発機であったベースのモデル205に比べて、信頼性が非常に高くなっている。
カナダ軍は、このモデル212を「CUH-1N (後のCH-135)ツインヒューイ」として採用し、1971年から軍への引き渡し、及び運用を開始した。
モデル212はその信頼性の高さから、各国で採用され、現在でも日本を含む世界45ヵ国で運用されている。特に、イタリアではアグスタ社(現:アグスタ・ウエストランド)がライセンス生産したAB 212を元に、電子戦機型の「AB 212EW」や、対潜哨戒機型の「AB 212ASW」が開発され、欧州を中心に世界24ヵ国で運用されている。
また、アメリカ陸海空軍・海兵隊でもモデル212の採用を検討していたのだが、カナダがベトナム戦争へのアメリカの介入に否定的な立場を取っていたこと、エンジンがカナダ製であることからカナダとの貿易赤字が発生することなどが下院議会で問題となり、採用が大幅に遅れる事態が発生した。これだから政治屋は…
結局、議会はエンジンをカナダ製PT6Tから米国製T400へ変更したモデルのみ採用を認めることとなり、
モデル212は「UH-1N イロコイ」として採用された。そこまでヒューイが嫌いか。嫌いなのか。
しかし、現場の兵士からはもっぱら「ヒューイ」や「ツインヒューイ」と呼んばれたんだとか。
その後、アメリカ陸軍・空軍で後継のUH-60が開発されて、UH-1Nが更新された後も、アメリカ海兵隊ではしつこく改良を加えながら使い続け、新規開発改良型のモデル450「UH-1Y」が開発されることとなる。
モデル412
ベル社は1970年代後半、2機のモデル212を元に2枚だったローターブレードを4枚に変更した「モデル412」の開発を始め、1979年に初飛行させた。ローターブレードを4枚に増やしたことで巡航速度が60km/h向上している。さらに、現在ではトランスミッションやアビオニクスを近代化したモデル412EP生産されている。モデル412は従来モデル212を運用していた国を中心に、現在世界40ヵ国で運用されている。
UH-1の頂点 ~モデル499/450~
UH-60やAH-64が開発され、AH-1、UH-1が更新された後も、海兵隊ではAH-1T/W及びUH-1Nを運用していた。しかし、そろそろ耐用年数もいい所なので海兵隊は後継となる汎用/攻撃ヘリの要求性能を検討し、
ここで読者の方は思ったのではないだろうか。
ボーイング社から提案されていたAH-64Bが大型で狭い艦上では使い難く、運用コストもバカにならなかったから改修計画が持ちあがったのはともかく、汎用ヘリならローター4枚でトランスミッションやアビオニクスを近代化した「モデル412」があるんだからそっちを調達した方が安上りだろう、と。
仰る通り。もちろんそれは海兵隊も理解していただろう。しかし、アメリカ議会の会計監査は日本以上に厳しいため、日本のように
防衛省<「装備品の老巧化進んだから、代わりに超高性能なのを開発するから予算頂戴!」
と言っても軍全体で見た優先度が低く、且つそれが常に不必要と言われる海兵隊なら余程のことが無い限り予算をくれないのである。その代わり、アメリカでは
米軍<「既存の装備品を改修・改良して末永く大事に使います!」
というポーズにはホイホイ予算をくれるので、米軍は改修・改良に以上にこだわるのである。特に海兵隊とか。たとえそれが部品レベルまで分解してたり、何故か現型機より一回り大型化して共通部品が1割だったり、銃身以外残って無かったりしてもそれは改修・改良なのである。改修なのである。
日本での運用
日本では現在、各都道府県警察の航空隊、消防庁・各地方自治体消防本部、陸上自衛隊、海上保安庁などで使用されている。陸上自衛隊では約130機のUH-1Jを導入している。
防衛省はUH-1Jの後継機としてBell412EPXをベースにした「UH-2」を2021年に開発、UH-2は今後20年で150機程生産される予定になっている。[1]
UH-1の系譜
UH-1A
最初期型。
UH-1B/C/E/F/M
胴体をちょっと延長し、より強力なエンジンに換装したモデル。モデル204Bシリーズと呼ばれる。
C型はB型にロケット弾ポッドをつけたガンシップ仕様、E型はB型の海兵隊仕様、F型はB型の空軍仕様である。
M型はC型のエンジン強化仕様で、このUH-1Mの成功が後のAH-1開発へつながっていく。
これらモデル204Bシリーズは合計1033機が生産された。
UH-1D/H/HH-1H
UH-1Bの胴体をさらに40cm延長したモデル。
H型はD型のエンジン強化仕様、HH-1HはUH-1Hの空軍仕様で救難ヘリとして使用された。
UH-1J
ベル社:H型の改造型つくりたいっす。
米陸軍:勝手にせいや。うちは買わんぞ。金も出さん。
富士重:陸自に需要あるんでうちが出しますよ。
ざっくりいうとこういうやり取りがあり、機体の80%が日本開発というほとんど別物と成り果てたUH-1の日本仕様。なお、アメリカでもニューヨーク市警が採用したとか何とか。
UH-1N
UH-1のエンジン双発仕様。通称ツインヒューイ。なお、その採用にあたり「エンジンがカナダ製だから採用できない。出直して来い」と議会に怒られ納入が遅れたというエピソードがあるとか。[2]
UH-1Y
Yはつくけど試作機ではない。多分UH-1シリーズの最終進化系。アメリカ海兵隊が採用、2009年(!)配備開始。ちなみに愛称はヒューイでもイロコイでもなく「ヴェノム」。たぶんグラディウス2のボスとは関係ない。UH-1Nをベースにメインローターが4枚羽根化、コクピットはグラスコクピット化、エンジンはAH-1Zと共通。もうほとんど新造機だがメーカーと軍は改修だと言い張っている。そう言わないと予算が取れないんだよ。
関連動画
関連商品
関連コミュニティ
関連項目
脚注
- *陸自向け新多用途ヘリコプターUH-X開発完了、UH-2として納入へ 2021.6.24
- *友好国じゃんと思うのだが、当時ベトナム戦争でカナダは反対の立場を取っており、嫌がらせのつもりだったようだ。ばかばかしいにもほどがある。
- 1
- 0pt