通貨危機(currency crisis)とは、経済学の言葉である。
国家において投資供給が減少し、投資が減って純資本流出と純輸出が増えて実質為替レートが上昇し、輸入が減少して「資本量が減る不利な供給ショック」が発生してインフレーションになることを通貨危機という。
通貨危機になるとその国の株式市場において株式が売られて株価が安くなる。また、通貨危機になるとその国の債券市場において債券が売られて債券価格が安くなって実質利子率が上昇する。また、通貨危機になるとその国の実質為替レートが上昇するが、多くの場合において外国為替市場においてその国の通貨が売られて名目為替レートが上昇して現地通貨安になる。
以上のように、通貨危機になると株価と債券価格と現地通貨の3つが安くなる。このことをトリプル安という。
投資供給を減少させて通貨危機を引き起こす原因として次のようなものが考えられる。1.は投資供給のみの減少である。2.~10.のいずれも、不利な供給ショックが発生し、不景気とインフレと現地通貨安が進行し、投資供給と投資需要の両方が減少する。
2.~10.の事態になって不景気になると、企業や家計の利益が減り、企業や家計が利子や元金を返済することが難しくなる。不景気の予想が広がると、国際的投資家がお金を貸そうとしなくなって投資供給が減り、企業や家計がお金を借りて資本財を購入しようとしなくなって投資需要が減る。
2.~10.の事態になってインフレになると、名目為替レートが上昇して現地通貨安・外貨高になり[1]、企業や家計が現地通貨建てで利子や元金を返済するときに利子や元金の外貨建ての金額が減り、企業や家計が外貨建てで利子や元金を返済するときに利子や元金の現地通貨建ての金額が増える。現地通貨安・外貨高の予想が広がると、外貨を持つ国際的投資家が外貨を現地通貨に両替して企業や家計に現地通貨を貸して企業や家計から現地通貨の返済を受けることを中止するようになって投資供給が減る。また、現地通貨安・外貨高の予想が広がると、外貨建ての銀行預金という資産を持つ海外企業を親会社とする企業が親会社から外貨を借りて外貨を現地通貨に両替して資本財を買ってから外貨を返済することを中止し、投資需要が減る。
2.~10.の事態が実際に発生すると通貨危機になるが、それだけではなく、「2.~10.の事態が発生するだろう」という予測が広まっただけで通貨危機になることがある。「通貨危機になるだろう」という予測が広がったあとに外国為替市場でその国の通貨が売られて通貨危機になるので、そういう種類の通貨危機を自己実現的通貨危機(self-fulfilling currency crisis)という。自己実現的通貨危機は英語版Wikipediaに記事が作られるほどの概念になっている(記事
)。
通貨危機は投資供給が減少することで発生する。そして通貨危機の中の多くは投資需要の減少も発生する。
投資供給の減少と投資需要の減少は似ているようで異なるものである。本記事の『投資供給の減少』と『投資需要の減少』と『投資供給と投資需要の同時減少』で詳しく説明する。
通貨危機の例として様々なものが挙げられる。本記事の『通貨危機の例』の項目でいくつかを紹介する。
短期間で小規模な現象であって一般的に通貨危機と呼ばれてはいないが通貨危機と同じ性質を持つ事象の例として様々なものが挙げられる。本記事の『小規模な通貨危機の例』の項目でいくつかを紹介する。
お金を貸したりお金を出資したりしてそのお金で資本財を購入させることを投資供給という。
投資供給が減少すると、国際的投資家が企業や家計にお金を貸さなくなり、国際的投資家が債券を買わなくなる。債券市場において債券の供給が一定なのに債券の需要が減るので債券の価格が下がり、債券の利回りが上がって名目利子率と実質利子率が上がる。
投資供給が減少すると、国際的投資家が企業や家計にお金を出資しようとしなくなり、国際的投資家が新規発行株式を買わなくなる。新規発行株式の市場において新規発行株式の供給が一定なのに新規発行株式の需要が減るので新規発行株式の価格が下がり、新規発行株式の利回りが上がる。
株価は新規発行株式と既存株式の両方の価格なので、新規発行株式の価格が下がれば株式全体の価格も下がる。
タテ軸実質利子率・ヨコ軸国民貯蓄のモデルAにおいて、投資需要曲線(右肩下がり)と世界共通実質利子率曲線(水平線)があり、それらの交点Xを通る垂直線が投資供給曲線(垂直線)になる。そして国民貯蓄供給曲線(垂直線)があり、投資供給曲線(垂直線)との間隔が純資本流出供給や純輸出供給の量になる。
タテ軸実質為替レート・ヨコ軸純輸出のモデルBにおいて、純輸出需要曲線(右肩上がり)と純輸出供給曲線(垂直線)がある。
本記事の「概要」の『原因』の1.のように、世界経済に影響を与えるほど大きい実質GDPを持つ国が財政政策を変更して積極財政を実行し自国の実質利子率を上昇させたとする。そのときは世界共通実質利子率も上昇するので、モデルAにおいて世界共通実質利子率曲線(水平線)が上に平行移動し、投資需要曲線(右肩下がり)との交点Xが左上に移動し、交点Xを通る投資供給曲線(垂直線)が左に移動し、投資供給が減る[2]。国民貯蓄供給曲線(垂直線)と投資供給曲線(垂直線)の間隔が広がり、純資本流出供給と純輸出供給が増える。モデルBにおいて純輸出需要曲線(右肩上がり)が固定されたままで純輸出供給曲線(垂直線)が右に平行移動し、均衡点が純輸出需要曲線(右肩上がり)に沿って右上に移動し、実質為替レートが上がって純輸出が増える[3]。
本記事の「概要」の『原因』の2.~10.のように、小国開放経済の国において自国内の要因で投資供給が減ったとき、モデルAにおいて投資供給曲線(垂直線)が左に平行移動して、均衡点が投資需要曲線(右肩下がり)に沿って左上に移動し、実質利子率が上がって投資が減る。実質利子率は世界共通実質利子率よりもリスクプレミアムの分だけ高くなる。国民貯蓄供給曲線(垂直線)は固定されたままなので、国民貯蓄供給曲線(垂直線)と投資供給曲線(垂直線)の間隔が広がり、純資本流出供給と純輸出供給が増える。モデルBにおいて純輸出需要曲線(右肩上がり)が固定されたままで純輸出供給曲線(垂直線)が右に平行移動し、均衡点が純輸出需要曲線(右肩上がり)に沿って右上に移動し、実質為替レートが上がって純輸出が増える。
タテ軸実質利子率・ヨコ軸国民貯蓄のモデルCにおいて、国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)と国民貯蓄供給曲線(垂直線)があり、それらの交点を通る水平線が実質利子率曲線(水平線)になる。
タテ軸実質利子率・ヨコ軸純資本流出のモデルDにおいて、実質利子率曲線(水平線)と純資本流出需要曲線(右肩下がり)があり、それらの交点を通る垂直線が純資本流出供給曲線(垂直線)になる。
タテ軸実質為替レート・ヨコ軸純輸出のモデルEにおいて、純輸出需要曲線(右肩上がり)と純輸出供給曲線(垂直線)がある。
本記事の「概要」の『原因』の1.のように、世界経済に影響を与えるほど大きい実質GDPを持つ国が財政政策を変更して積極財政を実行し自国の実質利子率を上昇させたとする。そのときは世界共通実質利子率も上昇するので、モデルCにおいて実質利子率曲線(水平線)が上に平行移動する。国民貯蓄供給曲線(垂直線)が固定されたままなので、それらの交点を通るようになるまで国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)が右に平行移動する。国民貯蓄需要は投資需要と純資本流出需要の合計であり、投資供給が減少して純資本流出需要が増加したことを反映するためには国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)が右に平行移動せねばならない。モデルDにおいて、①実質利子率曲線(水平線)が上に平行移動し、均衡点が左上に移動して純資本流出供給曲線(垂直線)が左に移動する。しかし、投資供給の減少は純資本流出需要の増加を意味するので、②純資本流出需要曲線(右肩下がり)が右に平行移動し、交点が右に移動して純資本流出供給曲線(垂直線)が右に移動する。①よりも②の効果が大きく、結局は純資本流出供給曲線(垂直線)が右に移動する。モデルEにおいて純輸出需要曲線(右肩上がり)が固定されたままで純輸出供給曲線(垂直線)が右に平行移動し、均衡点が純輸出需要曲線(右肩上がり)に沿って右上に移動し、実質為替レートが上がって純輸出が増える。
本記事の「概要」の『原因』の2.~10.のように、小国開放経済の国において自国内の要因で投資供給が減ったとする。投資供給の減少は純資本流出需要の増加を意味するので、国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)が右に平行移動する。国民貯蓄需要は投資需要と純資本流出需要の合計であり、純資本流出需要の増加を反映するためには国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)が右に平行移動せねばならない。国民貯蓄供給曲線(垂直線)が固定されたままなので、均衡点が上に移動し、実質利子率が世界共通実質利子率にリスクプレミアムを加えた水準に上昇し、実質利子率曲線(水平線)が上に平行移動する。モデルDにおいて、①実質利子率曲線(水平線)が上に平行移動し、均衡点が左上に移動して純資本流出供給曲線(垂直線)が左に移動する。しかし、投資供給の減少は純資本流出需要の増加を意味するので、②純資本流出需要曲線(右肩下がり)が右に平行移動し、交点が右に移動して純資本流出供給曲線(垂直線)が右に移動する。①よりも②の効果が大きく、結局は純資本流出供給曲線(垂直線)が右に移動する。モデルEにおいて純輸出需要曲線(右肩上がり)が固定されたままで純輸出供給曲線(垂直線)が右に平行移動し、均衡点が純輸出需要曲線(右肩上がり)に沿って右上に移動し、実質為替レートが上がって純輸出が増える。
タテ軸実質利子率・ヨコ軸国民貯蓄のモデルCにおいて、国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)と国民貯蓄供給曲線(垂直線)があり、それらの交点を通る水平線が実質利子率曲線(水平線)になる。
タテ軸実質利子率・ヨコ軸純資本流出のモデルDにおいて、実質利子率曲線(水平線)と純資本流出需要曲線(右肩下がり)があり、それらの交点を通る垂直線が純資本流出供給曲線(垂直線)になる。
タテ軸実質為替レート・ヨコ軸純輸出のモデルEにおいて、純輸出需要曲線(右肩上がり)と純輸出供給曲線(垂直線)がある。
本記事の「概要」の『原因』の1.のように、世界経済に影響を与えるほど大きい実質GDPを持つ国が財政政策を変更して積極財政を実行し自国の実質利子率を上昇させたとする。あるいは、本記事の「概要」の『原因』の2.~10.のように、大国開放経済の国において自国内の要因で投資供給が減ったとする。いずれの場合でも投資供給が減少する。投資供給の減少は純資本流出需要の増加を意味するので、国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)が右に平行移動する。国民貯蓄需要は投資需要と純資本流出需要の合計であり、純資本流出需要の増加を反映するためには国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)が右に平行移動せねばならない。国民貯蓄供給曲線(垂直線)が固定されたままなので、均衡点が上に移動し、実質利子率が上昇し、実質利子率曲線(水平線)が上に平行移動する。モデルDにおいて、①実質利子率曲線(水平線)が上に平行移動し、均衡点が左上に移動して純資本流出供給曲線(垂直線)が左に移動する。しかし、投資供給の減少は純資本流出需要の増加を意味するので、②純資本流出需要曲線(右肩下がり)が右に平行移動し、交点が右に移動して純資本流出供給曲線(垂直線)が右に移動する。①よりも②の効果が大きく、結局は純資本流出供給曲線(垂直線)が右に移動する。モデルEにおいて純輸出需要曲線(右肩上がり)が固定されたままで純輸出供給曲線(垂直線)が右に平行移動し、均衡点が純輸出需要曲線(右肩上がり)に沿って右上に移動し、実質為替レートが上がって純輸出が増える[4]。
お金を借りたりお金を出資してもらったりしてそのお金で資本財を購入する意欲を持つことを投資需要という。
投資需要が減少すると、企業や家計がお金を借りなくなり、企業や家計が債券を売らなくなる。債券市場において債券の需要が一定なのに債券の供給が減るので債券の価格が上がり、債券の利回りが下がって名目利子率と実質利子率が下がる。
ただし小国開放経済の国なら、キャリートレードが完全に発生して実質利子率を世界共通実質利子率の水準にまで引き戻す。
投資需要が減少すると、企業がお金の出資を受けようとしなくなり、企業が新規に株式を発行して売ることを行わなくなる。企業の新規発行株式が減り、新規発行株式の市場において新規発行株式の需要が一定なのに新規発行株式の供給が減るので新規発行株式の価格が上がり、新規発行株式の利回りが下がる。
ただし小国開放経済の国なら、キャリートレードが完全に発生して新規発行株式の利回りを世界共通の水準にまで引き戻す。
タテ軸実質利子率・ヨコ軸国民貯蓄のモデルAにおいて、投資需要曲線(右肩下がり)と世界共通実質利子率曲線(水平線)があり、それらの交点Xを通る垂直線が投資供給曲線(垂直線)になる。そして国民貯蓄供給曲線(垂直線)があり、投資供給曲線(垂直線)との間隔が純資本流出供給や純輸出供給の量になる。
タテ軸実質為替レート・ヨコ軸純輸出のモデルBにおいて、純輸出需要曲線(右肩上がり)と純輸出供給曲線(垂直線)がある。
本記事の「概要」の『原因』の2.~10.のように、小国開放経済の国において投資需要が減ったとき、モデルAにおいて投資需要曲線(右肩下がり)が左に平行移動して、世界共通実質利子率曲線(水平線)との交点Xが左に平行移動し、交点Xを通る投資供給曲線(垂直線)も左に平行移動する。こうして実質利子率が世界共通実質利子率のまま一定を保ち、投資供給が減る。国民貯蓄供給曲線(垂直線)は固定されたままなので、国民貯蓄供給曲線(垂直線)と投資供給曲線(垂直線)の間隔が広がり、純資本流出供給と純輸出供給が増える[5]。モデルBにおいて純輸出需要曲線(右肩上がり)が固定されたままで純輸出供給曲線(垂直線)が右に平行移動し、均衡点が純輸出需要曲線(右肩上がり)に沿って右上に移動し、実質為替レートが上がって純輸出が増える[6]。
タテ軸実質利子率・ヨコ軸国民貯蓄のモデルCにおいて、国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)と国民貯蓄供給曲線(垂直線)があり、それらの交点を通る水平線が実質利子率曲線(水平線)になる。
タテ軸実質利子率・ヨコ軸純資本流出のモデルDにおいて、実質利子率曲線(水平線)と純資本流出需要曲線(右肩下がり)があり、それらの交点を通る垂直線が純資本流出供給曲線(垂直線)になる。
タテ軸実質為替レート・ヨコ軸純輸出のモデルEにおいて、純輸出需要曲線(右肩上がり)と純輸出供給曲線(垂直線)がある。
本記事の「概要」の『原因』の2.~10.のように、小国開放経済の国において自国内の要因で投資需要が減ったとする。投資需要が減少して純資本流出需要が一定なのでそれらの合計である国民貯蓄需要が減少し、国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)が左に平行移動し、国民貯蓄供給曲線(垂直線)が固定されたままなので均衡点が下に移動して実質利子率が下落する。しかし、実質利子率の下落のために純資本流出需要が増加し、国民貯蓄需要が増加し、国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)が右に平行移動し、国民貯蓄供給曲線(垂直線)が固定されたままなので均衡点が上に移動して実質利子率が上昇する。小国開放経済の国は資本移動が完全なので[7]、世界共通実質利子率の水準にまで戻る。モデルDにおいて、純資本流出需要曲線が右に平行移動し、実質利子率曲線(水平線)が世界共通実質利子率の水準に固定されたままなので、均衡点が右に移動して純資本流出供給曲線(垂直線)が右に移動する。モデルEにおいて純輸出需要曲線(右肩上がり)が固定されたままで純輸出供給曲線(垂直線)が右に平行移動し、均衡点が純輸出需要曲線(右肩上がり)に沿って右上に移動し、実質為替レートが上がって純輸出が増える。
タテ軸実質利子率・ヨコ軸国民貯蓄のモデルCにおいて、国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)と国民貯蓄供給曲線(垂直線)があり、それらの交点を通る水平線が実質利子率曲線(水平線)になる。
タテ軸実質利子率・ヨコ軸純資本流出のモデルDにおいて、実質利子率曲線(水平線)と純資本流出需要曲線(右肩下がり)があり、それらの交点を通る垂直線が純資本流出供給曲線(垂直線)になる。
タテ軸実質為替レート・ヨコ軸純輸出のモデルEにおいて、純輸出需要曲線(右肩上がり)と純輸出供給曲線(垂直線)がある。
本記事の「概要」の『原因』の2.~10.のように、大国開放経済の国において自国内の要因で投資需要が減ったとする。投資需要が減少して純資本流出需要が一定なのでそれらの合計である国民貯蓄需要が減少し、国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)が左に平行移動し、国民貯蓄供給曲線(垂直線)が固定されたままなので均衡点が下に移動して実質利子率が下落する。一方で、実質利子率の下落のために純資本流出需要が増加し、国民貯蓄需要が増加し、国民貯蓄需要曲線(右肩下がり)が右に平行移動し、国民貯蓄供給曲線(垂直線)が固定されたままなので均衡点が上に移動して実質利子率が上昇する。しかし、大国開放経済の国は小国開放経済の国ほどに資本移動が完全ではないので[8]、実質利子率が元の水準にまで戻らない。結局、実質利子率は元の水準よりも下がる。モデルDにおいて、純資本流出需要曲線が右に平行移動し、実質利子率曲線(水平線)が下に平行移動するので、均衡点が右下に移動して純資本流出供給曲線(垂直線)が右に移動する。モデルEにおいて純輸出需要曲線(右肩上がり)が固定されたままで純輸出供給曲線(垂直線)が右に平行移動し、均衡点が純輸出需要曲線(右肩上がり)に沿って右上に移動し、実質為替レートが上がって純輸出が増える。
小国開放経済の国において投資供給が減少したときと投資需要が減少したときを比較すると、次の表のようになる。
| 投資供給の減少 | 投資需要の減少 | |
| 投資 | 減少 | 減少 |
| 実質利子率 | 世界共通実質利子率よりもリスクプレミアムのぶんだけ上がる | 世界共通実質利子率と同一を保つ |
| 純資本流出と純輸出 | 増加 | 増加 |
| 実質為替レート | 上昇 | 上昇 |
小国開放経済の国において投資供給と投資需要が同時に減少すると次の表のようになる。
| 投資供給と投資需要が同時に減少 | |
| 投資 | 減少 |
| 実質利子率 | 世界共通実質利子率よりもリスクプレミアムのぶんだけ上がる |
| 純資本流出と純輸出 | 増加 |
| 実質為替レート | 上昇 |
大国開放経済の国において投資供給が減少したときと投資需要が減少したときを比較すると、次の表のようになる。
| 投資供給の減少 | 投資需要の減少 | |
| 投資 | 減少 | 減少 |
| 実質利子率 | 上昇 | 下落 |
| 純資本流出と純輸出 | 増加 | 増加 |
| 実質為替レート | 上昇 | 上昇 |
大国開放経済の国において投資供給と投資需要が同時に減少すると次の表のようになる。
| 投資供給と投資需要が同時に減少 | |
| 投資 | 減少 |
| 実質利子率 | 上昇も固定も下落もありうるが上昇しやすい |
| 純資本流出と純輸出 | 増加 |
| 実質為替レート | 上昇 |
1981年になってアメリカ合衆国大統領にロナルド・レーガンが就任した。レーガン大統領は軍備拡張と減税を行い、政府購入と消費を拡大する積極財政を行ってアメリカ合衆国の実質利子率を上げた。実質利子率を上げることで実質為替レートが下がって物価が硬直的な短期において米ドル高になったが、「強いドルは国益にかなう(A strong dollar is in the national interest.)」という言い回しのもとにそうした積極財政が容認された。
それに影響されて中南米での投資供給が減った。1980年代の中南米のなかでアルゼンチンとブラジルとボリビアとメキシコがハイパーインフレになり、通貨危機となった。
アメリカ合衆国の実質利子率が上昇すれば、国際的投資家たちがアメリカ合衆国での投資供給を増やし、中南米での投資供給を減らす。本記事の「概要」の『原因』の1.の典型例となった。
1994年1月1月からNAFTAという自由貿易協定が発効するので、それに備えて1993年のメキシコでは投資需要と投資供給が拡大していた。
しかし、1994年1月1日にメキシコのチアパス州ラカンドンで先住民が結成したサパティスタ民族解放軍がNAFTAに反発してサパティスタの反乱と呼ばれる暴動を起こした。また、同年3月23日にメキシコのバハ・カリフォルニア州ティファナで大統領候補として最有力の存在だったルイス・ドナルド・コロシオが暗殺された。ルイス・ドナルド・コロシオは1929年からずっと与党として歴代政権を支え続けてきた制度的革命党(PRI)の一員で、その当時の大統領から直々に後継に指名されていたほどの人物だった。
こうした暴動やテロにより、メキシコでの投資供給と投資需要が大幅に減り、本記事の「概要」の『原因』の2.の典型例となった。外国為替市場でメキシコ・ペソが売られて米ドルが買われ、1994年8月に1米ドルが3.33メキシコ・ペソだったのに1995年8月には1米ドルが6.25メキシコ・ペソになり、大幅なペソ安になった[9]。1995年と1996年にはメキシコのインフレ率が30%にも達した(記事
)。
この1994年メキシコ通貨危機をテキーラ・ショック(Tequila shok)ともいう。テキーラはメキシコの蒸留酒である。
1997年にアジア諸国で通貨危機が起こり、韓国・インドネシア・タイなどで投資の大幅な減少が起こった。
こうした諸国では、政治的な権力を多く持っているのに能力が低い人々がおり、そういう人々に融資をするように政府が銀行へ圧力を掛けることが多く、クローニー資本主義(crony capitalism)とか縁故資本主義と呼ばれる状態になっていて、銀行の放漫経営が常態化していた。
1997年になってアジア諸国における銀行の放漫経営の存在があきらかになり、アジア諸国の投資供給と投資需要が大幅に減り、本記事の「概要」の『原因』の4.の典型例となった。外国為替市場でアジア諸国の通貨が売られて米ドルが買われ、韓国・ウォンやインドネシア・ルピアやタイ・バーツが大幅な安価になった[10]。インドネシアでは1998年に58%のインフレ率となった(記事
)。
2025年になってアメリカ合衆国大統領にドナルド・トランプが就任した。トランプ大統領は輸入関税の大幅な引き上げを同年4月2日に発表したが、それによって株式市場で株式が売られて株安が進み、国債市場で米国債が売られて安価になって名目利子率や実質利子率が上昇し、為替市場で米ドルが売られて安くなり、トリプル安となった。本記事の「概要」の『原因』の8.の典型例となった。
理論の上では、変動相場制を採用する小国開放経済の国で輸入関税を引き上げると短期において名目為替レートが下落して自国通貨高・外国通貨安になり[11]、長期において実質為替レートが下落する[12]。大国開放経済の国でも同様である。
しかし、2025年のアメリカ合衆国における輸入関税の大幅引き上げは輸入品の減少による「資本量が減る不利な供給ショック」の発生や不景気とインフレと自国通貨安・外国通貨高の進行を強く予感させるものだったので、アメリカ合衆国における投資供給の減少をもたらし、通貨危機と同じ性質を持つ事象となった。
アメリカ合衆国を小国開放経済の国と仮定しつつタテ軸実質為替レート・ヨコ軸純輸出のモデルを使って説明すると次のようになる。輸入関税を引き上げると純輸出需要曲線(右肩上がり)が右に平行移動して純輸出供給曲線(垂直線)が固定されることで実質為替レートが下落する[13]。しかし輸入関税で不景気とインフレと自国通貨安が進行して投資供給と投資量が減少すると予想され、純輸出需要曲線(右肩上がり)が右に平行移動して純輸出供給曲線(垂直線)が大きく右に移動して実質為替レートが上昇したのである。
トランプ大統領はトリプル安になったことで輸入関税の大幅引き上げを撤回した。そのため市場関係者たちからTACO(Trump Always Chickens Out トランプはいつもビビってやめる)と小馬鹿にされることになった(記事
)。
2022年9月6日になって英国の首相にリズ・トラスが就任した。約2週間後の9月23日に50年間で最大と謳われる大規模な減税の草案である「ミニ・バジェット」を発表したが、その発表を受けて英国の株式市場と債券市場と為替市場で売りが続出し、株安・債券安・通貨安のトリプル安となった。これをトラスショックという。同年10月25日になってリズ・トラスがトリプル安を招いた責任を取って首相を辞任した。
トラスショックの原因の1つは、大規模な減税という積極財政のせいで実質利子率が過度に上昇して投資が減価償却を下回る水準にまで減って「資本量が減る不利な供給ショック」が発生することを人々が予想したというものである。トラスショックを本記事の「概要」の『原因』の9.の典型例と見なす考え方である。
トラスショックの原因のもう1つは当時の英国の政治状況の混乱である。2019年12月の総選挙で英国保守党は下院の56%の議席を獲得する勝利を収めた。しかし、英国保守党党首であり英国首相を務めていたボリス・ジョンソンが、コロナ禍の最中に国民へパーティーの自粛を求めつつ自分はパーティーを開いていたことを問題視され、2022年9月6日に首相を辞任していた。英国保守党の支持率も落ち込んでおり、「英国保守党は次回の2024年の下院総選挙で大敗して政権を失うだろう」と予想されていた。そんな中でリズ・トラスが大規模な減税案を発表したので、「この減税は2年後あたりに労働党政権によって中止になるだろう」といった具合に政策の継続性を疑う心理が大勢を占めた。多くの人々が減税されたあとに増税されることで翻弄され、国家全体の生産技術が劣化し、「生産技術が劣化する負の供給ショック」が発生して不景気とインフレと通貨安が進行する、といった事態が予想された。そうした予想が通貨危機を招いた。
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最終更新:2025/12/17(水) 09:00
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