この項目は、『まどか☆マギカ』第10話ならびに |
ソウルジェムが魔女を生むなら、みんな死ぬしかないじゃない!
あなたも…わたしも!
病ミさんとは、魔法少女まどか☆マギカ第10話「もう誰にも頼らない」の劇中で起こった悲劇によって衝撃的な行動に走った巴マミのことである。
事の起こりは暁美ほむらが三周目の世界で、美樹さやかが魔女Oktavia von Seckendorffに変貌し、やむなく仲間だった魔法少女たちの手にかかって滅ぼされたことから始まる。皆がさやかを救えなかったことを悔やむ中、突如マミが佐倉杏子を射殺。目の前の事態に呆然とする暁美ほむらに向かってマミは、絶叫に近い形で上記の台詞を口にする。が、その直後にマミもまた鹿目まどかによってソウルジェムを射貫かれて絶命。尊敬する先輩をこの手で殺めてしまったまどかは、「嫌だぁ・・・もう嫌だよこんなの・・・」と中の人が本当に泣いているのではないかと思わんばかりに慟哭するが、それはテレビ放送やニコニコ動画でこの悲劇を目の当たりにした視聴者の嘆きを代弁するかのようでもあった。
第3話で凄惨な最期を遂げて以来、第10話で久々の再登場となったマミさんだったが、一周目の世界で早々に死亡してしまい(どうあがいてもマミさんを参照)、この三周目では、涙で顔を歪めながら仲間を殺して自分も死のうと無理心中を図ろうとするその姿は、これまでの優しくて頼りになる先輩魔法少女とはあまりにかけ離れた衝撃的なものであった。一時は人気の低下も危ぶまれたが、既に第3話で「無理して頑張っているけど、本当の自分は泣き虫で心が弱い」ことを告白しており、状況が状況なだけに同情の声が多く寄せられ、かえってマミさんの人気は今まで以上に上がったのだった。
しかし同時に、普段の彼女からは考えられないような取り乱し様を見せたことから、この事件以降しばらくの間マミさんに豆腐メンタルというイメージが定着してしまっていた時期があった。その時の名残により、豆腐メンタルをググると、元ネタである闇遊戯を差し置いて、マミさんが真っ先に挙げられる始末である(このことにはコピペブログが大きく関係しているらしい。放送当時、マミ=豆腐メンタルという記事がコピペブログを通じて爆発的に拡散された。検索エンジン、特にグーグルは2chやそのコピペブログを検索ワードの上位に分類するシステムになっているらしく、それ故に未だに豆腐メンタルの関連ワード上位にマミの名前が挙がるそうである。かつてはこれに更にさやかが続いていたのも同じ理由であると考えられる)。だが、果たしてかつて皆から言われたほど、マミさんは精神的に脆い人間だったのだろうか?これに関して当時多くの有志が検証しており、これらをまとめて述べたい。
目次
まず、マミさんが無理心中しようとした時の動向だが、最初にほむらをリボンで拘束してから、杏子を射殺している。当時のほむらは個人の戦闘能力こそ低いが、時間停止という極めてやっかいな特殊能力を持っているため、その動きを封じ込めて、最も関わりの少なかった杏子を真っ先に狙ったものと考えられる。その後、動けなくしたほむらに銃口を向けていることから、杏子→ほむら→まどかの順番に殺害し、最後に自害する予定だったとも推察できる。まどかを後回しにしたのは、自分を慕う大人しいまどかならある程度わかってくれるし、まさか自分に反撃しないと思ったのだろう。そのため、まどかが自分を射殺するというのは予測だにしなかった大誤算だったに違いない。しかしこうした予想外のアクシデントが起きたとは言え、やみくもに乱射して皆殺しを起こしたのでは無く、かなり計画的に事を進めたところを見ると、実は意外と冷静に判断できていたのかもしれない。
そして何より、このときのマミさんはソウルジェムがまだ濁っておらず、魔女化の兆候すらなかったという点も注目すべきである。もし魔法少女の末路を知って絶望に打ちのめされたら、マミさんはさやかのように魔女化するところだったがそれが無かった。さらに言えば、魔女化する世界の存在するまどかとさやか、そして強靱な精神を持つほむらでさえも第11話終盤ではワルプルギスの夜に敗れ、まどかをいつまでも救えないことに絶望してソウルジェムが濁る事態が起きた(もしあの時、まどかが駆けつけていなければ、ほむらは魔女化した可能性が高い)。これに対し、マミと杏子の身には一度もこのような現象が起こっていない。こうして見ると、実はマミさんは世間で言われるほど精神面が弱いわけではない可能性もあり、十分再考する必要も出てくるだろう。
ではなぜ、マミさんがあのような凶行を行ったのだろうか?考えられるのは、台詞の通り自分を含めた魔法少女が魔女となる前に死ぬことによって、魔女のもたらす災厄を防ごうとした苦渋の決断があったからとも言える。これはまどかが最悪の魔女・Kriemhild Gretchenになるのを防ぐために、まどかを殺した魔法少女おりこ☆マギカの美国織莉子の考えとよく似ている。ましてやマミさんは、先輩魔法少女として彼女たちをずっと指導し続けてきた。これでもしアニメでの本編周回の時間軸のように、この周回においてもマミさんがまどかとさやかが魔法少女となる切っ掛けまでも作ってしまっていたとしたら、責任感の強いマミさんのことだから、彼女たちの破滅を手助けしてしまった罪悪感にさいなまれたに違いない。
そして普段は絶対見せない、正気を失ったのではないかとも思われるあの表情は、我を忘れて発狂したのでは無く、信じていたキュゥべえに裏切られて自分の全人生を否定された衝撃、魔女にならずに済むためには仲間を殺さなければいけない苦痛といった、マミさんの我が身を切り裂かれるような嘆きや怒り、それを踏まえた上で断腸の思いで決断を下した彼女の想像を絶する思いが生み出したものでは無いだろうか?
とは言え、この決断が必ずしも正しかったとは言えないのもまた事実である。真っ先に殺されるとんだとばっちりを受けた杏子も不憫だが、それ以上にこの事件が尾を引いたのはほむらである。それまでのほむらはまどかと同様に、マミさんを先輩魔法少女として尊敬していたが、一度殺されかけたことがトラウマになったのか、それ以降両者の関係は急速に悪化していくこととなる。もし両者の仲が良好のままだったら、マミさんはほむらの忠告を聞き入れ、第3話でCharlotteに食い殺される惨劇を回避できていたかもしれない(もっとも、これは仲間ができた故の油断も大きな原因だが)。
また、魔法少女おりこ☆マギカでもマミさんは魔法少女を待ち受ける運命を知り、本編と同様の悲劇が繰り返されそうになったが、この時は千歳ゆまの説得によって我を取り戻し、ほむらとも和解して織莉子や呉キリカを倒した。このように、仲間諸共死ぬ悲劇を回避して、己の心に打ち勝つ展開も十分あり得るのである。
なお、公式ガイドブックによって明らかになったことだが、本書の61Pにはマミさんを演じた水橋かおりさんへのインタビューが掲載されており、そこで水橋さんは三周目におけるマミさんの行動に対して、
「仲間同士の険悪な雰囲気を取り持つために必死になって頑張った結果心労が蓄積し、そこに魔法少女の真実を知ってしまい無理心中という結論に至ってしまったのではないか。弱いといえば弱いかもしれないが、あれだけ辛い出来事が続いたのなら、そのような結論に至っても仕方がないかもしれない。」
と、おおむねこのような解釈を述べている。
さらに、そのインパクトとネタとしての汎用性から、マミさんに対しては精神的に脆い側面ばかりが強調されがちであるが、彼女がまどか達と出会うまでの間、たった一人で魔法少女としてずっと戦い続け、その間一度も逃げ出さず、また絶望して魔女にもなることはなかった(これは、絶望が即魔女化に直結する魔法少女としては極めて異例である)という事実はもっと評価されるべきである。
マミさんは確かに他の魔法少女達に較べると精神的に脆い側面もあったかもしれない(ただし、これについては後にPSP版に至って全員絶望して魔女になるような場面が提示され、五人ともに絶望せずにはいられない精神的弱点が示されたため、今や大した格差は無くなり、さらに後年の研究の結果アニメにおいても格差が無いという主張がなされた。詳しくは次章)。しかし、彼女たちに出会うまでの間、そんなマミさんが一人ぼっちで絶望することもなく戦い続けてきたのだ。いくらネタとは言え、あまりにも「豆腐メンタル」とばかり言い過ぎるのも、あまりに惨い仕打ちではなかろうか。
ほむらと杏子はメンタルが強いと言われ、それに比べるとマミさんはメンタルが弱い、という考え方がある。しかし、アニメやPSP版での描写を見る限り、実はほむらと杏子のメンタルの強さは、マミさんとほとんど同じ程度の強さであると考えるのが妥当である。以下に記述する。
そもそも、まどか、ほむら、さやか、マミ、杏子の絶望に繋がるほど一番大切にしているものはそれぞれ異なる(ほむらはまどかの無事、さやかは正義と恭介、杏子はさやかに託した想い、そして、マミは人命を救う魔法少女の使命、と言ったように)。つまり、マミにとって魔法少女の使命は、ほむらにとってのまどかに匹敵するほど大切なものだと言って差し支えない。
故に、「ソウルジェムの真実知っても取り乱さなかったマミ以外の魔法少女は、ひどく取り乱したマミよりも精神的に強い」という主張は、「恭介と仁美が付き合う事になっても絶望して魔女化しなかったほむらは、さやかよりも精神的に強い」という主張と本質的に同じレベルの、比べるべき前提をはき違えた主張である。ほむらにとって一番大切なものは、言うまでもなくまどかだ。恭介と仁美が付き合ったところで、さやかの為に心を痛めることはあったとしても、まさか絶望してほむら自身が魔女になる訳が無い。ほむらにとって一番大事なものはまどかであって、恭介と自分が付き合うことではないからだ。
つまり、「ほむらと杏子の一番大切なものがマミと同じく魔法少女の使命でない以上、ソウルジェムの真実を知って二人がマミほど取り乱しも絶望もしなかったことは、ほむらと杏子がマミよりも精神的に強いという証明の根拠にはなりえない」。
また、「ソウルジェムの真実を知ったマミは「みんな死ぬしかないじゃない!」と、その事実を受け入れて生きることを選ばなかったので、マミはほむらと杏子よりも精神的に弱い」という主張があるが、「アニメ本編中において、”魔法少女になった後に見出した”一番大切なものを完全否定されて、そこからなおも生きるという行動を選択した魔法少女は、魔女が存在する世界では実は一人も存在しない」。
このアニメに登場する魔法少女達は全員、魔法少女になる前の願い、つまり魔法少女になる際に願ったことの結果が悲劇を生じさせたとしても、乗り越えるだけの強さを持っている。マミは両親を見殺しにしてしまっても(尤も、マミが乗り越えたものについてはアニメ中では非常に端的にしか示されていないが。これは後に関連作品で詳細に説明された。この記事のPSP版のマミについての章を参照)、ほむらは二周目でまどかが魔女化しても、杏子は家族が心中しても、さやかは自分の身体の秘密を知っても、死を選ぶことはなかった。
だが、「”魔法少女になった後に”見出した一番大切なもの」に関してはどうだろうか?マミが見出したものは「人々を魔女から守る魔法少女の信念」、ほむらが見出したものは「まどかの無事」、杏子が見出したのは「さやかに託した自分の想い」、さやかが見出したのは「誰かの為に戦う正義(杏子との教会の問答で見出した)」である。この章の主題上、ほむらと杏子の例を取りあげるが、ほむらは11話でまどかの為にもう一度ループすることを諦めてしまったし、杏子の取った行動は魔女と化したさやかとの心中であった。
あくまで結果のみを取りあげた身も蓋もない言い方をすれば、ほむらも杏子も魔法少女になった後に見出した一番大切なものを完全否定された結果、生きることを放棄してしまっている。よって、もし魔法少女になった後に見出した一番大切なものを完全否定された結果として生きることを放棄することを選択をした魔法少女を精神的に弱い、豆腐メンタルであると考えるのなら、「ほむらと杏子は紛れもなく豆腐メンタルである」、という結論が導き出される。言うまでもなく、これはほむらと杏子に対するあまりにも酷い侮辱であり、言いがかりである。
しかし、ならば同様の論理で、「ソウルジェムの真実を知って生きることを放棄したマミを豆腐メンタルと呼ぶことは、まどかを救うことを諦めてしまったほむらと、さやかとの心中を選んだ杏子を豆腐メンタルと呼ぶことに匹敵する酷い侮辱であり、言いがかりである」と言えるだろう。そもそも、この侮辱は「魔法少女になった後に見出した一番大切なものを完全否定された結果」のみを判断材料にし、「魔法少女になった際の願いの報いを受けてもマミもほむらも杏子も死を選ばなかった」という事実を完全に無視している。また、生の放棄は必ずしも精神の弱さとは直結しない。それはその大事なものを失っては生きてはいけない程に強く想い続けていたことの証明、という見方も出来るし、また、敢えて大事なものの為に死という選択肢を選びとる心の強さである、という見方も出来るからだ。
さらに、PSP版になると、マミとほむらと杏子の三人ともがそれぞれ絶望して魔女になる状況が描かれた。マミはまどかという仲間が出来た事で喜んでいる自分自身を自覚して、「自分は人々を守る為と言い訳してただ寂しさを紛らわす為だけに戦ってきた醜い人間なのではないか?」という疑念の果ての絶望によって魔女化(つまり、ソウルジェムが魔女を産むことがマミの魔女化の原因ではない)し、ほむらはアニメと同じ様にワルプルギスの夜に挑み、アニメと同じ様に力が及ばずに絶望からソウルジェムを濁らせ、アニメと違ってまどかが来なかった為に魔女化し、杏子は魔女となったさやかと心中はおろか真っ正面から魔女と化したさやかと向き合う機会さえも彼女に託していた最後の希望ごと一方的にほむらによって打ち砕かれたことに絶望し、世界の全てを呪いながら魔女化した。
このようにアニメ本編では魔女化することがなかった三人でも極限まで追い詰められればそれぞれ確かに魔女化してしまうのだ、という事がPSP版において示された。しかし、同時に三人それぞれの魔女化を回避するルートに関しても、この作品では描かれている。つまり、マミもほむらも杏子も、限界まで追い詰められれば絶望するし、絶望を乗り越える場合もある、その時間軸の状況次第でどちらにも傾く可能性を持ったメンタリティだということが示された。
以上より、アニメ本編とPSP版においてほむらと杏子がマミさんよりもメンタルが強いと断言出来る根拠は皆無であり、むしろマミとほむらと杏子は同程度のメンタルであると考えるのが妥当であるように思われる。
いやそもそも、誰と誰を比べて誰のメンタルが強いか弱いか、と問うこと自体が無意味ではないか?
まどか☆マギカに登場する魔法少女は全員、魔法少女になった後に見出した一番大切なものを否定されると絶望に至ったり、生きることを放棄してしまったりと、心の弱さを抱えている。しかし、彼女達は全員、自分の願いの結果生じた報いを受け入れ、そしてそれぞれが新たに見出した自分の一番大切なものを誰よりも大事にしようとする強さも同時に持っていた。それは巴マミも例外ではない。巴マミにとっての魔法少女の使命は、ほむらにとってのまどか、杏子にとってのさやかと同じように、魔法少女としての自分自身を認めた上で見出した、他の誰もが及びつかない程あまりにも大事なものだった、ただそれだけの話であると思われる。
巴マミが心の内に不安と孤独を抱えながら、それでも心折れずに長い間孤独な戦いを必死に続けてきたことは、ほむらや杏子達と同様に、彼女が決して精神的に弱い人間ではないことを証明する十分な理由となりうるはずである。
「ソウルジェムが魔女を産むと真実を知った結果、マミは”仲間である杏子”を射殺し、ほむらをも殺害しようとした、有無を言わさずいきなり仲間を撃つというなどという行為は、錯乱としか言いようがない」
というものであるが、実はあの周回で明らかになっているのはさやかが魔女化した際にマミ達と杏子が同じ場所に居合わせたということだけであり、あの周回においてマミと杏子が仲間、友好関係にあったとは、実際にはどこにも描写されていないのである(それどころか、その前の場面のさやかの杏子に対する言動から類推すると、杏子はさやかを独自に追いかけてたまたまマミ達と鉢合わせしただけで、あの場面に至っても杏子とマミ達は対立関係にあった可能性すらある)。
もし本当にあの周回で杏子とマミ達が仲間同士でなかったとしたら、そもそも「マミが仲間を射殺した」という前提自体が不成立となり、それどころか、同時にマミはあの場面において味方とそうでない人間をを識別するだけの判断力を有していたということが証明され、あまつさえ、いざ「仲間」であるほむらを撃つ下りになった際には、すぐに引き金を引かずに躊躇い、ほむらに対して自分の行動理由を説明している(「ソウルジェムが魔女を産むなら、みんな死ぬしかないじゃない!あなたも、私も…!」という台詞)ともとれる行動をとっているわけで、あの時マミが錯乱していたという可能性が、いよいよ低下するのである。
解釈のしようによっては、あの時のマミの行動は「将来魔女化する対立勢力である杏子の排除」と「(魔女化したとはいえ)目の前で仲間のさやかを爆殺したほむらの拘束」という、錯乱していたどころか至極合理的にチームの年長者の責任を果たそうとしただけだった可能性も出てくる。
では、何故我々はあの周回において杏子がマミ達の仲間であるということがあたかも確定事項かのように錯覚してしまったのだろうか?考察するに、その原因は二つ、
この二つの理由によって視聴者は、あの周回においてもマミ達と杏子は当然仲間であったに違いないと、それを明確に示す描写が全く無いにも関わらず、錯覚してしまったものと考えられる。
三周目の時間軸の巴マミの心理状態については、公式ガイドブックにおいて彼女を演じた水橋かおりによって幾らか説明されているので、以下において該当箇所を引用する。
「(前略)みんな仲悪いし、過酷なルートですよね。あのルートのマミは、自分を正義の味方だと思っていたのに、嫌なことが起こり過ぎたり、みんながぎすぎすしたりして、それでも自分がまとめないとって、必死で思っていたと思うんです。でも、守ろうとしていた仲間は、いずれ倒すべき敵へと変化してしてしまいます。そして、自分もいずれそうなる運命という真実を知り、だったらみんな殺して自分も死ぬしかない、という結論に達しちゃったのかなって。弱いといえば弱いんですけど、あれだけ辛い出来事が続いたら、そうなるのも仕方がないのかなあと考えましたね。」
確かに第十話においては三周目では仲間同士の仲が悪い様子(杏子に至っては仲間かどうかすら不明)が描写されており、さやかのほむらに対する不信感を解決する為に、マミはほむらに対して「爆弾以外の武器を用意する提案」をアドバイスしている。
水橋によると、巴マミが三周目であのような行動に出た原因は、余りにも過酷な事態が起こりすぎ、チームの仲も悪く、それでも必死に努力し続けた結果溜まった心労にある、ということらしい。
『魔法少女まどか☆マギカ KEY ANIMATION NOTE 5』において、シリーズディレクターを務めた宮本幸裕から杏子の射殺とほむらの拘束について以下の様な見解が提示されたので、該当箇所を以下に引用する。
「宮本:マミさんの冷静な判断が好きですね。まず時間を止められるほむらを動けなくしてから、攻撃力の高い杏子を殺していくという。まどかのメンタルが予想以上に強かったのが誤算です。」
(『魔法少女まどか☆マギカ KEY ANIMATION NOTE 5』,194頁)
上の引用により、巴マミの三周目における一連の行動は精神的錯乱によるものではなく、冷静な判断に基づいた行動であるという制作者側の見解が公式的な資料において提示された。
宮本は、単発のマスケット銃を大量に撃つために空間に多数のマスケット銃を出現させる(但しそれらを並べて一斉発射するというのは『KEY ANIMATION NOTE vol.2』,80Pによるとアクションディレクター阿部望の発案)という一話におけるマミの戦闘スタイルを発案(虚淵玄の脚本においてこのシーンは、「マミ、マジカルマスケット銃を構え、機関銃のように連射する。」と書かれている。
しかし、マスケット銃は単発銃であり、機関銃のように連射することは不可能であることが制作スタッフによって指摘されたため、その解決策として宮本と阿部の案が採用された)し、また、マミの銃は撃った後は大きな隙が出来る、ティロ・フィナーレは一発撃ったら新たな銃を出すまでは次が撃てないなど、巴マミの設定について大きな影響を与えた人物である。
このような巴マミの設定に深く関わった人物によって、杏子の射殺とほむらの拘束は「冷静な判断の結果」であったという見解が公式的な資料において示されたことから、公式側は巴マミの精神的錯乱について否定的であると考えて差し支えないものと思われる。
(※余談:宮本はアニメの総集編を劇場化した『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[前編] 始まりの物語[後編] 永遠の物語において監督を務め(但し、総監督は新房昭之)、この劇場版において上に引用した「マミの冷静な判断」という見解が制作において反映される可能性もあるかと思われたが、件のシーンに当たるアニメ十話部分は劇場版において、「既に起こった過去の出来事であり、また新規アフレコを行ってもTV版の演技を超えることは出来ないだろうので、TV版の音声をそのまま使う」という制作判断の下、細かい作画の変更はあったものの、十話全体の話の流れとしては音声の都合上TV版と全く同じ構成となり、その為、当該シーンにおけるマミの行動描写についても特に大きな変更は無く、TV版とほぼ同じものとなった。三周目における多くの具体的な出来事、詳細な人間関係は、依然として謎のままである。)
『まんがタイムきらら☆マギカvol.5』の雑誌インタビューにおいて、『魔法少女まどか☆マギカ(コミック版)』作画、スピンオフコミック『魔法少女まどか☆マギカ~The different story~』シナリオ、作画のハノカゲは巴マミについて以下の様に答えている。
「マミさんは『The different story』でも「自分は弱い」と言っていますが、実はそんなことはないと思っています。事故で両親を失って、魔法少女になってからもひとりで戦って、普通だったら心が折れてしまうような状況でも、マミさんは耐えていますよね。そんな彼女でもくじけてしまうようなトラブルが重なって、しかも致命的な事実を知ってしまったから、アニメの第10話では壊れてしまったんじゃないでしょうか。」
(『まんがタイムきらら☆マギカvol.5』 ,13頁)
マミがアニメ第十話においてあのような行動に出たのは心労が原因であるとする点では先に紹介した公式ガイドブックにおける水橋かおりの発言と一致するが、こちらはさらに明確に「巴マミは弱い人間ではない」と述べている。
ハノカゲはアニメの制作には関わっていないが、『The different story』によってまどか☆マギカの世界を拡張したという点において、制作サイドの人間である。いわばこのインタビューは、「まどか☆マギカの世界が原典の制作者から離れて新たな制作者によって拡張されるとき、その物語の内容(ここでは巴マミという人物)がどのように継承されたかを示すという資料」であり、非常に重要な意味を持つと思われる。
なお、このインタビューにおいてハノカゲはアニメ十話のマミを「壊れてしまった」と評しているが、厳密な意味ではアニメ十話において巴マミの「何が」壊れたと評しているかは、この文面からは不明である。それは例えば「普段のマミ」、「マミの信念」、「マミの信じていた世界」、「我々が巴マミに対して持っていたイメージ」等のどれか一つを想定しているのかもしれないし、或いはそれ以外も含む全てかもしれない。
だが、少なくともそれが「マミの精神」である可能性は低いと思われる。何故なら、『The different story』中において、ハノカゲはマミを錯乱も発狂もさせていないからである。
PSP版において、今まで詳細に語られることの無かった巴マミの過去が描かれた。この過去を踏まえ、上で述べられた彼女の行動について考察する。
巴マミは何故「魔法少女として魔女を倒す」ことに強くこだわったのか、それには一人の少年の死が大きく関わっていた。当時、まだリボンを振り回すことしか出来なかった新米魔法少女時代のマミは、その日初めて魔女へと戦いを挑んだ。しかし、必死の戦いもむなしく、力及ばす撤退を余儀なくされてしまう。
その際に彼女は、助けを求めて悲鳴を上げる一人の小さな男の子が目の前で魔女に取り込まれ殺されていくのを見殺しにせざるを得なかった。この出来事はマミの心に深いトラウマを残すことになる。彼女はもう二度と戻って来ない少年に、二度と魔女から逃げ出す必要が無いほど強い魔法少女になり、もう彼のような新たな犠牲者を決して出させはしないことを誓った。
この誓いを機に、マミは魔法少女としての強さを求めてひたすらに努力を重ねていくこととなる。その結果として、彼女はリボンを材料とした長射程、高威力のマスケット銃を作成する独自の技術を編み出し(ちなみにマスケット銃なのは、材料がリボンという制約上複雑な連発銃は作れなかった為)、更なる威力を求めて巨大な大砲さえも作り出すことに成功する(後のティロ・フィナーレであると思われる)。ここに、魔法少女・巴マミは真の意味で誕生した。
しかし、努力の代償は大きく、より魔法少女らしくあるために、友人と遊ぶ暇さえ惜しんで特訓と研鑽を重ね続けた結果、ただでさえ交通事故で家族を全て失ったマミに対してどのように接すればいいか解らなくなっていた彼女の友人達は、いよいよマミとの接点を持つ機会を失い、気がつけばマミと友人達は完全に疎遠になってしまった(一応、教室で肩がぶつかってしまってしまった際には謝ってもらえる程度には、マミの存在は友人達に認知してもらえていた様ではあるが)。
魔法少女らしくあるために必死に努力した結果、家族の繋がりのみならず友人との繋がりさえも失ったマミは、まるでその寂しさを紛らわせるかのように、少年との誓いを胸にして、死と隣り合わせの魔女との戦いへとますます没頭していくのだった…。ある一人の少年の死は、マミに「魔女と戦い人を助ける魔法少女」としての使命と、耐え難い孤独を与えたのである。
さて、ここからが本題になるが、PSP版で描かれたマミの過去を踏まえると、「ソウルジェムが魔女を産む」とは、果たして彼女にとってどのような意味を持つのか?
「ソウルジェムが魔女を産む」とは「魔法少女が魔女になる」ということであり、それはマミにとって、「自分自身が最後は魔女となり、あの少年の様な犠牲者を出し続ける」ということに他ならない。これはあの少年に報いる為に魔女を倒す魔法少女たらんと決意した彼女にとって、耐え難い苦痛であるように思われる。
また、魔法少女としての強さを求めて努力した結果他者との深い繋がりを全て失ったマミにとって、「魔法少女として魔女から人間を救う」という使命は、「何も無い自分がそれでも誰かの為に魔女から人間を救う魔法少女として存在することを許される」という、何処にも居場所が無い自分にとっての最後の存在意義であり、それ故に「ソウルジェムが魔女を産む」という真実は、「どんなに魔女から人間を守って戦ったところで、結局自分は魔女になって人を殺す、誰にとっても害悪でしかない、世界に居てはいけない存在である」という、マミの存在意義を完全に破壊するものであったといっても過言ではないだろう。
さらに、ここに公式ガイドブックで語られた、「あの周回は仲間同士の関係が最悪だった」という証言を加えると、事態はより深刻なものとなる。マミにとって仲間とは、今まで誰にも打ち明けられずにいた魔法少女としての自分と共にあることが出来る、孤独から自身を解放してくれるかけがえのない存在である。その仲間同士が険悪な関係だったとしたら、「やっと仲間が出来たと思ったら人間関係が劣悪で、仲間の中でさえも自分は孤独になっていた」と、マミは落胆することになるだろう(公式ガイドブックによると、それでも彼女はチームの仲を必死で取り持とうと努力したらしい)。
そこにソウルジェムの真実が明らかにされる。この瞬間、マミが自分自身を「家族も友人も失って孤独になった上にやっと出来た仲間内でも孤独になり、さらに最終的には魔女になり罪の無い人々を殺戮する全ての人間にとって害悪にしかならない不必要な存在」と考え、失望したとしても何の不思議も無いだろう。
自分自身の存在意義を失ったマミにとって最後に残るものがあるとしたら、それは「あの少年への誓い」だけではないだろうか。魔法少女は魔女になる。この場にいる魔法少女は自分と、仲が悪かった三人の同僚。それら全員がやがて魔女になり、あの少年の様な犠牲者を出すならば、「ソウルジェムが魔女を産むなら、みんな死ぬしかないじゃない」ということではなかろうか(ただし、この場合迫り来るワルプルギスの夜と戦わずに犠牲者を出しても構わないのか?という疑問は残る。あるいは、マミは自分以外の三人を殺した後に一人でワルプルギスの夜と戦うつもりだったのかもしれない。が、後述するPSP版でのソウルジェムの真実を知った彼女の行動から類推するに、そのような可能性は低いようにも考えられる。
しかし、この周回での彼女の本心が描かれていない以上、結局その真意は未だ不明のままである)。結論を言うと、ソウルジェムの真実を知ったマミが俗に「病ミさん」とも言われる程の状態に陥ったことは突発的な感情の爆発ではなく、「病ミさん」に至るまでの理由が存在したと思われることが、PSP版におけるその過去から考察することが可能なのである。
ところで、PSP版ほむらルートにおいてマミがソウルジェムの真実を知るシナリオ分岐が存在するが、このときのマミはひどく動揺はするものの、アニメ本編のように凄まじい形相で杏子を射殺したり、ほむらに銃を向けることはない。これは、ほむらルートにおける暁美ほむらが人間関係において比較的上手く立ち回り、仲間同士の関係をそれなりに良好に仕上げることに成功した結果だと思われる(特に、このルートのマミは、ほむらによく懐いていた)。
ソウルジェムの真実を知った翌日、マミは一人公園のベンチに佇んでいた。この公園はあの少年を見殺しにしてしまった因縁の地であり、そして二度とあの少年のような犠牲者を出さないと心に誓った場所でもある、彼女にとって忘れることの出来ない、特別な公園である。マミは、自分が最後は魔女になってあの少年のような犠牲者を出し、また、魔女になりたくなければ魔女との戦いで命を落とし、結界の中で死体も残らず、誰からもその死を知られない永遠に行方不明者になるしかないという現実に倦み疲れて失望していた。そして、せめて人間として誰かに死体を発見してもらえる形で自身の無意味な生に幕を引こうと自害を企て、まるで自身の結論をあの少年に謝罪するかのように、死に場所にこの公園を選んだのだった。
そして、いよいよその銃がマミのソウルジェムを砕こうとした瞬間、間一髪で間に合ったほむらとまどかによって、彼女の自害は未遂に終わった(ただし、ここに至る選択肢を誤ると二人は間に合わず、マミの自害は完遂されてしまう)。その後の二人の懸命な説得により、マミはこの公園を死に場所に選んだのはあの少年との誓いが自分にとってかけがえのない、大切なものだったからこそであるということ、迫り来るワルプルギスの夜から人々を守る為に自分の力が必要とされていることを自覚した(そして、自分の為にこんなにも必死になってくれる仲間がいることを自覚し、自分が彼女らにとって必要な存在であることを理解した、ということも感じていたかもしれない)。ここにおいて巴マミは魔法少女として戦う意義を再び見出し、立ち上がり、銃を取ることを決意したのだった。
以上、かなりの文量になってしまったが、PSP版を考察することにより、以下の三点の結論を得ることが可能となった。
この三点である。
PSP版が発売されるまで、何故あの場面でマミが普段の彼女からは考えられないような取り乱し様を見せたのか、全くの謎であったといってもよい。彼女のアニメ本編での退場はあまりにも早過ぎ、そして彼女の内心の苦悩を我々が知る機会はあまりにも少なかった。巴マミの決意と孤独を知っていた人間は、何処にも居なかったのである。それ故に、彼女の豹変ぶりが我々にこれほどまでの衝撃を与えたのかもしれない。
このシーンを素材にしたMADについては、死ぬしかないじゃないシリーズを参照。
pixivでは上の2画像のように、マミさんが銃口を向けるシーンを再現したイメージレスポンス用素材が作られて流行した(上記のニコニコ動画にもある通り、顔の表情を変えたパロディも多数投稿されている)。いかに、この場面のインパクトが強かったかがわかるだろう。
←病ミさんフェイス付き
掲示板
329 ななしのよっしん
2022/02/01(火) 21:20:28 ID: BOBD1QXgAh
>>311
正直死んでいい人間なんて1人もいないなんて
THE偽善者な台詞言っても何も響かんよ
330 ななしのよっしん
2022/03/07(月) 20:15:08 ID: 4PojAKvOAU
こうなる事が分かってたならマミはさっさと死んでよかったと思えるシーンだったのかもしれない。
こうなる事を予見してお菓子の魔女はマミったさんにしてまどかたちを救ってた可能性が微レ存?
331 ななしのよっしん
2024/02/05(月) 21:21:34 ID: jNWhwMY6+W
scene0見てるとそりゃあ心労かかるわ…ってなる
ほむらに悪気はないんだけどどうしても不穏分子みたいになっちゃうし杏子は優しいのに初見だと挑発的だしさやかは色々気負いすぎちゃうし…
まどかはほんと良心なんだけどねぇ
急上昇ワード改
最終更新:2024/12/18(水) 13:00
最終更新:2024/12/18(水) 13:00
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