京都大学の藤井でございます。このたびは会話の機会を頂戴いたしまして誠にありがとうございます。ただいま菊池先生が口述いたしました大規模な財政出動のお話をお聞きしましてですね、私の方からお話したいと考えておりますのが、先ほど菊池先生がおっしゃった大規模な財政出動の中身、この部分をこのたびの大震災を受けて申し上げたいと考えているところでございます。
まずこのたびの大震災におきまして犠牲になられた方の皆様のご冥福をお祈りいたしますと共に被災地の方々に改めてお見舞い申し上げたく存じます。言うまでもありませんが今何よりもなすべきことは被災地の方々に対する救助救援でございます。そしてそれと同時に我々日本人はこの国難の危機を回避するための方法を全力で考えなければならないと思っているわけでございます。ところがともすれば「日本はこの瀕死の重症から立ち直ることができないのではないか」そのような獏とした不安、ある種の絶望感をお持ちの方も少なくないのではないかと感じております。しかも地震の専門家は30年以内にこの大震災の被害をさらに上回るとさえ言われている東海地震・南海地震・東南海地震の各地震の起こる確率が50%から87%にものぼるということを明らかにしております。さらにこのたびの大震災の何倍もの被害をもたらすであろうといわれる首都直下型地震が30年以内に起こる確率が実に70%にものぼるということを明らかにしております。
おりしも日本はかつて世界第2位であった国民一人当たりのGDPが長年のデフレ不況のためにいつの間にか20位前後にまで凋落し、経済大国の地位そのものがぐらつき始めているところでございます。その弱り目に祟り目といわんばかりのこのたびの巨大震災が襲ったのであります。そして更なる大震災の影にもおびえている。それが今日の日本のひ弱で悲しい姿でございます。しかしそれらを踏まえましてもなお私は確信していることがございます。それはここでうろたえずに、冷静に状況を判断しつつ、なすべき対策をきちんと行うことができれば、この国難の危機を回避し、必ずやわが国は復活することができるということであります。そしてどのような国難をも乗り越えていくような、強靭な強い国家になることができるということでございます。ではそのために何が必要なのか、それについてお話をいたしたいと思います。
そもそも我々日本人は先の大戦の敗戦後の時代を「戦後」と呼び、列島改造論に象徴されるような「豊かになる」とのビジョンを掲げ、今日まで努力を重ねてまいりました。そして豊かさの頂点を極めたバブルが崩壊した後もなお、豊かさに変わる新しいビジョンがもてないままに、今日に至っております。しかしその間日本経済はデフレのために凋落し続け失業率も自殺者数も飛躍的に伸びてしまいました。そんなときに高度成長もバブルも知らない新しい子供たちが求めているのはもはやすでに「豊かさ」ではなく「生き残ること」そのものになっていったのであります。それと同時に多くの国民が倒産やリストラの陰におびえております。ここでまた多くの国民が「豊かさ」ではなく「生き残ること」それ自体を求めているのであります。そんな時代の只中に起こったのが今回の大震災でありました。そしてこの大震災によっていまや自分自身のみではなく町や村、そして日本そのものが「生き残ること」ができないのではないか。そんな獏とした不安に日本中が徹底的に覆われることになったのであります。つまり我々が求めているのはかつて求めていた「豊かさ」ではすでにないのであります。今必要なのは何があっても滅びない、永続的な繁栄を築きうる「強靭さ」なのであります。言うならば「豊かさ」を追い求めた戦後復興の時代が、かの3月11日に決定的に終焉したのであります。そして我々は今、「強靭さ」を目指した震災復興の時代の只中に生きることになったのであります。だからこそ「豊かさ」を求めた列島改造論に変わる新しいビジョンに変わって、数々の巨大震災をも乗り越えることができる「強靭さ」すなわち英語で言うところの「レジリエンス」、このレジリエンスを求める列島強靭化論をここに強く申し上げるしだいであります。お手元にお配りした資料が日本復興計画の資料でございます。
さてこの列島強靭化論でありますが、この内容を「日本復興計画」という緊急提案書にまとめてございます。議員の先生方にお配りいたしておりますが、国民の皆様も当方藤井聡のホームページに公表してございますのでぜひごらんいただければと存じます。この緊急提案は二つの提案で構成されております。一つは「東日本復活5年計画」もう一つは「列島強靭化10年計画」であります。つまり5年をかけて東日本を復活し、10年をかけてどんな危機をも乗り越えられる強靭な国家を作り上げる、それを目指すわけであります。
まず前半の「東日本復活5年計画」でありますが、これは東日本の産業・経済・社会を5年でよみがえらせることを目指すものでございます。そのためには国・自治体・民間等の日本の総力を上げた復興が必要不可欠であることは言うまでもありません。1日も早い居住環境・生活基盤の復旧を急がねばなりません。そしてこの復興が目指すべきビジョンは「ふるさとの再生」であります。東日本はわが国日本のふるさとの象徴であります。だからこそ日本の永続的な繁栄を基とする以上、このふるさとは絶対に取り戻さねばならないのであります。さてこのふるさとの再生に当たっては、直接的な救済はもちろんのこと、就労支援形の救済が重要と考えております。つまり食料や物資を直接支援するという形の救済に加えて、救済のための事業を起こし、雇用を創出し雇用の機会を被災地の方々に提供申し上げるというわけでございます。これによって力強いふるさとの再生を目指すものであります。そしてそうした雇用の機会を創出する一つの仕組みとして「東日本ふるさと再生機構」の設立、これを提案いたしたいと思います。たとえばこの機構を、東日本の復活までの時限つきのものとして国が主体的に出資する法人として、さまざまな復興事業を推進していくものであります。なおこの創出されたたとえば数万規模の雇用を被災者の方々に加えて、ふるさと再生を願う全国の若者たちをはじめとしたみなさんに提供するということも考えられると思います。
さて、国や自治体あるいは上記のような機構が行う諸事業のため総額で何十兆という予算が必要になります。「しかし今の日本にはそんなお金はないんじゃないか」と思う方もおられるかもしれません。しかしそれはすでに菊池先生がお話なさいましたように、完全なる事実誤認であります。菊池先生がおっしゃった通りデフレ下にあるわが国では資金需要が冷え込んでおり、銀行では皆様の預貯金のうち、150兆円以上ものお金を貸し付ける相手が民間に見当たらない、その結果国債しか運用ができないという状況になっているのであります。そのせいもあり、長期金利は低くなっております。しかもわが国の国債は自国通貨建てであり、かつ9割以上が内債という事実を踏まえますと、いわゆる破綻という状況からは完全に程遠い状況にあるというのがわが国の実態なのであります。言い換えますならわが国は今、国債にある財源調達が今完全に可能な状況にあるというわけであります。ただし国債発行によって少なくとも一時的に金利が上昇するリスクがあることは否定できません。しかしそういったリスクは日本銀行との協調、すなわちアコードを行うことで回避可能であります。つまり国債発行と共に日銀が国債を市中から買い取るオペレーション、積極的な金融政策を同時平行で行うことが望ましいわけであります。なおその際は適正なインフレ水準に収まるよう各種の金融政策によって適宜裁量的に調整していくということが必要であるということも申し添えておきたいと思います。
そのほか子供手当て等の所得移転のための財源を被災地に移転するという考え方、あるいは被災地への所得移転を支援するための寄付金税額控除や、被災地特別減税なども考えられると思います。
さて、こうした復興活動を進める一方でどうしても避けなければいけないことが一つございます。それは、過激な自由貿易を推進するTPPであります。そもそもTPPはデフレ下であまっている供給分を海外への輸出に振り向けようとするものでありました。しかし大震災の今、国内の余分な供給分を割り向ける対象は海外ではなく被災地であることは明白であります。さらに、東北は日本の食糧供給地帯でもあり、今回のTPP加入によりさらに壊滅的なダメージを受けることもまた明白であります。したがってこの被災地にTPP参加による諸外国からの安い農産品という第二の津波の来襲すればふるさとの再生どころか、ますます壊滅的な被害をこうむることは必定なのであります。そもそもせっかく農地を復旧させようとしても、「TPPによってどうせ将来使えなくなるんだ」という気分が支配的になれば復興に向けた士気がガタ落ちになることはこれまた明白であります。だからこそ被災した農産地帯が農業地帯が復興に専心できるようにTPP交渉不参加の決定の明言が是が非でも必要とされているのでもあります(会場拍手)。こうした政府が東日本の復興を目指すというのなら、それとは逆方向のTPPは絶対に避けなければならないのであります。
さて、以上の東日本の復活5年計画と平行して、日本の永続的な繁栄を基する列島強靭化10年計画を強力に推進することを提案いたしたいと思います。もちろん初期数年間は東日本復活に注力する必要がありますが、その復活の程度に応じて余力を結集し日本全体の強靭化を図るわけであります。まずは100兆円前後の被害をもたらすといわれる首都直下型南海東南海地震への対策が急務であります。それと同時に最悪で70兆円もの被害が懸念されております、首都を直撃する大洪水への対策も不可欠であります。たとえば現在中止されている八つ場ダムをはじめとしたダム事業や、スーパー堤防事業が洪水対策としても重要な意味を持つことは工学的に明白であります。しかも各地域のダムによる水力発電はこれからの電力計画の観点からも重要なものとなるでありましょう。なお原子力政策の見直しは今回の事故の結果を科学的に分析した上で冷静に議論されるべきことであることは一言申し添えておきたいと思います。さらには物流網電力エネルギー系統網においては非常時において過剰に効率化することを差し控え、過剰に効率化することを差し控え、まさかの非常時を想定した二重化等が必要となるでありましょう。たとえば東海下の大地震を想定した日本海側のインフラの強化が必要とされているわけであります。なおそうしたインフラが日本海側の平時の発展に期するものであることはいうまでもありません。
このようなインフラの強靭化に加えて、産業構造そのものの強靭化も不可欠であります。まさかの被災地にどのように事業を続けていくかという計画いわゆるBCPの作成が企業・自治体・国といったあらゆるレベルで必要とされています。ついてはBCP作成の義務化も視野に納めた立法的議論が必要と考えます。さらにエネルギーや食料といった基本的な物資についてはまさかの時を平時から想定し、可能な限り自給率を高めると共に、自給量を一定量確保することも必要でありましょう。
最後に、当方からの供述を終えるにあたりどうしても申し上げなければならないことがございます。今回の予算の中でもかつての選挙でのマニフェストに掲げられていた「コンクリートから人へ」の予算は踏襲され、公共事業が大きく削られたままでありかつさらに公共事業関係費が削られようとしております。もちろんこのたびの地震津波はたとえば日本一といわれた堤防ですら軽がると乗り越えるほどの巨大な破壊力を持っているものでありました。しかしほとんど報道されてはおりませんが、堤防で津波から守られた町があったことも事実なのであります。さらには公共事業関係費によって進められたリスクコミュニケーションという取り組みの中で、地震から逃げるべきだということを人々に地道に伝え続けたことであの地震津波から逃げることができ助かった人々がおられたことも事実なのであります。従いまして「コンクリートから人へ」といった公共事業を削減する方針がなければ、亡くならずに済んだ方が多数おられたということは間違いないという風に考えられるわけであります。それを思いますとかえってお亡くなりになる人の数が増えてしまうような「コンクリートから人へ」なるスローガンに基づく予算編成は断じて許すことができないのであります。
さらに言いますなら、そのような実際には破滅的であるものの一定の集票効果が見込めるような軽薄で耳当たりの良い甘いスローガンを国民の生命と財産を守るべき政治に直接間接にかかわる人々には、もう二度と口になさらないでほしいと強く懸念せずにはおれません。今国会で議論されております予算案におきましてもぜひともその点最大限のご配慮をたまわりますよう、一専門家として声を大にして申し上げたいと思います。
いずれにしても東日本そして日本そのものの復活は冷静に考えれば考えるほど十二分に可能であることが見えてまいります。そのための財源はわが国の中に確かにあるのであります。そして技術立国であるわが国にはその技術力も十二分にあるのです。それを思えば東日本そして日本の復活のために今足らないものは政治決断だけなのであります。すなわち東日本を復活させんとする政治決断、日本を強靭な国にせんとする政治決断こそが今強く求められているのであります。ぜひとも東日本が復活し、日本が数々の巨大地震を含めたさまざまな国難をも乗り越えうる強靭な国になるための政治決断を下されんことを改めてお願い申し上げまして、私の口述を終えたいと思います。どうもありがとうございました。
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