ズブいとは、競馬用語で「エンジンのかかりが遅い」「騎手の指示に対して反応が悪い」といった意味。ズブい馬のことは「ズブ馬」とも言う。
概要
人間の陸上競技でも短距離以外はそうであるように、競馬において競走馬はレース中、ずっと全力で走っているわけではない。そんな走り方をすればすぐにスタミナが尽きてしまうわけで、レース序盤から中盤はほどほどのペースでスタミナを残し、レース終盤に全力を出すというのが基本的な戦術になる。その全力を出すタイミングを、手綱や鞭によって馬に指示するのが、騎手の重要な役目である。
この騎手の指示に対して素直に反応する馬は「操縦性がいい」と評され、また騎手の指示にあわせてすぐに全速力に加速できる高い瞬発力を持つ馬は「キレる脚がある」などと評される。
その一方、馬によっては騎手が指示してもなかなか加速しない、反応の悪い馬がいる。騎手が手綱を動かして、馬に全力を出して走るように促すことを「追う」と言うが、そうした馬は追っても追ってもなかなか加速しないので、他の馬より騎手が早い段階から追い始めないといけない。馬によっては追わなければ道中のペースについていくこともままならず、スタート直後からゴールまで騎手がずっと追い通しということさえある。そうした馬のことを、競馬用語で「ズブい」と言う。
ズブい馬はトップスピードに乗るのに時間がかかるため、ペースが速い短距離のレースは不向きである。一方、ペースが比較的ゆったりしていて、スタミナの温存が重要になる長距離のレースではまだしもカバー可能である。そのため「ズブい」と評される名馬は長距離で活躍した馬が多い。
一口に「ズブい馬」と言っても、能力的に瞬発力に欠けるタイプと、気性的に前進気勢が薄かったりレースに対する集中力に欠けたりするタイプがいる。また、レース慣れして馬がどのくらいの力を出して走ればいいのかを学習したり、闘争本能が薄れた結果、だんだんズブくなっていく馬もいる。
加速力に劣るタイプのズブい馬は、瞬発力勝負ではキレる脚を持つ馬には敵わないため、後方から早仕掛けで捲りをかけるか、前目でレースを進めて粘り込みを図るか、というのが主なレーススタイルになる。
そのため「後方からの捲りや追込が得意の馬=ズブい」と見なされることもあるが、キレる末脚とトップスピードの持続力を持っているがスタートが苦手で後方からのレースばかり、という馬もいるので(例:ディープインパクト)、捲りや追込を得意とする馬がみんなズブいわけではない。
こうしたズブい馬を動かせるかどうかにも技術や馬との相性があり、角田晃一や和田竜二などズブい馬の扱いに定評がある騎手もいる。
なお、末脚の切れ味に劣るため勝負所でじりじりとしか伸びずなかなか勝ちきれない、というタイプの馬は「ジリ脚」と言われる(例:ナイスネイチャ)のだが、「ズブ馬」との区別は競馬ファンの間でもわりと曖昧である。実際、その馬が気性的にズブいのか、能力的にジリ脚なのか、あるいはその両方なのかというのは傍から見ているだけではなかなか判別は難しい。
瞬発力のある馬が良いとされる日本競馬では「ズブい」ということは基本的に弱点だが、馬がレース慣れしてズブくなることは一概に悪いわけでもない。特に前進気勢が強すぎるタイプの馬は、多少ズブくなった方が実力を発揮できるという場合もある。若い頃は逃げ馬で、年齢を重ねてから好位先行が出来るようになったという馬がこのタイプ(サクラバクシンオー、コパノリッキーなんかが典型)。
「ズブい」といわれる馬たち
- メジロブライト
- 1998年天皇賞(春)の勝ち馬。無尽蔵のスタミナを持っていたが、スタートが苦手で後方からロングスパートを仕掛けるも、前にいる馬に鋭い末脚を繰り出されて追い込みきれず勝ちきれないというレースが多かった。
- ヒシミラクル
- 2002年菊花賞、2003年天皇賞(春)・宝塚記念の勝ち馬。「ズブい馬」の代表格である。勝ったGⅠ3戦は全てロングスパートでの捲りであり、鞍上の角田晃一は常に押っつけ通しで疲労困憊。距離の短い宝塚記念ではスタート直後から2200mずっと追い通しであった。
- クーリンガー
- 交流重賞6勝を挙げたダート馬だが、主戦の和田竜二をして「小錦みたい。とにかくズブくて動かない」と言わしめたズブ馬で、和田騎手=ズブ馬というイメージの始まりとも言える存在。真っ白な芦毛とのんびりした気性から「牛」と言われた。
- ゴールドシップ
- 2012年皐月賞・菊花賞・有馬記念などGⅠを6勝した歴史的名馬だが、それ以上にその破天荒な気性で有名な迷馬。後方からのロングスパート捲りを得意としたので「ズブい馬」扱いされることが多いが、単にスタートがズブかっただけでレース後半の仕掛けはズブくないという意見もある。
- クランモンタナ
- 2016年小倉記念の勝ち馬。その小倉記念で鞍上の和田竜二は向こう正面から追い通し、3コーナーからゴールまで約30発の鞭を入れられたことで知られ、和田はレース後脱水症状になったという。
- ラニ(競走馬)
- 2016年のUAEダービーの勝ち馬で、アメリカ三冠を完走したことや「クレイジーホース」と呼ばれた気性の荒さで知られるが、ズブい馬としても有名。基本先行有利のダートで後方からの捲りを得意とし、芦毛だったことから「砂のゴールドシップ」とも言われた。
- ディープボンド
- 2024年現在現役の「ズブい馬」代表。海外を含む重賞4勝、天皇賞(春)3年連続2着という実力馬だが、とにかく圧倒的にズブく、鞍上の和田竜二が親の仇かというほど追いまくることで知られる。ズブいがスタートは得意なので基本的に先行馬。
- テリオスベル
- 逃げ馬なのにスタートダッシュ力がなさすぎて逃げられず、無尽蔵のスタミナがあるので道中で捲っていって途中から逃げるという「捲り逃げ」の戦術を江田照男と編み出した個性派ダート牝馬。スタートから出鞭が入るのは当たり前、江田がレース中ずっと追い通しになることも珍しくない。
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- 競馬
- 捲り / 追込
- 和田竜二、闘魂注入、鞭が飛ぶ
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