ディープインパクトとは、直訳すると「深い衝撃」となるが、以下の事を指す。
- 日本の競走馬。本記事で記述
- 1998年公開のアメリカ映画。地球への彗星の衝突による大災害を描く、いわゆるディザスター・ムービー。
- 2005年に打ち上げられたアメリカの彗星探査機。彗星に衝突体(クイみたいなもん)を打ち込むことで、地球からの観測を可能にした。
概要
こんな馬が存在していいのか?
敗北など考えられない戦いに、人はどこまでも夢を見た。
2002年生まれ。牡・鹿毛。「英雄」とか呼ばれたり呼ばれなかったりした名馬である。
父サンデーサイレンス 母ウインドインハーヘア 母父アルザオという血統。ノーザンファーム生産のお坊ちゃまであるが、必ずしも生まれた時から高い評価を得ていたわけではない。実際、セレクトセールでの落札価格は7000万円。サンデーサイレンス産駒14頭中9番目のお値段だった。
生まれたときから小さく、体が柔らかい馬で、見た目が牝馬みたいであった。管理する池江泰郎調教師が初めて見た時、本当に牡馬なのか股間を覗いてみたというくらいである。ただ、ものすごく負けん気が強く、蹄が磨り減っても走るのを止めず、足が血だらけになっていたという根性系のエピソードもある。
主戦騎手を武豊に迎えてデビューすることが決まったのだが、武騎手は最初に跨った時「ちょっとやばいかも!」と興奮していたらしい。そのデビュー戦、ディープインパクトは武騎手がほとんど追う事も無く楽勝したのだが、上がり3ハロンがなんと33秒1。なんというか競馬を知っていれば知っているほど有り得ない末脚に、競馬評論家の井崎脩五郎氏は翌日のイベントで「今まで見てきた中でもっとも『強い!』と思ったレースは昨日のディープインパクトの新馬戦」と言っちゃったくらいである。
その新馬戦だけでも伝説級だったのだが、次の若駒ステークスはさらに凄かった。直線向いて最後方。そこから武騎手がほとんど追ってもいないし、ディープインパクトも全然本気で走っている様子は無いのに、ほかの馬が止まって見えるような脚であっという間に抜き去り、最後は抑えて5馬身ちぎってしまうのである。見ていたファンは開いた口が塞がらない状態。この時点でもう「三冠馬」の声が上がるのも無理は無い強さだった。
しかし、次の弥生賞は苦戦する。抜け出すのに苦労して首差。あれ?そんなに強くないのかな?という人もいたが、直線で鞭一つ入れていないのだから実は完勝だよね。
皐月賞では単勝支持率史上二位(63%)であった。ここでは出遅れて道中苦労したせいか、少しジリジリとした脚だったが、結局は抜け出して二馬身半。実況は「武豊、三冠馬との巡り合い!」と叫んだ。実はこのレースの前あたりから、マスコミとJRAがかなりディープインパクトをプッシュし始めていた。名門牧場の名馬が当代一の名ジョッキーを背に三冠を達成する、というストーリーで競馬界を盛り上げようという意図が見え透いてしまうような異常な推し加減だった。
そして東京優駿日本ダービー。大宣伝のおかげか東京競馬場には14万の大観衆が押し寄せ、単勝支持率は73.4%。ハイセイコーの記録を抜くという騒ぎとなった。確かに、久しぶりにダービーがこんなに盛り上がったなぁという気はした。レースでは後ろから行ったディープインパクトは直線では外に持ち出し、粘るインティライミを置き去りにして独走。5馬身差、ダービーレコードタイ、上がり3F33秒4という破格の強さで、13年ぶりミホノブルボン以来の無敗二冠を達成したのだった。
こうなればもうマスコミもJRAも遠慮なく「ディープインパクト三冠へ!」と言えるわけで、それはもう、仕舞いには三冠達成前に銅像を造っちゃうくらいであった。もっとも、そんなことは馬には関係無いわけで、ディープインパクトは神戸新聞杯をレースレコード(しかもゴール前では手綱を抑えて)圧勝。無敗のまま菊花賞へ向かう。
京都競馬場は超満員。ディープインパクトの単勝支持率はなんと79%に達し、単勝は元返し(勝っても増えない)という騒ぎだった。このレースを直線、逃げ込みを図るアドマイヤジャパンを3F33秒3の鬼脚でねじ伏せて、史上6頭目となる牡馬クラシック三冠を無敗で達成する(無敗での達成はシンボリルドルフ以来で史上2頭目)。実況の「世界のホースマンよ見てくれ! これが! 日本近代競馬の結晶だ!」はあまりにも有名。駄目だよ、父母ともに外国産馬ですなんて言ったら。
この時点でディープ人気は最高潮。生ける伝説。もはや神扱い。早くも凱旋門賞、ブリーダーズカップ、ドバイなど海外遠征が取り沙汰され、ファンはみんなディープなら海外でも全勝すると信じていた。
ところが、次の有馬記念でハーツクライに負けちゃうのである。直線で伸びが無く、半馬身届かない。実況は勝ち馬を放置してディープインパクト敗れるを連呼。ファンは神話の崩壊に呆然。武騎手も相当こたえた様で、あんなにしょげ返った武騎手は初めて見たくらいであった。
翌年。崩壊した無敗神話と共に上がり始めた「負かした相手が弱かったんじゃね?」という囁きをどう黙らせるかが注目された。しかしながら、阪神大賞典は直線入り口で先頭に立つとそのまま差が開く開く。ある意味、みんな「やっぱり強いんだ」と安心する勝ち方で圧勝。天皇賞へと向かう。
この時点で凱旋門賞に行くという話しが聞こえてきており、天皇賞(春)は「ディープがどんな勝ち方をするか」だけが焦点だった。ぬるい勝ち方だったら凱旋門賞なんて行かせねぇ、とファンが見守る中、ディープインパクトはとんでもないレースを展開する。
スタート、どかんと出遅れたディープインパクトは最後方を進む。ん~?大丈夫なんか?と思ってファンが見守る中3コーナーへ。ここで、ディープインパクトは大外を回って一気に上がっていってしまったのである。京都の難所、3コーナーの坂の上りでスパートするなんて!場内が騒然とする中、かまわず坂の下りで一気に先頭に立ってしまう。そして直線。リンカーン以下後続馬群が押し寄せてくるか、と思いきや、なんと差が開く一方。あまりに常識外れなレース振りにファンは唖然呆然。「え~!?」としか声が出ないような圧勝劇だった。3馬身半差。タイムの3分13秒4はマヤノトップガンの伝説のレコードを1秒も更新する恐ろしい時計。ディープインパクトの神話は再び蘇ったのである。
壮行レース(扱いの)宝塚記念ではやや重馬場で34秒台の末脚を繰り出して圧勝し、満を持してフランスの世界最高峰のレース凱旋門賞に挑戦することとなった。ハッキリ言って、この時日本中の競馬ファンはディープの強さに酔いしれ、浮かれており、ディープインパクトが凱旋門賞で負けることなど考えもしなかった。
そして順調に迎えた凱旋門賞。なんとここで一番人気に支持される。まぁ、種を明かすと、日本から応援ツアーを組んでファンがロンシャン競馬場に押し掛けており、彼らが応援馬券を買い捲ったおかげであったのだが。ちなみにこの日本からの応援団は、日本競馬のノリをロンシャンに持ち込んで、横断幕を張ったり大騒ぎして大顰蹙をかったらしい。ただ、現地でもディープインパクトに対する評価は非常に高かった。
しかしレースでは非常に速い流れに乗らざるを得ず、直線で一度は先頭に立ったものの、二頭に交わされて3着に終わった。前哨戦を使うべきだったとか斤量が、とか色々言われたが、日本最強馬が凱旋門賞で完敗したという厳しい事実が残ったことだけは確かである。
しかもよりにもよって更に衝撃の事実が明らかになる。ディープインパクトが咳き込むので獣医師から与えられていた器官疾患を治療する薬がフランスギャロでの禁止薬物に該当したため、3位入線取り消し、失格となったというのである。凱旋門賞始まって以来の大不祥事であった。当該薬物は日本では禁止されておらず(後に禁止になった)使用自体はフランスでもOKだった。つまり、薬をきちんと管理できなかったスタッフの落ち度であり、ディープインパクトは一つも悪くないのだが、英雄ディープインパクトの経歴に大きな傷と疑惑を残してしまった。
ディープは帰国してジャパンカップへ向かう。凱旋門賞の事件のせいか、外国馬が手薄であるにも関わらずディープインパクトの単勝支持率は61.2%に留まった。しかしレースでは最後方からスローで展開が向かなかったにも関わらず、大外から33秒5の脚を繰り出して優勝。絶対に負けられなかったこのレース、騎手の武豊は相当嬉しかったようで珍しくゴール前でガッツポーズし、表彰式では万歳三唱をした。(このアピールはウオッカの天皇賞(秋)の際にもやった)。
そして暮れの競馬の総決算、有馬記念に出走。これがラストラン。ファンが見守る中、3コーナーから捲くって行くと直線では観客に近い大外を通って一気のスパート。余裕綽々で3馬身差。これで引退なんてありえん、という強さを見せ付けた。正直、武騎手も相当惜しかったようで、レース後行われた引退式で翌年の凱旋門賞に未練を残すコメントを残している。
14戦12勝二着1回。凱旋門賞を除けば連帯率100%を達成している。主な勝鞍は皐月賞・日本ダービー・菊花賞・天皇賞(春)・宝塚記念・ジャパンカップ・有馬記念。14戦12勝。獲得賞金14億5455万1000円(中央 競馬史上歴代2位)。二年連続年度代表馬、2008年に顕彰馬にも選出。記録の上でも史上に残る名馬である。
しかしながら、ディープインパクトはそれ以上に記憶に残る馬であった。スタート出負けして、道中むちゃくちゃな捲りして、直線では「飛ぶ」ように脚を伸ばして他馬をちぎってしまう。その天衣無縫なレース振りは他の馬と全然違う生き物のように見えた。シンボリルドルフのような安心感とは違うが、どこか見ていて「こいつは負けない」と納得してしまうようなレース振り。いつも約束通り飛んでくるその末脚にファンは魅了された。
凱旋門賞の負けや同期他馬が古馬でになって伸びなかったことから「他が弱かった」「そんなに言うほど強くない」という意見もあるが、タイムや3Fタイムを見れば分かる通り、いささか信じ難いほど速い馬であったことは確かであり、史上最強馬に推す人も少なくない。
種馬時代
引退後は社台スタリオンステーションで、歴代一位の51億円のシンジゲートを組まれて種牡馬入り。初年度から産駒は大活躍。初年度からリアルインパクト(安田記念)マルセリーナ(桜花賞)という二頭のGⅠ馬を出す成功を収めている。また、2009年産駒であるジェンティルドンナが牝馬三冠を達成し、性別は異なるもののJRA史上初の親子での三冠達成を果たした。2012年にはリーディングサイアーに輝き、その後も他の追随を許さない勢いで産駒が勝ち続け、2014年現在で既に内国産種牡馬の通算重賞勝数を更新している。フジキセキ涙目。
ちなみに、初年度から三年連続で産駒が桜花賞を勝っており、2014年もハープスターが父譲りの剛脚を発揮し17頭ゴボウ抜きで四連覇を達成した(前三年はマルセリーナ、ジェンティルドンナ、アユサン)。
父のサンデーすら成し得なかったことで、歴代の記録を見渡してもパーソロンのオークス四連覇に並ぶ大記録となった。
2015年、五連覇を賭けて挑んだ娘たちはキングカメハメハ産駒のレッツゴードンキにいなされ敗れたものの、クルミナルが二着に突っ込み同一種牡馬産駒による桜花賞五年連続連対を果たした。2016年は新種牡馬ヴィクトワールピサ産駒ジュエラーの豪脚に屈したものの、シンハライトがハナ差2着に粘って六年連続連対。やっぱりこの馬種牡馬としてもおかしい。
産駒傾向としては自身の天衣無縫さを支えたスタミナはあまり遺伝されていないのか、長距離GⅠでは分が悪い。菊花賞や春の天皇賞といった父が最高峰のパフォーマンスを繰り出した舞台では、人気を集めるもののあまり見せ場はない(・・・のだが、2016年ついにサトノダイヤモンドが菊花賞を制してディープ産駒によるクラシック完全制覇を成し遂げた)。
芝の1600~2400あたりまでなら競馬場を問わず高いパフォーマンスを見せており、特に京都・阪神の外回りコースには尋常ではない強さを見せている。
手始めにプール・デッセ・プーリッシュ(フランス1000ギニー)をビューティパーラーが勝ってみせるなど、海外からの注目もまずまず高かったが、オーストラリアではトーセンスターダムらをトレードで獲得し種牡馬入りさせるなどの活動が活発化し、2018年はオーストラリア史上最強牝馬Winxの母が来日し種付予定となっている。
欧州最大級の生産者・クールモアグループも父ガリレオ×母父デインヒル牝馬という欧州じゃちょっと相手が少ないタイプを連れてきては種付して行く、日本でサンデー牝馬が薄め液としてハービンジャーを使うノリでディープをお相手に少しずつ起用するようになったが、その最初の世代であるMaybe(GⅠ1勝)が産んだSaxon Warriorが2018年英国クラシックの主役として開花。この取組は当たり、ということでこれからも続きそうである。
ちなみに2018年はWinter(GⅠ4勝)とMinding(GⅠ5勝、カルティエ賞年度代表馬)、Promise To Be True(重賞勝ち、Maybeの全妹)がディープのために来日予定とサンデーサイレンスすらなし得なかったことをやりつつある。
日本では牡馬はややもすると早熟っぽい面が目立ち始めているが、海外でのディープ人気は加熱していきそうである。
2019年春の天皇賞をフィエールマンが勝った事で産駒による八大競走完全制覇を成し遂げ、サンデーサイレンスの記録にまた一歩並びかけた。
2019年は首の不調のため、シーズン途中で種付けを中止し療養していた。7月28日には首の手術を受け経過は安定していたが、翌29日に起立不能となり、7月30日に頸椎骨折が発見され回復の見込みが立たないことから安楽死処置がされた。17歳没。
彼の夢は、残された産駒と後継種牡馬たちに託されることとなった。
死後
彼の死の翌年となる2020年から、GIIレースの弥生賞が「弥生賞ディープインパクト記念」へと改称され、令和初の馬名冠レースとなった。平成の名馬の魂は、3月の3歳馬レースの守護神として天から未来の名馬を見守っていくことだろう。
改名後の初回は見事産駒のサトノフラッグが制している。
また、フィエールマンが天皇賞(春)を連覇したことで産駒で初の牡馬G1三勝を達成。クラシックではコントレイルが彼以来の無敗の三冠馬となり、史上初の親子無敗のクラシック三冠制覇という偉業を達成(親子牡馬三冠の達成自体も史上初)、更にG1四勝牡馬となりフィエールマンの記録を塗り替えた。これにより牡牝両方で三冠馬を送り出した種牡馬となった。また父のサンデーサイレンス同様、自身が死亡した後に産駒から三冠馬が出ている。
そして、海を越えた産駒の一頭Fancy Blueがディアヌ賞(仏オークス)を制した後に一周忌にあたる7月30日にG1ナッソーS勝利を飾る快挙を達成した。
なお、コントレイルの三冠達成時点での産駒未勝利のJRAG1は、フェブラリーステークス、高松宮記念、チャンピオンズカップの3競走(J・G1を加えると中山グランドジャンプも未勝利)。
血統表
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo 1969 黒鹿毛 |
Hail to Reason | Turn-to |
Nothirdchance | |||
Cosmah | Cosmic Bomb | ||
Almahmoud | |||
Wishing Well 1975 鹿毛 |
Understanding | Promised Land | |
Pretty ways | |||
Mountain Flower | Montparnasse | ||
Edelweiss | |||
*ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 FNo.2-f |
Alzao 1980 鹿毛 |
Lyphard | Northern Dancer |
Goofed | |||
Lady Rebecca | Sir Ivor | ||
Pocahontas | |||
Burghclere 1977 鹿毛 |
Busted | Crepello | |
Sans le Sou | |||
Highclere | Queen's Hussar | ||
Highlight |
主な産駒(GI/Jpn1馬)
-
2008年産
- マルセリーナ(桜花賞)
- リアルインパクト(安田記念、ジョージライダーステークス)
- トーセンラー(マイルチャンピオンシップ)
- ダノンシャーク(マイルチャンピオンシップ)
-
2009年産
-
2010年産
-
2011年産
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2012年産
-
2013年産
-
2014年産
- サトノアレス(朝日杯フューチュリティステークス)
- アルアイン(皐月賞、大阪杯)
- アンジュデジール(JBCレディスクラシック)
- Fierce Impact(トゥーラックハンデ、カンタラステークス、マカイビーディーヴァステークス)
- サトノアレス(朝日杯フューチュリティステークス)
-
2015年産
-
2016年産
-
2017年産
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