ライラの冒険とは、イギリスの児童文学家、フィリップ・プルマンによるファンタジー小説である。
概要
この作品は以下の題名からなる三部作構成となっている。(括弧内は発表年)
日本ではそこまで注目はされていないものの、当時低迷していたイギリスの児童文学界に一石を投じた、評価の高い作品である。
あらすじ
私たちの世界とはとてもよく似ているけど、色々な所が異なっている世界。
主人公ライラ・ベラクアはその世界のオックスフォードのとある名門学寮に住んでいる11歳の女の子。
同世代の気品のある女の子と交友を深めたり格式ばったパーティに出るよりも、近所に住む悪童達と遊んだり冒険家で唯一血縁関係の叔父、アスリエル卿の冒険譚を嘘八百で話すのが好きなお転婆な少女だった。
そんな中、街では思春期前後の子供達が誘拐されるという噂が流れていた。同じ年頃のライラはそんな事件を全く気にかけず安全な学寮内で平和に暮らしていたが、ある日、毎日のように遊んでいた友人がいなくなってしまう。大人たちが誘拐を信じない中、ライラは密かに友人を救う決意を固める。
同日、献身評議会のコールター夫人が大学を訪れたことでライラの人生は一変する。会食の場で夫人と意気投合し、「彼女みたいな立派な女性になりたい」と思ったライラ。すると、その日のうちに夫人の助手として明日から世界中を回ることが矢継ぎ早に決定したのだった。
次の日のまだ暗い時間。ライラは学寮長と秘密裏に会い、あるものを渡された。黄金に輝く羅針盤のような道具、「真理計(アレシオメーター)」だった。真実を知ることができるが、読むには膨大な勉強が必要になる貴重な物という説明だったが、学寮長は合わせてこう言った。「持っていることを誰にも、夫人にも知られるな」と。
その黄金の羅針盤を隠し持ったライラは、コールター夫人と共に慣れ親しんだオックスフォードを離れ、ロンドンへ向かった。
ここからライラの冒険は始まることになる。
この冒険がどれほど長くなり過酷なものになるのかも、世界にどのような影響をもたらすかも、彼女がどういう役割を担うのかも知らずに。
登場人物
主要人物
ライラ・ベラクア
本作の主人公。上記の通りお転婆な女の子。嘘をつくことが上手で、冒険中何度も命拾いをしている。
真実を読む道具、「真理計」を持っている。
ウィリアム・パリー
第二部から登場する、もう一人の主人公。普段はウィルと呼ばれている。私たちの世界の人間で、目立たないようにするのが得意な12歳の少年。
物心つく前に蒸発した父を探すために冒険することになる。
アスリエル卿
ライラの叔父で唯一の血縁関係。実はライラの実父だが、当初は隠している。
ある目的の為に何度も北極圏を冒険している。
マリサ・コールター
謎多き美女(未亡人)。ライラの実母だが、こちらも当初は隠している。
献身協議会という組織の指揮を執っている。
冷酷で残忍、そして色々な顔を使い分けるしたたかさを兼ね備えた曲者。
『黄金の羅針盤』登場人物
ロジャー・パースロー
オックスフォードでのライラの一番の親友。普段は学寮の厨房下働き。
彼がいなくなったことでライラの冒険が始まる。
イオレク・バーニソン
パンサービョルネという種族の鎧を着た白熊の一頭。
戦場に出れば一騎当千の戦士であり、同時に人間にはできない金属の加工技術を持つ。
長い旅の中でライラが最も信頼を寄せている一頭と言ってもいいだろう。
リー・スコーズビー
テキサスの気球乗り。ジプシャンが北極へ行く準備をしている時に雇われた。
イオレクとは戦友であり、同様に彼も勇敢な戦士である。
セラフィナ・ペカーラ
魔女一族のリーダー。ライラのサポート役。実年齢は300歳だが20代の若々しい姿であり、数々の知識に精通している。
ダイモン
ライラの世界の全人類が必ず持っている守護精霊のことで、本作を象徴する存在である。
特徴としては、
- 人間以外の何かしらの生物の姿である。(哺乳類だけではなく、鳥類や爬虫類、両生類、昆虫等々…)
- 子供時代では様々な動物に自由に変化できる。
- 大人になるとその人の本性を表した姿に定まる。(例えば従者になる人は圧倒的に犬のダイモンが多い)
- 他人からもダイモンは見え、人間が死ぬとそのダイモンは消えてしまう。逆もまた然り。
- 人語を理解し、会話ができる。(人間とそのダイモン、又はダイモン同士は会話するが、人間と他人のダイモンは会話しない。)
- 離れていられる距離に限りがある。離れすぎると死亡する。(例外あり)
- 性別は原則その人とは逆になる。(例外あり)
- 他人のダイモンに人間が触れるのは最大級の侮辱である。(ダイモン同士ならスキンシップの範疇)
そのほかにもマナーや決まりごとがたくさんある。
自分のダイモンはどんな動物だろうと考えるのも楽しいかもしれない。
主なダイモン
パンタライモン
ライラのダイモン。突っ走ってしまいがちなライラのブレーキ役。
子供なのでまだ姿は定まっていない。オコジョによく変化している印象はある。
ステルマリア
アスリエル卿のダイモン。アスリエルと同様に勇敢で落ち着いている美しいユキヒョウ。
黄金の猿(名称不明)
コールター夫人のダイモン。美しい姿の夫人とは正反対の、醜悪で、凶暴で、冷酷な外見。
へスター
リー・スコーズビーのダイモン。力強く、勇敢なホッキョクウサギ。
カイサ
セラフィナ・ペカーラのダイモン。ハクガンの姿をしており、魔女の特性もプラスされて中々のコンビネーションを見せる。
種族
本作には説明が必要な種族がいくつかある。主な種族を紹介する。
パンサービョルネ
北極に生息する熊。アーマードベアの別名通り、戦闘時には鎧を着る。
人間相手では例え銃を持っていても歯牙にも掛けず、並の金属は簡単に引き裂いてしまうほどの力と爪を持つ。
更にその爪は人間の指の様に動かすことができ、これによって複雑な金属加工を可能にしている。
人語も話せ、移動速度も速く、騙し討ちも効かないと完全無欠に思えるが、パンサービョルネとしての誇りを失うと弱体化する。
魔女
私達の世界の魔女のイメージとは結構離れている。
空を飛ぶ時はクラウドパインという木の枝に跨って飛ぶ。両手を離して飛べる為、戦闘時は弓で空から攻撃する。
杖は持たず、おまじないや自然から得た知識を魔法として使用している。
また、ダイモンは必ず鳥類になり、ダイモンのルールである「離れていられる距離の制限」が実質無い為、かなり遠くに偵察させたりと完全な別行動ができる。
魔「女」なので女性しかいない。子供は人間の男性と作り、男の子なら人間に、女の子なら魔女になる。
本作品の評判
概要でも記述した通り、本作品は低迷していたイギリスの児童文学界の救世主といえるような作品だった。
二年後に発売され、世界的大ヒットとなったハリー・ポッターシリーズと比べると若干大人向けの作品であるためか、イギリスでは「ハリー・ポッターを卒業した子供が次に読む作品」として認識されている。
著者であるフィリップ・プルマンは失楽園を現代の児童書向けに再構成するように本作を執筆している。
その中で神や宗教、特に「原罪」を否定する様な記述がある為、一部では本作品を禁書にしているところもある。
念のため付け加えておくと、神や宗教の否定というよりはそれに伴う人間の在り方について問いかける作品であり、決して神や宗教そのものを批判をする意図は無い。
しかし、色々な人が読む以上批判的に捉えてしまう人がいるのは仕方が無い事でもある。
映画化
2007年にハリウッドで第一部の「黄金の羅針盤」が映画化されている。日本では2008年に上映。
続編も制作される予定だったが、リーマン・ショックの影響で無期限延期、更には上記の宗教的な問題から北米カトリック連盟がボイコットを行った結果、特にアメリカでの興行成績が振るわなかったため、制作を断念せざるを得ない状況になってしまった。
内容は原作を大きく改変はしていないものの、説明不足や書籍ではまだ続く段階で終わったりと消化不良を感じた人も少なくなかった。(元々続編が作られる予定で制作されていたので仕方が無い面もあるにはあったが。)
その年のアカデミー視覚効果賞を受賞しており、場の雰囲気や戦闘シーンの迫力に関しては見ごたえはある。
ドラマ化
その後、権利が原作者の元に戻ったタイミングでBBCが「ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤」のタイトルでドラマ化を発表。こちらはカトリック側の批判が少ないイギリスでの制作ということもあり、3部作全て問題なくドラマ化される模様。2019年に「黄金の羅針盤」を元にした第1部、2020年に「神秘の短剣」を元にした第2部が放送され、2022年には「琥珀の望遠鏡」を元にした第3部が放送される。
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関連項目
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