水戸岡鋭治[みとおか・えいじ]とは、インダストリアルデザイナー(工業デザイナー)、イラストレーターである。JR九州を中心に、ユニークな車両デザインを手がけることで知られる(後述)。
来歴と作品群
1947年、岡山県岡山市生まれ。高校卒業後、大阪やイタリア・ミラノのデザイン事務所に勤務ののち、1972年「ドーンデザイン研究所」を設立。
JR九州発足直後から、同社の車両デザインを手がけるようになり(初めて同社車両に関わったのは、香椎線のキハ58系気動車「アクアエクスプレス」)、次の一手は、新旧混在していた同社の485系特急電車を真っ赤に塗り、鮮烈な印象を与えた「RED EXPRESS」であった。1992年に登場した787系電車「つばめ」では「グッドデザイン賞」や「ブルネル賞」を獲得するなど、国内外で大きな評価を受け、その後の我が国の鉄道車両デザインに多大な影響を与えた。更に、883系「ソニック」や885系「かもめ」、新幹線800系「つばめ」など、他の鉄道会社にはないようなユニークな内外装デザインの鉄道車両を送り出している。他に駅舎デザインも手掛けている。
また、新規車両だけでなく、既存の車両や譲渡された中古車両を改造する際、内装のデザインを手がけることも得意としている(例:高千穂鉄道TR400形→「海幸山幸」用キハ125系400番台)。改造車両は難燃木材をふんだんに利用し、温かみのある内装になっていることが多い。この改造を一部では俗に「ミトー化」と呼んでいる。
その他、両備グループ、富士急行グループなど、数多くの公共交通・公共建造物のデザインに関わる。
前述したとおり、
- 他の追随を許さない、独創的でユニークなデザインや色調
- 旧型車のリニューアル改造
- 「海幸山幸」や、「ななつ星in九州」など、他社には無い様な新しい列車の開拓
- 難燃木材を多用した、ビジネスライクな鉄道車両には無い温かみ
- 半ば「執念」にも似た、車内供食サービス(後に縮小策を取ったものも含む)
- 従業員の制服までトータルでコーディネート
といった、公共交通としては時に奇抜であったり、常識にとらわれない高度なデザイン性、色調、内装や設備を導入することで注目を集めさせ、高い評価を得ている。
が、一方では…
- 「リニューアル車内の基本は難燃木材」という、ややワンパターンな内装になりがち
- 「日常に非日常を持ち込む(≒通勤・通学・通院・出張など、日常遣いをあまり考慮しておらず、特に氏のデザイン車両を運用しているローカル線区乗客からの評価はおおむね辛辣・飽きる)」
- 上に付随し「自由席列車なのに総座席数を減らす」(突発ラッシュなどへの対応が困難)
- アイデアが奇抜すぎる為、時に実用性に欠けるケースがある(例:885系が全席革張りだった事による、カーブ区間での乗り心地の悪さ。のちに自由席の一部がモケット化された)
- デザインありきのため、それらの維持・保守や交換が大掛かりとなる。難度が高まる。欠けると一気に陳腐化する、供用停止をせざるを得ない(例・特殊形状の部品、細かい汚れ、淡色1色塗り車両の水アカ、金箔)
- 上に付随して「氏と契約したデザイン指定が細かすぎ、文字欠けなどの修繕作業も当然細かくなる」
- 俗に言われる「車両のテーマパーク化」「押し付けがましさ」
- 場合によっては元の内装がわからないほどの大改造を施すため、改造前の「種車らしさ、電車らしさ」が損なわれてしまうとの考え
- 乗る前→氏のデザインした車両に乗車→降車 といった全体の流れを、ソフト面までトータルデザインできているのか(「できていれば」「できているなら」よい。それが氏の本旨である)
- 富士急行・富士山駅の「鳥居」について(≒「鳥居」の中の駅内に公衆便所がある≒宗教としての神道を理解しているのか否か)
- いわゆる「ヨーロッパ主義」(氏のデザインには欧州の鉄道デザインからの流用・細かい英文字が多い傾向がある)
- 鉄道模型モデラーの単なるワガママに過ぎないが未発売製品のモデル難度も高い
などから、氏のデザインについては批判的な考えの人・疑問を抱く人・定期利用客・ひいては中の人(元従業員を含む)からの意見などがブログ・巨大掲示板・Twitterなどに根強く存在し、公共財のデザインに新風を吹き込んだ人物であることについては間違いない反面、その作品については毀誉褒貶・功罪・賛否両論を併せ持つ人物である、と記しても過言ではないかもしれない。→JR九州の記事も参照
上述した理由のため、氏のデザインはおおむねハイリスク・ハイリターンである。導入しようとする事業者は、それなりの経営体力とメンテナンス能力、そしてハコに魂を入れる力が要求される…であろう。
ただし、彼の名誉のために記しておくが、我が国で純粋に「鉄道デザイナー」と呼ぶことができる人物は、氏を置いて右に出る者がなく(他の鉄道車両はおおむね「工業デザイン」の延長。氏とJR九州、そして郷里にある両備グループと築き上げたコネクションと信頼も大きいものがある)、その賛否両論が「話題」になりさえすれば「水戸岡デザイン」を取り入れた事業者は、それで万事オーライなのかもしれない。
また、2013年秋から運転開始となった豪華クルーズトレイン「ななつ星in九州」の製作においては、JR九州社長・唐池恒二とヤラセなしの鋭い対立があった様子、そしてデビュー時の男泣きも、BSフジ制作の『誰も知らないななつ星』(2014年1月12日放送分)に収められている。
「くま川鉄道」が導入する新造車両(KT-500形)をもって、第一線からの「引退」が公私共にささやかれており、氏の去就が注目されていたが、その後もJR九州の305系や富士急行の「富士山ビュー特急」などのデザインに携わっており、引退する気は今のところ無いようである。
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