貨物列車とは、貨物を輸送することを目的に運行される列車である。
概要
貨物の積み込み専用に作られた貨車を多数連結し、機関車でそれらを牽引する形態をとる。一列車の長さは最も長いもので日本国内の26両520m、海外の数km以上と、陸上における大量輸送を特徴・得意としている。トラックの輸送力など足下にも及ばない。
国内の鉄道による貨物輸送は旅客に比べて非常に小規模で、運行されていない地域もあり、多いところでも毎時2本程度である。
これは、日本の特殊事情の一つと言うべきものであり、大陸国などにおいて貨物列車が果たす役割を、日本では内航海運(船による国内の貨物輸送)が担っているためである。
現在の貨物輸送シェアをトンキロベースで言うと、内航海運が45%、トラック輸送が50%、対して鉄道はわずか5%にしか過ぎない。
終戦直後には50%近くを誇った鉄道貨物輸送ではあるが、旧態依然とした輸送体系や、頻発するストライキなどで急速に顧客の信用を失っていった結果、とも言っていいだろう。
国鉄時代に行われたあるストライキの際、労働組合幹部が築地市場の様子を偵察に行った際、いつもと変わらない活況を呈していた市場を見てショックを受ける、という場面もあったらしい。
一方で日本の鉄道で機関車の唯一の活躍の場であるため、動画や写真の被写体としての人気は非常に高い。
近年はトラック運転手の不足やトラックから排出される二酸化炭素による温暖化・社会問題などの影響もあり、二酸化炭素の排出量がトラックよりも遥かに少ない鉄道を見直す動きが見られる。2024年問題もあり、それに伴うトラックからの荷物切り替えによる需要増加も考慮し、現在次々と機関車や貨車、コンテナが製造されている
海外(欧米)の貨物列車
アメリカの場合
海外の貨物列車を考えるとき、その筆頭に上げられるのがアメリカの鉄道であろう。なんといっても、アメリカ合衆国では貨物列車のおかげで、鉄道会社が私企業として存続できているのだから。このような事例でも大規模なものは、ほかに日本の鉄道(旅客各社が主)くらいしかないことからも、以下に異質の存在かがわかるだろう。
これは、アメリカ本土(大陸)があまりに広大であり、東西を結ぶ貨物需要も旺盛にあることがその大きな理由として挙げられる。要するに内航海運に頼れないためだ(大きさに制約のあるパナマ運河を通ったり、遠く南米周りで行かなくてはならない)。
アメリカといえばいわずと知れたクルマ大国で、事実ハイウェーも各地に張り巡らされている。コンボイのような大型トラックのイメージが強い人も多いだろうが、貨物機関車は「統括制御」、つまり一人の運転士が何台もの機関車のパワーを操ることができる特性がある。それで百何両もの貨車を引っ張れば、もはやトラックとは比にならない。「マイルトレイン」とよばれる、編成の全長が1マイル(約1.6km)にも及ぶ列車もざらにあるのだ。
加えて、非電化区間が多いことで、上下方向の建築限界にも余裕があり、「ダブルスタックトレイン」と呼ばれる海上コンテナの二段積みを行い、外航海運航路と連携したスムーズな物流と輸送力の倍増を一挙に実現している。
事実、アメリカ東海岸や中西部からアジア方面への物流の大部分は鉄道が担っている。君が飲んでいるジュースのオレンジや、街を走るアメ車も、貨物列車で広大な北米大陸を旅してきたのかもしれない。
もっと詳しく知りたい人は、「アメリカの鉄道」の記事にさらに詳しい記述があるので併せてご覧いただきたい。
ヨーロッパの場合
一方、高速列車が縦横に走るヨーロッパの鉄道では、貨物列車はさまざまな問題に直面している。
最大の問題は連結器である。ヨーロッパでは、国際的な列車の行き来が今も昔も多い。そのため客車や貨車がいろいろな国の機関車につけかえられ、ヨーロッパ中を行き来している。これは、国際列車という日本ではまずありえない運転体系を実現しているのだが、実はこれがネックになっている。
というのも、連結器が日本のような自動連結器(自連)ではなく、ねじ式と呼ばれる複雑なものになっているのだ。
「ねじ式連結器」は、創作の「きかんしゃトーマス」にもついているもので、「バッファー」と呼ばれる緩衝装置の間に、フックと、ねじを備えたリング(チェーン)で構成されている。つなぐときはフックにチェーンをかけ、ねじで締め付ける。はずすときはその逆である。
問題は、この付け外しが非常に危険で手間と時間がかかるということである。自連ならばガチャンとぶつけるだけで連結でき、ピンを外すだけで解放できるが、ねじ式では係員が列車間に入って作業しなければならないためだ。
日本ではこのねじ式連結器を大正時代に一日の全線運休で全て自連につけかえることに成功したが、列車の混結が多いヨーロッパではこのような対応が取れず、このねじ式連結器を使わざるをえない状況のまま、今日に至ってしまっている。
この「国際列車の多さ」は、一般貨物列車の高速化が一律にできないという悪影響も及ぼしており、国境を接するのがカナダ・メキシコだけというアメリカと対照的な状況にある。
車両のバリエーション
貨物列車は全国を広く、そして効率的に運行するため、様々な形態の車両を使い分けて運行している。
機関車
路線の電化設備や勾配などの環境によって、ひとつの列車でも機関車を交代し運行されることは多い。
詳しくは機関車の項を参照。
貨車
積み降ろしを素早く行い積み荷の保護を確実にするため、積み荷の形状に合わせた様々な造りの貨車が使用されている。それらの貨車を詳細に分類しデータベース化することも鉄道趣味の一ジャンルである。
軽量化や保守を容易にするため貨車自身は動力装置を持たず、必ず機関車に牽引され走行する。
以下に現在でも見られる貨車の種類と特徴、運行のされ方について代表的なものを挙げる。カタカナの記号の前半(コ・タ・ワとか)は種別をあらわし、後半(ム・ラ・サ・キ)は車重をあらわす。ムが一番軽くてキが一番重い。
- コンテナ車(コキ)
- 荷主から集荷した数トン積みのコンテナを複数個載せ走行する貨車。上面にコンテナを載せるため車体は板状で、コンテナの規格に準拠した固定金具を備える。
コンテナ方式の扱いやすさから現在の鉄道貨物輸送の主流である。コンテナの中身は各種製品・部品から野菜、自動車、薬品、産業廃棄物まで大きさが許せば基本的に積載可能。
→ EH500発車‐ニコニコ動画 - タンク車(タキ)
- 液体を効率よく運ぶための貨車。その容姿はタンクに車輪が付いて線路を走ると言ったところか。国内で最も運ばれている液体はガソリンで、最大のものでは一両に45tも注げる。他にも各種石油製品や濃硫酸の輸送が多い。
コンテナ列車に次いで運行本数が多く、港湾から内陸に向け石油製品を輸送する場合が多い。コンテナ列車に比べ1列車が短いが、これは1両1両が重く機関車の出力の限界があるため。
→ EF65代走5760列車‐ニコニコ動画 - ホッパ車(ホキ)
- 石灰石や石炭など、粒状のものを運ぶための貨車。箱状の車体は天井がなく区画がいくつかあり、上から積み荷をザザーッと流し込む。底面には取り出し口があり、降ろす際はピットのある線路で開けてやればよい。
旧国鉄が率先して廃止しトラック転換を進めたため、現在はどうしても残さざるを得ない特定の経路のみで運行されている。石炭輸送に関しては運炭の項も参照。
→ DD51赤ホキ‐ニコニコ動画 - 有蓋車(ワム,ワキ等)
- 箱状の車体で側面に扉があり、そこから荷物を積み降ろしする。10トントラックのように貨車1両丸ごとを荷主が借りて荷造りするが、そもそも線路際まで積み荷を運ぶ時点で面倒なため現在はコンテナに切り替わった。
貨物駅が至る所に設けられコンテナが無かった昔は主力だったが、現在は廃車が進みもうほとんど残っていない。
→ EF66ワム貨物‐ニコニコ動画 - 無蓋車(トム,トラ,トキ等)
- 側面と妻の縁を備えるが屋根が無く、濡れてもかまわない物を運ぶ。材木や固体の原料のほか、ホッパ車のように落とす機能はないものの砂利や石灰石の輸送にも広く使われた。
積み荷を上面から無造作に積める点で汎用性が高く、現在でも工事や業務用にわずかながら用途が残っている。
→ 【一畑電車】 工事列車機回し作業‐ニコニコ動画 - 大物車(シキ)
- その名の通り巨大な物を運ぶための特殊な貨車。具体的には電力会社に納入する変圧器である。積載後の重量は凄まじいため、レールを痛めないよう車輪が8軸や12軸などとたくさん付いていて異様な外観。
重電メーカーから製品の納入として日本各地の変電所へ運行される。しかしきわめて稀な上、45km/hしか出せない制約から深夜に走行するため、まず見ることはできない。
→ 特大貨物シキ611B1輸送:蘇我~京葉臨海鉄道‐ニコニコ動画 - 車掌車(ヨ)
- かつては貨物列車にも車掌の乗務が義務づけられており、列車に1両は連結されていた。車内は乗務に必要な設備のほかに椅子と机、ストーブが備えられていた。しかし揺れは貨車クオリティで、とても人間の乗る代物ではなかったそうな。
現在は不要なため事業用や添乗用としてわずかに残されているのみ、ヨも末である。
→ EF65(PF)原色によるシキ801+α:返空‐ニコニコ動画(9)
電車
貨車に動力装置を搭載させ、電気で自走できるようにしたのが貨物電車である。動力装置の価格や保守などの理由から長年非現実的とされてきたが、近年コンテナ電車が誕生し毎日運行されている。現在は限定的な運行であるが、今後全国各地に広がるかが非常に楽しみである。
→ 【SRC追跡シリーズ】M250系スーパーレールカーゴ 50レ八丁畷通過シーン‐ニコニコ動画
関連動画
関連項目
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