エルンスト・フォン・アイゼナッハ(Ernst von Eisenach)とは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。
石黒監督版OVAにおけるCVは津嘉山正種だが、後述する理由により彼の出番は一言しか無い。
銀河帝国軍人、ローエングラム陣営の提督。新帝国暦1年10月当時、33歳。やや痩身ぎみで、さびかけた銅の色の髪をきれいになでつけているが、後頭部のひとふさだけが直立しているという。後に”獅子の泉の七元帥”の一人となる。座乗艦はヴィーザル。
“沈黙提督”の異名をとる極端な無口に定評があり、副官や従卒は常にアイゼナッハの声ではなく表情や動作に応じて行動する。にもかかわらず指揮官としての能力に疑問の余地はなく、目立つ武勲こそ少ないものの、長く陽動や上陸支援、補給線維持など欠かすべからざる任務を果たし続けたことが皇帝ラインハルトに評価され、ローエングラム王朝銀河帝国軍において最高幹部の地位を得た。
ローエングラム朝主要提督では唯一の妻子もち(他に家族が描写されているのは、妻と養子に迎えたロイエンタールの子はいるが実子がいないミッターマイヤー、息子はいるが妻と死別したワーレン、物語終了後に結婚することになる相手が登場するケスラー程度。ラインハルト旗下となると妻と二人の息子がいるケンプがいるが、本人がローエングラム朝成立前に戦死している)でもある。
名前の初出は正伝3巻で、以後も名前は出るもののラインハルト麾下の将官として挙がるのみで、実質的な初登場は正伝7巻冒頭(新帝国暦1年10月)と、ラインハルト麾下の主要指揮官ではもっとも遅い。当時すでに上級大将として、並み居る提督たちと同等の地位を占めていた。
アニメでは時系列的にもっと早く、石黒監督版OVAではリップシュタット戦役直後の第28話(帝国暦489年初頭)から、Die Neue Theseでもほとんど同時期にあたる第28話から、ラインハルト麾下に大将として登場。”神々の黄昏”作戦の際には、前者ではイゼルローン方面軍の後詰を務め、後者では後方担当を委ねられている。また石黒監督版オリジナル外伝「奪還者」では、帝国暦484年当時、ラインハルトが艦長をつとめる巡航艦<ヘーシュリッヒ・エンチェン>の同盟領潜入作戦を支援した輸送艦の艦長として名前のみ登場し、物資を宇宙空間に放出する荒業によって航行速度を落とさずに補給を成功させている。
新帝国では上級大将に昇進し、大親征においては重鎮としてヴァーゲンザイル大将、クーリヒ中将、マイフォーハー中将らの艦隊の次、ファーレンハイト艦隊の前に配された。翌新帝国暦2年初頭のマル・アデッタ星域会戦では右翼の大兵力を指揮。戦闘後半では、帝国軍後方に迂回した同盟軍本隊に対し、戦場を大きく迂回してさらにその後背をつき、効果的な猛攻をかけたが、急変した恒星風に整然とした艦列をくずされ、やむなく再編に追われることとなった。
同年の回廊の戦いにも参加。本戦前半では機雷原を突破する帝国軍の第二陣を任される。本戦後半でも帝国軍による波状攻撃の第二陣を担い、ヤン艦隊の分断に成功したものの、両側面からの砲火とマリノ准将の部隊の猛攻を受けて旗艦ヴィーザルが危地におちいる。護衛を次々に失いながらも、沈着的確な指揮によって無事に危険宙域から離脱したが、損害は無視できず艦隊を後退させて第三陣に前線を譲った。
ロイエンタール元帥叛逆事件に際しては、ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥ら討伐部隊が出撃したのち、”影の城”周辺宙域まで進出した皇帝ラインハルトにナイトハルト・ミュラー上級大将とともに随伴。新帝国暦3年初頭には皇帝ラインハルトとヒルデガルド・フォン・マリーンドルフの結婚式に参列している。
同年春のハイネセンでの動乱にあたり、ハイネセンへ親征する皇帝ラインハルトとともに艦隊をうごかし、後衛を指揮。5月18日16時、ハイネセンの銀翼ホテル談話室にて三次元チェスをしているさなかに「王手詰み(チェック・メイト)」と喋る。折しも、イゼルローン軍総力出撃の報が届いたところであった。
同月末のシヴァ星域会戦では左翼を指揮。戦闘前半では一進一退を繰り返していたが、皇帝の昏倒で指揮が停滞すると、事態を知らされていないながらも、一時艦隊を後退させ、いかなる命令にも即応しえるよう陣形を再編する。やがて総旗艦ブリュンヒルトにイゼルローン軍強襲揚陸艦が突入する状況となると、のこるイゼルローン軍部隊を殲滅すべく猛進する黒色槍騎兵艦隊に呼応して艦列を展開し、黒色槍騎兵艦隊のために逃げくずれてくるであろうイゼルローン軍の側面に攻撃をくわえる態勢をととのえた。
講和成立後、皇帝ラインハルトの還御とともにフェザーンへ帰投。皇帝崩御時の遺言において、5人の同僚たちとともに摂政皇太后ヒルデガルドの名で帝国元帥へと昇進するよう指示があり、後にミッターマイヤーとあわせ“獅子の泉の七元帥”と称される一人に数えられることとなった。
派手な活躍とは無縁だったが、敵の後方撹乱・増援部隊阻止・補給線維持・陽動作戦・上陸支援などといった地味ながら重要な任務を黙々と果たしてけしてラインハルトの期待を裏切ることがなく、そうした功績を賞されて帝国軍の主要提督へと登りつめた。
どんな命令にも不満を漏らさず味方の勝利に貢献しつづけてきたこともあって、周囲の信頼は厚く、ラインハルトが他の武勲かがやく指揮官たちと同等の地位に並べると決めた時にも、ラインハルトの人事にしばしば異を唱えがちなオーベルシュタインが高く評価し、積極的に賛成したという。
戦闘指揮においても用兵巧者とされており、常に広角的な視野をもって指揮をとる。回廊の戦い後半の波状攻撃では先頭部隊の猛攻によってヤン艦隊を一時ながら後退させ、隙をついて強力な側面攻撃をしかけることでヤン艦隊主力からアッテンボローの部隊を分断してみせた。旗艦ヴィーザルが危うくなったとき、敵を牽制しながらマリノ部隊の攻勢をしのいで危険宙域を離脱した手腕は出色のものであり、艦隊の後退時に至っても、艦列に隙を目立たせてヤン艦隊の誘引を試みている。
シヴァ星域会戦前半ではイゼルローン軍の浸透を許さず、中盤にいったん艦隊を再編した際には追う敵を三度の集中砲火で突き放してすばやく後退する手際の良さをみせた。戦闘終盤には黒色槍騎兵艦隊の突撃に単に同調するのではなく、むしろ艦列を伸ばして黒色槍騎兵艦隊に突き崩されたイゼルローン軍を殲滅する体勢を整えており、強烈な個性を持つ僚将を無言でサポートする高い連携能力をもしめしている。
「沈黙提督」との異名[1]があるだけあって、とにかく無口。軍内でも有名らしく、士官学校在学中に食事以外で口を開いたところを見た者はいない、あるいは、くすぐられても声をたてずに笑う、などといった逸話が語られている。妻子がいるが、どうやってくどいたのか、ミッターマイヤーに本気で不思議がられている。のちに養子と被保護者を迎えたミッターマイヤーは、子のいる家のにぎやかさに「アイゼナッハ家もこんな感じなのだろうか」と想像しているが、「どうしても具象化できなかったので」あきらめた。
実際、終盤に喋った際にはその場にいた諸提督に驚愕されるほど。しかも明確に口に出したことが描写された台詞はこの「王手詰み(チェック・メイト)」一つのみで、他に「喋ったとされる」ものも、皇帝ラインハルトの前ですらこれだけしか発言しないという評判の「御意(ヤー)」と「否(ナイン)」、コーヒーカップを落として「しまった」とつぶやいたのをミッターマイヤーとルッツが目撃したと言われている(のちに「あいつは口がきけたのか」と語り合ったという逸話つき)ものの三つのみである。
戦闘指揮においても、言葉でなく身振り手振りで指揮を執る為、副官や参謀長は「アイゼナッハの身振りを言語に翻訳して周囲に伝達する」という要らぬ苦労を強いられている(→「アイゼナッハの幕僚たち」)。特に従卒は、アイゼナッハが指を鳴らすことで動かされているようである。例えば、彼が指を3度鳴らすと「ほとんど音速で」飛んできた従卒が砂糖を半個入れたカップ半分のコーヒーを差し出す、というシーンが、正伝7巻冒頭時点でミュラーに二度も目撃されている。
ただし、無口とはいえ、感情を動かさないだとか、表に出さないだとかではない。戦闘指揮こそ常に冷静ではあるものの、回廊の戦いで後退を余儀なくされたときには唇をわずかにうごかし、「口のなかで神と悪魔をののしったのかもしれない」という。また、皇帝ラインハルトの死病を知らされたときにも、わずかに手をふるわせてハンカチで顔をふく、というリアクションを取っている。皇帝崩御の直前には、「焦燥と不安で、血管が破裂するような思いを味わうことになった」諸将のひとりに数えられてもいる。
その雰囲気から「厳格で気むずかしい」と思われがちなアイゼナッハであるが、比較的に酒を好むほうで、陣中にもウイスキーを持ち込んで離さなかったという。他にも、激高したビッテンフェルトとワーレンが喧嘩を始めようとしたときに水をぶっ掛けて止める、ラインハルトの結婚式でラインハルトの姿をむやみに褒める会話を交わすビッテンフェルトとミュラーになにか言いたげな目を向ける、叛意を疑われたロイエンタールの弁護に熱くなるミッターマイヤーを黙ったまま軍服の裾を引っ張って止めようとする、など、むしろノリの軽い逸話が多い。
また、大親征の際、配属されたばかりと思しき従卒が『指を1度鳴らしたらコーヒーを、2回鳴らしたらウイスキーを、4分未満で持ってくる』という合図を緊張から間違って覚えてしまい、指を2回鳴らしたのに3分50秒で2杯のコーヒーを届けてしまう。しかしアイゼナッハはそのまま黙って2杯とも飲んだため、遠征の間ウイスキーを持ってきてもらえなくなって禁酒を余儀なくされた(ただし、2杯のコーヒーには不自由しなくなった)というエピソードがある。
帝国暦 | 階級 | 出来事 |
---|---|---|
484年 | 少佐 | (石黒監督版OVAオリジナル外伝) 当時、イゼルローン要塞所属の輸送艦艦長。 巡航艦<ヘーシュリッヒ・エンチェン>の行動を支援する。 |
489年 | 不明 | 3月当時、ラインハルト麾下の幕僚。 |
大将 | (石黒監督版OVA)“神々の黄昏”作戦に際してイゼルローン方面の後詰を担当。 (Die Neue These)“神々の黄昏”作戦に際して後方担当。 |
|
新帝国暦1年 | 上級大将 | 新帝国にて上級大将の地位をうける。 |
大親征にて、帝国軍陣列の中堅として出征。 | ||
新帝国暦2年 | マル・アデッタ星域会戦に参加。 右翼に配置され、同盟軍の展開に伴いその後背を突く活躍を見せる。 |
|
「回廊の戦い」に参加。波状攻撃の第二陣を担当する。 ヤン艦隊を分断することに成功したが、同時に左右からの砲火を浴び進撃を断念。 |
||
新帝国暦3年 5月18日16:00 |
喋る。 | |
新帝国暦3年 | シヴァ星域会戦に参加。帝国軍左翼を固める。 | |
皇帝ラインハルト崩御。遺言により摂政皇太后ヒルデガルドの名をもって元帥に昇進する。 |
石黒監督版OVAにおけるアイゼナッハ役は、原作者である田中芳樹先生にお願いする案もあったという。結局はお流れになってしまったというが、それで持ってきたのが津嘉山正種というのも豪気な話である。
その田中先生はといえば、後に「ユリアンのイゼルローン日記」がオーディオブック化されたときのインタビューで「アイゼナッハはどうやって奥さんを口説いたんですか」と問われ、「あれはアイゼナッハが口説いたんじゃなくて奥さんにアイゼナッハが口説かれた」むね返答している。納得である。
ゲーム版、特に『銀河英雄伝説Ⅳ』などでは、専用台詞がないのかよく喋る。
声はついていないので副官の代行筆記である可能性は否定しないが。
掲示板
123 ななしのよっしん
2023/11/24(金) 00:16:41 ID: Y1j4Uf5i5I
>ラインハルトの人事にしばしば異を唱えがちなオーベルシュタインが高く評価し、積極的に賛成したという
オーベルシュタインのこの設定を先に作って、じゃあそれに合うようなキャラを出そうとして、アイゼナッハみたいなキャラを出したのではないかと推理してみる。
124 ななしのよっしん
2024/05/10(金) 20:25:29 ID: 9+zx17Ft9q
年表の「喋る。」でダメだった
125 ななしのよっしん
2024/05/28(火) 12:51:24 ID: mMqkKOWcVF
急上昇ワード改
最終更新:2024/12/21(土) 21:00
最終更新:2024/12/21(土) 21:00
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