ナイトハルト・ミュラー(Neidhart Müller)とは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。
CVは水島裕(石黒監督版OVA)、上村祐翔(Die Neue These)。
銀河帝国軍人。ローエングラム陣営の提督で、帝国暦461年生まれと高位の指揮官(旧王朝ローエングラム体制下で大将以上)の中では最若年。
砂色の髪、砂色の瞳をした長身の青年軍人であり、心もち下がった左肩が過去の戦傷歴を物語る以外、せいぜい参謀型の軍人に見える程度というおだやかな外見の持ち主。
攻防双方に高い評価を受け、特にバーミリオン星域会戦における粘り強い戦いぶりから「鉄壁ミュラー(ミュラー・デア・エイゼルン・ウオンド)」の異名を受けた。当初の座乗艦はリューベック。新王朝成立後には新造艦パーツィバルが座乗艦となる。
初登場は2巻野望篇。ただし、リップシュタット戦役前にラインハルト麾下の将(中将)として名前が挙がり、ガイエスブルク要塞の戦いに参加していた程度で、本格的な描写は大将昇進後、3巻雌伏篇からとなる。石黒監督版OVAでは時系列的にはより早く、アニメオリジナル外伝『奪還者』にて、同盟領に潜入するラインハルトらを情報面から支援したフェザーン駐在武官として名前が出る。
帝国暦489年春のガイエスブルク移動要塞をもちいた第八次イゼルローン要塞攻防戦に際しては、ラインハルト麾下の大将の中では若く席次が低かったことから、副司令官として司令官カール・グスタフ・ケンプ大将を補佐した。この時の座乗艦はリューベック。戦闘中盤では艦隊を指揮してイゼルローンの外壁に巨大な破孔をうがつことに成功したが、間隙をついて出撃したウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ率いる要塞駐留艦隊と要塞対空砲塔の連係によって包囲され、アイヘンドルフ、パトリッケン両将の救援をうけてかろうじて脱出する。
この敗北によってケンプの叱責をうけたが、捕虜からヤンが要塞に不在であるという情報を知ると、信憑性をうたがいながらも、要塞に帰ってくるであろうヤンを捕らえるべく予備兵力3000隻を展開して索敵網を配置。しかしミュラーの独断だったためケンプの怒りを招き、命令は撤回された。
終盤、帰ってきたヤンの救援艦隊を前にしては、ケンプの作戦計画に対してガイエスブルクをイゼルローンへの牽制とする修正案を提言し受け入れられている。戦況がヤンの奇策の前に一挙に完全な敗勢に傾くと、圧倒的に不利な状況下で戦列を維持し危地を脱すべく奮闘。最終局面では、ガイエスブルク爆発の衝撃で肋骨4本骨折、脳震盪など全治三ヵ月の重傷を負いながらも、拠るべき要塞と司令官とをともに失った帝国軍遠征部隊の敗走を指揮し、その全面崩壊をかろうじて防いだ。
大敗の報告を受けたラインハルトは予想以上の大敗に激怒したものの、得難い人材を無益に失うべきではないとしてミュラーを赦した。ミュラーは心身の苦痛と緊張にたえながらもラインハルトに復命したが、敗戦の罪を赦され療養後の現役復帰を命じられたその場で失神し、病院へと運ばれている。
療養後、帝国暦489年9月初頭に現役復帰し、第二陣として”神々の黄昏”作戦に参加。翌年のランテマリオ星域会戦では右翼側に配置される。バーミリオン星域会戦本戦に際しては、壮大な包囲殲滅作戦のためリューカス星域の物流基地接収に出動し、運良く基地が降伏したため結果として帝国軍諸艦隊ではもっとも早くバーミリオン星域に帰着、ラインハルトの危地にかけつけることができた。
ヤンとしても計算外の参戦となったミュラー艦隊は、全速力での来援ゆえに8000隻程度の少数ながらブリュンヒルトにせまるヤン艦隊に猛烈な横撃をくわえ、ライオネル・モートン中将を戦死させるとともに主君の楯となって帝国軍敗勢の戦況をひっくり返した。さらに包囲下のラインハルト直属艦隊主力を救うべく、包囲陣に空いた穴に艦隊を差し向けたが、包囲内外から帝国軍が殺到して過密化したところに集中砲火を浴び、一転して危地におちいる。
この時、激戦の中で艦隊旗艦をはじめとして座乗した艦を三度にもわたって失うこととなったが、それでもなお不退転の決意で指揮を続行し、なお勇猛かつ献身的に主君をまもりつづけた。そして無条件停戦命令による会戦終結後には、ブリュンヒルトを訪れたヤンを出迎え、親しく会話を交わし、ラインハルトのもとまで案内している。
同盟の降伏とローエングラム朝銀河帝国成立にあわせて上級大将に昇進し、バーミリオンでの功績を賞されて同格者中の首席たるの名誉を受ける。また、あらたな座乗艦として新王朝で最初に完成した戦艦パーツィバルを下賜された。
ヘルムート・レンネンカンプ上級大将と同盟政府によるヤンの逮捕の際は、旧知のラッツェル大佐からの通報をうけて逮捕が讒訴による不当なものであることを帝国軍首脳部に明らかにしている。大親征にあたっては、皇帝ラインハルト直属艦隊のつぎ、全軍の最後衛を守り、後方フェザーン方面への補給路を維持し、フェザーン方面に変事ある場合には反転して最先鋒を担う大役を務めた。
新帝国暦2年、マル・アデッタ星域会戦でも全軍の最後衛に配置され、繞回して帝国軍後方を襲った同盟軍ラルフ・カールセン艦隊を迎え撃ち、死兵と化したすさまじいばかりの猛攻を支えて防禦線を維持。その後方をついたアーダルベルト・フォン・ファーレンハイト上級大将とともにカールセン艦隊相手に死闘を演じる。さらに天底方向から突破を試みたアレクサンドル・ビュコックの艦隊を押し止めるべく兵力の三割を分遣したが、兵力が減少した間隙にカールセン艦隊の一部に突破を許している。
ハイネセン占領時には同僚たちとともに政府施設の接収や治安維持にあたった。フェザーンよりオスカー・フォン・ロイエンタール元帥に叛意ありとの疑惑がもたらされると、宿舎にロイエンタールを訪ねて出頭をもとめ、尋問も担当した。
イゼルローン回廊への侵攻にあたっては皇帝ラインハルトの本隊とともに艦隊をうごかした。回廊の戦い本戦の中盤では、ヤンによる二度目の全面攻勢を前に、自らの艦隊を防壁としてラインハルトの前面に割り込み主君をまもった。このためヤンはミュラー艦隊に一撃をあたえた程度で後退を余儀なくされたが、バーミリオンの時と異なりミュラーの戦列参加はヤンにも織り込み済みで、戦況を激変させるには至らなかった。
戦闘後半では帝国軍の最終的な波状攻撃の第一陣を担い、第二陣との交代まで30時間のあいだ、ヤン艦隊に休息と要塞への後退の隙をあたえなかった。皇帝不予による全軍の撤退にあたっても全軍の最後衛をまもり、つねに逆撃の態勢をしめしてヤン艦隊による追撃に備えた。
ヤン暗殺後、かつてバーミリオンで対面した経歴から弔問の使者を任せられ、オルラウ少将、ラッツェル大佐をともない皇帝ラインハルトの名代としてイゼルローンを訪問。ユリアン・ミンツの依頼を受け、要塞を去る者たちの帰路を保証している。
同年9月、皇帝ラインハルトの新領土行幸において首席随員たるの任を命じられ、コルネリアス・ルッツ上級大将らとともに随行。折から新領土総督ロイエンタール元帥に叛意ありとの噂が再度流されており、出立にあたっては陰謀の存在を憂慮し、警護体制について宇宙艦隊司令長官ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥と検討をかさねた。
その中途立ち寄ったガンダルヴァ星系惑星ウルヴァシーで発生したウルヴァシー事件では、ブリュンヒルトまで地上車で脱出する途中で叛乱部隊の銃弾からラインハルトたちをかばって背中に擦過射創を受け、さらに車を降りた後にも銃撃戦からラインハルトをかばい右腕を撃ち抜かれている。この負傷のため、無傷のルッツに殿の役目をゆだねざるを得ず、そのまま主君とともにウルヴァシーを脱出した。
この功績により、ミュラーは皇帝ラインハルトよりジークフリード・キルヒアイス武勲章を授与される。同時に元帥号をも示されたが、功績なき身として固辞した。ロイエンタール元帥叛逆事件の間は、負傷により右腕を吊ったまま皇帝ラインハルトに帯同し、“影の城”要塞周辺まで進出している。
新帝国暦3年1月29日、皇帝ラインハルトとヒルデガルド・フォン・マリーンドルフの結婚式に参列。その後、新領土の混乱を収めるため軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥がハイネセンへ赴任することとなると、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト上級大将とともに実戦指揮官として随行する。
ハイネセンにおいて、“オーベルシュタインの草刈り”をめぐる対立でビッテンフェルトが謹慎処分とされると、オーベルシュタインの指示で黒色槍騎兵艦隊の指揮監督を代行するとともに、アウグスト・ザムエル・ワーレン上級大将ともども両者の和解に奔走。ラグプール刑務所での流血事件に際しては、やはりオーベルシュタインの指示を受け、市内への騒乱の拡大阻止を指揮した。
シヴァ星域会戦時には後衛を指揮。ラインハルト昏倒後、戦況が膠着すると幕僚総監エルネスト・メックリンガー上級大将よりブリュンヒルトに召喚される。イゼルローン共和政府軍がブリュンヒルトに突入し、ユリアンが皇帝ラインハルトのもとに到達したところにも立ち会った。ラインハルトがミュラーに語りかけたとおり、ユリアンはラインハルトの目前までたどりついて倒れた二人目の人間であった。
ラインハルトの死去に際しては、待機するユリアンたちのもとに皇帝崩御を伝える勅使として赴いている。ラインハルトの遺言によって、その死後、ミュラーは摂政皇太后ヒルデガルドの名において同僚5名とともに帝国元帥に昇進し、ミッターマイヤーとあわせ“獅子の泉の七元帥”と称されることとなった。
非凡な作戦実行能力を有する戦術家。作中では守勢下での艦隊指揮において高い力量を示すことが多いが、攻勢面でもしばしば並々ならぬ能力を示し、ヤン・ウェンリーをして「良将」とたたえしめた。
特に難局での強さには定評があり、同数どころか1.5倍の兵力を相手にしても、間違いなく長時間にわたり戦線を維持できるであろうとされる。その評価ゆえ、大親征以降つねに全軍の最後衛に配され、主君の背中を守り続けることとなった。
彼の指揮ぶりをしめす例として、第八次イゼルローン要塞攻防戦で駐留艦隊と対空砲塔の集中攻撃をうけた際の防戦指揮がある。ともすれば戦列が崩れかけるところを、旗艦を縦横に動かしての直接指揮によってけんめいに支え、防御態勢をかためて救援の到達まで戦線を維持した。救援の到着にあたっては艦隊に残された最後の攻撃力で一点突破をはかり、艦隊を脱出させることに成功している。
また、バーミリオン星域会戦では、来援早々にモートン艦隊の残存兵力のうち57.7%、2000隻余りを一時間で失わしめる猛攻でもって艦隊を両軍の間に割り込ませてラインハルトを救い、攻勢における優秀さも示した。戦闘終盤では旗艦の被弾により退艦を余儀なくされ、さらに移乗した戦艦ノイシュタット、オッフェンブルフをもつぎつぎに失って指揮座を戦艦ヘルテンに移すこととなったが、それでもなお断乎として戦いつづけ、のちに“鉄壁ミュラー”の異名をたてまつられる由来となった。
基本的に、穏健で誠実で優秀という、絵に描いたような好青年。不満や不服に対して語気を強めることもあるが、仲間や人々の誤解や軋轢を解消するため折衝役を買って出るなど、なにかと気を配るところが多い。
といっても、第八次イゼルローン要塞戦で大敗を喫する頃までは、若さ相応の自信や自尊心を見せることも少なくなかった。ケンプの叱責に対しては、「以後は後方にさがれ」という内容もあって不満も覚え、ケンプが戦功の独占をねらっているのではないかと疑うこともあった。ヤンを捕らえられるかもしれない好機を前にしては、命令の無視を本気で検討しすらしたが、参謀オルラウ准将の忠言により、あくまで副司令官の分にとどまることとしてケンプの指示に従っている。
ケンプの戦死を聞いた時には語気を荒げ、大神オーディンの名のもとにかならずやヤン・ウェンリーの首を取りケンプの仇を討つと宣言し、自分にはまだその力がない、と歯ぎしりまじりに臥薪嘗胆を誓ったほどだった。しかし、こうした敵意と復讐の念はやがて、あまりにも偉大な敵将への敬意へと昇華していった。屈辱的な敗戦はむしろ貴重な経験となって、バーミリオン星域会戦で必要ならば躊躇なく旗艦を乗り換えた柔軟さを生むこととなる。
こうした心境の変化もあって、作品後半では温厚篤実さが強調されるようになっていく。ただし、彼の苛烈さがまったく喪われたわけではなく、ラインハルトが昏倒した時には歯切れの悪い侍医の発言に激発し、烈しい眼差しで怒声をあびせてミッターマイヤーに制されるようなこともあった。
新王朝で上級大将中の首席となってもおごることはなく、逆に最年少の上級大将として謙虚かつ誠実でありつづけた。ロイエンタールの尋問を担当した時にも礼を篤くして対応し、それだけでなくロイエンタールの部下たちが動揺せぬようにハンス・エドアルド・ベルゲングリューン大将の同席すら認めている。ヤンの弔問も篤実なもので、対面したユリアンにも感銘をあたえ、もし帝国に生まれていたならばミュラーのような軍人になりたいと思ったであろう、と考えさせたほどであった。
若き勇将らしい剛毅さ、武人らしさも持ち合わせていた。要塞対要塞戦の頃からヤンについて「すぐれた敵には、相応の敬意をはらおうじゃないか」「そうすることは、吾々にとってけっして恥にはならんだろう」と語っていたのは、まさにその表出といえるだろう。また、ガイエスブルク爆発の余波で重傷を負ったミュラーを「閣下は不死身でいらっしゃいますな」と讃えた軍医に「私の墓碑銘はそいつにしてもらおう」と諧謔で返すような面もある。敗走時には、負傷した姿を見せることをひかえた音声放送で兵士たちに司令部の健在を伝え、生き残りの兵士たちを故郷に無事返すと約束し、秩序だった退却を命じた。その声は力強くこそなかったが理性的かつ明晰で、敗北に絶望しきった兵士たちを支える心理的効果をもたらした。
物語中盤までを中心に、悪意はないながらも意外に小生意気といえるような一面もあった。オーベルシュタインが犬を飼っている件を同僚に話した時は「泣く子も黙る帝国軍上級大将が夜中にみずから肉屋へ鳥肉を買いに行くそうな」などという言い方で注進している。また、海鷲を去るロイエンタールを見て、「ロイエンタール提督は、またあたらしい愛人をつくられた」とミッターマイヤーに笑いかけたりもしていた。
ちなみに、どうも同僚の妙な場面に居合わせがちで、しかもゴシップ的な情報収集能力に長けているふしがある。たとえば、アイゼナッハが指を三度鳴らすと「ほとんど音速で」角砂糖を半個入れたカップ半分のコーヒーを差し出す、という展開を7巻冒頭までに2回も目撃している。オーベルシュタインの犬の件では、肉屋に行く姿を実際に目撃していたうえ、犬を拾った経緯から肉を買いに行く理由まで情報を揃えていた。ルビンスキー逮捕時にも、当時負傷療養中だったアントン・フェルナー少将に尋ねるという裏技でもってルビンスキーの居場所を探知した方法を聞き出している。石黒監督版OVAオリジナル外伝でフェザーンでの情報収集を担当していたのはこの謎情報力が元ネタ……ではないと思いたい。
好青年であるわりに、女性の影がまったくない。当人は、ロイエンタールが独占しているから、などと言っているが、「中尉時代に手痛い失恋をした」という噂は流れている。当人もこの件については静かに微笑んでいるばかりで、噂が本当かどうか明らかにはしないという。
バーミリオン星域会戦に際して、リューカス星域の物流基地の司令官であるオーブリー・コクラン大佐が降伏を選んだ理由が民需物資を守るためだったと知って感じいり、幕下に招こうとした。固辞して去ったコクランは利敵行為を問われて収監され、混乱の中で忘れ去られたが、ミュラーは彼を忘れておらず、2年後のラグプール刑務所流血事件直後に収容所から解放して自身の主計監としたのだった。
ウルヴァシー事件ののち、元帥昇進を断るかわりにラインハルトから「卿の負傷にむくいる道はないか」と問われ、ロイエンタールの助命を希望している。しかし口に出す前にラインハルトに察知され、むしろ助命を請うつもりがあるかロイエンタールに聞くべきである、と筋違いをただされて恐縮せざるをえなかった。
ミュラーの人柄を象徴する点として、ヤンたちとの外交面での働きが挙げられる。
バーミリオン星域会戦での停戦後、ラインハルトとの会談のためにブリュンヒルトを訪れたヤンを出迎えた際、ミュラーはヤンに「貴官が銀河系の私たちとおなじがわに生まれておいでであれば、私はあなたのもとへ用兵を学びにうかがったでしょう」と述べた。対してヤンは「私はあなたにこそ、銀河系のこちらにうまれていただきたかった。そうであれば私はいまごろ家で昼寝をしていられたでしょうに」と返した。優れた敵将に対して最大限の敬意を払ったものであるが、同時にその敵将はミュラーの優れた能力を認めていたということである。
ヤンが暗殺された後、弔問に派遣されたのはミュラーであった。生前にヤンがミュラーを好意的に受け止めていたことから、イゼルローン共和政府代表のフレデリカ・グリーンヒル・ヤンは快く迎え入れた。弔問を終えた後にユリアン・ミンツと喫茶をしていた際には、12歳年下のユリアンを「ヘル・ミンツ」と尊重して呼び、皇帝ラインハルトとの橋渡しを申し入れている。ユリアンが、仰ぐ旗を変えるつもりはない、という旨を返答すると、自分の発言が相手に対し無礼であったことを察し、謝罪の意思を示した。ここから、和平の為に努力したいという穏健さ、少数勢力とは言えど侮った態度を取ってはならないという誠実さを持っていたと言えるだろう。
“オーベルシュタインの草刈り”で収監された旧同盟要人らが暴動を起こしたラグプール刑務所事件の際には、イゼルローン共和政府との間に誤解を招かないように、収監者の中にイゼルローン関係者がいないか調査している。負傷者リストの中にムライ元中将の名を見つけたものの、彼は負傷して安静状態にあり会話が出来ず、事件が沈静化すると蚊帳の外に置かれてしまった。
シヴァ星域会戦での和平成立後にもユリアンらと会話しており、ラインハルトの死を見届けねばならない辛さを、ヤンの突然の死を受け入れなければならなかったユリアンたちと対比させて語っている。やがて皇帝崩御をユリアンに伝えた際は、崩御以前に合意に至ったバーラト星系の自治とイゼルローン要塞の返還について、相互に誠実に履行することを確認している。お互いに相手の人柄は幾分は知った仲であり、信義に基づいて合意の履行を確認しあうことができた。
以上のように、ミュラーは、人類社会を二分した長きにわたる対立ゆえにそもそも”外交”という概念にとぼしいこの時代、軍人政権たる創成期ローエングラム朝銀河帝国にあって、もっとも”外交官”的な職務を遂行した、またそれにふさわしい人物であったといえるかもしれない。
何かと強調されるその穏健な人柄から、特に物語終盤では、軍人らしく発火点が低めな僚友たちをおさえる良識人としての役割が多くなっていった。
“オーベルシュタインの草刈り”の際、オーベルシュタインの侮辱的発言にあっさり切れたビッテンフェルトが暴力をふるって軟禁され、不満を抱いた黒色槍騎兵艦隊の兵士が軍務尚書直轄の憲兵と乱闘騒ぎを起こした際にも、二人をなんとかなだめて事態を収束させようと動いている。
オーベルシュタインには、ビッテンフェルトが軟禁され、不安を抱いた黒色槍騎兵が問題を大きくしたら意味ないだろう(≒義眼は大人になれよ)、といった旨を伝える一方で、ビッテンフェルトに対しても、暴力を働いた事実は事実であるから、ここは詫びを入れるのが筋(≒猪も大人になれよ)、と両者を説得していた。ちなみにミュラーが説得に奔走している間、ワーレンは両者が決定的衝突に至らないように間に割って入り、眼力でそれぞれを牽制する役目を担った。適材適所である。
ラインハルトの死去に際し、オーベルシュタインがラインハルトを囮に地球教徒をおびきよせる策を講じたと明らかにした時には、同僚たちがそろって激昂し、特にビッテンフェルトが一歩を踏み出して「惑星ハイネセンでの破局が、拡大再生産されようとした」ほどだったが、同様に激発しかけていたミュラーが必死の努力で自我を抑え、僚友たちを諭して地球教徒対策に目を向けさせたことで、皇帝崩御記念帝国軍幹部デスマッチの惨劇はかろうじて回避された。
思いやりのある善人は苦労するものである。
”神々の黄昏”作戦の時点では、能力面ではすでに攻防に高い評価を受けていたものの、当時帝国軍で最年少の大将であったこと、”帝国軍の双璧”ほどの声望を得ていなかったことなどもあり、すぐ下の中将級指揮官たちからは露骨に”追いこし”をねらわれていた。
しかし、バーミリオンで来援したときの彼の戦いぶりは、敵したヤンに「良将だな。よく判断し、よく戦い、よく主君を救う」と、守るラインハルトに「ミュラーはよくやる」と言わしめるものであった。
新帝国成立後には、名指揮官ぞろいのラインハルト麾下でも最大級の高評価を受けるようになり、ラインハルトに「予の宿将」と呼ばれ、“歩く堅忍不抜”として知られた。ロイエンタール元帥叛逆事件に際し、ミッターマイヤーが自身の地位と引き換えにロイエンタールとの和解をのぞんだときにも「宇宙艦隊はミュラー上級大将にゆだねて不安はございません」と信頼のほどを示している。
回廊の戦いでヤンの前に立ちはだかった際も、はじめ指揮官不明であったところ、その戦いぶりだけでヤンに「指揮官は鉄壁ミュラーにちがいない」と認識され、「彼を部下にもったという一事だけで、皇帝ラインハルトの名は後世に伝えられるだろう」と最上級の賛辞をあたえられている。
むろん軍事指揮能力だけでなく、その人としての誠実さも高い評価の対象とされた。ウルヴァシー事件をめぐる地球教徒の陰謀に気づくことが出来なかった点についてすら、「このように人間性の負面に貢献する陰謀を察知しえなかったのは、後世における彼への評価を、むしろ高からしめるものであった」と地の文に褒めちぎられるほどであった。
概要で述べたとおり、原作におけるミュラーの外見描写は「砂色の髪と砂色の瞳」である。この容姿は作中いくたびも言及され、ミュラーの代名詞のようにすらなっている。
ここで問題となるのは、そもそも「砂色」とはどのような色なのか、という点である。例えば、JIS慣用色名における「砂色」はおおむね■#c5b69e【砂色】あたり(RGBでは規定がないので大体の色)である。「原色大辞典」では■#dcd3b2【砂色】を日本の伝統的な砂色としている。しかし大体の人はふだんJIS慣用色名を気にして生きてはいないだろうし、ベージュ色に近い砂漠の砂を思い出す人もいれば、学校の校庭のような灰色の砂を思い浮かべる人もいるのではないだろうか。同様の色表現である「亜麻色」や「蒼氷色」はJISの規格にそもそも無いのに、「砂色」だけあるからとJISに従うのも妙な話である。というか銀河帝国人の描写なのにJIS(日本産業規格)に従うのも変といえば変だ。
石黒監督版OVAでは、「砂色」は川岸の砂利のような完全な灰色として描かれた。現在でこそ定着しているといえるが、初登場当時には、もっと砂浜のような色を想像していた、違和感があった、という意見は少なくなかったようである。Die Neue Theseでは、かなり黄土色に近い、濃いめの(あるいは灰色がかった)サンドイエローといった雰囲気になっている。
なお、2021年の原作者インタビューでついに直接の言及があり、「砂色の髪」は田中先生のイメージでは「クリーム色、だけどそれだけではないちょっとグレーがかった感じの色」とのこと。美女か美少女に使う予定の色表現だったとか
掲示板
112 ななしのよっしん
2023/11/08(水) 20:36:58 ID: c/DYpofZf6
原作の描写を素直に解釈すると、ミュラーの「鉄壁」は「艦隊の防御力をブースト」ってゲーム的なものじゃなく、「座乗艦の撃沈を含めた危機的状況にあっても決して折れることもなければ自暴自棄にもならず、かつ司令部の指揮命令機能を維持し続ける」という精神力と統率力に見えたな。
ヤン艦隊もバーミリオンでは「なんでこいつら崩れないんだ!?」と驚いてそう。
113 ななしのよっしん
2024/04/03(水) 13:33:08 ID: Hj4xkeLAl5
銀英伝は「後世、立憲化した銀河帝国が残した歴史書で、編纂したのはユリアン(あるいはユリアンの残した歴史を参考にした歴史家)であった」という仮説がある。
そう考えるとミュラーがミッターマイヤー以上に好意的に描写されてる(と私は感じた)のも凄くピンとくるものがある。
イゼルローン共和政府にとっては、「何度もヤン艦隊を阻んだ存在であって、帝国軍の質に頼るだけの無能者であって欲しい存在ではない」と同時に「帝国軍とイゼルローン共和政府の橋渡しに近い役回りを担った恩人でもある」。
そうすると、イゼルローン共和政府=ユリアン側からも凄く評価が高くなるし、それが歴史書に残されたと考えることができる。
114 ななしのよっしん
2024/09/06(金) 16:37:05 ID: bsGCnOFq/D
>>113 ユリアンの手記の占める部分は大きそうだが、「後世の歴史家」というのが出てくる以上、ユリアンの手記や彼のまとめた資料にさらにメックリンガー等の手記なんかを加えて何世代か後の人間が書いたという感じだと思う。
ユリアン本人だとするにはあまりに客観的だし、かと思えば誰にも看取られなかったはずのヤンの最期等、どう手を尽くしても知るはずのない部分もある。本人なら特にヤンに関してはそういう創作は絶対に加えないはず。
だから、ユリアンやメックリンガーその他歴史資料を残した人達の殆どに好意的に見られていたということだと思う。
急上昇ワード改
最終更新:2024/11/08(金) 09:00
最終更新:2024/11/08(金) 09:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。