境界の向こうへ
とてつもない質量の
知恵と技とを注ぎ込んで
大地に刻まれし溝向こうでは勝者が笑い
いっぽうこちら側では
敗者が逆襲を誓って涙する
ジュエラー(Jeweler)とは、2013年生まれの日本の競走馬。鹿毛の牝馬。
ヴィクトワールピサの代表産駒で、「あのシンハライト・メジャーエンブレムと鎬を削った2016年牝馬クラシック3強の一角」として語られる馬……になりそこねた桜花賞馬。
父ヴィクトワールピサ、母*バルドウィナ、母父Pistolet Bleuという血統。
父は2010年の皐月賞・有馬記念を制し、2011年に日本馬として初めてドバイワールドカップを制した名馬。種牡馬としては期待されたほど結果を出せず、現在はトルコで種牡馬をしている。ジュエラーはその初年度産駒である。
母はフランス産馬で、2001年のG3ペネロープ賞の勝ち馬。父*ファルブラヴの2番仔を受胎中に日本に輸入された。
母父ピストレブルーは1992年のサンクルー大賞などG1を2勝、1991年の凱旋門賞3着などの実績があるアイルランド産馬。日本で走った産駒はおらず、*バルドウィナが唯一彼の血を日本国内に伝えている。
2013年1月17日、社台ファームで誕生。オーナーはシーキングザダイヤなどを所有した青山洋一。
母*バルドウィナが輸入された際に受胎していた2番仔が、その青山オーナーが所有し、2009年のフィリーズレビューなど重賞を4勝した牝馬ワンカラット。それ以降青山オーナーは*バルドウィナの仔を合計4頭所有し、その4頭目がジュエラーである。
主戦騎手は父の有馬記念とドバイWC時に騎乗し、また祖父ネオユニヴァースでクラシック二冠を制してもいるミルコ・デムーロで、デビュー戦以外の全戦に騎乗した。
姉のワンカラットと同じ、栗東の藤岡健一厩舎に入厩。デビューは2015年11月29日、京都・芝1800mの新馬戦。鞍上はこのときのみ秋山真一郎。人気が割れる中、4.1倍の2番人気だった。
後方からレースを進めたジュエラーは、直線で大外に持ち出すと、断然の上がり最速34秒0の末脚であっという間に他馬を置き去りにし、2馬身半差で快勝。
阪神JFには中1週になってしまうので向かわず、明けて3歳、牡馬に混じってシンザン記念(GIII)に挑戦。鞍上はここからミルコ・デムーロとなる。ここも4.1倍の2番人気。
今回も後方に構えたジュエラー。デムローによるとスタートで挟まれて引っかかり、コーナーでは物見をしていたそうだが、直線で大外からステッキを入れると一気に加速。またも断然の上がり最速34秒5の末脚で猛然と追い込み、先行策から抜け出したロジクライにはクビ差届かなかったものの、強い内容の2着。勝ちに等しいレースと高く評価された。
この節の文章は、シンハライトの記事とほとんど同じです。 なんでそうなったかはこの2レースの映像とデータをご覧ください。 |
続いて桜花賞を目指し、トライアルのチューリップ賞(GIII)へ。ここで彼女は最大のライバルと出会う。新馬戦と紅梅Sを連勝して乗りこんできた、宝石の名を持つシンハライトである。重賞5連勝と絶好調のデムーロが騎乗するジュエラーが2.0倍の1番人気、シンハライトが5.6倍の2番人気だった。
レースは後の秋華賞馬ヴィブロスが逃げ、ジュエラーとシンハライトは中団後方、全く同じ位置に並んで構える。直線入口で前にいた馬が外に膨れ、その煽りでシンハライトが少し膨れると、ジュエラーのデムーロはすかさずその隙間に突っ込んで行く。シンハライトの池添謙一も負けじとそれを追いかけ、直線300mにわたっての馬体を併せての激しい追い比べに突入。どちらも一歩も譲らない熾烈な叩き合いの末、2頭が完全に横並びでゴール。写真判定になったが、結果はシンハライトにハナ差かわされての2着。
勝ちタイム1:32.8は桜花賞のレースレコード(アパパネとハープスターの1:33.3)を0.5秒上回るタイム。2頭の上がり3Fは33秒0を叩き出すハイレベルな激闘だった。
この年の牝馬クラシックは、阪神JFとクイーンカップを圧勝したメジャーエンブレムが絶対的本命と見られていたが、このチューリップ賞の激闘で、ジュエラーとシンハライトはそれを追う存在となる。
迎えた本番、桜花賞(GI)。メジャーエンブレムが1.5倍の圧倒的1番人気で、シンハライトとジュエラーはそれぞれ4.9倍、5.0倍の2番人気と3番人気。4番人気は22.0倍で、完全にこの3頭の3強対決という様相だった。とはいえクイーンカップで圧巻のハイラップ逃げを見せたメジャーエンブレムが余程のことがない限り揺るがぬ大本命、チューリップ賞組の2頭は末脚勝負に持ち込んでも果たして逃げるメジャーエンブレムに届くかどうか……というのが概ね戦前の予想であった。
ところが、レースというのは何が起こるかわからない。なんと大本命メジャーエンブレムがスタートで躓き逃げられなかったのである。人気薄が先行集団を作る中、シンハライトは中団待機になったメジャーエンブレムと同じような位置の外目で進め、ジュエラーは後方2番手で待機する。
緩いペースで直線末脚勝負の展開となり、外を回ったシンハライトが直線で満を持して馬場の真ん中どころから抜け出しを図る。メジャーエンブレムも馬群を割って抜け出してきたが、それを置き去りにして突き抜けるシンハライト。だがそこに、大外からジュエラーが飛んできた!
外を突いてはシンハライトにメジャーエンブレム、シンハライトにメジャーエンブレム、
さらに外からは、アットザシーサイド、アットザシーサイド!
そして外から来た! ジュエラーが来た! ジュエラーが来た!
さあ前の争いですが、シンハライト、シンハライト、
そして外から、ジュエラーが接近する、ジュエラーが接近する!
シンハライト! ジュエラー! シンハライト! ジュエラー!
まーったく並んでゴールイン!
完全に抜け出したシンハライトに、猛然と迫るジュエラー。チューリップ賞に続いて2頭の激しい叩き合いとなり、またしても2頭まったく並んでゴール。再びの写真判定となった。
長い写真判定の末、結果は僅か2センチ差でジュエラーに軍配。チューリップ賞のリベンジを果たし、見事宝石職人は桜の冠を手に入れた。ヴィクトワールピサ産駒ももちろんGI初制覇。ネオユニヴァース、ヴィクトワールピサと親子三代でGIを勝利したデムーロは「ヴィクトワールピサの仔で勝てて嬉しいです」とご満悦だった。
続いて二冠を目指し、オークスに向かう予定だったジュエラーだが、5月に入って左前脚第1指骨を剥離骨折。無念の戦線離脱となり、オークスには出られなかった。メジャーエンブレムはNHKマイルカップへ向かい、オークスは3強で唯一出走したシンハライトが1番人気に応えて勝利する。
骨折も治り、秋は秋華賞を目指してローズステークス(GII)で復帰。シンハライトと3度目の対決となったが、今度はジュエラーが5,6番手で先行し、シンハライトが後方待機する展開。しかしシンハライトが直線一気で見事に差し切ったのに対し、ジュエラーは重馬場に脚を取られて直線伸びないまま失速、11着に撃沈してしまう。
そして迎えた秋華賞(GI)には、シンハライトもメジャーエンブレムもいなかった。シンハライトは屈腱炎、メジャーエンブレムも原因不明の筋肉痛で離脱していたのである。ジュエラーは前走の惨敗もあり、オークス3着で紫苑Sを勝ってきたビッシュに1番人気を奪われ、3.9倍の2番人気。
レースは内枠から中団につけたが、4コーナーで囲まれて外に出すことができず、内を突いて追い込んだものの、外のヴィブロスやパールコードに届かず4着。
その後はエリザベス女王杯に向かう予定だったが、筋肉痛で回避。休養に入り、翌年のヴィクトリアマイルを目標に定めたが、3月に放牧先で左後第2指骨を骨折。現役続行を断念、引退・繁殖入りとなった。
前年11月にはシンハライト、同年1月にはメジャーエンブレムも現役を引退しており、かくして2016年牝馬クラシック3強は全員が古馬として走ることなくターフを去った。
通算6戦2勝。戦績だけ見ればいかにもな桜花賞馬という印象であるが、彼女が怪我でターフを去ってもシンハライトやメジャーエンブレムが古馬で活躍していれば、チューリップ賞と桜花賞でのシンハライトとの2度のハナ差の死闘は、もっと語り継がれる名勝負となっていたはずである。
そうならなかったのはただただ、シンハライトもメジャーエンブレムも怪我で古馬と戦うことなく去ってしまい、この2016年牝馬クラシック3強がどれだけ強かったのかが謎になってしまったが故である。この世代の牝馬で長く活躍したのは、結局春のクラシックと縁がなかったヴィブロスやクロコスミアだもんなあ。ほかの2頭ともども、色んな意味で運のない馬であった。
引退後は社台ファームで繁殖牝馬となっている。彼女の仔がいつか、シンハライトやメジャーエンブレムの仔とこの世代の3強の決着をつける日が来ることを祈りたい。
ヴィクトワールピサ 2007 黒鹿毛 |
ネオユニヴァース 2000 鹿毛 |
*サンデーサイレンス | Halo |
Wishing Well | |||
*ポインテッドパス | Kris | ||
Silken Way | |||
*ホワイトウォーターアフェア 1993 栗毛 |
Machiavellian | Mr. Prospector | |
Coup de Folie | |||
Much Too Risky | Bustino | ||
Short Rations | |||
*バルドウィナ 1998 鹿毛 FNo.1-n |
Pistolet Bleu 1988 鹿毛 |
Top Ville | High Top |
Sega Ville | |||
Pampa Bella | Armos | ||
Kendie | |||
Balioka 1985 鹿毛 |
Tourangeau | Val de Loir | |
Torbella | |||
Bangalore | Cadmus | ||
Balbona |
掲示板
1 ななしのよっしん
2023/02/24(金) 11:37:54 ID: qSEgnieGYT
鞍上繫がりで先日話題になったネオユニヴァース直系の孫で唯一のGⅠウィナーなので、少し動画観たが色んな意味で勿体ない世代だったんだな>2016年クラシック世代の牝馬
お母さんとして仔がデムーロさん騎乗でリベンジして欲しい
2 ななしのよっしん
2023/05/07(日) 16:45:26 ID: Lmwb7OPXax
3 ななしのよっしん
2023/05/07(日) 18:02:09 ID: RHU1ZjqlWv
シャンパンカラー的にドゥラメンテとの配合見たかったな(鞍上デムーロ配合)
急上昇ワード改
最終更新:2024/11/27(水) 01:00
最終更新:2024/11/27(水) 01:00
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