オメイバンカイ
汚名挽回とは「汚名を着せられた状態から汚名を着せられる以前の状態に戻す」という意味の四字熟語。
汚名返上や名誉挽回は誤り、あるいは新しい日本語である。
かつては「汚名挽回は汚名返上と名誉挽回が混ざってうまれた誤用」とする汚名が着せられていたこともあったが、今では汚名挽回して一部の辞書では明確に「汚名挽回は誤用ではない」とわざわざ記載されるほどになっている。
一度デマが広がると否定するのにコストがかかるという好例だといえよう。
「挽回」には「失ったものを取り戻す」という意味があり「汚名挽回では、せっかく雪いだ汚名を取り戻してしまう」として汚名挽回は誤用であるとする主張がなされていた時期がある。さらには、その起源として「汚名挽回は汚名返上と名誉挽回が混ざってうまれた」なる説まで主張されてもいた。
しかし、そうした主張は、はなはだ疑わしいと言わざるを得ないのが実際のところである。
「挽回」という言葉の意味は「巻き返しを図って本来の良い状態に戻る」というものである。
そのため「汚名挽回」の本来の意味は「汚名を被っている状態から元に戻る」という意味であって「失った汚名を取り戻す」という意味ではない。
似たような用法の言葉として「疲労回復」を思い浮かべれば理解しやすいだろう。
あるいは同じ「挽回」を用いた言い回しで「劣勢挽回」や「遅れを挽回する」を思い浮かべてもよい。
どちらも劣勢や遅れから良い状態に戻すことであって、劣勢や遅れをもう1度得る、と言う意味ではない。
そもそも「汚名挽回」は昔から四字熟語として定着していた言葉であるので、これを二字の熟語の組み合わせとして再解釈しようとすること自体がおかしいのではあるが。
「汚名挽回は汚名返上と名誉挽回が混ざってうまれた」とする起源説も、時系列的には怪しいと言わざるをえない。
もし仮に汚名挽回が汚名返上と名誉挽回からうまれた言葉であるならば、「汚名返上」と「名誉挽回」という言葉は「汚名挽回」が使われる以前から広く使用されていなければならないはずだ。
ところが、「汚名挽回」の使用が少なくとも19世紀(明治時代)[1]に遡って確認できるのに対し、「汚名返上」や「名誉挽回」についてはそうした古い使用例が見つかっていないのが現状である[2] 。
さらには「名誉」と「挽回」を組み合わせた言い回しについても、かつては「名誉挽回」ではなく「不名誉挽回」という言い回しだったことまで分かってきた。不名誉≒汚名と考えるならば、不名誉挽回は汚名挽回の言い換えと考えてもよいだろう。
つまり、時系列的には、それぞれの言葉は下記のような順番で登場してきたと考えられるのである。
汚名挽回、不名誉挽回
↓
名誉挽回
↓
汚名返上
少なくとも1975年出版の『日本国語大辞典』(小学館)では、「汚名を雪ぐ」の言い換えとして「汚名を挽回する」と「名誉を回復する」は載っているが、「汚名を返上する」や「名誉を挽回する」といった言い回しは載せられていない。
このように、「汚名返上」は最近になるまで公には使われていなかった言葉なのだが、それもそのはずで、伝統的な日本語においては「汚名返上」は敬語の誤用とされうる言葉なのだ。
というのも、「返上」とはありがたいものを授けてくれた相手に感謝して敬い遜って用いる謙譲語であって、「汚名」のようなありがたくないものと「返上」を組み合わせる用法は従来の日本語では存在しなかったのだという。
日本語学教授・佐々木文彦氏によれば、「汚名返上」という言葉が許容されるようになったのは比較的最近の現象であるという。
文化庁の調査によると、2004年に行われたアンケートでは40歳代~60歳以上(1964年以前生まれ)では「汚名挽回を使う」と答えた人が44.0~50.0%と10歳代~40歳代と比較して多かった。
文化庁は、これを含めた3つのアンケートの結果から「本来とは異なる言い方が、高年層で高い割合」と結論付けたのだが、前述の指摘や研究成果からすると、単に「汚名挽回誤用説」が登場する以前に生まれた人たちが誤用説に騙されることなく本来の言葉を使い続けていただけと考えた方が自然なのではないだろうか。
2014年5月1日、国語辞典編纂者の飯間浩明氏のツイートが話題となった。
概ね、上記の「挽回」に関する件を『三省堂国語辞典』第7版に記述した、とのこと。
同氏は、「汚名挽回」が誤用とされるようになったのは1976年の『死にかけた日本語』(英潮社)の指摘が原因なのでは、と推測している。
書籍によって誤った知識を植え付けられる事例は、「ゲーム脳」などの疑似科学を扱う本が記憶に新しいか。
「汚名挽回」という言い回しは、汚名挽回誤用説が幅をきかせる以前の古いアニメを見ているとよく散見される。
たとえば1983年7月に放映開始された「キャッツアイ」(第1シリーズ)がニコニコアニメチャンネルで放映されたときにも何度も汚名挽回というセリフが出てきて、若い視聴者からのツッコミが入っていた。
しかし、決定的にサブカルチャー業界に広まったのは、ガンダムシリーズの富野由悠季監督の「トミノ語」がきっかけとされる。
1985年(昭和60年)3月23日に初放映されたアニメ『機動戦士Ζガンダム』の第4話「エマの脱走」において、ジェリド・メサ(及び受け答えをしたバスク)が以下のセリフを発するシーンがある。
バスク | 正攻法で、アーガマの新型モビルスーツを略奪してもらいたいのだ。 中尉ならできるはずだ。 私に意見をするほどの、器量をお持ちだからな。 |
エマ | しかし。 |
バスク | なにも一人でとは言わない。 ライラ隊との共同戦線を張ることを許可しよう。 3機のガンダムMk-Ⅱを使っても良い。 |
ジェリド | 大佐、ガンダムMk-Ⅱを使わせていただけるのならば、自分が汚名挽回をしたく…。 |
バスク | 汚名挽回? その言葉は実績を見せた者がいうことだ。 どうかね、エマ・シーン中尉? |
-------------------------------------------------------> 《 参考動画 》
セリフとして「汚名挽回」を発していたのは検証した結果この4話だけであったが(なお、劇場版や漫画『機動戦士Ζガンダム Define』では「汚名返上」に変更されている)、ジェリドがセリフではなく実際に行動でも(ネットスラングとしての)汚名挽回を繰り返すため、いつしか「汚名挽回」を代表するアニメキャラとなったのである。(詳しくはジェリド・メサの項目を参照)
なお、当記事更新前に、ジェリド・メサが何度も汚名挽回と言っていたような誤った記述をしていたことをお詫びします。掲示板の指摘を受け調べましたが編集者のうろ覚えでした。ジェリドの汚名挽回のため謹んで訂正いたします。 |
また、『Zガンダム』より1年前の1984年(昭和59年)3月3日から放送したアニメ『ルパン三世partⅢ』の第2話でもやはり次元大介が「とっつぁんに汚名挽回のチャンスを~」と言っている場面がある。こちらはDVD版でも修正されずそのままである。もう許してやれよ。
このように「汚名挽回」というセリフはアニメ業界において今でも語り継がれるような名作アニメ上でも多用されたため、「誤用じゃない!(誤用じゃない!)ホントのコトバ~♪」(これはZZか)としていつしか妙な市民権を得ていったのである。そしてまた、それらのアニメを見て育った日本人の脳裡にも、汚名挽回という言葉は焼き付いた。
しかし、21世紀以降のアニメでは、汚名挽回を誤用であろうと誤解した視聴者がネットですぐツッコミを入れられるようになったためか、汚名挽回というセリフを見かけることは少なくなった。そのため現在ではボケとして使われることが一般的。
似たようなものにCLANNADの春原の汚名万来という誤用もある。
かつて汚名挽回が「雪いだ汚名を取り戻す」という意味の誤用であると認識されていた経緯から、ネットでは俗語的に下記のような意味でも使われていた。
ネットにおいて汚名挽回という言葉が流行することになったのは、2人の伝説の人物の登場によってである。
1人は「江頭2:50」。
「1クールのレギュラーより1回の伝説。」が座右の銘である彼はまず、1997年2月15日、江頭はテレビ東京の『ザ・道場破り!』の企画の一環として、トルコで行われたオイルレスリング交流試合の会場に前座として乱入、3000人以上のトルコ人を前にして全裸パフォーマンスを行い、暴走して肛門にでんでん太鼓を刺して逆立ちというパフォーマンスをしてトルコ警察によって身柄を拘束され逮捕されるという国際問題になりかねない大伝説を残す。
その頃はまだインターネットが黎明期であったためようつべに動画等も出まわらず本当に伝説になっただけだが、「橋田壽賀子にキスして笑っていいともを永久出演禁止にされる」「北朝鮮に突入」「北京五輪の聖火リレーに突入(さらに五輪会場にも凸)」などの過激パフォーマンスを繰り返す頃にはインターネットが普及し、「汚名挽回」とは彼のためにある言葉なのではないかと、江頭2:50が稀にテレビに出演するたびネット住民は「また汚名を挽回してくれないかな~」と皆で実況スレでwktkするようになったのである。
(ただし2011年、東日本大震災で物資が行き届かなくなった福島県いわき市の窮状を見て満載のトラックで単身乗り込んで救援物資を届けた美談が世間に伝わると、一気に汚名返上したと話題になった。しかし本人はこれに焦り数々の美談を否定するとともに、善人キャラになってしまっては困ると再び頑張って汚名挽回中である。)
もう1人は「田代まさし」。
まず、2000年9月24日に東急東横線都立大学駅構内において帽子、サングラス、マスクという姿で女性の下着を盗撮しようとしている様子を目撃者が通報されたのがマスコミに発覚し「ミニにタコ」の名言を残した彼は、さらに2001年12月9日、田代は近所の男性宅風呂を覗いたとして軽犯罪法違反容疑で現行犯逮捕された。
こうして盗撮することを「タシーロする」と表現するぐらいのネットスラングになり流行したのだが(「片翼の田代」等を参照)、これはまだまだ序章で「これからが本当の汚名挽回だ」であった。
この連続盗撮事件を不審に思った警察が自宅を家宅捜索したところ、なんと覚醒剤が発見され、覚醒剤所持・使用容疑で12月11日、再逮捕され、所属事務所を解雇されてしまうのである。
2002年3月、裁判で懲役2年執行猶予3年の判決を受けた彼は、サンデージャポンなどに出演してお詫びするものの、執行猶予中の2004年9月20日夜に再び覚醒剤及び刃渡り8cmのバタフライナイフを所持していたとして銃刀法違反と覚せい剤取締法違反の現行犯で逮捕され、とうとう懲役刑になってしまう。これには師匠的存在の志村けんも完全に匙を投げたと伝わり、この頃からネットでは「またお前か」より強い言葉として「また田代が汚名挽回した」と使われるようになったのである。
出所したころ丁度始まったニコニコ動画にも出演し、ニコ生でも視聴者に更生を誓っていた彼であったが、2010年(平成22年)9月16日午前2時10分頃、横浜の赤レンガパークの駐車場内で国際会議の応援警備に当たっていた福岡県警察本部の警察官に職務質問を受けた際、コカインをポリ袋に入れて所持していたことが発覚し、またまたまたまた汚名を挽回してしまったのである。
今度は懲役3年6ヶ月の実刑判決となり収監された田代は2014年7月2日に仮釈放され、2015年2月、4年6ヶ月ぶりに自身のブログを更新、民間の薬物依存リハビリ施設「ダルク」のプログラムを受けていることを報告し、更にその後6年ぶりの著書「マーシーの薬物リハビリ日記」の発売イベントも行った。この会見時、激やせ姿から健康的な姿に回復していたため、ついに彼は矯正を果たして汚名挽回の負のサイクルを断ち切ったかと思われた。
しかし2015年7月6日、東京都世田谷区の東急電鉄二子玉川駅で女性のスカートの中を携帯電話で盗撮した疑いで事情聴取を受けていた事が報道された。約15年経ってもなお「ミニにタコ」のコント構想に未練があったのか・・・。田代まさし氏の汚名挽回は残念ながらまだ続いている。
これら2名によって、汚名挽回はインターネット上で
「かつての汚名を再び取り戻す汚名行為」という意味を確立した。
“日本語の誤用かどうかの問題とは別次元のネットスラング”になったのである。
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最終更新:2023/02/05(日) 03:00
最終更新:2023/02/05(日) 03:00
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