これが『統一教会』の秘部だ-世界日報事件で『追放』された側の告発とは、文藝春秋1984年7月号に掲載された副島嘉和と井上博明の手記である。
概要
副島嘉和と井上博明が『文藝春秋1984年7月号』で暴露をする
1983年10月に世界日報と統一教会を追放された副島嘉和と井上博明が、文藝春秋1984年7月号に暴露手記を発表した。
それは、副島嘉和と井上博明が世界日報の部数を拡大させたことと、1983年10月1日の「世界日報事件」を記すものであったが、それだけではなく、統一教会の内部儀式や霊感商法マニュアルや脱税の手口を告発するものだった。
文鮮明に対する拝跪の儀式
統一教会が四大名節と呼ぶ記念日に、早朝五時からの敬礼式という儀式がある。そこでは聖壇に座った文鮮明とその家族に対し、統一教会の主要幹部が三拝の拝礼を行う。場所はだいたい文鮮明の私邸であるアメリカ・ニュ一ヨ一ク州のイ一ストガ一デンである。
その際、日本の昭和天皇をはじめ、ロナルド・レーガン米国大統領、全斗換韓国大統領ほか主要国の元首の身代りを、それぞれその国の統一教会幹部が担当し、文鮮明一族に拝跪する。こうして、全世界の国家元首級の人物が文鮮明に拝礼するという儀式を行う。
日本の昭和天皇の代理を務めるのは、統一教会日本支部の会長を務める久保木修己である。
また、イエス・キリスト、釈迦、孔子、マホメットなど主要な宗教の代表の身代りを務める人も決っており、同様に文鮮明とその家族に平伏をする。文鮮明がすべての宗教の上に立つ権威をもっていることを示す重要な儀式である。
韓国中心主義を日本向け経典から削除する
韓国語版の『原理講論(統一教会の聖典)』には「イエス・キリストは東方の国に再臨する[1]。東方の国というと日本と中国と韓国である。日本は植民地支配で韓国のキリスト教を迫害した国であるからキリストが再臨するわけがない。中国は共産主義国でキリストが再臨するわけがない。つまり、韓国にイエス・キリストが再臨する」「イエス・キリストが再臨するのなら、その人は間違いなく韓国語を使うだろうから、全世界の人が韓国語を学ぶべきである」「韓民族は選民である。韓国が世界の中心になり、韓国語が世界共通語になる」という記述がある。
しかし、日本語版の『原理講論』からはそういう韓国中心主義の記述が削除されている。
ハッピーワールドによる脱税の手口
この手記には統一教会関連企業のハッピーワールドによる脱税の手口などが記されていた。
1980年10月に、ハッピーワールド本社経理担当の溝口志津氏が、統一教会の会計会議で行った発言の資料を掲載した。
「ハッピーワールドの取扱商品は各々三~四つの卸売段階を経て販売されていますが、経理はこれらの卸売会社を別々に考えるのではなく、経理上完全に一つの組織であると考えて下さい。この会計処理のシステムは、いかに万物をこの世(税務署)に渡さず、天の側(ハッピーワールド)に復帰するかということに基づいています。
卸売会社を数段階に分けたのは、そもそも利益分散すなわち税務対策のため考えられました……登記等による表面に出ている販社(販売会社のこと)代理店に利益を出さず(税務対策)、個人である委託セ一ルスマン(統一教会員)に最終小売値の七〇%を利益として落します。
この方法では、個人の所得税問題が発生しますから、高額所得者となっている委託セ一ルスマン(会員)をピックアップしておき、ハッピ一本社の定期的な人事異動の時に優先するなり、住民票を地方に散らす等の指示に従って下さい。
さらに委託セ一ルスマン(会員)に落した七〇%の利益はハッピ一本社に個人の必要生活費を除いて、全額返金するシステムです。各店舗は一体ですから、これは帳簿上の動きだけであって店舗間では実際の現金は動きません……もちろんセ一ルスマン以外の従業員(会員)についても、給料は実際支給する給料の三倍~五倍を計上して、差額を天への献金(裏金)とします。この裏金の運用方法の一例として、本社では兄弟達(会員)の名義でマル優の定期預金に積んでいます。なお本人には一切知らせる必要はありません」
要は「天」への裏金づくりの脱税工作のため、卸売会社を数段階に分け、個人扱いのセ一ルスマン(教会員)の所得として利益の七〇%を落して販社、代理店に税金がかからないようにし、しかもそのセ一ルスマンも税金逃れのため定期的に住所を移し、渡した七〇%の所得も最低生活費を除いて本社に返金させる、実に巧みな手口である。
霊感商法のマニュアル「ヨハネトーク」
さらに暴露手記には霊感商法の手口のマニュアルが記されていた。
霊感商法のマニュアルは「ヨハネト一ク」という。霊能力者の役を務める人と、それを仰々しく褒めたたえる人の2種類を用意し、巧妙に演技するのである。
「先生は非常に霊感のある方なんです。見えない世界のことも、よくわかる先生なのです……先生の御指導を受けて、その通りになさって導かれ、幸福になられた方が沢山いるんですよ」と「先生」役を迎えに行くまでにまず吹き込み、先生が入って来たら「あっ、先生が来られましたと手で示してあげ、座ぶとんをおりて仰ぎ見るようにしてから、深々とお辞儀をする。
そして、先生のト一クの内容によってうなずく!『そうですね。なるほど』感動する!『ほんとうですか!恐しいですね』。
先生が座を外したとき「先生はほんとうにお客様のことを思っているんですね」といい、先生が祈禱のため抜けたとき「このツボを通じて、ご先祖、ご子孫が報われていくんですから、苦労のしがいがありますね。金銭面においてもいろいろな事情があるかも知れませんが、ご先祖様の冥福とご子孫の繁栄を祈りつつ決意されたらいいですね。案外この日の為に準備されてあったんじゃないですか。たとえば定期預金とか、保険とか、株がうまく当ったとか」
愛のマグロ釣り研修
文鮮明は釣りが大好きである。1972年から文鮮明はニューヨークに住むようになったが、そこから近いボストン沖に出てマグロ釣りを行うのが趣味だった。
そして文鮮明は「愛のマグロ釣り研修」と称することも行っていた。1年に1回、統一教会の幹部たちをボストン沖でのマグロ釣りに付き合わせるのである。漁船に幹部を三~四人ずつ交代で乗せてマグロ釣りをやらせ、その船上や宿合で訓話をたたき込む。釣ったマグロは統一教会系の水産企業に回す。
文鮮明は、マグロ釣りを熱心に行うかどうかで統一教会内の人事を決めていた。このことを文鮮明は「霊眼による人事」と称していた。マグロ釣りを上手く行えない日本人幹部が言葉の通じない米国に飛ばされてしまうこともあった。
1983年も7月~8月になって日本人幹部70人が「愛のマグロ釣り研修」に召集された。そのうち20人が、研修後に米国行きの人事を伝えられた。このときの副島嘉和は世界日報の編集局長を務めていて忙しく、「愛のマグロ釣り研修」に参加できないことを伝えたら、文鮮明は「天の召命に応じなかった。『愛のマグロ釣り研修』をボイコットした」という内容の言葉を内部文書に載せて副島嘉和を非難した。
暴露手記の影響
この暴露手記が世に知れ渡ったことで、それまで世界日報を支持していた保守系の団体や文化人は世界日報から去ってしまった。
国際勝共連合を反共主義の同志と考えていた民族派や右翼も激怒し反発し、統一教会の本部に右翼の街宣車がやってきて抗議行動を行う騒ぎになった。
副島嘉和襲撃事件
文藝春秋1984年7月号が全国の書店に並んだのは同年6月10日頃だが、その8日前の6月2日の夜に、副島嘉和は世田谷区にある自宅マンションの前で、韓国の空手を使ったような暴漢に襲われて重傷を負った。マンションの入り口付近で待ち伏せしていた男がいきなり「この野郎」と叫んで刃物のようなもので切りつけ、数回副島を殴ったあと走って逃走した。
副島嘉和は瀕死の重傷を負い、自宅マンションの玄関は血の海となった。しかし、三度の緊急手術が成功し、二日後に意識が戻った。復帰後の副島嘉和は井上博明とともに『インフォメーション』という雑誌を立ち上げて統一教会の批判を続けた。
関連リンク
- 副島嘉和 Wikipedia記事
(副島嘉和襲撃事件の詳細が生々しく記されている)
- これが「統一教会」の秘部だ|書誌詳細|国立国会図書館オンライン
関連項目
脚注
- *聖書のヨハネの黙示録7章2節に「また、もうひとりの御使が、生ける神の印を持って、日の出でる方から上って来るのを見た。彼は地と海とをそこなう権威を授かっている四人の御使にむかって、大声で叫んで言った」という文章がある(資料
)。統一教会はそれを拡大解釈して「イエス・キリストは東方の国で再臨する」という解釈を好む。
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