なろう系とは、主として以下のように使用される言葉である。
1.『小説家になろう』(以下なろう)等のWeb小説投稿サイトから出版社により書籍化された小説作品群
2.1により発生した2010年代以後のファンタジーブームと、その流行下で注目された設定やストーリーの総称。本稿ではこちらについて記述する。
3.2を踏まえた上で「つまらない作品」「荒唐無稽な作品」などを意味する用語
現在では2の用法が広く用いられているが、その派生として3の用法で批判的に扱われやすく、使用者によって「何がどこまでなろう系か」の判断がブレやすく荒れる原因となっているため、使用の際は注意が必要である。
作品やその傾向を話題に挙げる場合、サイト内のジャンル(カテゴリ)やキーワード(タグ)を用いた方が無難なのは間違いない。
概要
なろうでは多くの小説が投稿されているが、ニコニコ動画やpixivなど他の投稿サイト、あるいは商業の場でも同様に、好きな作品の模倣・ヒット作の後追いの連続などから、似通った設定・展開の作品が流行りを形成しやすい(いわゆるテンプレ)。
- 主人公が何らかの理由で異世界へ転生・転移する
- あるいは、不遇な立場にあった主人公が仲間から追い出される
- 序盤で主人公がチートと呼ばれるほどの力を得る
- その能力はその世界において唯一無二、あるいは上手く使えるのは主人公一人であり、(序盤においては)比較・競合対象が存在しないことが多い。
- ありふれた知識、能力でも異世界では英雄に等しい活躍ができる
- ゆく先々でヒロインを助けてモテてハーレム作り
- 無様な末路が分かりきった敵キャラ・主人公を誉めそやすばかりの味方キャラばかり
- とにかく作品名が長く、作品名だけで内容がわかってしまうことが多い
- ゲームの中でもないのにステータスやレベル、スキルなどがある世界観
等が挙げられることが多く、総じて「イージーモードでストレスフリーな作品が多い」と言われる。
ただし、書籍化やアニメ化によってサイト外部に進出するまでのタイムラグの関係もあり、実際の流行りとはズレている場合が多々ある。代表的なものとして、異世界転移・転生作品は小説家になろうでジャンル再編により隔離措置を受けたため人気が激減し、なろう系という言葉が広まったころには既になろう内におけるトップジャンルではなくなっていた。
他のWebサイトと同様に流行は常に流動するため、サイトユーザーとそうでない者がなろう系を語る際にギャップが生じやすい一例である。
ナーロッパと、共有される世界観・設定
なろうにおいては「ゲームのようなシステムが採用されている中世ヨーロッパ風の異世界」などの設定が、「いつものアレ」という程度のゆるい形で共有されている事がしばしばある。(同一の世界観ではない為、シェアワールドではない)
これについて「ファンタジーはゲームと深く関わってきたジャンルであり、なろうで始まった事ではない」という指摘もあり、詳しい設定などの詳細はナーロッパを参照していただきたい。
多数の設定と神話生物を擁するクトゥルフしかり、史実をベースにした江戸時代を主な舞台とする時代劇しかり、こういった定型が存在する事は、創作として非常に魅力がある。なぜなら読者に行わなければならない説明を減らした上で、話の面白い所をスムーズに見せられるのだ。
一例として、人気作の模倣と拡散によって生まれた設定やストーリーなどの『素材』を使って多くの作者が参入して生まれたジャンル(幻想入りシリーズなどの東方project二次創作群・ジャガーマンシリーズ・BB先輩劇場・biimシステムなど)はここ、ニコニコ動画にも多く存在している。見慣れた定型コメントや、多数の作者が使うお決まりの演出を日常的に見かけるだろう。
なろうにおいても共有されたシチュエーションや設定などを活用して自分なりの作品を書くというのは同じように流行し、多くのものが素材になっていった。
つまり、テンプレ要素という素材を使った作品だと多くのユーザーが知っている状態になり、素材の使い方で工夫を見せる形で、なろう系というジャンルが固まっていったのである。
読者側が基本的なノリを把握している体で話が進む作品が既存の商業小説よりも多いとも言え、なろうの作品に触れた事のないユーザーが話題性などで初めて近づいた際に、しばしば戸惑いや誤解を与えてしまう要因となっている。
もちろん、各作品の質には大きな差があり、素材をどの程度、どうやって使うかにも作者毎の差がある。
基礎部分の理解がなくともサイトの内外を問わず多くのファンを獲得できる作品がある一方で、基礎知識がなければ楽しみにくい作品や、人気作品であっても内容が内輪向けに特化していてなろう系支持者層以外からの評価は得られにくい作品があるのも事実である。
特にインターネット上では作者と読者が双方向で繋がるSNS的な側面がある為に内輪ネタ化しやすく、コンテンツの消費速度が早い為にジャンルのお約束がどんどんと内輪ネタで固まっていき、外部のユーザーには理解の難しい物となっていく事が多々ある。流れてきたネットの奇異なネタを「それはそういうもの」として飲み込めない経験をした方もいるだろう。
ここまで書いた通り、なろうもまた、ネットにおける人が沢山集まる投稿サイトの一つである。
いつから流行りだしたのか
小説家になろうの知名度上昇と規模拡大によって勘違いされがちな事ではあるが、こういった「主人公最強でストレスフリー」な創作の流行はインターネット上で見ればさほど珍しくなく、様々な媒体でヒットしてきたパターンを踏襲している。
Web小説におけるなろう系と言われる物に近いジャンルはスパシン(スーパーな碇シンジがエヴァで使途相手に無双してネルフを論破)やU-1(Kanonの主人公を魔改造した最強キャラにして他原作とクロスオーバー)などを筆頭として二次創作の世界で現在に至るまで存在している。
これらは90年代後半~2000年代前半で既に「最強キャラを主人公にして原作を改変する」というジャンルとして確立され、賛否を生んでいた。
当時は個人サイトや、今と比べれば小さな投稿サイトでの活動だったが、
「トラックに轢かれるなどして超常的存在(あるいは神)の力で過去に逆行・転生・転移する」
「最初から作中で一番強い時の状態、あるいは未来の知識を持っていた事にする・もしくは初期設定を改変する(空手の達人だった、前世が異世界の賢者だった等)などして、原作で苦戦した相手をあっさりと倒す」
「明らかにパワー差がある作品の主人公を転移させるクロスオーバー(例:北斗の拳の世界にドラゴンボールの孫悟空が転移する、等)」
「一般人主人公がチート的な能力を手に入れて無双」
などの、今に通ずる創作が行われていたのである。
(なお、これらの二次作品の中で質が低いものは『最低系』と呼ばれていた。詳しくはSS用語一覧で確認していただきたい)
これらはメアリー・スーと呼ばれる事も多いが、面白みが分かりやすく、確かに息の長い人気があり、インターネット黎明期から今に至るまで途切れる事無く生まれ続け、読者に親しまれている。小説の他にも動画やゲームなど、物語性の強い創作が行われる場所(特にバトルもの)であれば発生しうる物で、なろうはその一つに過ぎないのだ。
執筆時点(2022年)から見るとかなり以前になるが、ここ、ニコニコでもドラゴンボールのブロリーを他作品の世界で活躍させる動画が流行っていた為、見た覚えのある方は多いのではないだろうか。
余談
「なろう系」と呼ばれる作品が批判されるときに、しばしば「連載が冗長過ぎるし、作者が読者のコメントを読みながら話を書き進めているため、矛盾点が多くグダグダ」といったことが言われる。
しかし、連載が冗長であることは曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』といった、歴史的に重要な小説についても言えることである。また、読者の感想を見ながら連載を進めていくという形式は、昔からある新聞小説などの連載小説の形態と何ら変わりない。そして、現在では文学的に重要な作品と位置付けられている尾崎紅葉の『金色夜叉』や徳富蘆花の『不如帰』ですら、全体を通して読むと矛盾点や登場人物の一貫性の無さが読み取れる(特に『金色夜叉』は人気が出たために続編が書き続けられてしまい、問題点が多くなっている)。
これらのことからもわかる通り、冗長であったり矛盾点があるからといってその作品の価値が無くなるというわけではないので、注意が必要である。
また、お約束の展開が存在する勧善懲悪モノのテレビ時代劇(特に象徴的存在である『水戸黄門』『暴れん坊将軍』)が引き合いに出され、「お決まりの展開ばかりでオリジナリティがない」とされる事もあるが、そういったお決まりは何も時代劇に限らず、多くの創作ジャンルに存在している。
ミステリーで探偵が皆を集めて推理を披露するように、サメ映画でカップルがサメに食われるように、同じような展開の作品が量産される事は創作の常であり、根本的なストーリーに似通った箇所があろうと、「実は推理していない探偵」や「台風になったサメ」のような創意工夫には十分にオリジナリティが宿るのだ。
なろう系もまた、あらゆるジャンルがそうであるように書き手次第で駄作にも凡作にも良作にもなりえる。駄作が多いからといって良作の価値が貶められるわけではない。むしろ、良作とは数多くの凡作駄作の山から生まれ出でるもの。駄作が沢山作られる≒盛り上がっているほど、名作もまた増える。「〇〇という設定を使ってるからダメ」といった決めつけは避けた方が無難だろう。
なお、なろう系批判でよく揶揄される「とにかく作品名が長く、作品名だけで内容がわかってしまうことが多い」という性質は小説家になろうのレイアウトに適応する形で生まれたものである。多くの読者はランキングや新着一覧から次に読む作品を探すのだが、この一覧に表示されるのがタイトル・作者名・ジャンルの3つだけであるため、タイトルにあらすじを内包することで読者の興味を引くというテクニックが開発された。表紙絵や帯、裏表紙の解説文といったものが無いweb小説特有の事情により定着した文化といえる。
なろう系の歴史
1990年代~2007年
小説家になろうは2004年に設立。
この時はまだ単なるサークル運営の1サイトであり、主に名探偵コナンの二次創作小説投稿サイトとしてユーザーを獲得していた。
一次創作は個人サイトでの発表と専用の検索サイトを通した交流が殆どであり、テンプレと呼ばれる物の認識はなく、散発的に異世界ものが生まれている状態だった。
80年代〜90年代に発生したTRPGリプレイやドラゴンクエスト、そこから生まれたアニメやライトノベルでの異世界ブームの影響がまだまだ残っており、「異世界迷い込み」「異世界召喚」などの、現実から異世界へ行く作品が多く記録されており、小説検索サービスなどを通して一定の読者層を生んでいた。
これらの中から、なろう系の始祖とも呼べる作品が生まれてはいるが、既存の商業作品に比べると影響力が小さく、サイト自体が個別に存在して分断されている為、大きな流れとはならなかった。
2007年には小説投稿サイトArcadiaにおいてVRゲームから異世界転移する作品が生まれており、後のジャンル形成の萌芽が見られる。
二次創作においてはいわゆるスパシンやU-1などのジャンルによって、なろう系に近い作品がどんどん生み出されており一次創作にはないファン同士の交流もあって個人サイトや投稿サイトで広まっていた。
2008年~2009年
小説家になろうの中で「異世界転移・最強もの」という存在が多く現れた。
この頃には小説家になろうのサイトリニューアルが行われ、それまでは「投稿作品数と作者数がほぼ同値=ほとんどのユーザーが作者」だったのに対して、作品を書かない読み専の読者が増えていった。
同じ頃、二次創作小説投稿サイトの最大手だったArcadiaにおいても「異世界や戦国時代に行って現代知識を武器に戦う」という一次創作が現れ、頭角を現すようになる。
また、世の潮流としてPixivやニコニコ動画の隆盛など、イラスト・動画などのジャンルでも個人サイトから投稿サイトにユーザーが移っていった時期でもあり、小説検索サービスと個人サイトの衰退という背景もあった為、以前から個人サイト間で行われていた異世界物の創作が、一つのサイトに集約された形となる。
2009年頃には異世界テンプレという存在が認識されており「世界を救う存在として異世界へと召喚される」などの、後に生まれる「召喚されたけど戦わずにスローライフする」等のアレンジが生まれる元となった作品の流行が見られる。(召喚要素自体は聖戦士ダンバインから続く鉄板パターンであり、小説家になろうで独自発展した訳ではない。また、なろう系異世界に強い影響を与えたゼロの使い魔が2007年前後に一大ブームを巻き起こしていた為、影響を受けていた可能性がある)
サイトリニューアル、世間の変化なども含め、実質的に「テンプレ」としてのなろう系元年と言える。
また、この時点で二次創作小説では後のなろう系と呼ばれる要素の「何かの理由で死んだオリキャラ主人公(基本はオタク)が神様に転生させて貰い、原作という疑似未来知識と転生特典のチートを武器に無双してハーレム」という流れは定着しており、ゼロの使い魔、魔法少女リリカルなのは、魔法先生ネギま!などの二次創作で広まっていた。
小説家になろうにおいては二次創作部門であるにじファンが存在しており、Arcadiaではオリジナル作品の区分があった。同一サイトで展開されていた以上、二次創作で行われていた事が一次創作にも影響を与えていた・あるいはその逆もあった物と思われる。
2010年~2011年
魔法科高校の劣等生やログ・ホライズンの書籍化の話題性もあり、小説家になろうにおいて多くの作者が現れ、既に定着していた異世界テンプレを多くの作者や作者へ転向した元読み専読者が使い、より一層多くの作品が生まれる様になる。
既存の異世界物に影響を受けた作者が増えていった事により、主人公が異世界に行くというのはサイト内では当たり前の光景となっていった。
また、ゲームのプレイヤーキャラクターとなって異世界へ転移する作品が定着した。後にこのゲームキャラクター転移の流れが下火になった際、ゲーム的要素が世界観に残り、ステータス画面の展開やレベル制、固有スキルなどの「ゲーム風異世界」を構築していった。
界隈においてはArcadiaが衰退し始め、にじファンが二次創作小説サイトとして最大手となる。(2ちゃんねるを媒体とする二次小説や、女性向け作品はまた別所)
これにより、一次創作も二次創作も小説家になろうがプラットフォームとなった為、Web小説=小説家になろうの図式が完成する。
ただし、この時はまだArcadiaにおいてオーバーロードを筆頭としたオリジナル作品も多く投稿されており、小説家になろうが完全に支配的な勢力だった訳ではない。
2012年~2015年
大手出版社がこぞって後になろう系と呼ばれる作品群の書籍化に乗り出した時期。大手出版社が動き出した事もあって年々書籍化作品が増加し、多くのユーザーを取り込む様になった。
「異世界で最強主人公」の作品は2012年には完全にテンプレとなり、そこから派生する形で無機物転生や料理物、ダンジョン経営、魔王主人公物、スローライフなどの作品が生まれるようになった。
個人サイト発であるソードアート・オンラインのアニメ化によるVRMMO物の流行が起きていた。デスゲームはもちろん、ゲーム世界への転移にも用いられる人気要素となった。
更に、異世界転生とゲーム世界への転移を土台とした悪役令嬢物は女性向けの異世界作品の新たな人気ジャンルとなり、やがて男性向け作品を巻き込んでなろう内で定着していった。
この時期になると後にアニメ化されている作品が次々投稿されており、後のなろう系のイメージを作っていく事になる。
サイト内では以前から「テンプレ」や「異世界物」などと呼ばれていたが、メディアミックスから入った層や、それらの読者を狙った出版社によるゾーニング、このなろうでのファンタジー作品を語る際に用いる・時に否定的なニュアンスを含む単語として「なろう系」という呼称が生まれた。単語としてのなろう系元年である。
また、小説家になろうを運営するヒナプロジェクトはにじファンを2012年夏をもって閉鎖する事を決定し、小説家になろうで広く行われていたなろう系に近い二次創作が消滅する事となった。二次創作の舞台はこの時にハーメルンを筆頭とした別の投稿サイトへ移動している。
これにより、にじファン側で行われていた創作が少なからず一次創作である小説家になろうへ流入したと思われる。
2016年~2021年
メディアミックスが加速しており、小説家になろう発の作品が毎年アニメ化している状態になっている。これにより、なろう内での流行要素はWeb小説からは離れたユーザーにもよく知られるようになっていった。
これにより、なろう等の小説投稿サイトとは無関係なライトノベルや漫画作品においても、異世界転生などの流行を反映したと思わしき設定やシーンのあるオリジナル作品が多数発売されて人気を博している。
更には既存の人気シリーズ、例えばドラゴンボールやシティーハンター、島耕作やルパン3世にバキやKOFなどがオリジナルキャラクターの作中世界への転生や、人気キャラクターを異世界に送るなどの流行を取り入れた外伝作品を発表して話題を呼んでおり、流行はweb小説だけに留まらない拡大を見せている。
また、小説家になろうでは2016年にジャンル再編が行われており、ランキング内で「異世界転移・転生」とそれ以外のジャンルが分離され、実質上の隔離措置が行われている。
これによって異世界を舞台にした作品でも地球人ではなく現地人が主人公となる作品が大きく躍進する事となり、「なろう系と言えば異世界転生・転移」などの印象とは異なり、ランキング内では異世界転移・転生物は弱体化が見られる。
2022年
チート、ざまぁ、追放系の傾向が強く、今年10回目を迎えたネット小説大賞では追放系、異世界転生を題材にした小説がそれぞれ金賞に選ばれている。
前年よりも日間ランキング上位5位のジャンルを異世界(恋愛)が占める割合が顕著になった。
これによりなろう系の主なジャンルであったハイファンタジー〔ファンタジー〕がランクインする日が少なくなるなど小説家になろう本家においても流行の変遷が見られている。
アニメにおいては異世界転生物の新作が放送されるなどこれまで通り。
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外部リンク
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(現在、なろう系という用語が確認される最古のアドレス) - これがなろう勝利の理由! 〜昨今のネット小説新参にむけて古参が、なろうが勝者になった理由と歴史を書きなぐる話〜
- テーブルトークRPGリプレイと「なろう」小説
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