ウォルター・アイランズ(Walter Islands)とは、『銀河英雄伝説』の登場人物である。
CV.田中康郎(石黒監督版OVA)、志村知幸(Die Neue These)。
概要
自由惑星同盟の文民、政治家。国防委員長を務めた。
宇宙暦799年当時に50代なかばの人物で、頭髪はすでに失われている。石黒監督版OVAではまだ若干ふさふさしている。
ヨブ・トリューニヒト派の幹部のひとりであり、自他ともに三流の政治業者と認める堕落した利権政治家であったが、国家の危機に際して民主主義国家の公僕としての精神を目覚めさせ、「半世紀の惰眠よりも半年間の覚醒によって」史上に名を残すこととなる。
経歴
初登場は宇宙暦797年、救国軍事会議のクーデター終結後、トリューニヒトの邸宅に参集し、ヤン・ウェンリー大将の発言力拡大への危機感を語っていた政治家たちのひとりとして、ネグロポンティ、カプラン、ボネ、エイロン・ドゥメックらとともに名前が挙がっている。ただし、この時の発言は明示されていない。
国防委員長就任
翌798年5月ごろ、イゼルローン要塞に大挙侵攻した帝国軍を同盟軍が撃退したのち、要塞司令官ヤン大将を侵攻時に首都星ハイネセンに召喚していた責を負って辞任した国防委員長ネグロポンティの後任として最高評議会国防委員長に就任する。
この頃のアイランズは腐敗しきった政治家であり、閣僚に列せられるために最高評議会議長ヨブ・トリューニヒトに高価な銀の食器を差し出したのを始めとして、地位を利用した企業からの献金やリベート、選挙資金を流用しての別荘購入、夫人以外の女性を連れての公費旅行など、倫理的にも法的にも際どい悪徳を少なからず犯していた。その上、トリューニヒト閥の人間であってもその同志というより子分に過ぎず、彼の職務も実際の所はトリューニヒトの意思を代弁する程度のものであった。
国防委員長就任時の行動も、ネグロポンティのいさぎよい辞任を讃えてその政策の引き継ぎを明言し、フェザーン弁務官ブレツェリとの談合の場でネグロポンティには「軍人の専横をふせぐ」目的があったと美化。あげく、軍人の政界進出を防ぎたいなら法律を作ればよい、というブレツェリの提案をトリューニヒトに注進しに行くなど、小物きわまるものだった。
同年11月、帝国軍がロイエンタール上級大将を司令官としてイゼルローン要塞に対し再び大挙侵攻を企図しているという情報が齎されたことで開かれた国防調整会議では、同盟高官とフェザーンとの汚職関係をほのめかした宇宙艦隊司令長官アレクサンドル・ビュコック大将の言を高圧的かつ苦みばしった口調でたしなめ、フェザーンが帝国に協力する可能性を示したビュコックの意見を退けている。
このように、彼は同盟末期のトリューニヒト閥を代表する汚職政治家のひとりに過ぎなかった。ここまでは。
祖国の危機
同年末から翌799年にかけて帝国軍がフェザーンに侵攻しビュコックの危惧が現実となると、アイランズは彼を知る誰もが――おそらく本人すらも――思っても見なかった役割を、それも積極的に果たしはじめた。彼は無責任にも雲隠れしてしまったトリューニヒトにかわり、周章狼狽をきわめる最高評議会を叱咤し主導し始めたのだ。彼は迅速かつ的確な指示ときわめて格調高い弁舌を発揮し、フェザーンから侵攻してくるであろう帝国軍に対抗する態勢を作り上げていった。
彼はビュコック元帥に謝罪した上で帝国軍の迎撃へ向けて相互の全面協力を確約。積極性と自主性を喪失した統合作戦本部長ドーソン大将に命令を下して統合作戦本部を動かし、ビュコックを元帥に昇進させ、同盟軍が決戦に向けてあらん限りの機動戦力を集結させるのを助けた。ランテマリオ会戦で敗北しつつも一時的に帝国軍の侵攻を押しとどめることに成功した後は、同盟の最後の希望となったヤンの「ラインハルト・フォン・ローエングラムを戦場で敗死させる」という方策を理解し、政府をあげての協力を約束している。
しかしバーミリオン会戦終盤、ハイネセン上空に帝国軍が侵攻すると、トリューニヒトは再び姿を現した。トリューニヒトの「帝国軍の要求を受け入れる」という決定に対してアイランズは民主主義政治家として反対し、恩義ある派閥の長を亡国の政治家にしないためにと抗議を続けたが、その努力はトリューニヒトによる地球教徒の導入によって無為に終わった。
”バーラトの和約”ののち、トリューニヒトは辞任したが、その後任は在野でトリューニヒトに反対しつづけたジョアン・レベロであった。アイランズはトリューニヒト辞任と同時期に、なかば廃人状態となって病の床に就いていたのである。彼は覚醒の半年間に全精力を注ぎ込み、それをもはやつかいはたしていたのだった。
人物
トリューニヒト下で国防委員長となったころのアイランズは、ネグロポンティからの交代に伴う軍事政策的変化の可能性が皆無とみなされていたことからもわかるように、派閥抗争と猟官と利権のみに目を向けた無気力・不見識の人物であり、トリューニヒトの持つ軍需関連の利権のおこぼれにあずかる身に甘んじる程度の政治業者に過ぎなかった。他の閣僚からさえ同様に「”伴食”という辞書の項目の生きた実例」とみなされ、「権力機構の薄よごれた底部にひそむ寄生虫」と表現されるような人物であったアイランズだが、しかし彼の裡には、そのどこかに民主主義政治家・愛国的公僕としての精神と手腕が隠されていたのである。
そして帝国軍の侵攻という難局にあって、おそらくアイランズ自身存在するとは思っても見なかったであろうその隠れた力が姿を現した。「国防委員長の守護天使が勤労意欲に目覚めた」のである。風貌すらも10歳は若返ったかのようで、背すじを伸ばし、皮膚はつややかになり、歩調は力強さを取り戻した。頭髪こそ帰っては来なかったが、彼は見た目にも精神的にも圧倒的な活力を発揮し始め、さらに正確な洞察力と認識力までも示した。彼は状況に対する最善の方策として、それまでの同盟の方針であった単純な抗戦・反帝国戦争ではなく、「講和のための条件をととのえる」という結論に至ったのである。
「目覚めた」のちの彼はそれ以前の自身の態度を率直に自己批判することもあり、またむやみに高圧的な態度を取ることもなくなった。これには常日頃国防委員長に対して不満を隠せなかったビュコックも評価を改め、ヤンでさえ、考え方や論法において一致しないことが多々ありはしたものの、アイランズの変化に水を注すことなく、最低限真剣かつ誠実にその期待に答えようとしていた。
関連動画
関連項目
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