担当声優は石塚運昇(石黒監督版)、安斉一博(Die Neue These)。
略歴・国防委員長時代
宇宙暦755年2月13日生まれとされる。自由惑星同盟の最高学府である国立自治大学を主席で卒業。その後もしくは在学中から政治参加を目論んでいたものと思われ、宇宙暦788年にはすでに若手の代議員・国防委員として頭角を表している。
宇宙暦796年、国防委員長に就任していたトリューニヒトはフェザーンからの情報を元に帝国の侵攻を阻止すべく3個艦隊を派遣。しかし、ラインハルトに各個撃破の隙を与えてしまい2個艦隊が壊滅すると言う大敗を喫する(アスターテ会戦)。情報統制のためとヤン・ウェンリー准将の活躍により一定の反撃に成功したこともあり、勝利であると大々的に宣伝しその戦没者追悼式を完全に政治利用した。ちなみに、この時に声をあげて会場で直接抗議したのが、のちに議員となり政敵となるジェシカ・エドワーズであった。
同年5月、少将に昇進したヤン・ウェンリーを使ってイゼルローン攻略作戦を成功させる。この勝利に気をよくした同盟首脳陣は支持率が低下していることもあり、さらなる勝利を求めて大規模な帝国への出兵計画を承認。しかし、現状の戦力と占領した帝国領の維持に問題があることを見抜いていたトリューニヒトは、ジョアン・レベロ財政委員長、ホワン・ルイ人的資源委員長と共に反対票を投じていた(ただし、他の二人の委員と違い積極的に止めようとしてはいない)。この判断は適切であり、10月に至り同盟はアムリッツァ星域で完膚無きまでに敗北。出兵に反対していたと言う見識が評価されて、ついに最高指導者職である最高評議会議長に就任する。
最高評議会議長時代
宇宙暦797年、選挙対策として帝国から要請があった捕虜交換に応じる。しかし、来るべき帝国貴族との内戦を考えていたラインハルトは、この中に工作員として抱き込んだアーサー・リンチ少将を紛れさせていた。クーデターによって同盟に混乱をもたらすことにより、後背の安全を確保しようとしたのである。この目論みは成功し、リンチに扇動された救国軍事会議を名乗る反乱部隊は4月13日ハイネセンを占拠。閣僚と軍首脳部を拘束する。
しかし、この動きを事前に察知していたトリューニヒトは地球教の手引きによって逃走し、事態が収拾されるまで地下に潜伏する。救国軍事会議はその後ヤン・ウェンリーの活躍によって鎮圧されるが、トリューニヒトはそれを防げなかった責任を取るどころか、内通していたベイ大佐を通じて抵抗に貢献したとマスコミに喧伝。自身の政治的地位を高めるとともに、クーデターを起こした軍部の粛軍を行いシンパを要職につけることでその影響力を揺るぎないものとした。また、政敵であったジェシカ・エドワーズも救国軍事会議に殺害されており、国内にはもはや組織的に彼に対抗できる人物はイゼルローン要塞を抑えていたヤン以外に存在しなくなっていた。
宇宙暦798年4月、このヤンの動きをけん制すべく、フェザーンの陰謀もありネグロポンティ国防委員長を使嗾してヤンをハイネセンへと召喚。査問会にかけてその真意を問いただすが、これは帝国のイゼルローン侵攻もあり失敗。
同年、帝国内で皇帝であったエルウィン・ヨーゼフ2世がアルフレッド・フォン・ランズベルク伯ら亡命貴族の手引きで同盟に亡命(誘拐)する事件が発生。これを受け入れ同盟内に銀河帝国正統政府を樹立させる。また、ヤンのもとで客将として活躍していたウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツを軍務尚書に任じると言う形で引きはがし、従卒であったユリアンをフェザーン送りとする。しかし、これはラインハルトにとって同盟侵攻への格好の口実となり、帝国民衆にとっては悪政を敷いていた貴族たちの復活を掲げているとしか捉えられず、彼らとの融和を不可能なものとした。圧倒的な国力・兵力さを考えれば危険な冒険であった。
この危機は12月、予想だにしていなかった帝国軍のフェザーン侵攻と言う最悪の形で噴出し、イゼルローン要塞とヤン・ウェンリーに頼り切っていた国防方針は根本から崩壊する。もはや勝ち目がないことを悟ったトリューニヒトは職務を放棄して国民や最高評議会の前から逃亡。ネグロポンティに代わって国防委員長についていたウォルター・アイランズがなし崩し的に最高評議会を主導する。
明けて宇宙暦799年、アイランズは周りからの低い評判をはねのけ、精力的にヤンやビュコックらと連絡を取り合い彼らに同盟の全てを託す決断を下す。2月、ランテマリオ星域会戦でついに本格的な両軍の衝突が発生。指揮を執ったビュコックの粘り強い抵抗もあり、大損害を被りつつイゼルローン要塞を脱出したヤン艦隊との合流に成功。戦力を整えたヤン艦隊は続くバーミリオン星域会戦でも善戦、ラインハルトの乗艦であったブリュンヒルトを射程に収めることに成功する。
しかし、ラインハルトの補佐官であったヒルダの策略により、イゼルローン回廊から侵攻していたミッターマイヤーの帝国艦隊が同時期にハイネセン上空へと到達。首脳陣の身の安全と引き換えに降伏を要求する。トリューニヒトはこれに応じ、異を唱えたビュコックやアイランズらを地球教教徒の力で拘禁。ヤンに停戦を命令し、戦闘は終結する。
その後、記者会見を開いたトリューニヒトは敗戦の責任を取ると称して辞任。政権をジョアン・レベロに放り投げる。その敗戦に至るまでの経緯を知らされた国民はトリューニヒトの裏切りに激怒したが、本人は家族や財産を携えて悠々と安全が保障された帝国へ逃亡する。
帝国時代
同年、帝位についたラインハルトはヒルダの懇願もありキュンメル邸へと行幸するが、地球教は当地において暗殺を計画していた。地球教を利用していた関係からその計画をつかんでいたトリューニヒトは、憲兵総監のケスラーに全貌を密告。結果、暗殺計画は失敗しのちに帝国内で役職につく機会を得る。
また、この年のうちに帝国は同盟へと再侵攻。同盟は滅亡し、ビュコックやレベロら同盟の存続に身命をかけた人物もこれに殉じた。さらに宇宙暦800年6月にはヤン・ウェンリーまでもが暗殺され、部下であり政敵であった同盟の人材は全て死に絶えた。
この時期、ラインハルトのもとに仕官を願う活動を行う。ラインハルトは悪ふざけと拒否した場合に罰する口実を得るため、旧同盟領(新領土)の総督府高等参事官と言うあまりに針のムシロ的な役職を提示した。しかし、トリューニヒトは何ら恥じる様子もなくこれを受託。そのままかつて自分が統治していた同盟領へと向かう。
10月上司であったロイエンタールがウルヴァシー事件をきっかけに謀反人に貶められると、ロイエンタールはイゼルローン要塞に籠っていたユリアン・ミンツら同盟の残存勢力の歓心を買うために、トリューニヒトの身柄明け渡しを提案するが拒絶される。逆にイゼルローン政府は帝国と結び、回廊の通行権を一時的に認めてこれに協力。部下の裏切りもあり、ロイエンタールは敗北してハイネセンへと撤退する。
ここでもトリューニヒトはその命脈を保つかに見えた。実際、ロイエンタールが謁見を求めた際も何ら危機感を抱かず、嬉々として自分の行動原理を披露している。しかし、ロイエンタールはラインハルトへの忠誠心を捨てた訳ではなかった。
予想外のそして理不尽な一発のブラスターの閃光により、この稀代の政治的寄生虫の人生は幕を閉じるのであった。
人物
編集者が言うのも何だが、上記の略歴のどこを読んでも政治的生命力および悪運の強さを物語るエピソードばかりであり、一部読み飛ばしたところで彼の悪辣ぶりは隠しようもない。その不気味なまでの生命力と洞察力は、彼を毛嫌いし軽視していたキャゼルヌやロイエンタールでさえ「悪魔と取引でもしたのか」「フェザーン人も驚きの商売人」と畏怖をもって語っている。
鵺的で妖怪じみた人物像はラインハルトでさえ(と言うかラインハルトだからこそ)把握ができず、高等参事官職につけた際は「トリューニヒトの羞恥心の質と量を誤解していた」と評されるほど。ラインハルトも決して人間として政治家として完璧な訳ではなく失敗もいくつか犯したが、その中でもキルヒアイスの死に次いで痛恨の失敗だったと言える。ラインハルトは民主政治の欠点として彼の存在を例として考えていたが、当の専制政治ですら彼を排除出来なかったのである。
能力的には政治力(俳優にたとえられた美顔と演説に必要な美声)を除いて満足行くものではない。特にエルウィン・ヨーゼフ2世の亡命と銀河帝国正統政府樹立は彼の本来の無能・凡庸さを露呈したものである。ただ、これはウィルスや寄生虫が寄生に必要な能力以外を削る進化を志すようにあえて捨てたのが真実なのではないのだろうか。
実際、他人の生命を養分にして吸い付くし、それが枯れると今度は他の勢力や人物にすり寄る様は寄生虫そのものである。具体的に餌食となったのは同盟だが、その過程で大量の将兵はもちろんのこと、ヤンやビュコック、レベロなどの政敵、さらには自分の味方であったハズの政治軍人たちも多くが世を去った。にも関わらず、彼だけは平然と生き延びる様には多くの者が戦慄を覚えたとされる。
彼自身には政治思想と呼べるものはいささかもないのだが、戦争を賛美し憂国騎士団と呼ばれた私兵を使った政治手法から右派であったとは言える。しかし、自身は安全な場所からそれらを操り、戦争や政治によって生まれる利益や利権を独占し地位の向上を図り続けた。これでもなお自分を支持することから、内心では大衆を馬鹿にしており「所詮は風にあおられる凧に過ぎない」とまで断言している。
さすがの同盟市民も帝国の侵攻を前にした職務放棄で彼の能力に対する疑問を抱きはじめ、それは自身の身の安全を優先した降伏劇で確信に変わったとされる。だが、時すでに遅く、トリューニヒトは新たな宿り木を帝国に定め同盟の存続価値と大衆の支持などもはや問題ではなくなっていた。
その帝国でも散々救われてきた地球教をあっさり売り渡し、さらにロイエンタールを巻き込んで自己の栄達を望んだ。最終的な野望は帝国に憲法を作らせ、その政治機構の中で自らが宰相として振る舞うと言うものだったと言う。これは後世の歴史家の間でも実現可能であったかどうか意見が分かれているが、憲法についてはユリアンやヒルダたちの政治的志向と合致していたこと、ラインハルトの死後に帝国は立憲制に向かった描写があることなどから不可能ではなかったハズである。だからこそユリアンは衝撃を覚え、同時に民主政治の善悪について深く思いを馳せたと言う。
また、善政であったラインハルトの専制政治・同盟の民主政治・ラインハルト死後に必然的に訪れたであろう立憲政治…いずれも「善意」に基づく制度であることに着目して欲しい。原作では少年兵や志願した少女の看護婦、傷病兵を見舞って手を取り合ったため、反対派でさえその情景を盾にされて口をつぐんだと言う描写も存在する。こう言った善意こそが彼のよりどころであり養分であったのだ。これを絶ったのは(ラインハルトへの忠誠心がその動機とは言え)ロイエンタールが放った「悪意」の銃撃であり、トリューニヒトは死の恐怖よりもその理不尽さを咎めるような表情で死を迎えると言う皮肉な最期を遂げる。
作中での不気味な存在感と他の作品では見受けられない政治に特化した悪役であることから、憎まれ役でありながら読者の間では好悪含めて圧倒的な人気がある人物。漫画版の制作者である道原かつみは特にお気に入りのキャラとして彼を挙げており、作中ではバラを加えてナルシストめいた発言をするなど原作よりもビジュアル面で目立った描き方をしている。また、ネットではポピュリズム的な政治家が話題に上ると、ガンダムのギレン・ザビに次いで彼の名前が挙がることも多い。
関連人物
- ヤン・ウェンリー - 部下であり政敵。もっともヤンは政治家になるつもりもなく毛嫌いしている程度。
- アレクサンドル・ビュコック - 部下であり政敵。制服組人事のうち、手が出せなかった人物の一人。
- ロイヤル・サンフォード - 元上司。帝国領侵攻失敗の責任を取り辞職。
- オスカー・フォン・ロイエンタール - 空気読めない上司。
- ウィリアム・オーデッツ - ニュースキャスター。トリューニヒトを弁護した。
- ベイ - 配下。トリューニヒト派の制服組軍人。クーデター時にスパイとして暗躍。後に直属の警護室長。
- ネグロポンティ - 配下。国防委員長。査問会中に帝国軍の侵攻を受けたことで失脚。さらっと天下りした。
- ウォルター・アイランズ - 配下。上記人物の後任。政治家としての評価は低いが、危機を前に奮戦する。
- エンリケ・マルチノ・ボルジェス・デ・アランテス・エ・オリベイラ - 歴代政権のブレーン。トリューニヒトが卒業した国立中央自治大学の学長。数少ない、トリューニヒトよりも後に失脚・死亡した人物。
- ドーソン - 統合作戦本部長。特段トリューニヒト派というわけではないが、幼帝亡命などで協力。
- ロックウェル - トリューニヒト派の代表的制服組。ジョアン・レベロ政権下で統合作戦本部長となるが、数々の陰謀を巡らせた上で最期はレベロを殺害。その卑劣な態度がラインハルトの怒りを呼び処刑される。
- ハインリッヒ・フォン・キュンメル - 己の全てを捧げた弑逆事件を踏み台にされる。
- ド・ヴィリエ - 地球教の大主教。作中では直接の面談は描かれいないが、トリューニヒトの屋敷に出入りしていたところをボリス・コーネフらに目撃されている。地球教を売った後もド・ヴィリエとはつながりがあり、地球教側も「その存在そのものが帝国を腐らせる」ことを期待し恨んではいないようである。
ド・ヴィリエを除いてほとんどの人物がトリューニヒトよりも前に死亡または政治的生命(ロイエンタールもこちらに分類されるだろう)を絶たれている。
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関連項目
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