ターボチャージャーとは、主にレシプロエンジンに取り付けられる装置で、排気エネルギーで吸気側の空気圧縮を行い、よりエンジンに空気が多く入るようにするものである。
概要
エンジンの出力を増大させるには燃料の量を増やす必要があるが、それだけ燃料を完全燃焼させるための空気量も増やさなければならない。このため、あらかじめ圧縮して密度の高い空気をエンジンに供給するという「過給」が考え出された。
ターボチャージャーはこの過給方式の一種で、エンジンの排気エネルギーでタービンを回し、その回転力でコンプレッサーを回転させて空気を圧縮し、高密度の空気をエンジンに供給する。
エンジン出力の一部を使ってコンプレッサーを駆動する「スーパーチャージャー」という方式もあるが、ターボチャージャーは本来は大気に捨てられてしまう排気のエネルギーを利用するので、エンジン全体のエネルギー効率はより有利ということになる。
歴史
黎明と普及
最初にターボチャージャーシステムを提唱したのはスイスのアルフレッド・ビュッヒである。1905年に特許が取得され、ルドルフ・ディーゼルの発明したディーゼルエンジンとの組み合わせが図られた。第2次世界大戦前の1925年には完成し、彼らの手によってディーゼルエンジンにターボを装着した船舶用として用いられた。
航空機用エンジンへの適用は第二次世界大戦時にアメリカが実施、高高度を飛行する爆撃機、それを護衛する戦闘機のエンジンにターボチャージャーが装備された。[1]
鉄道車両用ターボ
鉄道車両用としては、非電化線区用のディーゼルエンジン車両のパワーアップ用としてこちらも割と古くから用いられてきた。日本においては、戦後のディーゼルカー用エンジンの主力となったDMH17系エンジンは自然吸気式であった。だが、ディーゼル機関車においては1957年登場のDD13用のDMF31系エンジンがターボを装着して好調な実績を上げた。国鉄ではこれをディーゼルカーに転用しようとしてキハ60系を作るも失敗。結局新開発された1966年登場のDML30系エンジンがキハ181系、キハ183系などに搭載されて、沿線にタービン音を響かせながら快走することになる。
自動車用ターボ
こうしてターボは船舶用、鉄道車両用としては完全に定着し、現代に至るまで用い続けられている。そして、航空機においてはジェットエンジンの発展で花形からは外れることになったが、現在でも一部残るレシプロエンジン航空機で用いられている。
さて、ターボといえば「自動車の性能をアップさせる装置」という認識が一般的だが、その歴史も見ていこう。
上記の通り船舶用や航空機用としては戦前から存在していたターボだったが、自動車に搭載するにはまだまだ大掛かりすぎるシロモノだった。実用的レベルにまで小型化されるには、1960年代まで待たねばならない。
1962年にアメリカのゼネラルモーターズから、「オールズモビルF85」「シボレー・コルヴェア」に初搭載された。そして、ドイツのBMW社がモータースポーツで実戦投入の後に、1972年に「2002ターボ」を発売する。
1975年にはポルシェが「911ターボ」を発売。この車は、当時日本で巻き起こっていたスーパーカーブームによって広く知られる存在となり、「ターボ付き=高性能」という漠然としたイメージを日本人にも植え付けることになった。
1979年には初の国産車のターボ車として、日産・セドリックおよび日産・グロリア(430型)のターボ搭載モデルが登場した。
1980年代には他のメーカーも追随し、特に日産と自社グループでターボシステムが生産できた三菱はターボ車を多く市場に投入することになった。
1990年代には国産車のパワー競争が頂点に達し、数多くのターボ搭載モデルが生まれたが、21世紀に入ると乗用車の市場の中心がいわゆるミニバンに移り、スポーツ車としてのターボは一旦廃れることになる。
21世紀以後はいたずらに高性能をもとめるよりは、小排気量で大排気量なみのドライビングを実現するためのターボシステム、いわゆる「ダウンサイジングターボ」が主流となり、乗用車だけでなくバスやトラックなどの実用車にも普及していくことになる。
余談だが、2021年現在において、日本の自動車税の基準となる排気量は自然吸気(ターボチャージャーなし)でのエンジンと同様の扱いで判定されることになっている。
例えば、劇的に税金が安い軽自動車にターボを搭載することで、普通の乗用車に匹敵する加速性を持たせることが出来る。
インタークーラー
ターボはその特性上、吸気側の空気が圧縮熱によって高熱になる。それで空気が膨張して薄まってしまう。これではせっかくの空気充填の効果が半減することになる。
そこで、ターボのコンプレッサーからエンジンの吸気バルブまでの間に空気を冷却する装置を設け、充填効率をより上げようとするものがインタークーラーである。さらに、吸気の冷却はノッキング(混合気の異常燃焼)も起こりにくくするため、エンジンの圧縮比をより上げてパワーやトルクの特性を改善することができる。自動車用ターボにおいては、1980年代半ばから採用され始め、現代では当然の装備となっている。
バリエーション
ターボによるパワー供給を大きくする=供給する空気量を増やすにはどうするか?タービンを大きくしてより大量の空気を送り込めるようにすればいいというのが単純明快だろう。
一方、ターボが大型化すると、大きなタービンが加速するまで多くの排気が必要となるため、エンジンが低回転(排気が少量)の段階では力が発揮できずいわゆる『ターボラグ』を生じる、そして加速したらしたで適正な排気量…一定の回転数で回り始めたタイミングで大きなパワー増大が発生する俗に言う『ドッカンターボ』という特徴のクルマにしてしまう。
『ターボラグ』、『ドッカンターボ』共に運転者の意図しない挙動として表れやすく、いわばじゃじゃ馬な印象を受けやすい。扱い辛いということはコンマ数秒を削り合うレースにおいて明確な隙や弱点、危険な事故を産む脆弱性になりかねない。
それを解決すべく様々な取り組みがなされており、一言でターボチャージャーと言ってもバリエーションがある。
ツインターボ
「大きいターボがターボラグの原因なら、小さいターボをたくさんつければいいじゃない」というシンプルな発想。ターボシステムの小型化を図りつつ大型ターボシステム並みの過給効果をねらったもの。
上記のターボラグ解消の他に、排気脈動の揃うシリンダーからの排気をまとめることで、より効率よく排気エネルギーを拾えるというメリットもある。
欠点はなんだかんだターボ2個分の搭載スペースを要すること。小型車についてない・つけられないケースは多々ある。 また、小さくなってもターボなので、ターボラグは小さくなったとはいえ存在している。
日本車では、トヨタのマークII・チェイサー・クレスタにかつて搭載された1G-GTEU型。日産のスカイラインR32・R33・R34GT-Rに搭載されたRB26DETTなどが知られている。
なお、このニコニコ大百科ではツインターボといえば競走馬名であり、そちらをテーマとした独立記事が先に立っている。
ターボ(過給機)の名前が付いているのに戦法にスタミナ(酸素摂取量)が不足しがちという面白いお馬。
シーケンシャルターボ
ツインターボでも根本的にはターボラグは解消しきれない。これを解決すべく、低回転用の小さいターボと、高回転用の大きいターボ(セカンドタービン)を併設するというこれまた脳筋単純明快なシステムを用意したのがシーケンシャルターボである。
最初は小さいターボで加速し、適度な勢いがついた段階で大きいターボの加給に繋げていくことで、扱いやすさと大型ターボ並みのピークパワーを両立できる。
欠点はやはり低回転域で大きなターボが仕事をしない分のロスがあること、両方のターボが回転を始めるタイミングとその出力バランス次第で『ドッカンターボ』としての特性が現れてしまうなどのポイントがある。
日本車での代表車種はマツダRX-7(FD-3S)。漫画「頭文字D」で高橋啓介が「セカンダリータービン止まってんじゃねーのか!?」と叫ぶシーンはよく知られている。
ツインチャージャー
上述の小型ターボですら、ターボラグは解決できないなら、ドライブシャフトと一体となって、アクセル開閉と完全連動しているスーパーチャージャーをターボチャージャーと併設すればいいじゃんというもの。
走りだしはスーパーチャージャーにより“山”の無い加速が可能で、スピードが上がる高回転域から大型ターボによってピークパワーを伸ばすことができる。
一方、スーパーチャージャーがドライブシャフト…つまりタイヤに伝わるまでの経路でエネルギーを分けてもらう形式なので、エンジンが生む全体のパワーからのロスが相応にあること。
なにより性質の違う2つの機械を併設するためサイズや重量は勿論、2つの性質の違う機械で目的通りの滑らかな出力として繋げる技術、そしてそれらを整備するコストもバカにならない。
そのため、試験的にいくつかのモデルで搭載されたものの、主流になっているとは言えない。
有名どころはフォルクスワーゲンのTSIシステムなど。日本車では昔から整備性度外視なきらいのある日産のマーチR(スーパーターボ)ぐらいなので、どれほど難解なシステムか察しがつくかもしれない。
電動ターボ
「排ガスが出るまでターボは動かない」のがターボラグの原因なら、先に電動モーターで予め回してしまえばいいじゃないという解決法。
細かく分けると2つあり、前述の「ツインチャージャー」のスーパーチャージャー部分を電動モーターにすることで、ドライブシャフトに寄生することなく低回転域の過給をする方法(モーターチャージャー)
もう一つは、ターボのタービンの中に電動モーターを仕込み、パワーが出る回転数まであらかじめ回転させる方法(電動アシストターボ)の2つがある。
いずれも応答性の高い電動モーターを活用することにより、上述の機械式よりも滑らかなパワーの出方を実現させやすいと期待されている。
現代のF1で採用されているパワーユニットのMGU-H(Motor Generator Unit - Heat)はこれの一種。
欠点は電動ゆえに専用の制御系と電池が必要になること。そして高回転ゆえに(特にターボ内蔵型は)発熱への対処やモーターの耐熱性の問題をクリアする必要があるため、相応に技術とコストがかかる。
賢明な読者なら気づいたかもしれないが、「それ、ターボに回さず、直接タイヤを回すハイブリッド車でよくね?」問題もある。
新たな技術であるゆえ熟成されていない技術なので、どのように発展していくか注目されるところ。
関連動画
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関連項目
脚注
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