マグロ一本釣り伝説 じょっぱれ瞬!とは、『週刊少年マガジン』において連載された漫画。原作は佐々木善章、漫画は若松浩。
概要
東京に住む中学3年生の小泉瞬が、蒸発した父親の借金を返済するため青森県の大間へ向かい、マグロ漁に出る物語となっている。「じょっぱれ」とは津軽弁で「がんばれ」という意味で、直訳すると「(マグロを釣り上げるまで)がんばれ瞬」である。2006年52号に連載開始されたが2007年10号に連載終了となった。
連載の経緯
この漫画が連載された当時の週刊少年マガジンは世代交代が行われており、同時に色々なジャンルの試みが行われていた。その中で2006年の年末頃に渡哲也主演の『新春ドラマスペシャル・マグロ』の放送が決定し、さらに番組告知CMで渡哲也が「マグロ!」と叫ぶ光景がブームとなり、テレビ朝日以外の他局でもこの作品を話題にしたり、ニコニコ動画では『マグロイド』と言われるMAD動画が多数投稿された。その様子を見た講談社のある幹部が「乗るしかない、このビッグウェーブに」といわんばかりにマグロ漁を題材にした連載を指示し、本作品の連載が決定したとされている。
このように連載が決定したものの、便乗元の『新春ドラマスペシャル・マグロ』がどういった作品かすら知らない状態(週刊少年マガジンでは『釣りキチ三平』など釣りをテーマにした作品は前からあったが、今回は釣りというより漁であり、漁をテーマにした漫画は前代未聞である)であったことや連載開始まで時間がなかったこともあり、突っ込みどころ満載な設定となってしまった。
- 家族全員が蒸発した状態(この時点で児童相談所へ連絡が行って保護される)で15歳の中学生が父親の借金を返済しようとする。
- 取立屋が連帯保証人でもない中学3年生に対して取立行為(貸金業規制法第21条違反)を行ない、さらにゲイ向け風俗店で働かせようとする(但し取立屋も例を出しただけで本気でさせる気はなかった)。
- 日雇いアルバイトをしたり(中学生のアルバイトは労働基準法第56条2項で禁止)日当を馬券に注ぎ込み儲けようとする(中学生の馬券購入は競馬法28条で禁止)など、明らかな違法行為の記載。
- 東京から大間まで飲まず食わずでママチャリで向かう(移動距離は直線でも700km)。
- 小型船舶操縦士の免許もないのに船を動かして漁に出てしまう(小型船舶操縦士免許の取得は18歳になってからであるが、最終回でも18歳になっていないのに自分で操縦して漁に出ている)。
上述の通り21世紀とは思えない設定か散見されているが、そもそも「借金返済のためマグロ漁船に乗る」という設定自体が都市伝説の類とされ、仮にあったとしても日本国外へ数か月から数年かけて行う遠洋漁業ならともかく津軽海峡の近海漁業ではありえないことである(ちなみにマグロは世界中で漁獲量が規制されており、遠洋漁業もマグロではなく蟹やすけとうだらにシフトしている)。また、大間のマグロ漁を管理している大間漁業協同組合は全国の漁協の中でも特に厳しい対応をするところで、安易に参入しようとしたところで叩き出されるのがオチである(『新春ドラマスペシャル・マグロ』も大間での撮影はほぼ許可されず、対岸の函館で行われている)。
このように無茶苦茶な設定ということもあり連載開始3話目の第2・3合併号(発売は2007年12月26日)で早くも巻末に追いやられ、年が明けて『新春ドラマスペシャル・マグロ』が放送されたが「大間の漁師とその家族を取り巻く話」と本作品とはまるで違う内容で、かつドラマのほうも視聴率が目標に達せずブームはあえなく終了。このような状況もあり本作品もあっさり打ち切られた。
連載数はわずか9話(2006年は52号が最終で、2007年は2・3号と4・5号が合併号)と、短期集中連載としなかった作品としては最短とされており、単行本も全2巻であるが本編の9話では埋め切ることができず、単行本用のエピソードが2話分追加された。
影響
週刊少年マガジンは以前から編集部が主導して方針をきめているとされ、「ブームに便乗する作品」も当時の編集長による方針が強く[1]、この時期は本作品以外でも『日本沈没』やフィギュアスケートブームに便乗した作品の連載が行われたがいずれも短期で連載が終了している。そして2013年に編集長が変わってからは方針が転換され、このような「ブームに便乗する作品」は少なくなった[2]。
本作に関連した憶測
本作の連載と早期打ち切りに絡み、当時様々な憶測が流れているので紹介する。なお、あくまで憶測であることから信憑性はないものとする。
キバヤシ連載延期説
本作品の連載終了後、入れ替わる形で『BLOODY MONDAY』の連載が開始されたが、元々は本作ではなく『BLOODY MONDAY』の連載が開始される予定であった。しかし原作者のキバヤシこと樹林伸が当時『GetBackers-奪還屋-』と『エリアの騎士』の連載を抱えている状態で、さらに『GetBackers-奪還屋-』が連載終了の締めに入っていたことや『シバトラ』の連載開始準備もあったことから、さすがのキバヤシも手が回らない状態で連載が延期となってしまった。そこで延期の穴埋めとして先述の経緯で急遽本作の連載が決定。延期期間が不明だったため通常の連載となり、年が明けて『BLOODY MONDAY』の連載開始の目処がついたためお役御免になったとされている。
しかし入れ替え対象は同じキバヤシ作品の『GetBackers-奪還屋-』とされ、『GetBackers-奪還屋-』の連載終了が12号、『BLOODY MONDAY』の連載開始が17号と辻褄が合うため本作は関係ないとされ、本作の入れ替わりは『妖怪のお医者さん』とされている。
キルウィザード代替説
本作の連載開始前にファンタジー作品の『キルウィザード』が短期集中連載されており、好評であったことから正式連載が決まっていたが、この直後に『FAIRY TAIL』の連載が開始され、既に『ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-』の連載がされていたこともあり「1ジャンル2作品の法則」から『キルウィザード』の正式連載が流れてしまい、その穴埋めとしてジャンル違いの本作の連載が開始されたという説がある。この話の根拠として作者である水薙竜(当時は水薙竜唳)が連載終了後も自身のブログ(現在は閉鎖)で設定を多く展開していたことから、「正式連載に向けての準備が行われている」というファンの憶測が独り歩きしたことから生まれたとされている。
しかし正式連載の話は誌面に一切なく、「好評だったから正式連載」というのはあくまでファンの憶測に過ぎない。確かに週刊少年マガジンでは短期集中連載から正式連載になった作品は数多くあるが、逆に連載されなかった作品もあり[3]、またブログの内容も短期集中連載の消化できなかった内容の追記だった可能性もあり、こちらのほうも本作に関係がないとされている。
なお、水薙竜は暫くして「good!アフタヌーン」で『キルウィザード』の設定を取り入れた『ウィッチクラフトワークス』の連載を開始し、こちらはアニメ化もされている。
ハモリぶん投げ代打説
長年週刊少年マガジンで連載していた刃森尊が当時連載していた『格闘料理人ムサシ』について編集部と対立し、連載を放り出してという説がある。実際最終回で主人公が料理に下剤を入れるという料理漫画としてやってはいけないことをやったうえでそのまま週刊少年マガジンで連載しなくなったことから、代打として急遽本作の連載が開始されたという説もある。
ただ刃森尊はその後月刊少年マガジンで連載を開始し、週刊少年マガジンでも宣伝していたことからケンカ別れではなく週刊連載のペースについていけなくなったことによる円満終了だった可能性が高く、この説も信憑性が著しく低い。
登場人物
- 小泉瞬(こいずみしゅん)
- サッカー部に所属する中学3年生。運動神経はいいがGKに体当たりして退場処分を受ける[4]などそそっかしい。父親が蒸発し、借金返済のため大間へ向かう。
- 健(けん)
- 大間に住む漁師の息子で、瞬と同じ年。突然大間へ来た瞬をうざったがっている。
- ゆりね
- 大間に住む少女で、瞬や健と同じ年。可愛い容姿であるが、空手初段である。
- 山(やま)
- 健の父親。大間一の猟師で頭にタオルを巻いている。瞬が勝手に自分の船を乗っ取り漁に出た際追いついて奪還したが、そのまま瞬を乗せてマグロ漁の厳しさを教える。
- バタ
- ゆりねの祖父。かつて瞬の祖父と大間一のマグロ漁師を競っていた。瞬の事情を知り居候させる。大物を釣ろうとした際負傷してしまい代わりに瞬と健が釣り上げたが、周りが「本当はバタさんのものでは」という主張に対し「あいつらが釣り上げたものだ」と笑いながら答えるなど心が広い。
- 桜井(さくらい)
- 借金取立人。瞬には支払い能力がないため上司の命に反して逃がそうとする。マグロ漁を馬鹿にしていたが稼げる金額を知り唖然とする。最終回でなぜか山のもとでマグロ猟師見習いになっている。
- 十和子(とわこ)
- 瞬の母親。瞬の父親に愛想を尽かし瞬を置いて蒸発してしまう。本編では回想のみであるが、単行本にてその後の顛末が描かれている。
関連項目
脚注
- *但し80年代後半から90年代後半にかけても同様の傾向がみられ、他社の作品に影響された『スーパードクターK』や『名門!第三野球部』、タマモクロス・オグリキャップの「芦毛ブーム」に乗った『風のシルフィード』などがある。
- *『海猿』に対する『トッキュー!!』やAKB48に対する『AKB49〜恋愛禁止条例〜』など長期連載となって成功した例もあるが、前者は『海猿』の原案者と『トッキュー!!』の原作者は同じ小森陽一で、『AKB49〜恋愛禁止条例〜』もAKB48公認(秋元康が関与)など成功しているのは公認されたものが多く、失敗したのは非公認のものが多い
- *『彼女、お借りします』の作者である宮島礼吏が短期集中で連載した『鈴木の視点』も正式連載されていない。
- *ちなみにピクシブ百科事典やブログで「自陣に突っ込んでオウンゴール」という記載があったが、これは週刊少年マガジンで1992年に連載されていた『かましたらんかい!!』という競輪漫画での話である。
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