ミノタウロスの皿とは、藤子・F・不二雄のSF短編漫画である。
概要
藤子・F・不二雄のSF短編の処女作であり、代表作の一つ。1990年に「藤子・F・不二雄のSF短編シアター」でアニメ化された。文化、倫理、そして価値観の違いを描いた一作。
ショッキングな展開が目を引くが、その後に読み返すことで物語の解釈に深みを与える。
この漫画が描かれた当時、劇画ブームでコミック読者の年齢層が広がる一方、従来の生活ギャグ漫画が斜陽になりつつある時代だった。藤子・F・不二雄も例外ではなく、気合を入れて描いていた『21エモン』『ウメ星デンカ』が思うようにヒットせず、本人も落ち込んでいた時期だと語っている。そんな中、ビッグコミックの編集長・小西湧之助から一本描いてみないかと誘われ、描かれたのがこの作品である[1]。今作の好評を皮切りに、藤子・F・不二雄は「SF異色短編」と呼ばれる数多くの傑作短編を生み出していくこととなる。
なお、今作を描くにあたり、民話特有の残酷な小話「猿後家」に触発されたと語っているが、「猿後家」は落語の一噺であり、正確には「猿婿入り」ではないかと言われている。
登場人物
- 主人公
本名は不明。宇宙船のトラブルによって宇宙空間を遭難する中、幸いにも地球型の惑星「イノックス星」を発見。美しい少女「ミノア」に助けられ、救助が来るまでイノックス星で過ごすことになる。しかし、とある出来事をきっかけにイノックス星の驚くべき事実を知ることになる。 - ミノア
美しい少女。大祭の祝宴において「ミノタウロスの皿」にのせられることが決まった。
ネタバレ
この項目は、ネタバレ成分を多く含んでいます。 ここから下は自己責任で突っ走ってください。 |
イノックス星では、地球におけるヒト(作中では「ズン類」)とウシ(作中では「ウス」)の立場が逆転しており、ウシがヒトを家畜にし、食用として飼っていた。ミノアも血統の優れた肉用種であり、大祭の祝宴でウシたちに食べられることが決まったのである。ヒトは産まれた時からおいしくなるように努力しており、ミノタウロスの皿にのせられることは最大の名誉なのだとミノアは誇らしげに語る。大勢の人の舌を楽しませ、特別に美味しければ大祭史に永久に名前が刻まれるのだ。発育の悪いヒトの末路はみじめなもので、「並肉でだめならハムかソーセージ。もっと悪けりゃ畑の肥料」なのだという。
主人公は納得できず、二日かけてウシたちを説得し、残虐な風習をやめさせようとするが、全く話が通じない。ウシたちはヒトを食べることを疑問に思ったことがなく、「食物連鎖の一環に過ぎない」「両者は深い友情で結ばれている」「食べてやることで魂を救う」など様々な意見で丸め込まれてしまう。
ことばは通じるのに話が通じないという……、これは奇妙な恐ろしさだった。
ドロ沼を歩きまわるようなもどかしさとでもいうか……。
説得が通用しないと思い知った主人公は、実力行使でミノアを奪取するためにレーザーガン片手に祝宴に乗り込む。しかし、ミノアは既に大皿型の山車の上で運ばれていた。主人公は「たすけてといってくれえ!!」と叫ぶが、その声がミノアに届くことはなく、そもそもミノアは主人公を祝宴に参加して自分をおいしく食べに来てくれたのだと思っていた。そして主人公はレーザーガンを手放し祝宴会場へ入っていく笑顔のミノアを見守ることしかできなかった。
最後のコマでは、迎えのロケットで救出された主人公が待望のステーキをほおばりながら泣くという皮肉の効いた結末が描かれている。
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関連項目
脚注
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