モンスターども……遊びは終わりだ!
THE KING OF FANTASY 八神庵の異世界無双 月を見るたび思い出せ!とは、史上最も説得力のある異世界無双ファンタジー小説である。
著者は天河信彦。監修はSNK。イラストはおぐらえいすけ(SNK)。KADOKAWA刊ドラゴンノベルスより、2019年7月5日に第1巻が刊行された。
長い題名だが奥付や特設サイトの表記から「八神庵の異世界無双」がメインタイトルらしい。
概要
SNKの格闘ゲーム『THE KING OF FIGHTERS(KOF)』シリーズの人気キャラクター・八神庵を主人公に据えた公式スピンオフ小説作品。SNKブランド40周年記念作品の一つに数えられている。
『KOF97』のエンディング後に異世界に転移してしまった八神庵と、その地で出会った女騎士アルテナ、魔法少女リリリの冒険を描く痛快ファンタジー活劇。現実世界の固有名詞や格闘ゲームの仕様などの豊富な小ネタと、プロのゲームディレクターでもある著者が書く「ゲーム風異世界」の丁寧な設定が特徴となっている。
ファンタジー世界と現代が舞台の格闘ゲームという脈絡のない組み合わせのようでいて、『KOFXIV』には異世界から転移してきた出場者がおり、本作の内容は本編でも全くあり得ない話ではない。また、KOF自体が日本神話をモチーフとした背景を持つため、原作にもロー・ファンタジーの要素はある。
良くも悪くも往年のSNKのノリが全開であり、何もかもが狂っているが、ファンにとってはSNKの復活に頼もしさを感じられるかも知れない。KOFの中でも特にエキセントリックな人物像を持つ一方で、私生活が謎に包まれている(案外まともらしいが想像しづらい)庵を単独でクローズアップするスピンオフでもある。
本作を発行するドラゴンノベルスは創刊に際して、WEB発小説・TRPG小説の他に「世界が認めた大作ゲームのノベライズシリーズを刊行」することをコンセプトに挙げており、変化球ではあるが本作が第1弾と言って差し支えないだろう。
ちなみに、KOFの出場者ではラルフとクラークがゲーム本編で異世界転移したことで知られる(怒号層圏 / 1986年)。
あらすじ
宿敵・草薙京との決戦の果てに――八神庵は異世界に転移していた。
その地で出会った女騎士アルテナをなりゆきで救った庵は彼女の勧めで武芸大会に出場するが、それはエサーガ公国を舞台にした冒険と激闘の始まりに過ぎなかった――。
登場人物
- 八神庵
- 主人公。異世界に伝わる予言に語られた魔王のように、月蝕の日に炎と共にエサーガ公国に現れた。ファッションセンスが異世界に馴染んだため、特に着替えたりせず元の(KOF97当時の)服を着ている。異世界に対しては暇つぶし以上のものを求めておらず、元の世界への未練も見せないが、転移に巻き込まれているかも知れない草薙京を当てもなく探している。
- アルテナ・ヴィークトリアス
- エサーガ公国唯一の女騎士。男女問わず彼女を慕うものは多い一方で疎ましく思う者もおり、公国からの扱いは決して恵まれたものではない。命の恩人であり優れた武芸者である庵に一目置いているが、彼の無頓着な態度に辟易している。容姿は『KOF』版の麻宮アテナに瓜二つ。背景は『アテナ』のアテナ姫に近い。17歳。
- リリリゥム(リリリ)
- ヒガツミ魔導王国の魔法少女(自称)。最上級の魔法学校である超級魔法使い養成学校の首席だったが、卒業祝賀会で泥酔して魔法を失敗し校舎を壊滅させた。杖の代わりに天狗のような面を用いる。光石(後述)を素手で砕くほどの怪力。容姿はユリ・サカザキに瓜二つ。15歳。
用語
奥義の所作
異世界における武術の理(ことわり)。特定の所作を行うことで強力な技を繰り出す、格闘ゲームのコマンド入力のようなもの。庵が異世界で八神流を使う分には不要であり、メタ的には格闘ゲームの人間である庵の目にも奇異に映る。
アルテナは奥義を悟られないように立ち回りの中に所作を仕込む技術を持つ。リリリの魔法にもコマンドが存在し、呪文を使う前の腕の動作(結印)がコマンド入力になっている。
光石 / 光貨
異世界における魔法の行使には、魔法学の知識と呪文の詠唱に加えて「光石」という魔力が封じ込められた石を砕く必要がある。リリリは素手で砕いているが普通の魔法使いは器具を持ち歩く。
「光貨」は光石を薄く割ったもので、エサーガ公国を始め近隣三ヶ国の基軸通貨となっている。強力な魔法の行使には、それだけ多額の貨幣が必要になる。
本作の魔法は「奏でる」と表現されるため、貨幣を払ってプレイ(play:演奏)するというアーケードゲームに絡めたネタと思われる。
魔法陣
魔力に実体を与えるための術式。魔法陣自体を魔法で描くのが一般的で、手書きの魔法陣は枯れた技術または禁忌とされる魔法で使われるものとされている。
それぞれの魔法の性質がアルファベットで描かれているが、異世界では「解読不能の文字らしきもの」と結論付けられている。これにより、庵の世界の人間は初見の魔法にも咄嗟に対処できる利点がある。
超弦魔導理論
異世界の最新魔法物理学では「魔導弦」と呼ばれるものが次元を超えて多元世界に伸びており、魔法使いはこの弦に触れて魔力を操る術式を奏でるとされている。たまに魔法使いでなくても弦に触れられる者がおり、その者は時間と空間を超えて類似性を(以下略)。
要するに「庵の世界で異能を持つ人間は異世界に似た人がいてもおかしくない」ということで、異世界にどこかで見た顔が多いことの理由付けとなっている。
外伝
2020年に発売されたSNKブランド40周年記念大型本「SNK Anniversary Fan Book」に、天河信彦による書き下ろし短編小説「THE KING OF FANTASY外伝 ギース・ハワードの異世界無法 You can not escape from death.」が収録されている。
コミカライズ
作画は蒼木雅彦。WEBコミックレーベル「COMIC Hu」の創刊ラインナップとして、2019年11月19日より連載開始。KADOKAWAのWEBコミックサイト「ComicWalker」とニコニコ漫画で同時配信されている。
単行本3・4巻では上述の「ギース・ハワードの異世界無法」のコミカライズが書き下ろされている。
第37話を以て原作2巻分の内容を消化し最終回を迎えた。原作3巻発売後に再コミカライズが実現するかは既刊を含む原作小説の売れ行き次第とのことである。
第1話
関連リンク
関連項目
- 13
- 5500pt