アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦とは、米海軍が保有するミサイル駆逐艦(DDG)である。
概要
最初のイージス搭載艦「タイコンデロガ級」は、当初はミサイル駆逐艦(DDG)とされていたが、イージス・システムを装備することで従来のミサイル駆逐艦よりも格段に強力な能力を備え、艦の大きさも満載排水量で1万トン近くになることから、米海軍は艦種をミサイル巡洋艦(CG)に変更した。米海軍は改めてスプルーアンス級に続く新型駆逐艦を作ることにしたが、対空能力を重視し、タイコンデロガ級を補完する、より安価なイージス装備艦を計画し、これがアーレイ・バーク級になった。日本や韓国のイージス装備艦は、おおむねアーレイ・バーク級に範を取っている。[1]
なお、戦後最も量産された駆逐艦にして世界最強クラスの戦闘能力をもつリアルチートでもある。
艦級名はアメリカ海軍軍人のアーレイ・バーク(1901-1996)にちなむ。
タイコンデロガ級はスプルーアンス級を魔改造し、イージス開発時に想定していたよりずっと小さな船体に強引にイージスを乗せた無理矢理設計だったが、アーレイ・バーク級は初めてイージスシステム搭載を前提に設計されたため、かなり合理的な構造である。
また、守りの武器であるイージスだけでなく、攻めの武器として「トマホーク巡航ミサイル」を装備。
結果、現在の米海軍の戦力の中核として設計時の想定とは違うが強力な地上攻撃艦としても活躍している。
その他、米海軍の様々なノウハウが詰め込まれている。単純な防空艦などというレベルではない、攻守共に世界最高峰の性能を有する駆逐艦として完成しており、海自の元自衛艦隊司令が「既存の中での理想の対潜艦」として名を挙げるほどである。
当初、アーレイ・バーク級は62隻で建造を終わる予定だったが、新型駆逐艦ズムウォルトが3隻で建造で建造を終えることになったため、計画は修正されている。
2020年1月末の時点では67隻が就役、進水して就役を待つものが7隻、さらに17隻が建造を予定している。[2]
建造に至る経緯
1970年代半ばに発生する、大戦時に建造された駆逐艦の大量除籍問題。
米海軍は諸悪の根源マクナマラ国防長官指揮の下、安価かつ高性能な駆逐艦の建造に着手した。
大柄な船体にすることで、長射程対空ミサイルを積んだミサイル駆逐艦にもなり得る余裕のある大型駆逐艦。バリエーション展開でコストダウン!そんな夢から生まれたのが「スプルーアンス級駆逐艦」である。
しかし、安価にするためだったはずのメーカーとの一括固定額での契約方式が裏目に出て、1隻あたりの価格は予定のおよそ1.5倍となり、当初予定(75隻)の約半数(31隻)しか建造されなかった。結果、防空用のミサイル駆逐艦バージョンも建造されず[3]新たな対空ミサイル駆逐艦が求められた。
空母や揚陸艦をソ連軍の対艦ミサイル攻撃から守ること、あまり高価でなく量産できること、単なる防空艦ではなくある程度の汎用性をもつこと。
それが求められたのが「アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦」である。
特徴
- SPY-1Dレーダー搭載を念頭に最適化された船体設計
- アーレイ・バーク級が搭載する「SPY-1D」は4面のアンテナにマイクロ波を供給する送信機を1基にすることで小型軽量化されているため(SPY-1Bは2基)、アンテナは4面とも艦橋構造物に設置されている(タイコンデロガ級ではアンテナを前後部に分散配置)。
煙突などもレーダーの視界の邪魔にならないよう、細く絞るなどの設計がされている。
また、船体もレーダーの性能を最大限に発揮できるよう、揺れの少ない肥えた船体となっている。 - イージスシステム搭載による高度な戦闘システム
- 主任務である「ソ連軍のミサイル飽和攻撃から空母を守る」ため、イージスシステムを装備している。
あくまで駆逐艦なので、ラージディスプレイを2面に減らしているが、システム自体は簡略化されていない。また最高峰の対潜システムSQQ-89を装備し、対空のみならず対潜戦闘にも優れている。 - トマホーク巡航ミサイルによる長距離対地攻撃能力
- アーレイ・バーク級は当初からトマホーク巡航ミサイルを搭載し、長距離への対地攻撃が可能である。
これにより、ただの1防空艦としてレベルにとどまらない作戦行動が可能。
ソ連海軍の脅威のない現在では、アーレイ・バーク級の主武装として活躍している。
船体の規格化「フライト」
アーレイ・バークは後のアップデートを容易に行えるように「フライト」と呼ばれる規格で複数艦をまとめて建造している(実際は同じフライトでも細かな差がある)。
- フライトI(1番艦~21番艦)…初期型。
- フライトII(22番艦~28番艦)…電子戦機能などの強化型だが、外見はフライトⅠとあまり変わらない。
- フライトIIA(29番艦~62番艦?)…ヘリコプター2機分の格納庫追加、後部側SPY-1レーダーの設置位置上昇などの大規模な改良型。曳航ソナーの廃止、対機雷ソナー追加、ハープーンの非搭載など数多くの変更点がある。
- フライトIII …現在検討中の新型。SPY-1レーダーを新開発のAMDR-S「SPY-6」に換装する予定。
また、低空警戒用のSPQ-9Bレーダーの装備、発電機強化、低速用の電気推進装置の搭載を予定。
後期型ではSPQ-9Bに換えて新開発のAMDR-Xレーダーを搭載することも検討中。・フライト4?
タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の代替として検討されているもので具体的な形は確定していない。
船体を大型化しレーダーや発電機を強化、VLSも大型化するなどさまざまな検討がされている。
あくまで検討段階。
イージス搭載の代償
アーレイ・バーク級は間違いなく世界最高峰の駆逐艦だが、欠点がないわけではない。本来原子力ミサイル巡洋艦に搭載すべく開発されたイージスシステムは、あまりに巨大。さまざまな軽量化策が施された物の、イージス搭載の代償としてアーレイ・バークは無理のある設計である。
- SPY-1レーダーの視界確保のための後部構造物の高さ制限
- 軽量化のため、SPY-1レーダーは艦橋構造物にまとめて配置されている。
しかし、レーダーの視界確保のため煙突などの後部構造物にかなり厳しいサイズ制限が発生している。
フライトIIAでは発電機とヘリ格納庫とMk.41VLSで後部はギチギチ。 - 居住区のゆとりのなさ
- 軍艦でスペースがなくなった時、真っ先に切り捨てられるのは兵員の居住区である。
300名あまりの乗員の割に、居住区はあまり広くないので居住性は決して良くはない。
また、ヘリを搭載するフライトⅡAまではフィンスタビライザー[4]がない。 - 発電機配置のむりやりさ
- SPY-1レーダーにより煙突のサイズが制限を受けた結果か、3号発電機がヘリ甲板直前に配置されている。このため、3号発電機の排煙が甲板上のヘリを直撃するので、ヘリ運用中は発電機の運転に制限がある模様。
- 各種艤装物の簡略化
- イージスの分軽量化するため、錨を巻き上げる揚錨機は通常2台のところ1台のみとなっている。
さらに搭載艇を軽量な複合艇にする、舷梯は片側のみにするなど軽量化への苦労が伺われる。
なお、海自の「こんごう型」「あたご型」では、船体を大型化しているので問題はある程度解決している。
エピソード
船体形状について
アーレイ・バーク級の船体を揺れにくい太い船体にするか、速度を出しやすい細い船体にするかについては
設計段階で双方の長所にどちらにも利があって議論がまとまらず、最終的にコイントスで決められたという冗談のようなエピソードがある。
後のアメリカ国外で建造されたイージス艦は大なり小なりアーレイ・バーク級の影響を受けており
世界各国の海軍の船体設計を左右したコイントスかもしれない。
艦名について
アーレイ・バーク級各艦はすべて海軍に縁が深い人物、あるいは軍の功績が認められた人物の名前が由来となっている。代表的なものは以下の通り。
- DDG-53 ジョン・ポール・ジョーンズ 言わずと知れたアメリカ海軍の伝説的英雄。
- DDG-70 ホッパー 米海軍初の女性提督にしてプログラム言語COBOLの開発者でもある"アメージング・グレース"ことグレース・ホッパー。
- DDG-81 ウィンストン・S・チャーチル なぜか英国首相の名前がここに。(よもやルーズベルト大統領の前でフルチン全裸で挨拶した罰ゲームとかが理由じゃないと思うけど)
- DDG-93 チャン=フー 米海軍初のアジア系出身提督(実際は中国人、英国人、ハワイ人の混血)であるコードン・バイア・チャン=フー提督から。
- DDG-108 ウェイン・E・マイヤー 記念すべきイージス艦通算100隻目は開発責任者である"最高の戦闘システムエンジニア"で知られたマイヤー提督から。
- DDG-118 ダニエル・イノウエ 日系アメリカ人で米陸軍442連隊戦闘団出身、のちに上院議員を長らくつとめた。
この他、ハルゼーとかスプルーアンスなど色々馴染みの深い人がいるので興味のある人はwikipediaなどから調べてみるといいかも。
コール襲撃事件
2000年10月にDDG-67『コール』がイエメン・アデン港でテロ組織『アルカイダ』の自爆ボート攻撃を受け、19名が死亡(実行犯含む)、39名が負傷し、『コール』も戦列復帰に3年を要した。
この事件をきっかけにアメリカ海軍は研究を進めていた『沿海域戦闘艦(LCS)』の開発を推進する一方、各国海軍では水上近接戦闘用に艦載機関銃の配備が重視されることになった。
2017年の連続衝突事故
2017年6月、日本・伊豆半島沖を航行中のDDG-62『フィッツジェラルド』がフィリピン籍の貨物船と衝突し、7名が死亡、艦長を含む3名が負傷し、『フィッツジェラルド』は艦橋を含む右舷前部に大きな損傷を受けた。
その2ヶ月後シンガポール・マラッカ海峡を航行中のDDG-56『ジョン・S・マケイン』がリベリア籍のタンカーと衝突、10名が死亡、5名が負傷し、『ジョン・S・マケイン』は左舷後部に損傷を受けた。
アメリカ海軍はこの連続事故の原因を『任務増大に由来する乗組員の訓練不足に由来する不適切な操艦・見張り不十分』と総括し、2隻の艦長以下乗組員を処分するだけでなく、2隻が所属する第7艦隊司令官を解任した。
関連作品
動画
- 性能・建造関係
- 改良・追加装備関係
- 見学関係
静画
関連コミュニティ
関連項目
- 軍事 / アメリカ海軍/アーレイ・バーク
- 軍艦 / 軍用艦艇の一覧/駆逐艦
- イージス艦 / ミサイル防衛
- タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦
- こんごう型護衛艦/あたご型護衛艦/まや型護衛艦
- 世宗大王級駆逐艦
- 米国面
脚注
- *「世界のイージス艦 その現況と将来」 岡部いさく 世界の艦船2019年12月号
- *「大量に建造された現代軍艦」3選 ひたすら30年建造 7年で50隻建造 2020.3.13
- *これはイラン向けに建造されたキッド級ミサイル駆逐艦で結果的に実現した
- *水中で小翼を動かし揺れを少なくする装置。乗員にもヘリにも嬉しい。海自護衛艦では標準装備
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