あたご型護衛艦とは、海上自衛隊が保有するミサイル搭載護衛艦(DDG)である。
概要
米国のアーレイ・バーク級駆逐艦フライトⅡをタイプシップとしたイージス護衛艦で、こんごう型護衛艦にヘリ1機の搭載能力を追加・ステルス性強化などを施した改良型。
司令部指揮所(FIC)や司令部向けの居住区、さらにヘリコプター格納庫などの設備拡充。その上で安定した航洋性を得るため「イージス艦」という区分では世界最大級のサイズとなっている。
2007年より配備が始まり、「あたご」「あしがら」の2隻が建造されいずれも現役。
海自の艦隊防空の要であり、弾道ミサイル防衛(BMD)能力が近々追加される予定である。
艦名は全て山の名前からつけられている。(「あたご」→「愛宕山」)
こんごう型護衛艦は強力な能力を有する護衛艦ではあったが、ヘリ搭載能力は持たなかった。
これは海自の運用構想上、DDGは艦隊防空に専念。ヘリによる対潜戦闘は他艦に任せるためである。
しかし弾道ミサイル防衛のため、BMD能力を有するこんごう型を派出する必要性が発生。
「8隻の護衛艦と8機のヘリ」を基本とする従来の運用構想では適応できない事態となった。
そこで海自は「8艦8機で構成する」という基本構成を破棄し、ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)を中心とした対潜戦闘をメインとする4隻の「DDHグループ」、BMD能力を有するイージス護衛艦とその護衛で構成される4隻の「DDGグループ」、この2種類のグループを基盤として運用し、ヘリは必要量をその分配置することにした。
結果、今まではDDGに搭載されるはずはなかった対潜ヘリを搭載する可能性が発生したため、こんごう型を基本に、ヘリコプター搭載能力追加やステルス性を向上させたのがこのあたご型である。
艦隊旗艦設備を有するために大型だったこんごう型に、ヘリ格納庫を追加したため船体はさらに大型化。
満載排水量は1万トンと、「イージス艦」の区分の中では世界最大級のサイズである。
アーレイバークフライトⅡ以降をタイプシップとしているが、VLS配置は前甲板64セル、後甲板32セルと逆である。
イージスシステムは当時最新のベースライン7.1を装備。
コンピュータに技術発達著しい民生品を多用することで、高性能化と低コスト化を成し遂げている。
具体的にどの程度の性能向上かといえば、こんごう型のベースライン4/5(「ちょうかい」のみ5)が、
ミルスペック32ビットコンピュータ換算で4台相当なのに対し、7.1では270台以上相当となっている。
弾道ミサイルは追尾のみで迎撃する能力は持たないが、平成24年度予算で必要部品の購入が決定。
平成26年度現在逐次近代化改修が進捗中である。
更新されるイージスシステムは7.1より更にCOTS(民生品導入)により更に高性能化。
ベースライン9.0というやはり最新のBMDシステム(5.0)を統合したものに変更。
BMD能力付与はもとより、弾道弾迎撃と同時に艦隊防空を並行して行える処理能力を有している。
また防空能力だけでなく米海軍で運用されているマルチバイスタティックソーナーの搭載も決定。
07式新アスロック運用能力付与もあり対潜能力も大幅に改善。
従来搭載されていた国産曳航ソーナーはこんごう型の何れか2隻に搭載されることになる。
性能諸元
全長 | 165.0メートル |
全幅 | 21.0メートル |
排水量 | 基準7750トン 満載1万トン |
乗員 | 310名 |
武装 | Mk45 Mod4 127mm砲 1基 高性能20mm機関砲(CIWS) 2基 Mk41 VLS(垂直発射装置) 前部64セル・後部32セル (装填弾)スタンダード対空ミサイル(SM-2) アスロックSUM(VL-ASROC) 90式艦対艦誘導弾4連装発射筒 2基 3連装短魚雷発射管 2基 |
レーダー | SPY-1D(V)多機能レーダー OPS-28E対水上レーダー OPS-20航海レーダー |
ソナー | SQQ-89対潜ソナーシステム SQS-53Cバウソーナー OQR-2-D-1曳航ソーナー(TASS) |
ECM/ESM | NOLQ-2B |
速力 | 最大30kt |
主機 | COGAG方式 4基2軸 出力10万馬力 「LM2500」ガスタービンエンジン 2万5000馬力 4基 |
搭載機 | SH-60J 又は SH-60K 1機(常時搭載機なし) |
「こんごう型護衛艦」からの改良点
あたご型はこんごう型をベースとしているが多くの変更点を持つ。
- ヘリ格納庫と関連機材の装備・それに伴うレーダー設置位置の変更
あたご型とこんごう型の最大の違いであり、あたご型では艦載ヘリコプター1機分の格納庫を持つ。
左舷にヘリ格納庫、右舷にヘリ用の弾薬庫が配置されている。艦内にも関連施設が追加された。
また、格納庫の配置に伴い、後部のSPY-1Dレーダーの視界確保のため1甲板分上に移動している。
しかし着艦拘束装置が後日装備扱いのまま未搭載で格納庫も倉庫扱いである
現状では哨戒ヘリへの燃料補給能力のみ有している状態である。
- 最新鋭イージスシステム・ベースライン7.1による分散システムと民生品の採用
あたご型では建造時の最新鋭のイージスシステムである「ベースライン7.1」が採用されている。
特徴は「分散システム」と「民生品(COTS)の大幅導入」である。
搭載コンピュータ「UYQ-70」は民生品を積極的に利用して性能向上とコストダウンを計ったもの。
またこれら複数台を連結して運用するため、どれか1つが故障しても運用を継続できる。
また光ファイバーLAN結節システム故にホットスワップ方式での近代化が容易な長所を持つ。
- 主砲をイタリア「OTOブレダ127mm砲」からアメリカ製「Mk45 Mod4」へ換装。FCS-2を廃止
連射速度はおよそ半分の毎分20発に低下したが、射程は延長されたため対地攻撃向きとなった。
またMk45 Mod4はイージスシステム当初より組み込まれており、主砲管制用のFCS-2は廃止された。
射撃に際しては、イージスに統合化されたMk160指揮装置の管制を受ける。
昨今は離島奪還訓練のため、陸自弾着観測班の指示に従うFCS非使用射撃訓練も行っている。
- VLS(垂直発射システム)の再装填クレーン廃止と前後セル配分入れ替え。対艦ミサイル国産化
VLSに装備されていた再装填クレーンが実用的でないため廃止され、その分ミサイル搭載数が増加した。
またヘリ格納庫のスペース確保のため、前が大・後ろが小に前後のセル配分を入れ替えた。
対艦ミサイルもこんごう型のハープーンから国産の90式艦対艦誘導弾に変更されている。
- ソナーシステムが米国製の「SQQ-89(V)15」に変更
ソナーが米国「SQS-53C」、そして統括するソナーシステムが「SQQ-89(V)15」に変更された。
現設計は1970年代設計の古い物だが、デジタル化を初めとする度重なる近代化で大幅に性能が向上。
統括するSQQ-89は対潜戦闘を大幅に自動化し「対潜版イージス」といわれるほどのシステムである。
なお、SQQ-89は「ひゅうが型護衛艦」のOQQ-21ソナーシステムの設計に大きな影響を与えている。
- 船体のステルス設計の推進
ステルス化に注意が払われ、マストが日本独自の塔型マストになり、ステルス性が向上した。
また、煙突も丸みの帯びた物からエッジの効いた物へと変更されている。
水中雑音低減にもかなり配慮されていると言われているが、この点の詳細は公開されていない。
- FIC(司令部作戦室)の拡大・機能強化
司令部のCICとして機能する「FIC」(司令部作戦室)が強化され、護衛隊群の旗艦任務に対応した。
ラージスクリーンやディスプレイ埋め込み式のテーブル、通信端末などを装備する。
これらシステムに必要な処理系、端末もふんだんに民生品が使用されている。
- 弾道ミサイル防衛(BMD)対応のための将来余裕確保
建造時には弾道ミサイル迎撃能力は持たない(追尾は可能)だが、装備追加のための余裕確保がされた。
平成24年度予算であたご型のBMD改修のための部品調達を実施。
昨今の防衛予算概算要求でもあたご型近代化予算費目が記載されている。
同型艦
艦名 | 艦番号 | 竣工日 | 配属 | 定係港 | 艦名由来 |
あたご | DDG-177 | 2007年3月15日 | 第3護衛隊群第3護衛隊 | 舞鶴 | 京都府「愛宕山」 |
あしがら | DDG-178 | 2008年3月13日 | 第2護衛隊群第2護衛隊 | 佐世保 | 神奈川県・静岡県県境「足柄山」 |
準同型艦
今後近々艦齢寿命を終えるはたかぜ型護衛艦の代艦として、あたご型護衛艦を原型としたイージス護衛艦が平成27年度以降、建造予算が計上された。
基準排水量は8200トンとより大型化され当初よりベースライン9システムを搭載。またガスタービンと発電機を併用した複合電気推進を採用、水中雑音低減と低速航行時の燃費改善を図っている。更には低空警戒用に従来の日本無線製OPS-28対水上レーダではなく、米海軍が多用しているSPQ-9Bレーダ(F-16C戦闘機のレーダを背中合わせにしたもの)に置き換え、低空警戒からシースキマー対策まで大幅な能力向上を図っている。
残念なことに8200トン型でも哨戒ヘリ関連設備は格納庫を除けば「後日装備」扱いである。しかし総じていえば順当な近代化であり海上自衛隊をして「イケている護衛艦」「期待を裏切らない設計」と太鼓判を押されている。
なお本クラスでも米海軍運用中のマルチバイスタティックソーナーを搭載する模様である。この点は米国式一辺倒ではなく5000トン型護衛艦では国産の同種ソーナーを搭載、相互の長所短所を運用において比較。より研究をすすめる糸があると言われている。
計画通り完成た場合の満載排水量は11400トンであり、弾道弾迎撃能力を持つイージスシステム搭載艦の最大規模を更新することとなるだろう(ズムウォルト級はESSM・トマホークのみ運用可能)。
関連動画
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関連項目
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