デインドリーム(Danedream)とは、2008年ドイツ生まれの競走馬。晩年は繁殖牝馬として日本で供用されていた。
2000年代後半から2010年代にかけて日米欧に同時多発的に現れた名牝の一頭。
小さなシンデレラ
父はドイツ年度代表馬を獲得し、種牡馬としても一流といえる成績を残したLomitas、母はアイルランド生まれで近親にキンシャサノキセキがいるDanedrop、母の父は*デインヒルという血統。
彼女はドイツで生産されたのだが、ドイツ生まれの世界的名馬によくあるドイツが紡いだ名牝系の出身というわけではないという若干の変わり種である。父はNijinsky産駒とドイツ土着牝系の掛け合わせという血統ではあるが。
彼女自身も小さな馬体で牝馬ということもあり、決して評価の高い馬ではなかったが、預かったペーター・シールゲン調教師は入厩してきたデインドリームに一目で惚れ込んだという。
2歳6月、フランス・アルザス地方(ドイツ国境に近い地域である)のヴィサンブール競馬場という小さな競馬場で出走したデビュー戦は勝利したものの、次走以降は4連敗(うち1回は1位入線後に3着降着)で2歳シーズンを終えた。
この頃は一線級相手のマルセル・ブサック賞(仏GI)でも8頭立ての6番人気で6着ということからわかるように三流もいいところな成績であり、国内でも大した馬ではなかった。
ちなみにマルセル・ブサック賞の勝ち馬Misty for Meは3歳になってもアイリッシュ1000ギニーとプリティーポリーステークスを勝つなど、2歳で燃え尽きるような馬ではなかったことは付記しておく。
翌年はイタリアで出走した始動戦でやっぱり負け、ドイツダービー・オークスが7月開催ということもあり、レベルの低いイタリアクラシック戦線へ。
しかし牡馬混合のデルビーイタリアーノ(伊GII)で3着に食い込むと、オークスディターリア(伊GII)では6馬身半ぶっちぎって圧勝し初重賞勝利を飾る。
しかし次走フランスのGIIマルレ賞では僅差とはいえ5着に敗れ、前走の圧勝がすっかり霞んでしまった。
……と思ったら、ドイツの3歳VS古馬が初めてぶつかる伝統あるGI・ベルリン大賞に強気に挑むと5馬身差圧勝。さらに夏を越した後、ドイツ伝統のGIバーデン大賞を6馬身差圧勝。ベルリン大賞・バーデン大賞ともにLomitasとの親娘制覇となった。バーデン大賞は欧州各地から遠征馬もいるGⅠであり、ここで圧勝したのは才能の現れとして受け取られた。
ここで素早く権利取得に手を打ったのが社台ファームの吉田照哉氏であり、9月29日に権利の半分を取得。秋華賞と追加登録料の必要な凱旋門賞の両睨みで予定を立てることとなった。このニュースで、日本の競馬ファンにも彼女の名は大いに知られることとなった。
秋華賞に本当に出てきたら面白かったのだが、やはり凱旋門賞(仏GI)を選ぶことになり、10万ユーロの追加登録料を払って出走。10月のロンシャンらしからぬパンパンの良馬場だったとはいえ、ここで彼女は10番人気の低評価を覆すように圧倒的な瞬発力を見せつけ、5馬身差つけて圧勝。しかもレコード更新のおまけ付きであった。
ドイツ産馬として初、ドイツ調教馬としてはStar Appealに次いで36年ぶり2頭目、鞍上のアンドレアシュ・シュタルケ騎手はドイツ人騎手として初勝利と、メモリアルな勝利であった。
その後はジャパンカップに遠征するが6着と振るわずシーズン終了。カルティエ賞年度代表馬の座こそFrankelに譲ったが、下半期の大活躍を評価され最優秀3歳牝馬となり、1991年に創設されたカルティエ賞において初めてドイツ調教馬が受賞することとなった。
年度代表馬の選考に関しては、これまでの好走はすべて斤量56kg以下で、GIに限ると54.5kg以下と軽量を背負っての勝利であったことが、斤量負けする非力な馬と見られて微妙に影響したのかもしれない。58kg背負ったマルレ賞が5着だったという傍証もあったし。Frankelがキチガイ的すぎたのが一番だろうが。
シンデレラから女帝へ
非力な馬という風評が気になったのかは定かではないが、2012年も現役続行、凱旋門賞連覇を目指すこととなった。
始動戦となったドイツのGIIバーデン企業大賞は58キロを背負ったが勝利したが、メンバーが低調にもかかわらず(馬なりとはいえ)僅差と斤量負けしそうな怪しさは払拭できず終い。
続くサンクルー大賞(仏GI)では56.5キロと前走より軽くなったにもかかわらずスローペースゆえ伸びず4着に敗れた。ちなみに4頭立ての4着であるため最下位である。
そのため、陣営が強気にキングジョージ(英GI)出走を決めたが、ここでは凱旋門賞を圧勝した馬でありながら5番人気止まりであった。まあ、メンバー的には前年の勝ち馬Nathanielや前年BCターフを勝ったかつての天才少年St. Nicholas Abbey、最も相関のあるとされるハードウィックステークスを3馬身1/4差で勝った8戦着外なしの安定株Sea Moonら近年稀に見る好メンバーが揃ってしまっていたのだから仕方ないのかもしれない。ディープブリランテは悪い時に遠征を企画したもんである。にしても負け過ぎだが。
しかしレースでは先に抜けだしたNathanielを外から強襲。根性を発揮して粘るNathanielをゴール前ハナ差差し切り、凱旋門賞に続く欧州二大タイトル奪取を果たした。
牝馬の勝利は1983年Time Charter以来29年ぶり、凱旋門賞とキングジョージのダブル制覇は2007年Dylan Thomas以来、牝馬での達成は史上初となった。DahliaやAllez Franceですら達成できなかった快挙であり、まさに不世出の牝馬と言える。 本記事でもここまで斤量のことがたびたび話題になってきたが、このレースでは9ストーン7ポンド(≒59.0kg)を背負っての勝利であり、馬体重430kg前後の小さな牝馬がこの重さを背負って牡馬に勝ったという点でも特筆すべきものがあろう。
続くバーデン大賞(独GI)ではその年のドイツダービー馬Pastoriusらを退け連覇を達成。牝馬によるバーデン大賞連覇はかつて3連覇を達成したあの伝説の名牝Kincsem以来133年ぶりの偉業であり、また一つ伝説を築き上げたことになった。
そして、 史上6頭目、牝馬としては史上2頭目となる凱旋門賞連覇へ挑む予定であったが、滞在していたケルン競馬場で伝染病が発生。病の拡散を防ぐための処置としてデインドリームを含む全ての滞在馬に3ヶ月間の移動禁止命令が出たことにより、凱旋門賞はおろか続けて出走する予定だったジャパンカップへの出走も断念せざるを得なくなった。あまりにも不本意な形で偉業への挑戦が断たれてしまうこととなった。
その後はドバイシーマクラシック出走も予定されていたが流れ、結局2012年限りで引退し繁殖入りした。
繁殖入り、そして
2013年よりイギリスのニューセルズパークスタッドで繁殖入り。2014年産の初仔*ナッシングバットドリームズは足が弱くレースにデビューすることなく繁殖入りし、2番目の仔ソリッドドリームもたび重なる骨折のせいか本領を発揮できぬまま未勝利で引退した。しかし3番目の仔Faylaqが3勝を挙げ、5番仔オンラインドリームは日本でデビューして新馬勝ちを収めている。
ちなみに引退後しばらくはイギリスで繋養されていた(オンラインドリームもイギリス産馬)が、2020年12月、日本の社台ファームに輸入されたことが判明した。今後の繁殖成績にも注目したいところである。……あったのだが。
2023年12月1日、同年8月31日に蹄葉炎の悪化により安楽死の措置が取られていたことが明らかになった。15歳という、あまりにも早すぎる死であった。2024年現在彼女の直仔で現役の競走馬はなく、2023年に生まれたロードカナロアとの間の娘がデビューを待っている状況である。
幸いなことに子の多くが牝馬だったため、彼女の血はしっかりと受け継がれている。調教中の動脈破裂によりデビュー前に亡くなってしまった4番仔Dreaming Eyesを除き、未出走で繁殖入りした6番仔アンデルセン・持込馬で新馬戦を勝ったものの体調が思わしくなく復帰叶わず引退した7番仔ドリーミーデイ含め、引退した娘4頭全員が日本で繁殖入りしている。とくに繁殖入りの早かった*ナッシングバットドリームズは既に複数の子がデビューしており、中でも初仔のルージュエヴァイユは重賞勝ちこそまだないが、エリザベス女王杯2着や大阪杯3着など複数のGⅠで勝負に絡んできている。
今後も彼女の走りを受け継いだ子どもたちが現れることを夢見るばかりである。
血統表
Lomitas 1988 栗毛 |
Niniski 1976 鹿毛 |
Nijinsky II | Northern Dancer |
Flaming Page | |||
Virginia Hills | Tom Rolfe | ||
Ridin' Easy | |||
La Colorada 1981 栗毛 |
Surumu | Literat | |
Surama | |||
La Dorada | Kronzeuge | ||
Love In | |||
Danedrop 1999 鹿毛 FNo.14 |
*デインヒル 1986 鹿毛 |
Danzig | Northern Dancer |
Pas de Nom | |||
Razyana | His Majesty | ||
Spring Adieu | |||
Rose Bonbon 1984 鹿毛 |
High Top | Derring-Do | |
Camenae | |||
Lady Berry | Violon d'Ingres | ||
Moss Rose | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Northern Dancer 4×4(12.50%)、Natalma 5×5×5(9.38%)、Ribot 5×5(6.25%)
関連動画
関連項目
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