灯火管制とは
空襲や夜戦に備えて明かりを消す、または光が漏れないようにすることである。
戦場の兵士はもちろん、攻撃を受けないために民間においても灯火管制を強いられる。
部分的にはステルスの要素も絡んでくる。
国語の教科書の戦争話や
戦時中を描いたドラマで見たことのある方も多いかもしれない。
概要
「なぜ灯火管制をするのか?」「そんなに意味あるの?」と思った方もいるかもしれない。
夜間や光を発するものが存在しない自然環境においては、肉眼でも小さな光は非常に目立つ。
例として真っ暗闇の山中においては、数百メートル先のライターの炎やスマホの画面もよく見える。
- 明かりがついている建物・都市が空襲の標的となってしまう。
- 敵に存在や位置を暴露し、攻撃を受ける、意図や行動・進路を読まれてしまう。
- 微小な光を増幅する原理は、現在でも暗視装置で幅広く使われていることから余計に目立つ。
闇夜という環境に紛れることで、敵側に有利な視覚情報を提供しないための手段とも言える。
現在も必要
20世紀後半ごろからは暗視装置・レーダーの技術が向上しているため、空襲に対する灯火管制の効果は薄れてきている。ただし、湾岸戦争やコソボ紛争など、その時期に起こった戦争でも灯火管制が行われた例があるし、やはり暗闇で光は肉眼でも目立つことから現在も行われている。
スマホやタバコが我慢できないからと「明かり」を点灯すれば
自身や味方の存在を敵に暴露してしまうため、一定の規律も必要となる。
機能・テクニック
軍用車両においては、意図的に全ての灯火類をOFFにする事が可能。(軍用航空機/船舶も可能)
状況に応じて数段階あり、最終段階ではブレーキランプすら点灯しない完全無灯火も可能。
上方向に光が逃げなくするヘッドライトが混じっていたり
車間距離によって見え方の変わるマーカーランプなど面白い。
・ブラックアウト(B.O.)システム (jmvcc.com)
※もちろん災害派遣時や演習場への移動時は、灯火類は通常通り点灯する。
暗闇で風景を見た場合、山や森の木々の輪郭と空の境界くらいしか認識できない。それを逆手にとって低所から高所を見るなど、人の存在や動きが発見・認識しやすい位置関係にいるといった手法もある。
絶対に光を使わない訳ではない
「絶対に照明を使うなよ!」と思いそうだが、必要に応じてライトを使う場合はある。
歩兵など、小さな穴の開いたフィルターを被せるなどの措置をした上で地図などを読む事はする。
・L型ライト - Google 検索
民家の電球など、下以外を黒く塗ってしまい照射範囲を限定するものもある。
その他、状況によっては
肉眼では見えない赤外線ランプや赤外線フィルタを用いたライトも用いられる。(後述)
赤い照明やライト
ちなみに軍隊において赤色灯、赤色の照明やライトを使うのは暗順応を阻害しないため。
- 暗順応
- 暗闇に目が慣れ、見えるようになるのが暗順応である。
- 目が暗闇に慣れ切るのに20分近くかかるが、戻るのは一瞬である。
- 長時間眠れない時や夜中に目が覚めた時に、暗い室内がよく見えるのがまさに暗順応。
赤色以外で暗い室内を照らすと、暗順応が阻害され暗闇に慣れた目が元に戻ってしまう。
赤色照明は機内・艦内照明や天体観測の際にも用いられる。
水上艦はもちろん、水中の潜水艦であっても夜である事を認識するために夜間は赤色照明。
「緊急事態のみ赤色の照明がつくんだよ」はガセ。映画などは雰囲気は出るが。
水上艦の艦載機格納庫などをよく見ると、スイッチや天井照明に赤色が混じっている。
銃や車両など、赤外線フィルターをライトに被せて限定的な状況下で使用する場合もある。
暗視装置自体に小さな赤外線LEDが付属しており、点灯させて手元作業を行う場合もある。
これを使うと暗視装置の明瞭度が飛躍的に上がる。
※暗視装置はすべての世代で赤外線を認識できる
※隠密性は失われるため、状況によってon/offされる。
また、暗視装置をあえて使用せず暗順応した目で行動する場合もある。
「暗順応なんて使わなくても暗視装置使えば?」と思うかもしれないが、暗順応したほうが視野が広い。
時計
文字盤を見るだけで時刻が認識できるアナログ腕時計が便利である。
夜光塗料やトリチウムによる発光のものが多い。秒針位置が分かるものも。
特に特化したものはミリタリーウォッチと呼ばれ、ファッションに用いられる場合も多い。
(単純にコスパの良いG-SHOCKが使われる場合も珍しくない)
歴史
第一次世界大戦のときにはすでに灯火管制が行われており、ロンドンでは屋外の照明を消す、街灯の一部を黒く塗りつぶすなどの対応をとった。しかし、ロンドン市内だけが暗くなり周りの地域がそのままだった結果、かえってロンドン市街地の位置が敵機にわかりやすくなってしまったという話もある。周辺地域まで暗くして効果が出るようになったとされ、フランスなど他国でも行われるようになった。
第二次世界大戦時でも各国で行われており、政府によって強制的に停電されることもあった。日本でも「煙草の火でも油断大敵」と書かれたポスターが作られるなど、厳しい灯火管制が敷かれた。日本の場合は、以下の三段階が設定されていた。
ただし、昼間の爆撃も多く、末期の夜間爆撃ではB-29に搭載されたレーダーが活用されていたため、灯火管制はあまり効果を持たなかったとも指摘されている。
戦後の日本では朝鮮戦争のときに九州の一部で行われたが、先述したレーダー技術の向上もあり、民間での空襲に対する灯火管制はあまり行われないようになった。
第二次世界大戦中に日本で行われていた方法(一例)
- 消灯
最も基本的な方法。明かりを消せば光は出ない。ただし、デメリットとして何も見えなくなるため、屋外の明かりで行うと交通事故や犯罪が増加する危険があった。 - 減光
明かりを弱める方法。電球を光が弱いものに取り換える、塗料を塗ってオレンジ色にするなどの方法。 - 遮光
明かりの向く方向を変化させる方法。電球の横部分を塗って下方向の光のみにする、自動車や戦車のライトを下方向にする、照明の周りを布や紙で覆うなど。ただし、布の覆い方次第では、白熱電球の熱により発火する危険もあった。 - 遮蔽・隠蔽
「隠蔽」は現在では不利な情報を故意に隠している時によく使う言葉になっているが、当時の日本での灯火管制の意味としては、雨戸などで窓を覆って光が漏れないようにすることを指していた。
コロナ禍でのできごと
2021年にコロナ禍の中、東京では「夜間街中に人が集まり密になることを避けるため」として、午後8時以降、街灯を除く看板等の電灯を消灯する要請が打ち出された。寄り道せずさっさと帰って欲しいということだろうが、ただ消灯することにどれだけの論拠と効果があるか不明瞭である。
都知事がキャッチーなフレーズで呼び掛けることが得意だったこともあり、他の対策はあまり報道されず「感染症対策のため消灯する」という部分ばかりがクローズアップされてしまった。SNS上では戦時中のようだとして「灯火管制」と揶揄された。
その他
敵側の照明を落としたり破壊する、送電線や配電盤を破壊して停電させる…など
暗闇を利用して敵を混乱させる戦法もあるが、そちらは灯火管制に含めない。
関連動画
関連静画
関連項目
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