航空戦艦とは、空を飛ぶ戦艦のこと……ではない(そういうのは「空中戦艦」とか「飛行戦艦」とか「宇宙戦艦」などと呼ばれることが多い)。
ひらたく言うと、航空戦艦は「空母っぽいこともできる戦艦」であり、戦闘空母は「戦艦っぽいこともできる空母」である。
概要
航空戦艦とは、「航空機を主力兵器として運用するための設備が施された戦艦」の俗称である。公式な艦種としては存在しない。唯一の実例(後述)も公称艦種は「戦艦」のままであった。逆に、空母に強力な艦砲などを備えて、直接の対艦対地打撃力を持たせた場合は「戦闘空母」等と言われるが、現実にはこれに類する艦はない。(キエフ級空母などがある意味これに近いが)
一般的には、対艦攻撃の可能な砲等の兵装と、航空機を運用するための設備の両方を搭載した艦艇を航空戦艦と呼ぶ場合が多い。
しかし、公式に存在しない艦種であるうえ、実際の艦種の定義に多少なりとも曖昧な部分があるため、具体的にどのような艦艇を航空戦艦と呼ぶかに対して一定の取り決めは無い。
例えば大和型戦艦は水上機を7機も搭載運用できるが、これはあくまでも戦艦の役目を果たす為の補助的な装備であるので航空戦艦とは呼ばれない。しかし伊勢型戦艦のように、戦艦としての役割だけではなく、航空打撃力をも主目的としている戦艦が、一般に航空戦艦と呼ばれるのが常である。
現実に航空戦艦と呼べるような艦艇はいくつか実在したが、実戦で航空戦艦が航空機運用と艦砲戦を同時に行った事例は存在しないため、航空戦艦の運用実態については未知数な部分が多い。
戦艦と空母の長所の両立が理想ではあるが、実際は戦艦と空母の長所を相殺しているという見方が強い。
その理由として、
- 航空機と兵装の搭載数がどちらも中途半端になりやすく、艤装同士の干渉が発生しやすい。
- 長大な飛行甲板を施せないため、一般的な艦載機では発着艦が困難。
- 艦砲射撃の爆風で航空機に被害が出やすい。
- 航空機用の弾薬や燃料は艦砲戦で被弾時に引火しやすく、危険である。同様に飛行甲板や格納庫に被弾すると航空機の帰還が不可能になる。
- 航空機を安全に発艦させられる状況では艦砲射撃の可能な目標が存在しない。
等が挙げられるが、これに対し、
艦砲射撃を行う状況下では、咄嗟戦闘でもない限り航空機は既に発艦済みであり、爆風や被弾時の被害は限定的。
空母千代田・龍驤など、空母でありながら砲撃戦を行った実例があること。また、自身は発砲していないが空母赤城等も砲撃戦に巻き込まれたことがある。これらは企図して発生したものではないが、それ故にそれを戦術方針とするならば、発艦→砲撃に持ち込める可能性は飛躍的に増すこと。
艦隊戦だけでなく、上陸支援など沿岸部への攻撃にも空海同時攻撃力を有効利用できる可能性があること。
等の反論もある。
第二次世界大戦までは様々な国家が航空戦艦について思案し、計画段階まで進んだ場合もあったが、航空戦艦に対する懸念やワシントン海軍軍縮条約による艦艇の新造制限等があり、いずれも実現することはなかった。
戦時中に改装を受けた日本の伊勢型戦艦が、世界初にして現在まで唯一の航空戦艦となる。
また、時代が下った1980年代にアメリカ海軍がアイオワ級の航空戦艦化プランを立案していたが、こちらも廃案となっている。
伊勢・日向[1]
大日本帝国海軍は、扶桑以下四戦艦について、艦橋より後ろの砲塔をすべて撤去し、飛行甲板とカタパルトを新設して瑞雲を運用するという案を実際に検討していた。
しかし大日本帝国には、大型艦を建造/改装できる乾船渠(ドライドック)が4ヶ所しかなく、一刻も早く次の正規空母を艤装竣工させなければならない戦時下では、短期間で終えられるような工事内容でなければ着工の見込みすら立てられなかった。
結局伊勢・日向の二艦だけが航空戦艦に改装されたが、それも本来の計画の半分の改装(砲塔2基のみ撤去)で、ドックを追い出された。搭載予定の瑞雲のパイロットも集めることができなかったので、結局この二艦は戦局に貢献できなかった。
巡洋艦による航空機運用
通常の戦艦や巡洋艦にも偵察や対潜哨戒、着弾観測を目的とした水上機が搭載されているが、水上機を多数搭載可能な巡洋艦は世界的に多く実在し、戦果も多く上げられている。
巡洋艦は哨戒や偵察目的でも運用されており、速力が高く、攻撃を回避しやすい。このような点が水上機と相性が良かったため、史実での戦果に繋がっている。
日本では水上機運用のために改装された重巡洋艦最上がこれに該当し、他には利根型重巡洋艦も艦砲を船体前部に集中させ、船体後部を航空艤装にすることで水上機の運用能力を高めている。
艦隊司令を専門とした軽巡洋艦「大淀」も、連合艦隊旗艦として改装されるまでは水上機が6機搭載可能であった。
世界初の航空母艦であるイギリスの元軽巡洋艦「フューリアス」は、航空機運用のための改装後も船体後部に艦砲が残されていたため、これもある意味では空母と巡洋艦の中間と言える。
しかしこれは空母の黎明期における試行錯誤の過程であり、何より艦橋や煙突により着艦にかなりの無理が生じていたため、度重なる改装の末に全通甲板となっている。
現代の航空機搭載艦艇
現代では正規空母を運用可能な国家が少なく、航空機としてヘリコプターが実用化されたため、巡洋艦、駆逐艦にヘリコプター搭載能力を備えた艦艇が多い。また、軽空母やヘリ空母に対艦攻撃用の兵装を搭載した艦艇も存在する。
日本はヘリコプター搭載護衛艦(DDH)という艦種を制定しており、いずれも駆逐艦程度の艦艇としては哨戒ヘリコプターの搭載数が多い。特に、ひゅうが型護衛艦以降は全通甲板となり、艦艇そのものによる攻撃能力より、ヘリコプターの運用能力が重視された設計となっている。
日本以外ではロシアの重航空巡洋艦も航空機運用能力と対艦攻撃能力を併せ持っている。キエフ級重航空巡洋艦と「アドミラル・クズネツォフ」がこれに該当する。いずれも固定翼機が運用可能な艦艇であり実質的には軽空母に近いが、モントルー条約による政治的な配慮により、巡洋艦という扱いをされている(この事情についての詳細は「キエフ級重航空巡洋艦」の記事に詳しい)。
フィクションにおける航空戦艦
仮想戦記を始めとする、フィクション作品における航空戦艦の人気は高い。特にSF作品に登場する宇宙戦艦は、戦闘機や機動兵器を搭載している場合が多々見られ、宇宙空間と海の上という違いはあるものの、その運用形態は航空戦艦に似ている。さらにそれらの宇宙戦艦の中には航空機の発着設備と海洋航行能力を備えたものもあり、場合によっては航空戦艦として運用できるかもしれない。空飛べる時点で別物な気もするけど。
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関連項目
脚注
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