ひゅうが型護衛艦とは、海上自衛隊が保有するヘリコプター搭載型護衛艦である。
ひゅうがの艦番号はDDH-181、計画名は16DDH。いせの艦番号はDDH-182、計画名は18DDH。
また、発展改良型のヘリコプター搭載護衛艦としていずも型護衛艦がある。
概要
計画時の経緯
本艦は海上自衛隊が運用するヘリコプター搭載護衛艦(DDH)である。
「はるな」「ひえい」の老朽化に伴い、後継艦艇として計画された。平成16年に予算がおりたことから計画時ひゅうがは16DDHと呼ばれることになる。
当初の公開された艦イメージ図は、ブリッジ(と思われる構造物)の前後に甲板があるという正気を疑うような絵*であった。恐らく諸外国および国内の色々喧しい相手向けの煙幕で、実際は(複数ヘリの同時発着の運用など考えるとどう考えても)全通甲板だろうと当時から軍事マニアは睨んでいたが案の定その通りになった。やれやれ。
*因みにこういう形の上構造物を持つヘリ搭載揚陸艦も、諸外国では存在している。艦内格納庫に加えて、上構造物内で安全にヘリを上げ下ろしできるのが利点だとか。それを考えると有力な検討案の一つだったのかもしれない。
艦形について
全通甲板の艦形はどう見ても空母のようなシルエットで、イタリアの「ジュゼッペ・ガリバルディ」などの軽空母と同じサイズと排水量となっているが、ハリアーやF-35BのようなSTOVL機などの固定翼機の運用はまったく考えられていない。
あくまでヘリの集中運用プラットフォームとしての全通甲板であり、よってヘリコプター搭載型護衛艦DDHと防衛省と海上自衛隊はアナウンスしている(まぁ、もう実質的にそうなんだからヘリ空母としたら?という意見もあるが、どうも国会では空母は保持しないという見解があるとのこと。難儀な話とも言えなくもないか)。
艦名の由来
艦名は旧国名から。ひゅうがの名称の由来となったのは旧日本帝国海軍の戦艦「日向」(こちらも戦争中、航空機離発着のための改造が行われた航空戦艦となったため)と思われる。また、いせは「伊勢」の名を受け継ぎ、「いせ」と命名された。
余談だがひゅうがの船内には、宮崎県(旧日向国)の東国原知事(当時)のサインと、航空戦艦時代の戦艦日向と護衛艦ひゅうがのツーショットのイラストが飾られている。前者は東国原知事が「日向の名を持つひゅうがの活躍を県民一同期待して」という祝電と共に贈ったものである。後者は米ロッキード・マーチンが贈呈したもので、こちらはいせにも同様のもの(戦艦伊勢と護衛艦いせのツーショット)が飾られている。
性能諸元
ひゅうが | いせ | |
---|---|---|
艦番号 | DDH-181 (計画名:16DDH) | DDH-182 (計画名:18DDH) |
サイズ | 全長197m 全幅33m | |
機関 | 通常動力 LM2500 ガスタービンエンジン |
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乗員 | 360名 | |
基準排水量 | 13,950t | |
運用機能 | ヘリ運用4機 (最大積載:11機) 哨戒ヘリ x3 救難・輸送ヘリ x1 |
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離発着スペース | 4機分 同時離発着能力:3機 |
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兵装 | 高性能20mm機関砲 ファランクス (CIWS) x2 Mk.41 垂直発射装置 (VLS) 16セル Mk.32 対潜短魚雷発射管 x2 [1] |
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輸送機能 | 小型車両 | |
(他艦への)補給機能 | なし | |
医療機能 | 手術室 ICU 病室8床 |
この他に昨今の海上テロを警戒して12.7mm機銃座が存在しており、必要とあらば相当数を搭載可能である。
一見淡白な武装であるが、Mk.41VLSの中にはESSMや垂直発射アスロックが満載されており、ESSMに至っては定数16発に加えて予備が1セット揃っている。
全通甲板とその下部にある格納庫により、ヘリの集中運用と整備が可能になった。
従来のヘリ搭載型護衛艦では格納庫と離発着甲板の関係上、20分おきの離発着が限界だったが、全通甲板によって同時に3機の離発着が可能になり、格納庫内でどのような天候でも大規模な整備が行えることはヘリの運用がより効率的になるといえるだろう。
(艦に搭載されるヘリの定数は3機しかないが、これは艦隊を編成する艦艇のヘリも収容するなど、任務に応じて柔軟な運用が可能になることの裏返しでもあるだろう。広大な甲板、格納庫で迅速にヘリを移動させるため、フォークリフト車も搭載されている)
自衛隊が運用するすべてのヘリの離発着が可能であり、実際にテストも行われている。また、海上保安庁や警察など、我が国の公的機関が用いるヘリの殆ど全ても整備運用可能で、こちらの方も離着艦テストが行われた模様である。近年では米軍との共同演習や熊本地震における災害支援においてV-22オスプレイの離着艦が可能なことも確認された。なお、オスプレイの着艦は艦尾の着艦スポットのみに限定されている。
そしてこの護衛艦の本来の存在意義は、民生技術を多用した高性能なC4I。FIC(旗艦用司令部作戦室)などの充実した設備に支えられた高度な指揮通信能力である。近年の海上自衛隊は八八艦隊編成からの脱却だけではなく、陸上自衛隊や航空自衛隊などとの統合運用も求められ、そのための高度な旗艦機能を有する護衛艦は必須であった。
不幸な形ではあるが先だっての東日本大震災では、一義とも言える高度な指揮通信能力をフル活用して、洋上指揮所として活躍した。その際には上級司令部、米海軍などとテレビ通信も行われたと言われている。
また2013年11月の台風30号で甚大な被害を被ったフィリピンへの災害救援であるサンカイ作戦にて、海自部隊の旗艦として「いせ」が派遣されている。
まさしく海上自衛隊の次代を担う護衛艦の一つである。2016年2月現在はひゅうがは第3護衛隊群旗艦、いせはの第4護衛隊群旗艦の任にある。そしてひゅうが型護衛艦の配備を持って、先々代のヘリコプター護衛艦であるはるな型護衛艦2隻は有事に巻き込まれることなく、日本の守りを全うした末に退役した。
隠れた真価
ひゅうがはその外見ばかり注目されるが、その中身のシステムの先進性も特筆に値する。
というのも、ひゅうがの搭載する戦闘システムは、以降の新型護衛艦の基礎となったためだ。
ひゅうがの戦闘システムの中でも特に中枢に当たる物を以下に示す。
システム | 性能 |
---|---|
OYQ10”ACDS” (Advanced CDS) |
ひゅうがの戦闘システムの中枢。 各種システムから貰ったデータを判断し指示を行う、情報の整理分析と指示担当。人工知能技術が適用され、探知した目標の脅威度や使用すべき武器を自動判断。 オペレータに提示して最適な行動を素早くとる手助けをする能力を持つ。 |
FCS-3多機能レーダー (00式射撃指揮装置3型) |
探知距離200km以上、同時に300の目標を追尾できる新型レーダーシステム。 目標の捜索・照準、さらにミサイルへの情報入力と誘導までこなす多芸な奴。 上記のOYQ-10がダウンしても単独で戦闘を続行できるタフな所も。 |
OQQ-21ソナーシステム | 対潜水艦作戦能力の拡充に重点をおく海自ならではの、197mの船体の三分の一もの長さに達する大型ソナー。 長距離を伝播する低周波を使うので群を抜く長距離探知が可能。 地味に海自初の音のデジタル処理化を果たしたエポックメイキングなソナーでもある。厳密にはソナーとしてだけでなく、対潜戦闘全体を処理する大規模なシステムであったりする。 |
NOLQ-3C電子戦システム | 敵レーダーなどの電波を逆探知&識別し、妨害するシステム。 詳細は機密事項が多く不明。 |
これら幾つものシステムを艦内に張り巡らされた光ファイバーネットワークで連接し、1つの大きな戦闘システム”ATECS”(新戦闘指揮システム)として構築している。
これらはひゅうがで実績を積み、現在、海自新型護衛艦の主力装備として積まれるようになっている。
OYQ-10"ACDS"は改良を加えられ、あきづきではOYQ-11に、いずもではOYQ-12に発展。
FCS-3は新型素子で出力3倍となったFCS-3Aをあきづきが、その機能限定版OPS-50がいずもに搭載。
OQQ-21は小型化、さらに新型魚雷防御装置と接続したOQQ-22があきづき、OQQ-23がいずもに搭載。
これら複数のシステムを接続して"ATECS"という1つに纏めるのはひゅうがから変わっていない。
あきづき型、いずも型、そして開発中の25DD型まで、その構成はひゅうがから引き継いだ物なのだ。
ひゅうがの戦闘システムは、海自護衛艦の新たな時代を切り開いた存在でもあるのである。
関連動画
関連項目
脚注
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