APFSDS 単語

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APFSDSとは、現在戦車などの弾に広く用いられている徹甲弾の一種である。
APFSDSは“Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot”の略であり、日本語では『装弾筒付翼安定徹甲弾』と表記される。

概要

徹甲弾(装甲をぶち抜くための弾)の一種で、ざっくりと説明すると、「高速でカッ飛んでいく金属の矢」である。ただし、「サボ」と呼ばれる円盤あるいは筒が矢の胴体部分に装着されているため、撃つ前の見たは矢には見えない(サボは撃った直後に外れるよう作られているため、標的に飛んでいくのは矢の部分だけである)。

に装甲で固めた敵戦車を倒すために、戦車弾として使われる。

戦車砲弾[1]

戦車の対装甲弾(徹甲弾)として今日まで流を占めてきたのは、弾丸自身の運動エネルギーを貫に利用する徹甲弾である。初めはの口径一杯の実体弾(AP)や、中に小量の炸が入った甲榴弾(APHE)が使われた。やがて先端に軟鋼のキャップを付けることで着弾時の弾丸の滑りを防止する被帽付き徹甲弾APC)が生まれた。

第二次大戦中には、の口径より小さい貫体(タングステンカーバイド製)をサボ(装弾筒。発射直後に分離する。語オランダの木靴のこと)で包んでの口径に合わせた、離脱サボ徹甲弾APDS)が開発された。

徹甲弾弾が命中した時の速度(存速)が大きく、弾の断面積あたりの重量が大きいほど貫できる装甲は厚くなる。存速を大きくするには口を出る時の速度(初速)を高くし、飛行中の空気抵抗による速度減少を減らす必要があった。また発射の量が同じなら弾が軽いほど、身が長いほど初速は高くなる。

APDSではサボに軽合金を使うことで弾を軽くし、貫体に高密度のタングステンカーバイドを使うことで断面積当たりの重量を増やした。貫体を細長くすれば断面積当たりの重量は増加するが、ライフルによる弾の回転では、弾の長さが直径の5、6倍になるともはや飛翔中の安定を保つことができない。そこで弾(貫体)の後部にフィンを付けることで、飛翔中の弾の向きを一定に保つ(風見安定)ようにした。これがAPFSDSである。

弾に回転を与える必要がなければライフルの必要はない、というわけでライフルい滑腔(スムースボア・ガン)も作られた。滑腔ライフルを刻む工程を省略できるので安上がりになるが、通常の榴弾や発煙弾までフィン安定式にしなければならないので弾に関してはむしろコスト高になる。

戦車砲以外での使用

APFSDSの使用されている範囲は意外と広くCV90のような歩兵戦闘車大口機関、あるいは口径20mmクラス機関でもAPFSDSを使用可なものが存在している。ただし、航空機用の機関に関しては装弾筒がエアインテークに入り込む恐れがあるため使用されていない。

現在のところ最小のAPFSDSを用いる火器は、問題の多さから試作に終わったがオーストリアステアー社の開発したIWS2000対物ライフルである。口径15.2ミリと重機関銃と大差ない口径ながら、貫通力だけならば距離1000mから垂直防弾鋼40mm射貫という性を発揮し、並大抵の装甲車を撃破できる威力を持っていた。

8090年台にはM41軽戦車のような旧式戦車、その改良に対応するために、76.2mm90mm口径のものも製造されており台湾陸軍などでは現在も使用されている。貫通力は2000mで230mmほどとされている。特にM41軽戦車NATO台湾などに広く供与されたため、FCS改良と合わせて76mmは密かなベストセラーである。

構造

ざっくりと分類すると、実際に標に向けて飛翔する部分(侵体)とそれ以外(装弾筒)で構成される。

体は実際に装甲を貫通する部分であり、尾部に弾道安定のための安定が備えられている。この安定は侵体に毎数回数十回程度の回転を与えることで弾道の安定を図るもの。

ここで、『弾道を安定させるのであれば、身のライフリングによる回転では駄なのか?』という疑問を抱かれる方もいるかとは思われる。が、ライフリングでは毎回転に及び、回転し過ぎる為に逆に弾道が不安定になってしまう。このため、APFSDSの運用は現在では滑腔によって行われるのが流である。

なお、ライフルでAPFSDSを発射する場合、侵体の回転を抑える為に装弾筒外周にスリッピングバンドを備える。先述の通りAPFSDSの運用には滑腔の方が適しており、現在このタイプのAPFSDSを運用するMBTは設計思想が古いと考えて差し支えない。具体的には74式戦車などが当てはまる。え、チャレンジャー2?あれは英国面に取り憑かれて、FCSにも問題が多すぎて、HESH装備だからゲフンゲフン
またAPFSDSを運用するは、口に反動を抑制するマズルブレーキを取り付けないことがほとんどである。これはよく装弾筒が引っかかるからといわれるがこれは正しくなく、実際にはマズルブレーキによる排気に弾がを受け命中精度が低下することが理由の一つである。

体の材質は劣化ウランタングステンなどの重金属が用いられることが多い。その初期においては鋼製の物もあったが現在では使わることはほとんどい。ただしロシア(ソ連)製のモンキーモデルがいまだ運用している可性はある。また、材質として最も理想的なのはタンタルなのだが、こちらはその希少性がタングステンかに上回るため、弾としては用いられない。ちなみにタンタルがどれくらい希少な金属かと言えば、2010年の全世界での産出量がタングステンが61,000tに達するのに対し、タンタルのそれは僅か670tであるという事からもえよう。

装弾筒は発射時のガス圧を受け止める為のものであり、口から射出された後は不要になるので空気抵抗により速やかに分離する。

旧来の徹甲弾とは異なり極めて細長い棒状(ダーツ状)の構造をしており、長さ(Length)と直径(Diamater)のを表すL/Dとしては2030と言われている(L/D20であれば侵体の長さは直径の20倍)。ちなみにこの極端な細長さがライフルでの運用に適さない理由の1つ。
ねこのL/Dが大きいほど、つまり細長いほど理論上の貫力は増す傾向にある。しかし、L/Dを大きくしすぎると着弾時の衝撃で折れやすくなる(後段で詳述)。

貫徹する原理

体が装甲の動的降強度の3倍もの圧力で衝突するために体が装甲に侵高圧によりそれぞれの接触部が流体のようにふるまい(塑性流動)、相互侵食を起こしながら装甲の貫通ないし加に到る。
(塑性流動を起こしやすくするために弾を作る金属材料には金属ガラスというアモルファス合金の一種の粉末が混入されている)。

よほど浅い度(装甲に対してほぼ並行)で命中しない限りはこの現象が発生し着弾したあとも直進するため、跳弾はまず生じ得ない。つまり、APFSDSに撃たれた場合、避弾経始(弾を正面ではなく斜めに受け止めて威力を弱めるという概念)がほぼ不可能なのである。そのため、現在世界で新規に運用、開発されている戦車の多くがそれまでの曲線的な装甲をやめて直線的な面構成のばった構造をしている。

なお、ネット上やトンチキな書籍ではやたらと「ユゴニオ弾性限界という言葉と共に解説される事が多いが、APFSDSの貫原理に「ユゴニオ弾性限界」は関係がない

L/Dが大きければいいのか、本当に劣化ウラン砲弾は安価なのか?

極端にL/Dの大きなAPFSDSは、特に戦後第三世代の正面装甲を前にした場合、カタロスペック上の貫力と引き換えに着弾時に弾芯が折損して貫力を大きく減じてしまうケースも少なくない。このため、陸上自衛隊で採用されている93式105mm、10式120mmなどの徹甲弾バランスを重視した設計となっている。因みに初速・L/D・精度バランスが最善と言われているのは、冷戦時代にラインメタルにより開発された120mm滑腔のAPFSDSの力、DM33と言われ日本でもダイキン工業がJM33の名前ライセンス製造している。

劣化ウラン自然に存在する物質の中では最も高密度であり、加えて装甲を侵する過程において先端部分が先鋭化する“セルフ・シャープニング現象”が生じる為貫力に優れる。さらに、装甲を貫通した劣化ウランが高熱によって急化、燃焼する現象が発生するため中の敵兵(戦車そのものよりも、兵の養成にかかるコストの方が高額であるし、また時間もかかる)の確実な力化が期待できるというメリットも存在する。劣化ウランは核燃料を製造する際の副産物なので、安価に調達できるという事情もある。

ただし、核廃棄物であるからして当然に放射性物質であり重金属としての性の問題もある。これらは戦闘要員のみならず、現地の住民に対して長期に渡って悪を与え得るものでもあり軍事と言うよりも政治的な問題に発展するリスクんでいる。加えて加工費を加味した場合、調達費はタングステン弾芯APFSDSと大差ない。

我が国におけるAPDS/APFSDS事情

結局、劣化ウラン弾を採用するかどうかは核廃棄物を潤沢に用いることが出来るのか、核アレルギーが強い情なのか、あるいは高強度金属の冶金技術に優れているのか。コストというよりは寧ろ、それぞれの国家情に合わせて選択されている。

故にアレルギーが強い情を背負い、安全性を重視する自衛隊ではライセンス製造品、開発品のいずれもタングステン合金弾芯の弾を用いている(これはCIWSに用いる86式20mm徹甲弾包/APDSも同様である)。開発メーカーは意外なことに、調機器で有名なダイキン工業が担当している。

近年ではAPFSDSと同一の弾道特性を維持しつつも、一定距離を経過すると自壊し、演習場から私有地へ弾が飛び込む危険性を抑制した演習徹甲弾TPFSDS)も開発されており、総火演で使われているのはこちらと言われる。

威力向上へのアプローチ方

上でも少々述べているが、ここではAPFSDSの威力向上の手段を見ていく。口径の拡大が頭打ちとなっている現在、APFSDSの威力を増す手法として一般的なのは

となっている。

体の長さを長くする、というのは弾体をすり減らして装甲を突き進む特性上、長さがそのまま貫力に関わるAPFSDSにとってはある意味で理想的な方法であるといえる。反面、この方法はただ侵体の長さを長くすると重量増加により初速低下を招き、結果的に貫力は落ちてしまう。そのため一般には長さを長くする代わりに侵体の直径を細くすることにより初速低下を防ぐ、すなわちL/Dを大きくするという手法がとられる。
この方法の欠点としては、先述の通り着弾時に侵体が破断する可性が上がる、ERAに対する脆弱性が増すというものである。
もちろん、発射に使う装(要するに火)のパワーをあげればわざわざ侵体を細くする必要はないのだが、実は装は燃焼タイミングや燃焼スピードにかなり精密なコントロールが必要な上に、考えなしに装を強くすると側の耐久力オーバーしてしまうためあまり一般的ではない。
余談ではあるが、ロシア戦車やそれに順ずる戦車は自動装填装置の機構的な問題により侵体の全長を容易に伸ばせないという欠点がある。

初速を上げる、というのは大砲の威力向上方法では昔からありふれた方法である。具体的な方法では前述の装の強化、そして身長の延長があげられる。身長の延長はこれまたありふれた方法であるが、これはもともと装側に身を延長しても弾を加速し続けられるだけの余裕があることが必須である。もっとも一般的にはその余裕があることは多い。
身延長は装強化よりも技術力も手間も必要ない半面、長身化により取りまわしの悪化と発射時に共振を起こし精度低下を招きやすいという欠点が存在する。

劣化ウランについては先述の通りなので割愛する。

APFSDSの一例

名称 口径/貫力(RHA換算、距離2000m) 開発
解説
BM-3/BM-6 115mm/236mm(BM-6) ロシア
BM-3は世界初の記念すべき実用APFSDSである。最初に実装された戦車T-62BM-3は侵体がタングステン製だったがBM-6では加工の容易な鋼製に代わっている。スペック上の貫力は距離2000mで236mmであるが肝心の有効射程は1600mにとどまっていた。
DM33 120mm/460mm(L44) イスラエル
もとはイスラエル製のM-413だが、NATOに採用され現在では西側諸国ではたるラインメタル120mm滑腔ともども最も一般的なAPFSDSと言っていい。ちなみに同じDM-33という番の105mm弾も存在するので注意。日本では90式・10式両用の弾にこれをJM33としてライセンス生産している。
DM53/DM63(DM53A1) 120mm/650mm(L44) イスラエル
西側諸国が運用する弾。侵体の全長を400mm台から600mm台へ長くしており、L/DDM-33の約20から約30に引き上げることにより貫力を強化している。反面、重量増加による初速低下を防ぐため侵体の直径をDM-33の約28mmから約20mmに引き下げており、着弾時に破断する可性やERAに対する脆弱性が増している。
また、この他にDM-53は温度によって初速が大きく変化し命中精度と威力が安定しないという欠点を有しており、装の変更によってこれに対処したのがDM63(DM53A1)である。
M829A2 120mm/700mm(L44) アメリカ
ある意味有名な、劣化ウランを侵体に使用したAPFSDS。L/Dは18とさほど大きくないものの、劣化ウラン重の重さとセルシャープニング現象によって高い威力を誇り、装甲貫通後も侵体自身が発熱することによる加が期待できる。半面、曲がりなりにも放射性物質であるため感情的問題から特に自や同盟内での使用には制限が付いている。ちなみにセルシャープニング現象を最大限生かすために後継のM829A3ともどもさほど高初速化はめられていないことも特徴。
93式105mm装弾筒付翼安定徹甲弾 105mm/不明 日本
もとは74式戦車105mmライフルのために日本が独自開発したAPFSDS。16式機動戦闘車もこれを運用する。ライフルで運用するため弾の回転数を落とすスリッピングバンドが装着されている。105mm弾ではあるが、一説には初期の120mmAPFSDSに匹敵する威力を持つとされるが定かではない。ただし第一機甲教育隊の隊長が本弾は相手にする可性がある戦車(開発年代からT-80系列ではないかと噂されている)に対して正面にはやや分が悪くとも、体前面ならば貫が可な性を有していると発言しており、まったくのではないことは確かなようである。L/Dは約20。
10式120mm装弾筒付翼安定徹甲弾 120mm/不明 日本
10式戦車専用弾として日本が独自開発したAPFSDS。侵体の全長がDM53系列の600mm台と同等であり威力強化が図られている。しかしDM53の侵体直径が約20mmであるのに対し10式徹甲弾は24mmとなっており、DM53よりも着弾時やERA突破時の破断確率が抑えられている。さらにサボを軽量素材に置き換えた上で抜き、加えて装の強化が行われているため初速もDM33やDM53よりも高初速となっていると考えられている。事実、その発射の際に発生する音はJM33と較してが痛くなるレベルであるという。半面装を強化したため従来のラインメタル120mm準拠のでは発射が不可能となっている。戦車の新規開発、配備を行っている日本だからこその弾といえる。

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関連項目

脚注

  1. *戦車と機甲戦」野木恵一 1981 朝日ソノラマ
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