APFSDSとは、現在、戦車の主砲などの砲弾に広く用いられている徹甲弾の一種である。
APFSDSは“Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot”の略であり、日本語では『装弾筒付翼安定徹甲弾』と表記される。
徹甲弾(装甲をぶち抜くための砲弾)の一種で、超ざっくりと説明すると、「高速でカッ飛んでいく金属の矢」である。ただし、「サボ」と呼ばれる円盤あるいは筒が矢の胴体部分に装着されているため、撃つ前の見た目は矢には見えない(サボは撃った直後に外れるよう作られているため、標的に飛んでいくのは矢の部分だけである)。
主に装甲で固めた敵戦車を倒すために、戦車の砲弾として使われる。
戦車砲の対装甲弾(徹甲弾)として今日まで主流を占めてきたのは、弾丸自身の運動エネルギーを貫徹に利用する徹甲弾である。初めは砲の口径一杯の実体弾(AP)や、中に小量の炸薬が入った徹甲榴弾(APHE)が使われた。やがて先端に軟鋼のキャップを付けることで着弾時の弾丸の滑りを防止する被帽付き徹甲弾(APC)が生まれた。
第二次大戦中には、砲の口径より小さい貫徹体(タングステン・カーバイド製)をサボ(装弾筒。発射直後に分離する。語源はオランダの木靴のこと)で包んで砲の口径に合わせた、離脱サボ徹甲弾(APDS)が開発された。
徹甲弾は砲弾が命中した時の速度(存速)が大きく、砲弾の断面積あたりの重量が大きいほど貫徹できる装甲は厚くなる。存速を大きくするには砲口を出る時の速度(初速)を高くし、飛行中の空気抵抗による速度減少を減らす必要があった。また発射薬の量が同じなら砲弾が軽いほど、砲身が長いほど初速は高くなる。
APDSではサボに軽合金を使うことで砲弾を軽くし、貫徹体に高密度のタングステン・カーバイドを使うことで断面積当たりの重量を増やした。貫徹体を細長くすれば断面積当たりの重量は増加するが、ライフルによる砲弾の回転では、砲弾の長さが直径の5、6倍になるともはや飛翔中の安定を保つことができない。そこで砲弾(貫徹体)の後部にフィンを付けることで、飛翔中の砲弾の向きを一定に保つ(風見安定)ようにした。これがAPFSDSである。
砲弾に回転を与える必要がなければライフルの必要はない、というわけでライフルが無い滑腔砲(スムースボア・ガン)も作られた。滑腔砲はライフルを刻む工程を省略できるので安上がりになるが、通常の榴弾や発煙弾までフィン安定式にしなければならないので砲弾に関してはむしろコスト高になる。
APFSDSの使用されている範囲は意外と広くCV90のような歩兵戦闘車の大口径機関砲、あるいは口径20mmクラスの機関砲でもAPFSDSを使用可能なものが存在している。ただし、航空機用の機関砲に関しては装弾筒がエアインテークに入り込む恐れがあるため使用されていない。
現在のところ最小のAPFSDSを用いる火器は、問題の多さから試作に終わったがオーストリア・ステアー社の開発したIWS2000対物ライフルである。口径15.2ミリと重機関銃と大差ない口径ながら、貫通力だけならば距離1000mから垂直防弾鋼板40mm射貫という性能を発揮し、並大抵の装甲車を撃破できる威力を持っていた。
80~90年台にはM41軽戦車のような旧式戦車、その改良型に対応するために、76.2mm~90mm口径のものも製造されており台湾陸軍などでは現在も使用されている。貫通力は2000mで230mmほどとされている。特にM41軽戦車はNATO、台湾などに広く供与されたため、FCS改良と合わせて76mmは密かなベストセラーである。
ざっくりと分類すると、実際に目標に向けて飛翔する部分(侵徹体)とそれ以外(装弾筒)で構成される。
侵徹体は実際に装甲を貫通する部分であり、尾部に弾道安定のための安定翼が備えられている。この安定翼は侵徹体に毎秒数回~数十回程度の回転を与えることで弾道の安定を図るもの。
ここで、『弾道を安定させるのであれば、砲身のライフリングによる回転では駄目なのか?』という疑問を抱かれる方もいるかとは思われる。が、ライフリングでは毎秒数百回転に及び、回転し過ぎる為に逆に弾道が不安定になってしまう。このため、APFSDSの運用は現在では滑腔砲によって行われるのが主流である。
なお、ライフル砲でAPFSDSを発射する場合、侵徹体の回転を抑える為に装弾筒外周にスリッピング・バンドを備える。先述の通りAPFSDSの運用には滑腔砲の方が適しており、現在このタイプのAPFSDSを運用するMBTは設計思想が古いと考えて差し支えない。具体的には74式戦車などが当てはまる。え、チャレンジャー2?あれは英国面に取り憑かれて、FCSにも問題が多すぎて、HESH装備だからゲフンゲフン
またAPFSDSを運用する砲は、砲口に反動を抑制するマズルブレーキを取り付けないことがほとんどである。これはよく装弾筒が引っかかるからといわれるがこれは正しくなく、実際にはマズルブレーキによる排気に砲弾が影響を受け命中精度が低下することが理由の一つである。
侵徹体の材質は劣化ウランやタングステンなどの重金属が用いられることが多い。その初期においては鋼鉄製の物もあったが現在では使わることはほとんど無い。ただしロシア(ソ連)製のモンキーモデルがいまだ運用している可能性はある。また、材質として最も理想的なのはタンタルなのだが、こちらはその希少性がタングステンを遥かに上回るため、砲弾としては用いられない。ちなみにタンタルがどれくらい希少な金属かと言えば、2010年の全世界での産出量がタングステンが61,000tに達するのに対し、タンタルのそれは僅か670tであるという事からも窺えよう。
装弾筒は発射時のガス圧を受け止める為のものであり、砲口から射出された後は不要になるので空気抵抗により速やかに分離する。
旧来の徹甲弾とは異なり極めて細長い棒状(ダーツ状)の構造をしており、長さ(Length)と直径(Diamater)の比を表すL/D比としては20~30と言われている(L/D比20であれば侵徹体の長さは直径の20倍)。ちなみにこの極端な細長さがライフル砲での運用に適さない理由の1つ。
概ねこのL/D比が大きいほど、つまり細長いほど理論上の貫徹力は増す傾向にある。しかし、L/D比を大きくしすぎると着弾時の衝撃で折れやすくなる(後段で詳述)。
侵徹体が装甲の動的降伏強度の3倍もの圧力で衝突するために侵徹体が装甲に侵徹、超高圧によりそれぞれの接触部が流体のようにふるまい(塑性流動)、相互侵食を起こしながら装甲の貫通ないし加害に到る。
(塑性流動を起こしやすくするために砲弾を作る金属材料には金属ガラスというアモルファス合金の一種の粉末が混入されている)。
よほど浅い角度(装甲に対してほぼ並行)で命中しない限りはこの現象が発生し着弾したあとも直進するため、跳弾はまず生じ得ない。つまり、APFSDSに撃たれた場合、避弾経始(弾を正面ではなく斜めに受け止めて威力を弱めるという概念)がほぼ不可能なのである。そのため、現在世界各国で新規に運用、開発されている戦車の多くがそれまでの曲線的な装甲をやめて直線的な面構成の角ばった構造をしている。
なお、ネット上やトンチキな書籍ではやたらと「ユゴニオ弾性限界」という言葉と共に解説される事が多いが、APFSDSの貫徹原理に「ユゴニオ弾性限界」は関係がない。
極端にL/Dの大きなAPFSDSは、特に戦後第三世代の正面装甲を前にした場合、カタログスペック上の貫徹力と引き換えに着弾時に弾芯が折損して貫徹力を大きく減じてしまうケースも少なくない。このため、陸上自衛隊で採用されている93式105mm、10式120mmなどの国産徹甲弾はバランスを重視した設計となっている。因みに初速・L/D・精度バランスが最善と言われているのは、冷戦時代にラインメタルにより開発された120mm滑腔砲のAPFSDSの主力、DM33と言われ日本でもダイキン工業がJM33の名前でライセンス製造している。
劣化ウランは自然に存在する物質の中では最も高密度であり、加えて装甲を侵徹する過程において先端部分が先鋭化する“セルフ・シャープニング現象”が生じる為貫徹力に優れる。さらに、装甲を貫通した劣化ウランが高熱によって急激に酸化、燃焼する現象が発生するため中の敵兵(戦車そのものよりも、兵の養成にかかるコストの方が高額であるし、また時間もかかる)の確実な無力化が期待できるというメリットも存在する。劣化ウランは核燃料を製造する際の副産物なので、安価に調達できるという事情もある。
ただし、核廃棄物であるからして当然に放射性物質であり重金属としての毒性の問題もある。これらは戦闘要員のみならず、現地の住民に対して長期に渡って悪影響を与え得るものでもあり軍事と言うよりも政治的な問題に発展するリスクを孕んでいる。加えて加工費を加味した場合、調達費はタングステン弾芯APFSDSと大差ない。
結局、劣化ウラン弾を採用するかどうかは核廃棄物を潤沢に用いることが出来るのか、核アレルギーが強い国情なのか、あるいは高強度金属の冶金技術に優れているのか。コストというよりは寧ろ、それぞれの国家の国情に合わせて選択されている。
故に核アレルギーが強い国情を背負い、安全性を重視する自衛隊ではライセンス製造品、国産開発品のいずれもタングステン合金弾芯の砲弾を用いている(これはCIWSに用いる86式20mm徹甲弾薬包/APDSも同様である)。開発メーカーは意外なことに、空調機器で有名なダイキン工業が担当している。
近年ではAPFSDSと同一の弾道特性を維持しつつも、一定距離を経過すると自壊し、演習場から私有地へ砲弾が飛び込む危険性を抑制した演習用徹甲弾(TPFSDS)も開発されており、総火演で使われているのはこちらと言われる。
上でも少々述べているが、ここではAPFSDSの威力向上の手段を見ていく。主砲口径の拡大が頭打ちとなっている現在、APFSDSの威力を増す手法として一般的なのは
となっている。
侵徹体の長さを長くする、というのは弾体をすり減らして装甲を突き進む特性上、長さがそのまま貫徹能力に関わるAPFSDSにとってはある意味で理想的な方法であるといえる。反面、この方法はただ侵徹体の長さを長くすると重量増加により初速低下を招き、結果的に貫徹能力は落ちてしまう。そのため一般には長さを長くする代わりに侵徹体の直径を細くすることにより初速低下を防ぐ、すなわちL/D比を大きくするという手法がとられる。
この方法の欠点としては、先述の通り着弾時に侵徹体が破断する可能性が上がる、ERAに対する脆弱性が増すというものである。
もちろん、発射に使う装薬(要するに火薬)のパワーをあげればわざわざ侵徹体を細くする必要はないのだが、実は装薬は燃焼タイミングや燃焼スピードにかなり精密なコントロールが必要な上に、考えなしに装薬を強くすると砲側の耐久力をオーバーしてしまうためあまり一般的ではない。
余談ではあるが、ロシア製戦車やそれに順ずる戦車は自動装填装置の機構的な問題により侵徹体の全長を容易に伸ばせないという欠点がある。
初速を上げる、というのは大砲の威力向上方法では昔からありふれた方法である。具体的な方法では前述の装薬の強化、そして砲身長の延長があげられる。砲身長の延長はこれまたありふれた方法であるが、これはもともと装薬側に砲身を延長しても弾を加速し続けられるだけの余裕があることが必須である。もっとも一般的にはその余裕があることは多い。
砲身延長は装薬強化よりも技術力も手間も必要ない半面、長砲身化により取りまわしの悪化と発射時に共振を起こし精度低下を招きやすいという欠点が存在する。
名称 | 口径/貫徹能力(RHA換算、距離2000m) | 開発国 |
解説 | ||
BM-3/BM-6 | 115mm/236mm(BM-6) | ロシア |
BM-3は世界初の記念すべき実用APFSDSである。最初に実装された戦車はT-62。BM-3は侵徹体がタングステン製だったがBM-6では加工の容易な鋼鉄製に代わっている。スペック上の貫徹能力は距離2000mで236mmであるが肝心の有効射程は1600mにとどまっていた。 | ||
DM33 | 120mm/460mm(L44砲) | イスラエル |
もとはイスラエル製のM-413だが、NATOに採用され現在では西側諸国では主砲たるラインメタル製120mm滑腔砲ともども最も一般的なAPFSDSと言っていい。ちなみに同じDM-33という型番の105mm砲弾も存在するので注意。日本では90式・10式両用の砲弾にこれをJM33としてライセンス生産している。 | ||
DM53/DM63(DM53A1) | 120mm/650mm(L44砲) | イスラエル |
西側諸国が運用する砲弾。侵徹体の全長を400mm台から600mm台へ長くしており、L/D比をDM-33の約20から約30に引き上げることにより貫徹能力を強化している。反面、重量増加による初速低下を防ぐため侵徹体の直径をDM-33の約28mmから約20mmに引き下げており、着弾時に破断する可能性やERAに対する脆弱性が増している。 また、この他にDM-53は温度によって初速が大きく変化し命中精度と威力が安定しないという欠点を有しており、装薬の変更によってこれに対処したのがDM63(DM53A1)である。 |
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M829A2 | 120mm/700mm(L44砲) | アメリカ |
ある意味有名な、劣化ウランを侵徹体に使用したAPFSDS。L/D比は18とさほど大きくないものの、劣化ウランの比重の重さとセルフシャープニング現象によって高い威力を誇り、装甲貫通後も侵徹体自身が発熱することによる加害が期待できる。半面、曲がりなりにも放射性物質であるため感情的問題から特に自国や同盟国内での使用には制限が付いている。ちなみにセルフシャープニング現象を最大限生かすために後継のM829A3ともどもさほど高初速化は求められていないことも特徴。 | ||
93式105mm装弾筒付翼安定徹甲弾 | 105mm/不明 | 日本 |
もとは74式戦車の105mmライフル砲のために日本が独自開発したAPFSDS。16式機動戦闘車もこれを運用する。ライフル砲で運用するため砲弾の回転数を落とすスリッピングバンドが装着されている。105mm砲弾ではあるが、一説には初期の120mmAPFSDSに匹敵する威力を持つとされるが定かではない。ただし第一機甲教育隊の隊長が本砲弾は相手にする可能性がある戦車(開発年代からT-80系列ではないかと噂されている)に対して砲塔正面にはやや分が悪くとも、車体前面ならば貫徹が可能な性能を有していると発言しており、まったくの嘘ではないことは確かなようである。L/D比は約20。 | ||
10式120mm装弾筒付翼安定徹甲弾 | 120mm/不明 | 日本 |
10式戦車専用砲弾として日本が独自開発したAPFSDS。侵徹体の全長がDM53系列の600mm台と同等であり威力強化が図られている。しかしDM53の侵徹体直径が約20mmであるのに対し10式徹甲弾は24mmとなっており、DM53よりも着弾時やERA突破時の破断確率が抑えられている。さらにサボを軽量素材に置き換えた上で肉抜き、加えて装薬の強化が行われているため初速もDM33やDM53よりも高初速となっていると考えられている。事実、その発射の際に発生する音はJM33と比較して耳が痛くなるレベルであるという。半面装薬を強化したため従来のラインメタル製120mm砲準拠の砲では発射が不可能となっている。戦車の新規開発、配備を行っている日本だからこその砲弾といえる。 |
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最終更新:2024/12/26(木) 11:00
最終更新:2024/12/26(木) 11:00
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