冨田勲 (1932-2016) とは、日本の作曲家・編曲家・エンジニアである。生涯にわたって様々な番組の音楽を数多く手がけたほか、1970年代以降はシンセサイザーを用いた編曲で世界的に名が知られるようになった。晩年には初音ミクを用いた活動も精力的に行い、VOCALOID文化の発展に大きく貢献した。
同じく音楽家であるヤン富田、冨田恵一(冨田ラボ)、冨田謙、冨田悠斗(T-POCKET)等とは苗字が共通しているが、おそらく偶然である。
略歴
1932年4月22日東京生まれ。鐘紡の嘱託医だった父の都合により青島、防府、北京で幼少期を過ごし、帰国後は愛知県の岡崎で戦争を体験。1949年慶應義塾高等学校に編入し、小林亜星、小森昭宏、林光らを同期に持つ。弘田龍太郎に和声学を、平尾貴四男や小船幸次郎に作曲法やオーケストレーションを学ぶ。
ラジオ・テレビ・映画
慶應義塾大学在学中からNHKで音楽の仕事を始め『きょうの料理』『新日本紀行』等のテーマを作曲。大河ドラマ5作[1]での音楽担当は池辺晋一郎と並び最多。他局においても『柳生十兵衛』『座頭市物語』等の時代劇から『ジャングル大帝』『リボンの騎士』『どろろ』等の手塚治虫作品、『キャプテンウルトラ』『マイティジャック』といった特撮まで数多くの番組で音楽を手がけた。また映画音楽も生涯にわたり手がけ、日本アカデミー賞では優秀音楽賞を8作で受賞[2]。うち6作が山田洋次監督作品で、特に『たそがれ清兵衛』では最優秀音楽賞を受賞している。
シンセサイザー
1971年、モーグ・シンセサイザー[3]を日本人として初めて個人輸入した。1974年に発表したアルバム『月の光』はドビュッシーの音楽をモーグ・シンセサイザーで演奏したもので、これが全米ビルボード・クラシカル・チャート第1位を獲得するとその後も『展覧会の絵』『火の鳥』『惑星』『宇宙幻想』『バミューダ・トライアングル』『ダフニスとクロエ』『大峡谷』『ドーン・コーラス』等を立て続けに発表した。またこの頃冨田勲のマネジメントをしていた制作会社インターパックに松武秀樹が入社しており、冨田のシンセサイザーを使うことを許されている。
立体音響
サラウンド的な音楽体験に強い思い入れのあった冨田勲は『ダフニスとクロエ』までのアルバムを CD-4 とよばれる4チャンネルステレオ規格でリリースしている。1979年、小松左京プロデュースのもと『エレクトロ・オペラ in 武道館』というイベントを日本武道館で行った。これは会場の中央に置いたピラミッド形のスクリーンにCGアニメーションを投影し、武道館の四方・上部・ピラミッド内部に置いたスピーカーから6チャンネルでシンセサイザーの音を出すものであった。これ以降、広い空間の様々な場所から音を出す音楽イベントを多く手がけることとなる。特にオーストリアのリンツで開かれる音楽イベント・クラングヴォルケ[4]で1984年に行った『マインド・オブ・ユニバース』を始めとする「トミタ・サウンド・クラウド」[5]シリーズでは、スピーカーを積んだ船やヘリコプターを動かしながら音を出す等の大規模な試みを繰り返し世界各地で好評を博した。その後も、ハウステンボスで2003年まで行われていた公演『サウンドギャラクシー(音の銀河)』、東京ディズニーシーの開園以来現在[6]までアクアスフィアで流れているBGM等で立体音響を手がけている。
初音ミク
冨田勲は初音ミクを「ミクちゃん」と呼んだ。2012年に初演された『イーハトーヴ交響曲』のソリストに初音ミクを起用し、初音ミクの音声と映像を生のオーケストラにリアルタイムで同期させるという世界初の試みを成功させた。この公演のためにクリプトン・フューチャー・メディアが開発したリアルタイム同期システムは後にマジカルミライ等の現場で活用されることとなる。2016年11月には初音ミクをソリストとしてのみならずバレエダンサーとしても起用する『ドクター・コッペリウス』の上演が決まっていたが、その完成を待たず2016年5月5日に死去。倒れる1時間前まで打ち合わせをしていたという。84歳であった。
死後
『ドクター・コッペリウス』は予定されていた日程を変更することなく、生前から協力していたことぶき光らの全面バックアップのもと追悼公演として上演された。2017年には冨田勲生誕85周年、初音ミク生誕10周年、翌年の手塚治虫生誕90周年とを記念した「初音ミク×手塚治虫展―冨田勲が繋いだ世界―」が宝塚市立手塚治虫記念館で開催され、また同年コラボCD『初音ミク Sings “手塚治虫と冨田勲の音楽を生演奏で”』が発売された。これは初音ミクと重音テトとが公式に共演した数少ない例の一つである[7][8]。2021年に開催された東京オリンピックでは開会式の聖火点火時に『ドクター・コッペリウス』の第7楽章『日の出』が、閉会式の聖火納火時に『月の光』が用いられた。フィギュアスケーターの羽生結弦は選手として最後の2シーズン、フリープログラムの演目に『天と地と』『新・平家物語』のサウンドトラックを使用した。プリ・アルスエレクトロニカは2021年から「冨田勲特別賞」を発表している。
関連動画
関連リンク
関連項目
脚注
- *『花の生涯』『天と地と』『新・平家物語』『勝海舟』『徳川家康』
- *第3回での音楽賞ノミネートを含む
- *Moog Synthesizer IIIp
- *Klangwolke. 直訳すると「音雲」
- *2007年にサービスを開始した音楽共有サービス SoundCloud とは無関係
- *記事初版執筆2024年現在
- *他に超歌舞伎『花街詞合鏡』や初音ミクシンフォニー2018-2019の例がある
- *重音テト(かさねてと)おふぃしゃる「ツインドリル」 on X: "もう1つ、初音ミク Sings “手塚治虫と冨田勲の音楽を生演奏で”に重音テトが参加させてもらったときにお友達って紹介してくれてる。 初音ミク TALK3 ~「ジャングル大帝」の紹介 https://t.co/qNztUwpwtr @YouTubeより" / X

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