内発的動機付けとは、人に一定の行動をさせる方法の1つである。反対語は外発的動機付けである。
内発的動機付けに対しては2つの定義が考えられる。
定義2.は定義1.の文章に「他者から感謝されて」の文字列を追加しただけである。
心理学者のエドワード・L・デシは「内発的に動機づけられた行動は、人がそれに従事することにより、自己を有能で自己決定的と感知できるような行動」と定義したが[1]、1.と2.の両方ともその定義に該当する。
本記事の『定義1.の内発的動機付けの例』と『定義2.の内発的動機付けの例』の項目において、それぞれの定義の例を列挙して紹介する。
このことは本記事の『労働運動の抑制』の項目において解説する。
年功主義(年功序列)や年齢主義といった思想に基づいて賃金体系を決めている企業は、労働者に対して外発的動機付けを掛けて成果を出したり能力を高めたりする行動に向かわせることができない。
年功主義や年齢主義の企業では、成果を出す者や「成果に結びつく行動」を繰り返す者に対して、報酬を与えることを全く行わなかったり、極めて長期の後払いで報酬を与えたりする。「研究などで大きな成果を挙げた者に対しても特別扱いをせず、定年まで同期社員と同じ報酬にし続ける」とか「研究などで大きな成果を挙げた者に対して直後に与える報奨金をわずかな金額にしておき、10年以上の時間をかけて管理職や役員に登用して高額の報酬を与える」ということが例として挙げられる。
しかし、年功主義や年齢主義の企業においても、成果を出したり能力を高めたりする行動に労働者を向かわせようとする気運がある。そういう気運がないと企業の収益が減って企業が倒産してしまう可能性が高まる。
このため年功主義や年齢主義の企業では、労働者に対して内発的動機付けを掛けて成果を出したり能力を高めたりする行動に向かわせることが多い[2]。例えば、労働者に対して「成果を挙げたり能力を高めたりしたら人事権と予算が大きい仕事に参加させる」と宣言して、「成果を挙げたら自分の能力の高さを実感できるような面白い仕事に参加できる」と期待させて労働者のやる気を刺激していく。また例えば、営業部門の実力を高めて顧客の感謝の声を収集させつつそうした感謝の声を労働者に聞かせて、「成果を挙げたら顧客に感謝されて自分の能力の高さを実感できる」と期待させて労働者のやる気を刺激していく。
外発的動機付けを全く行わずに内発的動機付けだけで人のやる気を刺激して人を動かしていく例がある。
その代表例はやりがい搾取である。一切の報酬を与えずボランティアの身分にとどめて、外発的動機付けを全く行わない。そして「あなたが仕事に関わることで歴史に残る大事業が完成します」と吹き込んで仕事自体の面白さを感じさせ、内発的動機付けを繰り返す。これだけで人を簡単に募集することができ、人を容易に動かすことができる。
2020年東京オリンピックにおいて大会組織委員会は観光客向けの医師や案内人をボランティアでまかなったし、日本の各地の地方公共団体は地震や台風といった大災害が起こるたびに災害ボランティアを組織して人手を無償で徴収している。こうしたやりがい搾取は、内発的動機付けの威力が強いことを示している。
内発的動機付けは不祥事や犯罪やプライバシーを放棄させる行為の原動力となることがあり、社会に禍根をもたらすことがある。
このことについて本記事の『不祥事、犯罪、またはプライバシー放棄誘導の原動力』の項目で述べる。
内発的動機付けの重要性を論じた学者としては、心理学者のエドワード・L・デシが挙げられる。
定義1.の内発的動機付けとは、人に対して「その行動をすることで自分の能力の高さを実感して満足できる」と内心において期待させて人に一定の行動をさせることである。
ゲーム会社は、自社のゲームを遊ぶプレイヤーに対して内発的動機付けを掛けている。
ゲーム会社はほとんどの場合においてプレイヤーに賃金を支払わないが、それでもプレイヤーに「このゲームを遊ぶと自分の能力の高さを実感して満足できる」と期待させて内発的動機付けを掛けることでプレイヤーにゲームをさせている。
優秀な受験生の一部は、受験勉強を一種のゲームと割り切り、ゲーム感覚で受験勉強している[3]。
優秀な受験生の一部は、「ゲーム感覚で受験勉強をすることで自分の能力の高さを実感して満足できる」と期待しながら受験勉強をしており、自分で自分に内発的動機付けを掛けている。
官公庁の労働者は、自分の能力の高さを実感して満足する経験をしやすく、内発的動機付けを掛けられやすい。
官公庁が何かを決めるとそれに従って世の中の民間企業が大きく動いていく。例えば日本の中央官公庁の○×課があることを決めると、それに従って全国津々浦々の個人や法人が影響を受け、全国で一斉に行動を起こす[4]。
そういう状況を目撃したり体験したりした官公庁労働者は、ゲーム感覚で面白がって労働をするようになり、「労働することで自分の能力の高さを実感して満足できる」と期待するようになり、内発的動機付けを強く掛けられる。
官公庁労働者の中には過労死するものがしばしば発生するが、その原因の1つは、内発的動機付けが強く掛かって労働を面白がるようになって長時間労働をしすぎてしまうというものである。
一般的な職場において管理労働者は内発的動機付けを掛けられやすい。
人事権や予算を与えられた管理労働者は、人事権をふるって人を好きなように動かしたり巨額の予算を使ってモノを好きなように購入したりすると、自分の能力の高さを実感して満足するようになり、「労働すれば自分の能力の高さを実感して満足できる」と期待するようになり、内発的動機付けを掛けられて長時間労働を苦にしなくなる。
「会社Aを退職して会社Bに転職して自らの収入を増やしたが、会社Aに勤務していたときほどの大きな予算の仕事をすることができず退屈を感じ、結局、会社Bを退職して会社Aに舞い戻った」という例はこの好例である[5]。
労働の成果が目立つように公表される労働者は内発的動機付けを掛けられやすい。
労働の成果が目立つように公表される労働者の例として、漫画家・アニメーター・イラストレーター・小説家・彫刻家・陶芸家・画家・音楽家・俳優・声優・美容師・服飾デザイナー・建設労働者・スポーツ選手などが挙げられる。
自らの労働の成果が人目の付くところで派手に公表される様子を見ると、自分の能力の高さを実感して満足するようになり、「労働すれば自分の能力の高さを実感して満足できる」と期待するようになり、内発的動機付けを掛けられて長時間労働を苦にしなくなる。
「建設会社の人が、自分の関わった建物の前を通り過ぎるときに胸が満たされるような気分になり、観光地でもないのに家族を連れてその建物のそばまでドライブするようになる」ということが当てはまる[6]。
「企業の研究室にこもって研究ばかりしている人が、自分の開発した製品が世の中に出回ったのを見て快感を感じ、モチベーションを失うことなく研究に打ち込むようになる」ということが当てはまる[7]。
定義2.の内発的動機付けとは、人に対して「その行動をすることで他者から感謝されて自分の能力の高さを実感して満足できる」と内心において期待させて人に一定の行動をさせることである。
定義2.の内発的動機付けは、「賞賛して名誉を高めることによる外発的動機付け」とよく似ているが、それとはすこし異なる概念である。賞賛して名誉を高めることは多数の人々に知れ渡るように公然と行うことが常であるが、感謝の言葉を掛けることは一対一で内密に行うことが多い。
保育士・教師・看護師・医師・介護士・営業職労働者・小売業労働者・飲食業労働者・観光業労働者・宗教団体職員は、顧客(患者・信者)との距離が近い労働者であり、顧客(患者・信者)からの感謝の声を受けやすく、内発的動機付けを掛けられやすい。
保育士・教師のように若者の顧客との距離が近い労働者は、若者の顧客からの感謝の声を受けやすく、内発的動機付けを掛けられやすい。
若者は経験と知識が少なく、ごく初歩的なことを教えられただけで感激することが多く、感謝の声を発しやすい存在である。そうした若者の顧客と接すると内発的動機付けが強く掛かる。
顧客との距離が遠くて顧客の感謝の声が届きにくい企業であっても、優秀な営業部門を抱えているのなら労働者に内発的動機付けを掛けることができる。
優秀な営業部門を抱えていて、顧客が発する感謝の声を収集して製造部門に伝達することを恒常的に行っている企業は、労働者に内発的動機付けを掛けることができる。
医師・看護師・医療機器産業労働者・介護士・介護機器産業労働者・軍人・兵器産業労働者・警察官・警察装備産業労働者・消防士・消防装備産業労働者は、人の生命を支える財・サービスを生産する労働者であり、内発的動機付けを強く掛けられやすい。
人の生命を支える財・サービスを提供すると、顧客から深く感謝する声を掛けられることが多く、内発的動機付けを強力に掛けられる。
宗教団体職員は、人の生命を支える財・サービスを生産する労働者の1つであり、内発的動機付けを強く掛けられやすい。
宗教というのは人々の心のよりどころであり、人々の生きる希望であるので、宗教団体職員は人の生命を支える財・サービスを生産する労働者の1つと言える。
宗教団体職員は、信者から深く感謝する声を掛けられることが多く、内発的動機付けを強力に掛けられる。
穏健な宗教団体にせよ、カルト宗教団体にせよ、宗教団体はその職員に対して「あなたが労働すれば信者の皆さんに深く感謝されるでしょう」と訴えかけて内発的動機付けを掛けて労働させることが非常に多い。
言語や文化の統一性が高い国家の労働者は内発的動機付けを掛けられやすい。そうした国家では人々が同じ言語を喋って同じような価値観を持つので、国民が積極的情報提供権(表現の自由)を行使しやすく、感謝の声を発信しやすい。
言語や文化の統一性が高い国家の例は日本である。日本は諸外国に比べて失業率が低い。その原因の1つは、言語や文化の統一性が高くて感謝の声が企業に届きやすく、労働者に内発的動機付けが掛かりやすく、労働者が労働三権を行使して争議行為をすることに消極的で、労働組合が御用組合になりやすく、労働者が賃金の最低額をつり上げることに消極的で、構造的失業が少なくなりやすいからである。
移民が多く流入して言語や文化の統一性が低くなった国家の労働者は内発的動機付けを掛けられにくい。そうした国家では国民同士が同じ言語を喋らないし同じような価値観を持たないので、国民が積極的情報提供権(表現の自由)を行使しにくく、感謝の声を発信しにくい。
労働者に内発的動機付けを掛けて労働者が労働を進んで行うように誘導すると、労働者が労働好きの性格に変貌し、争議権を行使して労務の提供義務の履行を中止して使用者と対決することについて労働者が消極的になり、労働組合が御用組合に変貌し、賃金の最低額を釣り上げる勢いが弱まり、賃金の最低額が労働市場均衡水準に近くなり、構造的失業が減少し、賃金の低さのため摩擦的失業が増加するものの構造的失業の減少を打ち消すほどではないために失業率が減少する。
労働者に内発的動機付けを掛けず労働者が労働を進んで行うように誘導しないと、労働者が労働好きの性格に変貌せず、争議権を行使して労務の提供義務の履行を中止して使用者と対決することについて労働者が積極的になり、労働組合が戦闘的労働組合に変貌し、賃金の最低額を釣り上げる勢いが強まり、賃金の最低額が労働市場均衡水準から遠く離れ、構造的失業が増加し、賃金の高さのため摩擦的失業が減少するものの構造的失業の増加を打ち消すほどではないために失業率が増加する。
戦闘的労働組合に苦しめられている使用者は、「戦闘的労働組合から脱退して御用組合に入れば利益を与える」といったような声かけを労働者にすることができない。そうしたことをすると労働組合法第7条に違反したことになり、労働委員会の救済命令を受けることになる。裁判所が確定判決によって救済命令を支持しているのに企業経営者が救済命令を無視したら、企業経営者は労働組合法第28条により1年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金又はその両方という刑事罰を課される。
一方で内発的動機付けを労働者に掛けて労働運動を弱体化させることは全くの合法である。
ゆえに内発的動機付けは、戦闘的労働組合に苦しめられている使用者にとって頼もしい味方である。
企業において労働者に内発的動機付けを掛けて労働者が労働を進んで行うように誘導すると、①労働強化や、②残業や休日出勤の増加が進み、労働者の疲労が増えて労災事故や過労死の危険性が高まる。
①の労働強化を達成すると、労働時間の一単位において労働者の筋肉運動量や思考量が増える。労働時間が一定で労働者に払う賃金が一定なら、企業の収益と税引後当期純利益が増えるが、労働者の疲労が増えて労災事故や過労死の危険性が高まる。
②残業や休日出勤の増加を達成すると、長時間労働になる。残業や休日出勤をする労働者が管理労働者であって残業時間や休日出勤時間に対して割増賃金を支払わないのなら、労働時間と労働者に払う賃金と企業の収益と企業の税引後当期純利益がすべて同じ割合だけ増えるが、労働者の疲労が増えて労災事故や過労死の危険性が高まる。
経済学の教科書のように分析すると次のようになる。労働者に内発的動機付けをして①労働強化を達成すると、生産技術が高まるのと同じことになり、労働者に属する生産技術を増やす有利な供給ショックとなって実質GDP(Y)が増え、資本量Kや労働時間Lが一定なのに実質GDP(Y)が増えるから資本生産性Y/Kや労働生産性Y/Lが向上する。労働者に内発的動機付けをして②残業や休日出勤の増加を達成すると、労働量Lが増えて、労働の時間を増やす有利な供給ショックとなって実質GDP(Y)が増える。
戦闘的労働組合を構成する労働者にとって内発的動機付けは忌まわしい敵である。
戦闘的労働組合が強力な労働運動を続けるには、労働者が顧客からの感謝の声を聞き取らないような環境や雰囲気を作り上げて、使用者の内発的動機付けを阻止する必要がある。
労働三権を行使しての労働運動の典型例は、労働組合が使用者に対してベア(ベースアップ)を要求するものである。ベアというのはすべての労働者の賃金の基本給を一律の割合または一定の金額で上昇させることであり、使用者が労働者に対して賃金による外発的動機付けを掛けて労働を奨めることである。
使用者は労働者に対して内発的動機付けを掛けて労働を推奨することで労働運動を弱体化させる。労働者は使用者に対して「労働者に対する外発的動機付けを掛けて労働を推奨することをせよ」と要求する。戦闘的労働組合を抱える企業ではこのような攻防が発生する。
スクールハラスメント(いじめ)やパワーハラスメントやアカデミックハラスメントやカスタマーハラスメントやモラルハラスメントや体罰や動物虐待や児童虐待は、「相手を恐怖または萎縮させることで自分の影響力を実感して自分の有能さを自覚して満足する」という共通点がある。
そして、自分の影響力を実感して自分の有能さを自覚して満足するというのは内発的動機付けの定義1.の典型である。
愉快犯というのは、刑法犯罪をして社会を恐慌におとしめて人々が慌てふためく様子を観察して喜ぶ行為のことであり、自分の影響力を実感して自分の有能さを自覚して満足するという性質がある。
そして、自分の影響力を実感して自分の有能さを自覚して満足するというのは内発的動機付けの定義1.の典型である。
人に対してAVに出演するよう誘導するときにAV製作会社が人に対して内発的動機付けを掛けることがある。
AVに出演するという行為は、性行為という究極のプライバシーを暴露することであり、多くの人にとって強い心理的抵抗を感じるものなので、誘導することが難しい。そこでAV製作会社は内発的動機付けに頼ることになる。
AV製作会社はAVを撮影するときに主演俳優に対して王様のような扱いをすることが定番である。主演俳優にスポットライトを浴びせ、主演俳優を中心として数十人のスタッフが動く体制を作りあげ、主演俳優に対して「自分は王様か何かのようであり、周囲の人を動かす影響力があり、もの凄く有能である」と感じさせ、主演俳優を満足させる[8]。
そして、自分の影響力を実感して自分の有能さを自覚して満足するというのは内発的動機付けの定義1.の典型である。
著作権法で守られている映像作品や音声作品を著作権者の許可を取らずに違法アップロードする者は、自分で自分に内発的動機付けを掛けているといえる。
ファイル共有ソフトなどで違法アップロードをすると、多くの者から感謝の声が返ってきて、その感謝の声により自分の有能さを自覚できて満足できる。このため違法アップロードをする者は「違法アップロードをすると感謝されて自分の有能さを実感できる」と考えて自分に対して違法アップロードをするように勧めているのだが、これは内発的動機付けの定義2.の典型である。
2008年2月21日にWinnyで違法アップロードをしていた者が京都府警に追送検されたが、そのときに容疑者が「自分の放流する作品を期待する人がいると思うと、やめられなかった」「(利用者に)感謝されたい」と語っていたという(記事)。
2008年5月9日にShareで違法アップロードをしていた者が京都府警に逮捕されたが、そのときに容疑者が「他のShareユーザーが喜んでくれるのが嬉しかった」と語っていたという(記事1、記事2)。
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最終更新:2024/05/06(月) 14:00
最終更新:2024/05/06(月) 14:00
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