スラヴァ級ミサイル巡洋艦とは、ソビエト海軍(現ロシア海軍)及びウクライナ海軍が保有する巡洋艦である。艦名のスラヴァはスラヴ語で「栄光」を意味する。
ロシア語ではミサイルとロケットは同意語である為、「ロケット巡洋艦」と訳される事もある。
ちなみに西側諸国でのミサイル艦はロングビーチやタイコンデロガ級のように高性能対空ミサイルで武装した個艦防空・艦隊防空に優れた艦を指すが、東側諸国では対艦ミサイルでガッチガチに武装した艦を指す。
艦級名となった1番艦は後に「モスクワ」に改名されたが、その後もスラヴァ級の名で知れ渡っている(キーロフ級もその例)。
NATOコードネームは「ウラシナ級」であったが、まもなく1番艦の名称が発覚した為、かなりマイナーな呼び名になっている。
概要
本級の設計が始まったのは1960年代後半で、計画名は1164号計画「アトラーント」。
当初は対空・対潜を担当していたカーラ(ベールクト)級巡洋艦を大型化し、URPK-3メテル対潜ミサイルをP-500バザーリト対艦ミサイルに換装して対水上打撃艦にするという案を当時のソ連海軍元帥ゴルシコフが直々に提出。
設計変更には難色を示されつつもアイデア自体は評価され、カーラ級の拡大発展ではなくそれをベースにした新設計艦として開発が許可された。
大急ぎで設計が進められ、模型試験すら省いて設計を完成させたが当時は米ソの潜水艦合戦の真っ最中で対潜艦であったカーラ級の建造が継続されていたために竣工が始まったのは設計完成から2年後であった。
カーラ級に搭載されていたM-11シュトゥルム艦隊防空ミサイルから新型のS-300Fフォールト艦隊防空ミサイルに換装。準イージスとも呼べる防空能力にVLSの採用で大幅な省力化に成功した。
東側のミサイル艦が対艦攻撃を重視しているとは先程も述べたが、決して防空性能を軽視している訳ではなく、むしろ対艦ミサイルを積む為に大型化した分対空兵装を充実させる事ができたのだ。
諸元
- 性能
- 基準排水量 10,000トン
満載排水量 11,280トン
全長 187m
全幅 20,8m
喫水 7,5m
最大速度 32ノット(59km/h)
巡航速度 15ノット(28km/h)
航続距離 巡航時9000海里(16,668km) - 機関
- COGASAG方式
巡航用M70ガスタービンエンジン(10,000馬力) 2基 - 加速用M8KFガスタービンエンジン(27,500馬力) 4基
- 補助用蒸気タービン(8,000馬力) 2基 ※M70ガスタービンの排熱を利用したコンバインドサイクル採用
2軸スクリュー - 武装
- AK-130 130mm連装速射砲 1基
AK-630 30mmCIWS 6基
S-300Fフォールト(NATO名グランブル)艦隊防空ミサイル8連装VLS 8基
4K33オサーM(NATO名ゲッコー)個艦防空ミサイル連装発射器 2基
P-500バザーリト(NATO名サンドボックス)対艦ミサイル連装発射器 8基(後にP-1000ヴルカーンに換装)
RBU-6000スメーチ2 対潜ロケット爆雷砲 2基
533mm5連装魚雷発射管 2門 - 艦載機
- Ka-25/Ka-27 対潜・哨戒ヘリコプター 1機
航空母艦の撃滅者
本級の最大の特徴は何といっても艦体側面にズラリと並べられた8基ものP-500バザーリトの2連装対艦ミサイルランチャーであろう。
見るからに攻撃的な外見だが、このレイアウトは当時の西側の軍事評論家達の議論の的となっていた。
この疑問に対し、1991年に2番艦「マーシャル・ウスチーノフ」がアメリカを訪問した際、身の程知らず勇敢なアメリカ海軍の士官がウスチーノフの士官にその事を質問してしまった。
「ご心配なく。あなた方の攻撃が届く前にスラヴァのミサイルランチャーは発射されて空っぽになってますよ。あなた方に向かってね」
この豪語に対し現実がいかなものであったかは後述を参照されたし。
現在
ソ連崩壊後の氷河期より寒い財政により多くの艦が建造中止・早期退役に追い込まれる中、本級は建造された全艦が現役で活発に活動しており、その性能と海軍の厚遇ぶりが伺える。
とはいえガスタービンと蒸気タービンのコンバインドサイクルという独特の主機構成や、ガスタービン等の主要部品の多くがウクライナ製である事などからメンテナンスにはかなり気を使っているらしい。
同型艦
- 1番艦「スラヴァ」(改名後モスクワ)
- 黒海艦隊旗艦。
- ミズーリでの降伏調印よろしく、冷戦終結を取り決めたマルタ会談の会場として提案された事もある(結局は客船のマクシム・ゴーリキーが会場となった)。
- ソ連崩壊時にはオーバーホール中でロシア・ウクライナ両国の「黒海艦隊分割・帰属問題」のあおりを受けてしまう(アドミラル・クズネツォフの項目でも触れられている)。
1995年に現在のモスクワに改名。1997年にウクライナの妥協によりようやく黒海艦隊に復帰するも今度はオーバーホールを完了する為の予算が無ぇ。 - これを見かねたモスクワ市が「ウチの名前を冠した艦だし…」と2000万ドルポン☆とくれたぜ。
おかげで2000年にようやく現役復帰し、黒海艦隊旗艦に返り咲いた。 - オーバーホールの際、CIWSを2基撤去した代わりにP-500を新型のP-1000ヴルカーンに換装。射程が従来の550kmから700kmと大幅に延伸された。
- 2022年4月、ウクライナの地対艦ミサイルの攻撃を受け、後に沈没した(後述)。
- 2番艦「マーシャル・ウスチーノフ」
- 北方艦隊に所属していたが、1990年代半ばにオーバーホールを受ける。
その後しばらくバルト海でバカンスを楽しんだ後、モスクワより先にP-1000を装備し、1998年に北方艦隊に復帰する。 - 2012年から2016年にかけて修理と近代化改修のため再びオーバーホールが実施され、2017年に艦隊に復帰した後は地中海を初めとする遠海への派遣が行われた。2019年には赤道ギニア首都に寄港したこともある。
- 3番艦「チェルヴォーナ・ウクライナ」(改名後ヴァリャーグ)
- 未完成に終わったアドミラル・クズネツォフ級2番艦(現中国人民解放海軍空母「遼寧」)の名を襲名。
建造時からP-1000を搭載。 - 太平洋艦隊旗艦。
- 4番艦「ウクライナ」
- ソビエト最後のミサイル巡洋艦。
- ウクライナの造船所で「コムソモーレツ」の名で建造されていたが、進水に漕ぎ着けた所でソ連が崩壊。ウクライナ政府の所有になるが当時ロシアに負けず劣らず金の無いウクライナに完成させる余裕などあるはずもなく、絶賛放置プレイされる事に。
- そしてウクライナお得意の中国への売却を目論む。だがアメリカはこれに反発し、NATO加盟の承認と経済援助を盾に阻止。
- その後はロシアと共同で完成させ、どこかに売って山分けしようとか。「やっぱり買い戻すよー」とロシアが提案してきたとか。「いやいや就役させるよー」とティモシェンコ内閣が意気込んだりと色々あったが今後は不明のまま。
- …しかし2010年5月、ウクライナのヤヌコヴィッチ大統領が「ロシアが完成に協力してくれる」と発表……していたのだが、2014年からのウクライナ紛争により両国間の関係が悪化、2022年2月にロシアが本格的にウクライナに侵攻したことで完成の見込みは無くなった。今後に期待である。
しかし現実は非情である。 - 5番艦「アドミラル・ゴルシコフ」
- 計画のみ。
- 艦名は改キエフ級及び新型フリゲートに引き継がれた。
- 6番艦「オクチャブリスカヤ・レヴォリューツィヤ」
- 計画のみ。
モスクワの沈没
2022年2月末より始まったロシアのウクライナ侵攻に従軍するなか、日本時間4月14日、モスクワが重大な損傷を蒙ったとロシア政府が公表した。原因については、ウクライナ側は新型地対艦ミサイル「ネプチューン」が命中したためと主張し、ロシア側は弾薬庫が誘爆したためと発表した。やっぱり男気溢れるミサイル配置のせいだったのかもしれない。
その後、ロシア側から総員退艦の後に火災が収まり、装備などの損傷は軽微だったなどの大本営発表があったり、アメリカ国防総省からかなりの損害を負いつつも未だ浮上していて自航もしくは曳航によって港に引き上げているのではとの見解があったりしたが、同日夜にやはり沈没したとロシア政府が発表した。
なお発表では曳航中に悪天候によって横転、沈没したとされたが、当時当該海域の風速は10ノット程度と穏やかだったとか。
モスクワにネプチューンが2発命中したことはアメリカ政府の人間が確認している[1](ただ、ウクライナが何発のミサイルを発射したのかは明らかになっていない)。
戦闘による巡洋艦の沈没はフォークランド紛争におけるアルゼンチン海軍の「へネラル・ベルグラーノ」以来で、実に40年ぶりのことであり世界中で大きなニュースとなった。
侵攻開始当初はモスクワが黒海のズミイヌイ島の警備隊に降伏勧告を行って「くたばれ」と返されたことが報じられたが、まさか数十日後に本当にくたばってしまうとは誰にも予想できなかったであろう。
関連動画
関連静画
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関連リンク
- 沈没したロシア海軍スラバ型巡洋艦「モスクワ」の電測兵装 2022.4.16
- 巡洋艦「モスクワ」、沈没直前とされる画像が浮上 黒煙上げ傾く 2022.4.19
関連項目
脚注
- *沈没のロシア艦「モスクワ」、ウクライナのミサイル2発が命中 米高官 2022.4.16
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