antifa(ドイツ語「Antifaschistische」あるいは英語「Anti-fascists」の短縮形。「アンティファ」あるいは「アンティーファ」あるいは「アンチファ」とカタカナ表記される)とは、
- 1930年代のドイツにおいて、ドイツ共産党(KPD)の関連団体として発足した団体。正式名称は「Antifaschistische Aktion」である。しかしファシスト党であるナチスがドイツの政権を握ったという歴史的事実からもわかる通り、この「Antifaschistische Aktion」はファシズムに敗北した。
- 欧米を中心とした各国で展開されている「反ファシズム」「反ファシスト」などを理念として掲げる左派/極左運動。
本記事では上記のうち、現代のものである2.について記載しつつ、それに関連してくる部分について1.にも軽く触れる。
概要
上記の「2.」、すなわち現代のアンティファは、ナチズムと人種差別主義に対抗することを標榜しており、その基本指針は「ファシストが政府や社会に根を張って第2のナチスドイツを誕生させることを阻止する」である。
アンティファの組織としての実態は謎に包まれており、全米各地に200もの拠点があるとされるが、支部として明確に認知できるのはオレゴン州ポートランド市内の事務所だけだという。アンティファのイデオロギー面での代弁者はマーク・ブレイという政治活動家で、『アンティ・ファシスト・ハンドブック』という著書を出して、アンティファの政治理念などを説明している。[1]
とは本記事の過去の記述だが、こう表現すると「謎の一大組織」であるかのように聞こえるかもしれない。実際に本記事の過去の版では「極左暴力組織である」とも記載されていた。
しかし実際には、「統一された特定の組織」ではなく「運動」の一種として、様々な性質の団体・個人が好き勝手に名前を掲げて/名乗っているものである。日本語版Wikipediaの記事「ANITIFA」などの記載を見てもわかる通り、各国のアンティファ運動団体は時代もきっかけも割とバラバラに発足している。
「第二次世界大戦前の欧州にルーツを持つ」と記されることもあるが、本記事冒頭の「1.」すなわち元祖の「Antifaschistische Aktion」と直接の関係を持つ中心組織があるというわけでもない。名前や理念、旗のデザインなどにシンパシーを感じて勝手に真似して名乗り始めた運動、といったところが近いようだ。
そのため活動内容も、極左と言うべき攻撃的なデモ活動から、左派と言う程度の非暴力的なカーニバル開催に至るまで、それを行う「アンティファ」がどういった方針の団体(あるいは個人)なのかによって大きく異なっている。
理念とする「反ファシズム」ですら、「何をファシズムと定義するか」という面で意見が異なっていたりする。性差別や同性愛差別を「ファシズム」の一部と定義したり、しなかったり。
「アンティファ」を名乗る者たちが連帯することはあるかもしれないが、統一組織があるといった性質のものではない。逆に敵対することすらあり、例えばドイツではイスラエルを「ファシズムだ」と見なして攻撃する一派と、それに対してイスラエルを擁護する一派に分裂した例もあるという。
中には「保守系の人間が大学で講演会をすると聞くと、その大学に押しかけて妨害する」といった活動を繰り返している人々が「アンティファ」を名乗る例もある。C.R.A.C.(元レイシストしばき隊)の海外版ともいえる運動だが、アンティファの方が歴史は古く、C.R.A.C.にもアンティファを真似ている部分が多い。[2]
こういった「暴徒を動員してヤジで相手を黙らせる」活動を行うものが「アンティファ」を名乗ることもあり、表現・宗教の自由などをうたった憲法修正第1条を軽視するようなこういった活動ではファシストと変わらないという批判もある。[3]
シンボルマーク
現代において「アンティファ」を標榜して活動する者たちが旗などに使うシンボルマークは赤と黒の色合いをしている。この旗について、一部のオルトライト系の陰謀論者(いわゆる「QAnon」系の人々など)が「ナチスの旗に似ている。ナチスの再生だ」等と主張していることもある。
- そういったツイートの例
(ただしアカウントが凍結されているためインターネットアーカイブへのリンク)
しかし実際には、この現代の「アンティファ」のシンボルマークは、1930年代にナチスと対立していた元祖アンティファのシンボルマークを改変したものである。元祖アンティファは上記のようにドイツ共産党(KPD)の関連団体であった事から、「共産主義」のシンボルとしての「赤い旗」が2つひるがえっているイラストをシンボルマークとして採用していた。
そして戦後、現代に繋がる「アンティファ運動」が立ち上げられた際に、共産主義以外の左派の潮流も含有する目的で、元祖アンティファの旗に「無政府主義」のシンボルである「黒い旗」を加えたものであるとされる。
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つまりナチスの旗(ハーケンクロイツ)の再生であると言った言説は「色が似ている」という以外の根拠が乏しく、配色の理由も別の説明がされてしまうため、いわゆる陰謀論の域は出ず信憑性には乏しい。
日本での活動
立憲民主党・杉並区議会議員のひわき岳が2019年10月にツイッターに投稿した動画は新宿で行われたデモの様子を撮影しており、アンティファの旗が映っている。
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https://twitter.com/hiwaki_gaku/status/1185479429155250177
東京渋谷でもアンティファの旗を掲げた左翼組織がデモを行った他、2019年8月のあいちトリエンナーレの展示「表現の不自由展・その後」が中断された件では、アンティファ名古屋支部が展示の再開を要求する団体に主張の場を提供している。[4]
トランプ大統領によるantifaのテロ組織認定の意向
2020年6月1日未明、アメリカのトランプ大統領はantifaがアメリカ各地の暴動を煽っているとしてantifaのテロ組織への認定の意向を示した。
ただしアメリカのメディア企業CBSインタラクティブ社が運営するニュースサイト「CNET」などが翌6月2日に報じたところによると、「アンティファ」を名乗って暴動をあおっていたTwitterの偽アカウントについて、実際には白人至上主義団体「Identity Evropa」が運営していたいわゆる「なりすまし」アカウントであったと報じた。この情報はこのアカウントを停止したTwitter社がCNETの取材に対して語ったものだという。[5]
トランプ大統領はいわゆる「オルトライト」からの根強い支持を受けている(前述の「QAnon」もトランプ大統領を熱狂的に支持している)。そして「アンティファ」とオルトライト各派は、以前から政策上の理念の違いなどから互いに敵視しあっている。つまりトランプ大統領にとって「アンティファ」は、自らの支持層と敵対している者たちと言うことになる。そういった背景から、上記のようななりすましアカウントなどを用いた「アンティファが暴動の黒幕だ」とする話について、ファクトチェックをしないままにこのツイートをしたのではないか?という疑問の目でも見られている。
(※トランプ大統領は以前にもTwitterで根拠が曖昧なツイートを投稿し、そのツイートにTwitter社から信頼性に関する警告のラベルを貼られたことがある[6]。ちなみにこのことに怒ったトランプ大統領は、それに対する報復措置に出ている[7])
また、同じくアメリカの週刊誌「The Nation」が運営するウェブサイトで翌6月2日に報じられた内容によると、アメリカの連邦捜査局(FBI)のワシントンDCのフィールドオフィスは5月31日にワシントンDCで起きた暴動について「アンティファが暴力行為に関与したと示す情報は無い」とも語っている。[8]
なお、上記ツイートから2日経過した6月3日には、アメリカの司法省によって、ラスベガスにおいて暴動を扇動していたとして極右運動「ブーガルー」に連なる3人を逮捕したと発表しており、このことからも「極左のアンティファが主に暴動を扇動しているのだ」といった単純な話ではないことも分かる。6月4日にはアメリカのバー司法長官が「アンティファや同様の過激派集団が暴力行為を扇動し、実行した証拠がある」と発表したが、その具体的な証拠は挙げなかった。ただしその際バー氏は「特定の勢力が敵対勢力に成りすます偽情報工作も横行している」「異なる政治信条の多様な勢力が暴力行為に関与している」などとも語っており、上記のTwitter社が発表した「なりすましアカウント」の情報や、前日に司法省が発表した「極右も暴動に関与している」という情報を補強したとも言える。[9]
また、仮に一部の「アンティファ」が暴動を扇動していたという証拠を見つけたとしても、実際に「アンティファ」をテロ組織として認定することには法的な難しさがある。上記のように「アンティファ」は実際には単一組織ではなく、本部も代表もない「運動」の緩やかな連帯でしかない。こういった状況で「アンティファ」という「運動」の全体を(つまり、暴動に関与していなかった「アンティファ」の運動家も含めて)「テロ組織」として指定するには、憲法の修正が必要であるという。[10]
さらに、「アメリカ大統領にはそもそもアメリカ国内の組織をテロ組織として認定する法的権限が無い」と指摘する専門家もいる[11]。「アンティファ」は前述のとおり全体としてのまとまりは乏しく、「本部から人員が派遣されてくる」ような性質のものではないため、アメリカで「アンティファ」活動をしている者たちは概ねアメリカ国内の個人や団体であると思われる。つまり、トランプ大統領が本当に上記のツイートを実行しようとするならば法的な整備から始めなくてはならない。
そんな中、2020年6月9日にはトランプ大統領が「警官に突き飛ばされたバッファロー(※都市の名前)の抗議者は、アンティファの工作員かもしれない。75歳のマーティン・グジーノは警察の通信機を妨害させるためにスキャンしようとしたところを突き飛ばされたのだ。One America News(※保守系メディアの名前)を見たが、突き飛ばされたより激しく転んでいる。スキャンしようとしていた。これはやらせでは?」とツイート。
この突き飛ばされた抗議者「マーティン・グジーノ」という75歳の男性は、2020年6月4日にバッファローで行われたデモにおいて警官に近づき、突き飛ばされて転倒して耳から血を流すなど重傷を負った人物である。
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https://twitter.com/WBFO/status/1268712530358292484
ところが、その後の報道によるとこの「マーティン・グジーノ」氏はカトリック系労働者支援団体や人権擁護団体での活動に関わってはいたが、アンティファとの関連が確認されないとのこと[12]。つまり、トランプ大統領はこれといった証拠がなかろうとも「警官に抗議活動を行う人々はアンティファの可能性がある」という先入観の元にツイートしていることになる。こういった例からも、トランプ大統領やその関係者が言う「アンティファが暴動の黒幕だ」という主張は、証拠が示されない限りは信憑性が高いとは言えないようだ。
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関連項目
脚注
- *米国で勢力を広げる謎の組織「アンティファ」とは 社会が分断し、過激に対立していく米国(1/3) | JBpress(Japan Business Press)
2017.9.13
- *日本人が知らない北米左翼の恐ろしさ - 大紀元時報
2019.8.26
- *極左アンチファ台頭に懸念 | 世界日報
2017.8.22
- *極左団体「アンティファ」、カナダで保守派講演会を妨害 日本でも活動 - 大紀元時報
2019.11.6
- *白人至上主義団体が極左を名乗り暴力扇動--Twitterがアカウントを停止 - CNET Japan
- *Twitter、トランプ米大統領のツイートに初めて信頼性関連のラベル追加 - ITmedia NEWS
- *なぜトランプはツイッターに報復措置をとったのか? WEDGE Infinity(ウェッジ)
- *The FBI Finds ‘No Intel Indicating Antifa Involvement’ in Sunday’s Violence | The Nation
- *米暴動「アンティーファが扇動した証拠」 外国勢力の介入も - 産経ニュース
- *アメリカ暴動――トランプは極左アンティファを「テロ組織」に指定できるか(六辻彰二) - 個人 - Yahoo!ニュース
- *トランプ米大統領、反ファシスト「アンティファ」をテロ組織に指定すると発言 - BBCニュース
- *警官に突き飛ばされた男性は「極左集団の扇動家」 トランプ氏が陰謀論加担のツイート - 毎日新聞
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