銀河英雄伝説の事件 | |
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柊館炎上事件 | |
基本情報 | |
時期 | 新帝国暦3年 5月14日 |
地点 | 銀河帝国 フェザーン星系 惑星フェザーン |
概要 | 地球教団による皇宮「柊館」の襲撃事件 |
詳細情報 | |
実行者 | 地球教団 教徒 少なくとも182名以上 |
目的 | 第一子を懐妊中の皇妃ヒルデガルドへの襲撃 |
逮捕者 | 地球教徒 負傷収容6名・検挙20名 |
死者 | 憲兵隊・帝都防衛部隊 不明 地球教徒 156名以上 |
結果 | 地球教団による皇妃ヒルダ襲撃の失敗 柊館の全焼 フェザーンにおける地球教団地下組織の壊滅 |
関係者 | 皇妃ヒルデガルド 憲兵総監兼帝都防衛司令官 ウルリッヒ・ケスラー上級大将 皇姉グリューネワルト大公妃アンネローゼ |
新帝国暦3年の親征 | |
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ハイネセン動乱 - (柊館炎上事件) - (エフライム街の戦闘) - シヴァ星域の会戦 - ルビンスキーの火祭り |
前の戦闘 | 次の戦闘 |
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ハイネセン動乱 (イゼルローン回廊同盟側出入口における遭遇戦) |
エフライム街の戦闘 |
柊館炎上事件(シュテッヒパルム・シュロスえんじょうじけん)とは、「銀河英雄伝説」の事件のひとつである。
概要
新帝国暦3年5月14日、ローエングラム朝銀河帝国帝都フェザーンにおいて、懐妊中の皇妃ヒルデガルド(ヒルダ)が居住する皇宮「柊館(シュテッヒパルム・シュロス)」が地球教団によって襲撃された事件。
当時、皇帝ラインハルトはハイネセン出征中で不在であった。武装した地球教徒の内部侵入を許し、皇妃ヒルダおよび来訪中の皇姉グリューネワルト大公妃アンネローゼの身も一時危険にさらされたものの、駆けつけた帝国軍憲兵隊によって鎮圧された。
背景
新帝国暦1年のキュンメル事件をきっかけに地球教団が銀河帝国の公敵となって以降、地球上の総本部を帝国軍によって追われた残党は潜行して地下組織となった。彼ら地球教残党はもっぱら人類社会の安定の阻害を目的に行動し、特に皇帝ラインハルトを間接直接に害するためのさまざまな陰謀やテロリズムに関与したが、この柊館炎上事件もそのひとつである。
「柊館」は、もともとフェザーンの豪商が引退後に居住していた30室を持つ邸宅で、宇宙艦隊司令長官ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥の官舎となる予定だったところ、当人の気性にあわず空き館となっていたものである。皇帝ラインハルトの婚礼後、新皇宮「獅子の泉」完工までの仮皇宮として活用されることとなったが、皇帝夫婦の私生活に関わるため屋内監視システムは整備されていなかった。
事件当時、皇帝ラインハルト自身はハイネセン動乱の収拾のため新領土の惑星ハイネセンに赴いており、新帝都フェザーンには不在であったが、その皇妃であるヒルダは皇嗣たる第一子(のちの皇太子アレクサンデル・ジークフリード)を懐妊して柊館に残っており、6月1日には出産が見込まれていた。事件は、この皇妃ヒルダと胎児の身命を狙い、フェザーンに潜んでいた地球教徒によって実行された。
いっぽう、対する帝国官憲側では、柊館の警備司令部や帝国軍憲兵隊を隷下におさめる憲兵総監兼帝都防衛司令官ウルリッヒ・ケスラー上級大将を皇妃警護の最高責任者とし、憲兵隊と帝都防衛部隊を柊館警護と市中の警備に配備していた(なお、軍組織の最上位者である軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥はハイネセン出張中であった)。
事件経過
事件当日である新帝国暦3年5月14日は、その日付に対してやや蒸し暑い日だったと伝えられている。
この日、ケスラー上級大将と皇帝出征中の国政を主宰する国務尚書フランツ・フォン・マリーンドルフ伯爵の双方が、それぞれ地表上の惑星防衛施設視察と新設の人造湖および水資源管理システムの視察のために帝都中心地区を離れていた。同日が襲撃の実行日に選ばれたのはこのためであった。また、柊館には皇姉であるアンネローゼ・フォン・グリューネワルト大公妃が皇妃ヒルダの見舞いに訪問していた。
帝都各所での陽動工作
5月14日11時15分、憲兵本部に対し匿名・画像なしのTV電話が入り、フェザーン地下社会における地球教組織の復活、5月中旬の大規模暴動の策謀、特に交通・通信・エネルギー供給システムへの切迫した危険が通報された。この通報は帝都中心から憲兵隊・帝都防衛部隊の戦力を拡散させるための陽動であったが、同年1月に航路局の航路データが抹消される事件が起きるなど交通・通信系への妨害を経験していた憲兵隊では、地球教蠢動の報に条件反射的に動員体制を整えはじめた。
通報からまもない11時30分、ローフテン地区の油脂貯蔵庫で起きた爆発を端緒とし、市外との通信システムや上水道が相次いで破壊されるなど市内14ヵ所において破壊活動が発生。死傷者が続出したローフテン地区では消防隊と避難者の列がぶつかって交通麻痺が生じ、上水道の破壊ではフィヤーバルト地区の街路が冠水、地下ケーブル網への浸水で一帯の送電が止まる事態となった。こうした事件に逐次対処した結果、統括すべきケスラー上級大将を欠く帝国官憲の戦力は同日午後には大きく分散した状態となった。
同日15時、ようやく連絡が確保され事態を伝えられたケスラー上級大将は、テロリストの目標は皇妃ヒルダと胎児のほかになく、破壊工作はすべて警護を手薄にするための陽動と即時に看破する。彼は憲兵隊の増強を指示するとともに、視察を中止して帝都中心部へと急行した。
柊館への襲撃
地球教徒が柊館を襲撃した当時、皇妃ヒルダおよびグリューネワルト大公妃は二階角部屋の図書室に滞在しており、出産の近い皇妃ヒルダは機敏に動くことができない状態であった。館内に侵入した教徒のひとりは一時この図書室内部まで到達したが、両名への危害は駆けつけた憲兵によってかろうじて防がれている。さらに教徒は「火による罪の浄化」として柊館の各所に放火を行った。
柊館外部ではケスラー上級大将が前庭に司令部を置き、部隊の館内への突入を試みたが、突入第一陣は二階部からの教徒の攻撃でほぼ全滅状態に陥った。もともと民間の邸宅であることによる内部情報の不足や放火による熱感知システムの能力低下のために館内の状況把握も難しく、さらなる突入の判断を困難としていた。しかしこの時、襲撃当時に偶然外出中だった近侍マリーカ・フォン・フォイエルバッハより、皇妃ヒルダが図書室に滞在しているであろうことと当該の図書室の窓の位置が伝えられる。
この情報を受けたケスラー上級大将は、自ら梯子を上って図書室に突入し、ちょうど再び図書室に侵入しようとしていた教徒数名を射殺。この憲兵総監自らの突入が転機となり、階下からも憲兵数名が二階へと突入し、銃撃戦のすえに戦闘を終結させた。常に傍にあって義妹を庇ったグリューネワルト大公妃の活躍もあって、皇妃ヒルダと胎児には傷一つつかぬまま無事に襲撃は鎮圧されることとなった。
襲撃終結後
柊館での戦闘終結直後、グリューネワルト大公妃が皇妃の出産を伝えたため、皇妃ヒルダはケスラー上級大将麾下のヴィッツレーベン大佐が指揮する警護隊の護衛を受けた救急車でフェザーン医科大学附属病院へと急ぎ搬送された。ケスラー上級大将自身はすでに建屋全体に火が回りつつあった柊館に残って消火と負傷者救助を指揮したが、19時40分に至って柊館は焼失した。
その後、陽動であった市内14ヵ所の破壊活動も、ケスラー上級大将の指揮下ですべて鎮圧された。いっぽう皇妃ヒルダは、同日22時50分に皇長子たる男子(アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラム、アレク大公)を無事に出産している。
事件の影響
事件終結後の時点で、最低156名の地球教徒が死亡したほか、憲兵が教徒26名を確保(うち6名を負傷収容)した。また中央宇宙港を始めとする惑星上の宇宙港に監視網が敷かれ、逃亡を試みた教徒2名射殺、1名検挙の成果を挙げている(この際、副産物として、サイオキシン麻薬密輸犯をはじめとする10名以上の刑事犯逮捕者が生じた)。
憲兵本部では、ケスラー上級大将の指揮のもとでこれら収監した教徒に対して苛烈な尋問(狂信者に対しては肉体的苦痛が有用でないことから、拷問ではなく自白剤が使用された)が行われ、尋問中に死者8名が生じた。この結果、フェザーンのエフライム街40番地の活動根拠地にいまだ多数の教徒が潜伏して皇妃と皇子の身命を狙っていることが判明し、同月17日のエフライム街の戦闘によってことごとく掃蕩された。
この事件での柊館焼失に失われた皇宮の代替には、ゴールデンバウム王朝当時のフェザーン駐在高等弁務官官邸であった邸宅が選ばれた。同邸宅は地名からヴェルゼーデ仮皇宮と呼ばれ、退院後の皇妃ヒルダとアレク大公、および帰還した皇帝ラインハルトの住居となった。
ケスラー上級大将と柊館炎上事件
柊館炎上事件の端緒となった帝都各地での破壊工作への対応については、当時の憲兵隊に存在した組織的な弱点の存在が指摘されている。当時の憲兵隊は、ケスラー上級大将がゴールデンバウム朝銀河帝国最末期に憲兵総監に就任して以来、彼のリーダーシップのもと、腐敗していた憲兵隊の綱紀粛正と組織・意識改革が進められ、大きな成功を収めていた。
結果、憲兵隊にとってケスラー上級大将はあまりにも強力な指導者となり、部下がその指揮に依存し、総監不在の状況では逐次的な事態処理になりがちな傾向が生じていた。このため、事件当日の憲兵本部では、ケスラー上級大将から事前にテロリズムの対象はなにより皇妃ヒルダと胎児であると伝えられていたにもかかわらず、地球教徒蠢動の通報に過敏に反応してしまい、破壊工作に対し戦力を分散させる結果がもたらされることとなったとされる。
また、ケスラー上級大将の柊館突入にあたって皇妃ヒルダの居場所を通報した近侍マリーカ・フォン・フォイエルバッハは、この事件が出会いのきっかけとなってケスラー上級大将との交友を深め、2年後にはケスラー元帥の夫人となった。
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10巻『落日篇』第六章「柊館(シュテッヒパルム・シュロス)炎上」にて描写。
石黒監督版OVAでは第106話。彫刻付きスタンドをぶん投げるアンネローゼの強肩が見られる。
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