U-460とは、第二次世界大戦中にドイツ海軍が建造・運用したXIV型Uボート2番艦である。1941年12月24日竣工。1943年10月4日、アゾレス諸島北方で、米護衛空母カード艦載機から爆雷を受けて沈没。
概要
XIV型とは、Uボートの活動期間を延伸するために建造された補給用Uボートである。愛称はミルヒ・クー(Milchküh、乳牛の意味)。
ドイツ海軍上層部は、遠方の海岸でUボートを活動させるためには道中で補給する必要があると認識していた。しかし枢軸国は少数の友好的な港湾を除き、連合国のような海外基地を持っておらず、そのような背景から、1934年に海上でUボートに補給を行う役割を持つ補給用UボートのIV型の設計が提案される。しかし英独海軍協定のトン数制限により、ドイツの潜水艦のトン数はイギリス海軍の45％に抑えられ、作戦用Uボートの建造が優先されたためIV型の設計は放棄となった。
計画が再始動したのは開戦後の1939年9月8日の事だった。イギリスの圧力でスペインのカナリア諸島にあるドイツ海軍基地が使えなくなり、遠洋作戦中のUボートに補給を行う2000トン級Uボートとして、カール・デーニッツ代将が司令部に3隻の建造要請を出したのがXIV型の始まり。
最大級の大きさを誇るIXD型の設計をベースに、全長を短くして、全幅を広く取る事で貨物スペースを確保、貯蔵能力を最大限に高めるべく魚雷や甲板砲は搭載せず、対空用の37mm機関砲と20mm機関砲のみ装備。またXIV型はVIIC型と多くの部品を共用し、艦橋はIX型と同一のものにするなど生産性の向上にも力を入れている。艦体は複殻構造を採用。耐圧船殻厚は21.5mmとVII型やIX型より3mm厚く、これに伴って最大潜航深度が30m深い。更にシュノーケルを装備した事で長時間の潜航が可能。
内部に400トン以上の燃料を搭載可能な大型補給用タンクを設置。デッキスペースを平滑にして補給作業を容易なものにしている。加えてパン製造機を持っているため、焼きたてパンの提供も可能。ただ乾側が低いので荒天時の作業は困難だったという。
作戦中のUボートに洋上補給を施して期間を延長させるのがXIV型の役割であり、魚雷4本、燃料720トン、潤滑油34トン、真水19.5トン、蒸留水3トン、VIIC型12隻分もしくはIXC型5隻分の食糧を積載可能。XIV型には軍医が乗船していて時には傷病者の診察も行った。輸送船団を震えあがらせるUボート、その活動期間を延長させるXIV型は、連合軍にとって悪魔のような存在であり、戦況を左右する重要な艦と認識して集中的に攻撃を加えた。実際ロンドンの連合国海軍本部は「いかなる犠牲を払ってでも乳牛を捕まえろ！」と命令していたほど。
しかし、図体の大きさから潜航に時間が掛かり、操艦もしにくく、加えて連合軍から集中的に狙われたため、1943年だけで7隻が失われる大損害が生じている。
要目は排水量1688トン、全長67.7m、全幅9.35m、最大速力14.9ノット(水上)/6.2ノット(水中)、出力3200馬力、予備浮力368トン、安全潜航深度120m、最大潜航深度240m、急速潜航秒時40秒、乗組員53～60名。兵装は37mm単装機関砲1門と20mm連装機関砲1基のみ。
艦歴
1940年5月14日、ドイチェ・ヴェルケのキール造船所に発注、11月30日、ヤード番号291の仮称で起工、1941年9月13日に進水し、そして12月24日に無事竣工を果たした。初代艦長にフリードリヒ・シェーファー少佐が着任するとともに訓練部隊の第4潜水隊群へ編入。バルト海で慣熟訓練を行う。
1941年末にクラーラ、アトランティス、パイソンを立て続けに失った事で、ドイツ海軍上層部は水上タンカーを使ったUボートへの補給作戦を断念、代わりにデーニッツ提督はXIV型Uボートの活用を決め、連合軍に気取られないよう1942年6月まで、BdU(Uボート司令部)はU-460の就役を伏せていた。
6月6日現在、姉妹艦のU-459が大西洋で行動中だが、既に補給用燃料の80％をUボートの補給に割り当てられており、自身も補給を受けなければフランスに戻れない状態だったため、U-460の出撃が急ぎ求められていた。
1回目の戦闘航海
1942年6月7日にキールを出発、カイザーヴィルヘルム運河を通って、バルト海、カテガット海峡、スカゲラク海峡を横断したのち、ノルウェー南部のクリスチャンサンで燃料補給を受け、6月9日、同地を出発して最初の戦闘航海に赴く。アイスランド・フェロー諸島間の、イギリス海軍の警戒がギリギリ及ばない海域を抜けて北大西洋に進出すると、アゾレス諸島北方の補給地点にて待機。
ところが6月16日よりハリケーンシーズンが到来。アメリカ東海岸やカリブ海で熱帯暴風雨が多数出現し、北大西洋の作戦行動に大きな足かせを課す。そんな中、作戦を控えたU-89とU-132、カリブ海に長駆する途上のU-173、U-508、U-509、アメリカ東海岸に向かうU-171、U-402、U-458、U-576、カリブ海方面から帰投するU-126、東海岸方面から帰投するU-202とU-584の計12隻に補給を実施した。7月1日にロリアンを本拠とする第10潜水隊群へ転属。
U-460が大西洋で補給任務を行った事で、「ヘクト部隊の作戦継続が可能となり、1万3000トン級船舶2隻と6000トン級船舶1隻を撃沈」、「ジブラルタル行き船団の攻撃任務に就いていたエンドラス部隊への補給が完了し、カリブ海及び北米海域での作戦期間が短縮されずに済んだ」、「北米海域におけるVIIC型、カリブ海におけるIXC型の運用が可能になる」といった数々のメリットがもたらされた。また、U-460から125日間活動できる物資を受け取ったU-171は、メキシコ湾で最も長く暴れ回り、3隻撃沈の戦果を挙げている。
ドイツ占領下フランスの港へ入るにはビスケー湾という難所を突破しなければならなかった。ここはイギリス本国の眼前にある関係上、常に厳しい航空哨戒が行われており、更に新型レーダーとリー・ライトを持った敵機の出現が確認され、7月2日に帰投中だったU-502がその餌食となっている。恐るべき敵の脅威に曝されながらも、7月31日、無事にサン・ナゼールへ入港。
2回目、3回目の戦闘航海
8月27日、サン・ナゼールを出撃するが、翌日、ビルジボンプ室の故障が発覚し、急遽サン・ナゼールに引き返す羽目となる。修理を終えて9月1日に再出撃。イギリス軍の航空哨戒が厳しいビスケー湾を突破すると、大西洋を南下し、アゾレス諸島西南西の補給地点で待機。暴風雨のため中断した北大西洋の作戦は9月より再開した。
9月中旬、カリブ海に向かうU-201、U-202、U-332、逆にカリブ海から帰投するU-511に燃料を補給。カリブ海は連合軍の主要産油地で、前々からUボートが通商破壊に向かっていたものの、9月からは哨戒艇が新型のものに刷新され、敵船舶も船団を組むようになった影響で、撃沈戦果が46隻から25隻に激減し、10月には15隻にまで落ち込んでしまった。が、U-460の補給を受けたUボートがカリブ海に出現した事で11月の戦果は25隻に増大した。
カリブ海行きUボートの補給を終えるとカーボベルデ諸島北方へ移動、作戦を控えたU-87、U-107、U-333、U-590、基地に帰投するU-109、U-406、U-507に燃料補給を施した。9月28日にU-507へ補給をした時、レーダー警戒装置メトックスと、重病人1名を受け取り、代役としてU-460の乗組員1名がU-507に移乗している。
メトックスの効果はてきめんだった。メトックスのおかげで遠方の敵機をいち早く察知出来るようになり、潜航が遅いXIV型でも十分間に合うほどの時間的猶予を得られたのである。10月には湾内を出入りするUボートの被害はゼロとなった。10月12日、46日間の航海を経てサン・ナゼールに帰投。
11月11日にサン・ナゼールを出撃。キューバ、ドミニカ、ハイチ、パナマ、ブラジルでの飛行場建設に加え、東海岸やカリブ海の港湾に沿岸砲が配置されて防護が固められた事を受け、Uボートの作戦範囲は、中部大西洋キャップと呼ばれる、基地航空隊の索敵範囲が届かない隙間に狭められた。今回の任務はその中部大西洋キャップで活動中のUボートの作戦期間を延長する事にある。
今回もアゾレス諸島北西で待機。だが、ハリケーン襲来に伴って天候が悪化、補給を受けるべく集まり始めていたUボート戦隊は容赦のない時化に翻弄され、二次電池が充電出来ないので艦をまっすぐに向ける動力が無く、電灯も、料理も、まともに出来ない状態に陥る。嵐が去った後、彼らはU-460と合流するために無電を使わなければならなかった。そしてついに彼らは渇望したU-460を見つけ出した。
11月26日から12月5日まで、作戦を控えたU-373、U-445、U-611、U-623、U-663、基地に帰投するU-67、U-84、U-106、U-183、U-383、U-518、U-606、U-608、U-753に燃料補給。無事任務を完遂したU-460は12月8日より帰路に就く。この頃、連合軍は北アフリカ上陸作戦(トーチ作戦)に掛かりきりで、対潜警戒を行う兵力は一時的に減少していた。しかし12月中旬になると冬の訪れに伴う大西洋の天候悪化によりUボート戦隊も活動縮小を強いられている。
12月19日にサン・ナゼールへ帰投。
4回目の戦闘航海
1943年1月27日にサン・ナゼールを出撃。しかし再びビルジボンプ室が故障して2日後にサン・ナゼールへの帰投を強いられている。この影響で大西洋方面での補給に狂いが生じ、U-460から補給を受ける予定だったU-117が燃料を受けられなくなり、急遽BdUがU-664を潜水タンカーに指定するも、悪天候に阻まれて失敗に終わっている。
1月31日、気を取り直して再出撃、今度の補給地点はアゾレス方面ではなく、北大西洋を西へ渡った先の、ニューファンドランド島東方であった。敵の航空哨戒の激化で、大西洋西部での作戦を断念したデーニッツ提督は、大西洋中部に新たな哨戒線を敷いていたのだが、2月2日、U-456がHX-224船団の船舶3隻を撃沈した際、救助した捕虜から「より遅い船団がHX-224の後ろを追っている」との情報を得、SC-118船団に攻撃を仕掛けるウルフパック「プファイル」が編制、U-460はその支援に就く。
2月15日から25日にかけて、作戦を控えるU-89、U-135、U-608、基地に帰投するU-186、U-226、U-303、U-402、U-403、U-454、U-456、U-525、U-594、U-606、U-607、U-614、U-632に燃料補給。献身的な補給のおかげで、「プファイル」は活動期間を延伸する事が出来、SC-118船団への攻撃に成功して、撃沈11隻(5万4326トン)と撃破1隻(9272トン)の大戦果を得る。まさにU-460の支援の賜物であった。
5回目の戦闘航海
4月24日、フリータウン沖で通商破壊中のUボート戦隊を支援するべくボルドーを出撃。
5月3日に帰投中のU-117と合流して燃料補給を受ける。そして5月17日頃、フリータウン西方の補給地点に到着し、作戦を控えるU-105、U-126、U-154、U-511、U-513、U-515、基地に帰投するU-123に燃料補給を行った。このうちU-511は同盟国日本に向かう途上であり、U-460の補給によって中継地の日本占領下ペナン基地まで辿り着いている。
補給を終えたUボート戦隊はフロリダ近海・リオデジャネイロ間、アフリカ沿岸のダカール・ギニア湾間に分散したが、すぐに連合軍が空母艦載機及び四発長距離機を繰り出し、6月のUボートの損失は20％、7月には30％に上昇するほどの大打撃を受けた。
帰路、U-758と合流して燃料補給を行う予定だったが、敵護衛空母ボーグ艦載機との交戦で損傷させられたため、BdUは約100海里離れたU-460とU-118を救援に向かわせ、後にU-92も同様に急行。U-758は7名の負傷者を出していて医療的支援も要請していた。6月8日、道中でU-460とU-118が合流。シュノール艦長、U-118艦長ツィガン少佐は司令塔からメガホンでやり取りし、U-460が西方で、U-118が現在の航路でU-758の捜索を続ける事で合意した。翌9日14時頃に損傷したU-758をU-118が発見。やや遅れてU-460も現場に到着する。ちなみにU-92は予定通り帰路に就くよう指示され、救援には現れなかった。
U-118から軍医が送られて負傷者7名(うち4名が重傷者)の手当てを行う。その後、3隻は移動を開始。6月10日朝、アゾレス諸島西方で、U-92用の余剰ディーゼル燃料をU-118に補給、BdUからの命令でU-460はU-118と別れ、U-758の護衛としてボルドーに向かう。6月13日にU-758へ燃料40トンを補給。
5月16日から8月4日の短期間でXIV型は6隻を一挙喪失、健在なのはU-460とU-488の僅か2隻のみで、2隻とも8月中は港に帰投していたため、大西洋の補給態勢は危機的状況を迎える。したがって機能不全のままUボート戦隊は優勢な敵船団に攻勢を仕掛けなければならなかった。
更にビスケー湾を通過して外洋に出ようとした86隻のうち、19隻が失われ、あまりの被害に驚いたデーニッツ提督は8月2日に出港禁止命令を発令、新型逆探ハーゲヌクの効果が確認される8月末まで命令は続いた。
6回目の戦闘航海
出撃禁止令が緩んだ1943年8月23日にボルドーを出撃、ところがバッテリーハッチの漏洩のため、8月25日に緊急帰投を強いられた。8月30日、改めてボルドーを出撃。
9月7日、まず最初にU-536へ燃料と食糧を補給。続いて9月10日から13日にかけて、アゾレス諸島北方にて、ウルフパック「ロイテン」所属のU-260、U-305、U-338、U-386、U-645の5隻に燃料補給。「ロイテン」給油後は西進して9月14日にU-170へ燃料補給を行う。9月23日、U-422は爆雷と機銃掃射を受けて重軽傷者3名を出したため、BdUよりU-460との合流を命じられ、9月27日18時に2隻は合流に成功、早速U-422は軍医による医療的支援を受ける。そこへ更にU-264とU-455に対する給油命令が下った。
海上補給には2つの大きな欠点があった。第一は、集合場所の設定に膨大な無線通信が必要で、それらの通信は暗号解析やHFDF/ハフダフによって頻繁に傍受され、1943年半ばまでに、連合軍は事実上全ての集合場所を事前に把握出来る状態になっていた。第二は、海上補給中は身動きが取れず、またかなりの時間を要するため、敵の攻撃に最も弱く、連合軍はその隙を積極的に狙ってXIV型を次々に撃沈していたのである。
最期
1943年10月4日午前10時3分、アゾレス諸島北方で予定通りU-264、U-455と合流して燃料補給を開始。そこへ敵護衛空母カードから飛び立ったTBFアヴェンジャー雷撃機が襲来。この時、U-264は給油を終えたばかり、U-422は右舷側で給油準備中、U-455はU-422の後方約500mで順番待ちの状態であった。
敵機を確認したU-460は給油プラグを即座に引き抜き、U-264やU-455とともに対空射撃で応戦。だが敵機の勢いを止められず、U-460とU-264の間に500ポンド爆弾を投下、着弾を示す水柱が高々と築き上げられる。そこへ増援の敵機3機が到着してU-455とU-264が潜航退避。海上に残っているのはU-460とU-422だけとなる。
U-460は敵機から集中攻撃を受ける。まず最初にMk-47爆雷4発が投下、しかし投下が早かったため命中せず、代わりにU-460の激しい対空射撃が敵機を追い散らした。やがてU-460が潜航退避を始めるも、その時を待っていたアヴェンジャーが音響追尾魚雷ファイドを発射し、約25秒後、大きな衝撃波が発生、大量の油と残骸が海面に広がった。
これがU-460の最期とされるが、異説では、ファイドはU-422を狙ったもので、U-460は潜水事故を起こして自滅したと言われる。実際U-264の報告書によるとU-460は潜水に問題を抱えていた事が記されている。U-264艦長ルックス少佐は、真っ先に潜航しなければならないU-460が何故潜航しないのか全く理解できなかったという。燃料移送のためU-264に移乗していて難を逃れたカール・コーネン主任技師とワグナー水兵も、U-460が潜航しなかった理由について説明出来なかった。おそらくU-460は深刻な問題を抱えていて潜水不能だったと思われる。
ちなみにU-460の最期は長らく不明瞭で、「10月4日まで生存していなかった」とまで言われたほどだったが、カードの報告書、U-264、U-455の戦闘日誌を分析し、10月4日朝に撃沈されたと判明した。
関連項目
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