ティラノサウルス(Tyrannosaurus)とは、白亜紀に生息していた恐竜の一種である。
名前の意味は「暴君トカゲ」。
目 | 竜盤目 |
亜目 | 獣脚亜目 |
下目 | コエルロサウルス下目 |
科 | ティラノサウルス科 |
属 | ティラノサウルス属 Tyrannosaurus |
種 | T.レックス T.rex |
中生代白亜紀末の北アメリカに生息していた大型の肉食恐竜。
最大全長13mに及ぶ史上最大級の陸上肉食動物であり、もっとも有名な肉食恐竜である。
白亜紀後期を代表する恐竜とされるが、生息期間はわずか500万年、地層年代でいうとマーストリヒト期のみと非常に短い。
模式種のティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)は1902年にアメリカ人化石ハンターのバーナム・ブラウンが発見、1905年に古生物学者のヘンリー・F・オズボーンが命名した。「王たる暴君トカゲ」を意味する。
しかし学名の決定は意外にもかなり錯綜しており、1892年には後にティラノサウルスと同一と判明する脊椎の断片的な化石が発見され、オズボーンの師エドワード・D・コープにより「マノスポンディルス・ギガス」(Manospondylus gigas)と命名された。この学名の意味は「巨大だがスカスカな脊椎」である。
1900年にはブラウンによりまた別の化石が発見され、1905年にオズボーンがティラノサウルスと同じ論文で「ディナモサウルス・インペリオスス」(Dynamosaurus imperiosus)と命名した。「皇帝の如く強大な力を持つトカゲ」を意味する。
1906年にオズボーン自身によってティラノサウルスとディナモサウルスが同一であると確認されたのだが、国際動物命名規約「命名先取権」により、名前が残ったのは先に発見されたディナモサウルスではなく、論文中で先に書かれたティラノサウルスだった。
そして2000年にはマノスポンディルスの残りの部分が発掘され、それによってマノスポンディルスがティラノサウルスと同一であることが確認された。
本来なら命名先取権により改名されるところだったのだが、ティラノサウルスという名前があまりにも普及していたため「保全名」であるとして改名は免れた。だっさい名前が残らなくて一安心である(まあその時は脊椎しか無かったのだからコープに非はないが)。
有名な割に全身の骨格はなかなか揃わなかったのだが(恐竜としてはそっちの方が普通である)、1990年にス-ザン・ヘンドリクソンによってようやく全身の90%が揃った骨格が発見され、「スー」(Sue)という発見者と同じニックネームが付いた。地主との裁判、FBIによる押収、オークションなど紆余曲折を経てシカゴ市・フィールド自然史博物館に収められている。前肢の正しい形態だけでなく、明らかに他の個体に餌を運んでもらわなければならないような骨折が治った跡があるなど、骨格の復元だけでなく生態の研究にも大きな影響を与える素晴らしい標本である。
ニックネームが付いたティラノサウルス骨格には他に「スタン」(Stan)、「ブラックビューティー」(Black Beauty)、亜成体の「ダフィー」(Duffy)と「バッキー」(Bucky)などがある。
国内でも全身骨格を展示している博物館は多く、国立科学博物館(上記の「バッキー」「スタン」およびタルボサウルスの幼体を参考に復元された幼体)、福井県立恐竜博物館、豊橋市自然史博物館、北九州市立いのちのたび博物館(「スー」「スタン」の両方)など。
また恐竜を扱っている博物館なら大抵頭骨のレプリカくらいは見ることができる。頭部はティラノサウルスの特徴が最も凝縮された部位でもあるので、特徴を把握してよく見ておこう。
ティラノサウルス頭骨 |
かつてはジュラ紀のアロサウルスや白亜紀前期のアクロカントサウルスなど北米のアロサウルス類の子孫と考えられていた(当時はこれらをまとめてカルノサウルス類と呼んだ)のだが、詳細な特徴の研究やティラノサウルスの祖先にあたる恐竜の発見により、小型なものの多いコエルロサウルス類のなかからアジアで分岐し、特別に大型化したものであると判明した。
ちょうど北米・ユーラシアで栄えたアロサウルス類が白亜紀に入ると衰退したため、大型肉食恐竜のニッチ(役割)が空いた隙間を埋める形で進化したと考えられる。
南半球ではケラトサウルス類のアベリサウルス科、アロサウルス類のカルカロドントサウルス科などに分けられる系統が繁栄しており、ティラノサウルス科は見つかっていない。
一見他の大型肉食恐竜に似た体形だが、実はかなり異なる特徴を全身に備えている。簡単に言うと、前肢以外の全てががっしりと大振りにできている。
まず頭骨は肉食恐竜のなかでも特に大きくがっちりとしており、それでいて衝撃を吸収する構造にもなっていた。特に顎の筋肉が収まる後頭部の幅が広く上から見ると凸の字型になっていた。凸の字左右の前を向いた部分に眼窩があるため、両目が前を向いていて立体視ができたとされる。歯は非常に大きくて太く、肉を切り裂くより骨ごと噛み砕くことに向いていた。脳の研究によると嗅覚が非常に発達していた。また頭部を支える首も太く丈夫だった。
前肢は人間のものと同程度の大きさしかなく、手は指が1本退化して2本指だった。そんな退化した前肢を支える肩帯だけは胴体に見合った大きさをしており、実は大きな筋肉が付いていたという説もある。うつぶせに寝た姿勢から起き上がる補助に使ったなどとされる。
後肢も非常に発達しており、特に3本の中足骨(人間でいうと足の甲にあたる部分)のうち中央が左右から挟み潰されるような形になっていてがっしりと組み合わさり、巨体を歩かせたり走らせたりする衝撃を受け止めていた。最大速度20~40km/hとされる。
胴体や尾も獣脚類としては幅広く丈夫だった。体重は6t前後と見積もられることが多いが、呼吸を補助する器官である気嚢の発達具合によってはもっと軽かった可能性もある。また逆に、骨格から筋肉の量を正確に見積もると最大級の個体では10tに達したのではないかという研究結果も発表された。
その巨体を作り上げる成長段階に当たって、10~20歳の時期には年間で1t以上という非常に早いペースで体重が増加した。
もう少し鳥から遠い獣脚類や原始的なティラノサウルス類からも羽毛が見つかっているため、羽毛が生えていた可能性がある。特に体の小さい幼体はその可能性が高いとされる。
同時代・同地域に生息していたエドモントサウルスの化石から、尾の付け根あたりの背筋にティラノサウルスの噛み跡が付き、さらに回復した痕跡が見つかっている。
巨体、どっしりした体形、無きに等しい前肢、骨まで噛み砕く能力、鋭い嗅覚から、狩りのような激しい運動はできず腐肉をあさるのみだと言われることもあるが、全く狩りをしなかったはずだと公言している研究者はいない。
嗅覚や顎の力は狩りにも有用なものであるし、獲物を押さえつける前肢がどうしても必要というわけでもない。というかネコ類のように前肢によるパンチと押さえつけを重視した狩りをする動物の方が少数派である。また後肢の構造は獲物となりうる植物食恐竜より走行に適しており、少なくとも直線的に襲いかかるだけなら有利だったと推測できる。
結局は他の肉食動物同様、必要な時に手に入る肉であれば死んでいようと生きていようとかまわず食っちまったのだろうとする見方が自然で一般的となっている。
また大柄で喧嘩の強い年長者は小柄で敏捷だが打たれ弱い若者から獲物を強奪したのではないかとする見方もある。「スー」にも若干間接証拠が残るように社会性があったかもしれない。またワニや鳥類のような高度な子育てをした可能性も高い。
分類:エオティランヌス科(?) 全長:3m 時代:ジュラ紀中期 地域:中国
中国語で「冠龙/冠龍」(拼音: guānlóng (グァンロン))。属名の通り吻部に大きな楕円形のトサカがある以外は一見典型的な小型肉食恐竜。前肢はまだ長いが、すでに前歯の断面がD字型をしているなど、ティラノサウルス類特有の細かい特徴を持っていた。
分類:エオティランヌス科(?) 全長:1.6m 時代:白亜紀前期 地域:中国
中国語で「帝龙/帝龍」(拼音: dìlóng (ディーロン))。こちらも一見典型的な小型肉食恐竜。羽毛の痕跡が発見されており、小型ないし若年のティラノサウルス類に羽毛があった証拠とされる。また同時代・同地域にいた9mに達するユティランヌスにも羽毛が見つかり、他の大型ティラノサウルス類にも羽毛があったかもしれない。
分類:不明 全長:2.7m 時代:白亜紀前期(?) 地域:中国
属名は「ラプトルの王」を意味する。前述2種が長い前肢や小さめの頭などティラノサウルス類らしくない体形を残しているのに対して、こちらは同程度の大きさにもかかわらず大きな頭や短い2本指の前肢などを備えており、まるでティラノサウルスのミニチュアのような姿をしている。ティラノサウルス類の進化史の推定を大きく書き換える恐竜だが、タルボサウルスの幼体を誤認したものではないかともいわれる。
分類:ティラノサウルス科 全長:5m 時代:白亜紀後期 地域:モンゴル
やや原始的な方だがすっかりティラノサウルス類らしくなっている。といってもこのような小型のものはティラノサウルスと比べて後頭部の幅も狭く後肢がさらに長いので身軽そうな印象。「独身トカゲ」あるいは「ぼっちトカゲ」という意味のなんだか寂しい属名が印象的であるが、これは化石が発見された当初、別の恐竜の化石が紛れ込んでいる(これはまま有ることである)事に気付かず、「アジアの他種とは独立した特徴を持つ恐竜である」と誤解したことから。
分類:ティラノサウルス科 全長:8m 時代:白亜紀後期 地域:北米(カナダ・アルバータ州)
属名は「アルバータ州のトカゲ」の意味し、ゴルゴサウルス(後述)と共にアルバートサウルス亜科(Albertosaurinae)を形成する。ティラノサウルスより少し前の時代にいた。こちらもアレクトロサウルス同様細身の姿をしていたが目はやや前向きだった。ただティラノサウルスや後述のダスプレトサウルスほどではない。
目の上に小さくとがった角がある。同時代・同地域にはよく似たゴルゴサウルスと、よりティラノサウルス寄りの体形・分類のダスプレトサウルス(後述)がいた。
主にハドロサウルス類を食べていたようで、ハドロサウルス類の化石と相関関係があるとされる。
細い頭骨の特徴のため、ティラノサウルスより顎の力が弱いと推定されることからスカベンジャー説もある。
分類:ティラノサウルス科 全長:8m 時代:白亜紀後期 地域:北米(カナダ・アルバータ州)
属名は「とても怖ろしいトカゲ」の意味。同時代に生きて共にアルバートサウルス亜科を形成するアルバートサウルスの模式種に非常に近い特徴を持ち、かつては同種とされていたが、今では別種とされる。
アルバートサウルスと同じような細身の体つきで、主にハドロサウルス類を食べていたと推察される。眼窩はアルバートサウルスと比べると横向きだった。
分類:ティラノサウルス科 全長:9m 時代:白亜紀後期 地域:北米(カナダ・アルバータ州、アメリカ・ニューメキシコ州)
属名は「ぞっとするトカゲ」の意味。アルバートサウルスやゴルゴサウルスと同時代を生きたティラノサウルス類。しかし上述二種と比べるとがっちりした体つきで立体視できるよう眼窩が前向きだった。
逃げ足が早いハドロサウルス類よりは角竜や鎧竜といった足が遅く頑丈な体つきの恐竜を襲っていたとされる。
体つきや頭骨の特徴からティラノサウルスの直接の祖先であるとか、あるいは最初期のティラノサウルスであるとして Tirannosaurus torosus (肉付きのよい暴君トカゲ)とも呼ばれたことがあるほどティラノサウルスに近い。
近年になってダスプレトサウルスとティラノサウルスのちょうど中間に当たる存在と思える化石が見つかっている。ダスプレトサウルスとされている化石は今後より細分されていく可能性が高いようだ。
分類:ティラノサウルス科 全長:6m(亜成体) 時代:白亜紀後期 地域:北米
属名は「殺害者たる怪物」の意味。アルバートサウルスなどと同じ時代だが、地域的には離れたユタ州で発見された。近い地域で見つかったものにはニューメキシコ州サンファン郡のビスタヒエヴェルソル(Bistahieversor, 「ビスタヒ荒原の破壊者」の意味。なおビスタヒ(Bistahí)はナヴァホ語で 「日干し煉瓦の建造物の間にある(地域)」を意味し、風雨に浸食された岩石群を例えたもの)がある。一般的にティラノサウルス類は中型程度のものや亜成体は頭部が細長いが、テラトフォネウスは亜成体の時点で頭部が短く、ティラノサウルスを縮小コピーしたような姿をしている。
分類:ティラノサウルス科ティラノサウルス亜科 全長:12m 時代:白亜紀後期 地域:モンゴル
属名は「不安を呼び起こすトカゲ」の意味。アジア版ティラノサウルスとも呼ばれる、ティラノサウルスによく似た恐竜でティラノサウルス属に含める意見もあったが、頭骨の細部の特徴や前肢がさらに小さいことなどで見分けられる。同時代の中国にも同程度の大きさのズケングティランヌス(またはズケンティラヌス、Zhuchengtyrannus, 山東省南東部の恐竜化石のメッカ、诸城/諸城(拼音: Zhūchéng (ジューチョン))市にちなむ)がいた。
分類:ティラノサウルス科ティラノサウルス亜科 全長:6m 時代:白亜紀後期 地域:北米
「矮小な暴君」という属名の示す通り、ティラノサウルスとごく近縁にもかかわらずかなり小型で、非常に身軽な体形をしている。同時代のティラノサウルスとの競合を避け森林に適応したものであるという説がある。ティラノサウルスの幼体とする説もあるが、最近別属であるとする研究が発表された。
概要右の柱に載せたものとはまた違った考え方に基づいて描かれたもの。獣脚類の唇には様々な復元が考えられるが、頭骨に対して同じくらい大きな牙をもった陸上爬虫類であるオオトカゲのように牙を隠すのが自然だとする描き方も増えてきた。腹肋骨のラインをどうするかにも考え方の違いが現れる。 | |
尾を引きずった旧復元(いわゆるゴジラ型)に則ったイラスト。旧復元であっても当時得られる限りの資料に基づいたものもあるし、逆に新しい説に沿っていても骨格に合わなかったり生き物として間違っていたりすることがあるので注意が必要。 | |
ナノティランヌス幼体。「白亜紀恐竜奇譚竜の国のユタ(D-ZOIC)」からの模写。羽毛の生えたティラノサウルス類の幼体はこのような姿で描かれる。綿毛ではなくもっと雨水に強い硬い毛だったかもしれない。この個体はアルビノとされているが、アルビノはどの生き物にもありうるので実は一番無難な復元でもある。 | |
ディフォルメされたグアンロング(お絵カキコのタイトルではディロングになっている)。ディフォルメされていても初期のティラノサウルス類の軽快な体つきが分かるのではないだろうか。恐竜のお絵カキコとしては珍しく「本日の萌絵」候補にノミネートされた(第1316回)。 | |
争う2体のラプトレックス。チャールズ・R・ナイトにより1896年に描かれたドリプトサウルス(当時はラエラプス。原始的なティラノサウルス類であるとされるようになった)の生態復元画のポーズを用いている。 | |
テラトフォネウス。ほっそりした印象のものが多い中型のティラノサウルス類の中で、大型種のような短く高さのある頭部が特徴的。ユティランヌスの発見以来、中型以上のティラノサウルス類にもたてがみのような羽毛を生やす復元が増えた。 |
もちろんグッズは抜群に多い。その中から骨格をある程度忠実に踏まえたフィギュアやクオリティの高い骨格模型を選んでみた。
こちらの書籍では「楽に手に入れば何でもいい」とばかりに死肉にありつくティラノサウルスが描かれており、狩りのシーンはない。あまり心躍らないかもしれないがイラストは美しく骨格に忠実で、描かれている生態は実に自然で無理がない。
掲示板
306 ななしのよっしん
2024/08/13(火) 11:11:20 ID: THgaWBbCUx
>>304
逆に唇が無いとする場合の利点が無い割に有害な欠点がいくらでもあるのが唇があった説を後押ししてるな
ついでに言えば構造に関しては唇がある生き物と無い生き物では顎の骨に特徴が現れるという研究が既に出てたりする
前者がトカゲで後者がワニなわけだがワニは水中で生涯の大部分を過ごすから歯や口内環境の乾燥を唇で防ぐ必要が無いために持ってないと言ってしまえばそれまでになる
ちなみにティラノサウルスはオオトカゲと同様の構造があったからこそ今では唇がある説が有力なんだなこれが
歯のサイズだけ見ればティラノの歯は凄まじくでかいけど頭自体も相応にでかいから頭骨と歯の比率はオオトカゲとほぼ同じで無理なく唇で覆えるという結果が出てる
307 ななしのよっしん
2024/09/16(月) 03:27:08 ID: DeE4AscYsg
ドキュメンタリーで3DCG作れるなら口閉じたときに歯が収まるか分かりそうなものだと思ったけど、生前の口蓋面がどれくらい軟組織で覆われているかなどは分からないから今のところは現代の動物を参考に推測するしかないのか
308 ななしのよっしん
2024/09/16(月) 09:42:01 ID: 9PMq8E1jQo
急上昇ワード改
最終更新:2024/09/17(火) 13:00
最終更新:2024/09/17(火) 13:00
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