銀河英雄伝説の事件 | |
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ロイエンタール元帥叛逆事件(新領土戦役) ウルヴァシー事件 |
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基本情報 | |
時期 | 新帝国暦2年 10月7日-10月8日 |
地点 | 銀河帝国 ガンダルヴァ星系 惑星ウルヴァシー |
概要 | 地球教団による皇帝ラインハルト襲撃事件 |
詳細情報 | |
首謀者 | 地球教団(推定) |
目的 | 皇帝ラインハルトへの襲撃による新領土総督ロイエンタール元帥の叛乱の誘発 |
標的 | 皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラム 新領土総督オスカー・フォン・ロイエンタール元帥 |
死亡者 | 帝国軍兵士多数 コルネリアス・ルッツ上級大将 |
行方不明者 | ウルヴァシー基地司令官アルフレット・アロイス・ヴィンクラー中将 |
結果 | ロイエンタール元帥叛逆事件の発生 |
ロイエンタール元帥叛逆事件 | |
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ウルヴァシー事件 - 第二次ランテマリオ会戦 |
前の戦闘 | 次の戦闘 |
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回廊の戦い ヤン・ウェンリー暗殺事件 |
第二次ランテマリオ会戦 |
ウルヴァシー事件とは、「銀河英雄伝説」の事件のひとつである。
概要
新帝国暦2年10月初頭、ローエングラム朝銀河帝国のガンダルヴァ星系に位置する惑星ウルヴァシーの帝国軍基地において、新領土への行幸途上に滞在中の皇帝ラインハルトが帝国軍兵士に襲撃された事件。
ローエングラム王朝の創業期だった当時、地球教団によってさかんに行われていた、帝国の政情不安定化を目的とした策謀のひとつである。新領土を統治するオスカー・フォン・ロイエンタール元帥に対する皇帝ラインハルトの猜疑を生ぜしめ、ロイエンタール元帥の帝国政府に対する叛乱を誘発しようとするものであった。
けして完成度の高い陰謀とは言えないものではあったが、結果的には重臣コルネリアス・ルッツ上級大将の死亡とロイエンタール元帥叛逆事件の誘発、そしてロイエンタール元帥の敗死という、みごとな成功をおさめることとなった。
経緯
ローエングラム朝銀河帝国の“新領土”は、新帝国暦2年2月の「冬バラ園の勅令」で滅亡した自由惑星同盟の旧領である。皇帝ラインハルトと帝国政府は、戦乱が終熄したのちに機会をもうけて“新領土”を巡幸することにより、新たな領土と臣民に皇帝の威信と恩愛を周知する予定であった。
この予定にもとづき、新帝国暦2年の晩夏、新領土総督ロイエンタール元帥より皇帝ラインハルトに対しハイネセンへの行幸を願う招請状が発された。新領土行幸は9月10日に開かれた大本営での会議において決定され、随員には重臣中より本来の首席随員としてナイトハルト・ミュラー上級大将、そしてハイネセンに親族が赴任していることから同行を望んだコルネリアス・ルッツ上級大将が選任された。
9月22日、皇帝ラインハルトと一行は総旗艦<ブリュンヒルト>に搭乗し、新帝都フェザーンを出立する。途中、“大親征”戦死者の碑があるガンダルヴァ星系の惑星ウルヴァシーの帝国軍基地に立ち寄り、慰霊を行う予定であった。人造湖を中心に広がる同基地は、ハイネセン有事に備えた新領土の要となる一大軍事拠点であり、新領土治安軍の一割にのぼる50万の兵力が基地司令官アルフレット・アロイス・ヴィンクラー中将の指揮下で駐留していた。
事件の原因
ロイエンタール元帥についての流言
この皇帝ラインハルトの新領土行幸に関しては、当時新帝都フェザーンで広まっていたロイエンタール元帥に関する不穏な流言の影響が指摘されている。
新帝国暦2年8月末ごろ、新帝都フェザーンでは、ロイエンタール元帥に叛意ありという噂が流れはじめた。こうした流言の中には「ロイエンタール元帥は皇帝ラインハルトをハイネセンへ招待し、その途上で暗殺しようとしている」あるいは「幽閉し、国政を専断しようとしている」などというものも含まれていたが、いずれもロイエンタール元帥に遺恨を持つ内国安全保障局長・内務次官ハイドリッヒ・ラングの策謀によって市中に流布されたものであった。
流言はラングの意図の通り、招請状が発される直前にハイネセンのロイエンタール元帥のもとまで届いた。ロイエンタール元帥は流言がラングの策謀であることを察していたが、むしろラングの後ろ楯である軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥がそれを利用して自身を陥れようとしている可能性を憂慮した。しかし結局、この不愉快な噂に関し皇帝ラインハルトが疑いを抱いているかどうか反応を見る、という理由もあって、招請状は問題なくフェザーンへと送付されている。
招請状を受けたフェザーン側では、やはりオーベルシュタイン元帥が不穏な流言を理由に新領土への行幸を不安視する提言を行っている。しかし、皇帝ラインハルトは提言を却下するとともにロイエンタール元帥への完全な信頼を表明し、行幸が実施されることとなった。
地球教団の策謀
行幸の実施にあたっての内務次官ラングの陰謀はあったものの、実際の事件そのものは地球教団の策謀によって生じたものであった。
当時、地下組織化した地球教団を事実上のリーダーとして率いていた大司教ド・ヴィリエの企図するところは、信頼する重臣の叛逆をきっかけに皇帝が猜疑心をおこし、粛清を招き、不安に追い込まれた臣下が叛逆を企図してさらに皇帝の不信感が増幅する、という悪循環を招くことだった。その悪循環の先、ついには皇帝は絶対的な支配者として暴君となり、人民の憎悪と怨嗟が集中する的となる。そして暴君への対抗者として地球教の宗教理念が登場する、という筋書きである。
地球教団はこの筋書きに従い、ウルヴァシーにおいて皇帝ラインハルトを襲撃しつつも無事に脱出させ、強い信頼によって結ばれている皇帝ラインハルトと宿将ロイエンタール元帥のあいだに隔意を生じさせようとした。帝国軍による事件後の調査でも、事件当時ウルヴァシー基地に所属していた兵士に対し地球教団の明らかな関与があったことが確認されている。
結果として地球教団の策謀はロイエンタール元帥叛逆事件の発生という芸術的な大成功をおさめることとなるが、本来は陰謀としてそれほど完成度の高いものではなく、「ロイエンタール元帥で失敗なら宇宙艦隊司令長官ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥かオーベルシュタイン元帥を標的とするつもり」などという粗雑な予定が組まれていた程度のものでしかなかった。
事件経過
予定より一日早く10月7日にウルヴァシーに到着した皇帝ラインハルトは、ヴィンクラー中将から歓迎を受け、同日夜には行在所となる司令部隣接の迎賓館に入った。しかし夜半になると、基地内外の兵士の慌ただしい行動や、外部とのTV電話の不通といった不審な気配が生じた。
これら不穏な情勢を看取したルッツ、ミュラー両上級大将は23時30分、皇帝ラインハルトのもとを訪れ、急ぎ<ブリュンヒルト>に戻るよう求めた。同意した皇帝ラインハルトは23時37分には両上級大将および近侍のエミール・フォン・ゼッレ、親衛隊長ギュンター・キスリング准将とともに地上車で迎賓館を発って軍用宇宙港に停泊中の<ブリュンヒルト>へと向かうが、警報とともに多数の武装した兵士が追走し、地上車を銃撃する異常事態となった。なお、この襲撃が何者の作為によるものかはまったく不明であった。
いっぽう、<ブリュンヒルト>は地上から攻撃を受け、応戦しつつ武装兵に制圧された宇宙港を離れて人造湖へと着水した。この<ブリュンヒルト>と車中から連絡が取れたため、追手を一旦振り切った皇帝一行は行き先を湖へと転じ、地上車を乗り捨てた湖岸で皇帝次席副官テオドール・フォン・リュッケ少佐と合流する[1]。
しかし皇帝一行にはすでに追手が迫っており、<ブリュンヒルト>離水までふせぎとめる必要があったため、一行で最年長者であったルッツ上級大将がしんがりに志願した。彼は一個小隊規模の武装兵を相手に単身退くことなく交戦を続け、ついには<ブリュンヒルト>離水直後に戦死したが、皇帝ラインハルトは無事にウルヴァシーを脱出することに成功した。
事後処理
新領土総督府の対応
まず変事の急報を受けたロイエンタール元帥は、ウルヴァシーを発って以降行方不明状態となった皇帝ラインハルトの保護を指示するとともに、ウルヴァシーの治安回復と事件の調査究明のため麾下のアルフレット・グリルパルツァー大将を急派した。
この保護の指示には、オーベルシュタイン元帥の干渉を避けて皇帝ラインハルトに弁明するという意図もあったが、やがてウルヴァシーからの報告のなかでルッツ上級大将の死亡が確定的となると、ロイエンタール元帥はもはや弁解は不可能と判断し、叛乱挙兵を決意することとなる。
帝国政府および皇帝ラインハルトの対応
帝国政府にも非公式情報として皇帝ラインハルトの行方不明が伝わり、新領土総督府とのあいだで幾度も通信がかわされたものの生産的なものとはならなかった。その間に、帝国政府と新領土総督府の関係は敵意を含んだものとなり、緊張が高まっていった。
皇帝ラインハルト自身は、ウルヴァシー地表での脱出行中にはロイエンタール元帥に猜疑をむけておらず、むしろ真にロイエンタール元帥の作為によるものならはるかに完璧な計画であるはず、と擁護しすらした。しかし脱出後には、自らの領土の中で重臣を喪い自身も逃避行を余儀なくされた屈辱や、ロイエンタールからの弁明がないことから態度を硬化させていった。
10月29日、新領土方面に出動していたアウグスト・ザムエル・ワーレン上級大将麾下の艦隊が<ブリュンヒルト>を発見・保護する。<ブリュンヒルト>は11月1日にフェザーン回廊まで帰投し、その場でミッターマイヤー元帥に対し新領土への出師が勅命された。戦死したルッツ上級大将は帝国元帥に叙され、事件中に被弾負傷したミュラー上級大将にはジークフリード・キルヒアイス武勲章が授与されている。
事件の調査
事件の当地であるウルヴァシー基地に真っ先に派遣されたグリルパルツァー大将は、ウルヴァシーの将兵に対し武器放棄・原隊復帰を命じたのち10月中には惑星の制圧に成功したが、命令に即座に従わなかった将兵2000名以上が戦闘と即時銃殺によって死亡する武断的な対処となった。
事件の調査も彼の指揮によって行われたが、その全容解明は容易ではなかった。基地の最高責任者ヴィンクラー中将からして行方不明の状況であり(死体も発見されなかった)、しかも残された軍医のカルテからは麻薬中毒の症状が疑われ、背後関係もまったく不明であった。
兵士に対する尋問でも、単なる叛乱ではなく「ルッツ、ミュラー両将が地球教団に洗脳され皇帝に危害を加えようとしたため上官命令で救出に出動した」という皇帝への忠誠を示す証言まで存在する混乱ぶりだったが、10名以上の死者から所持品として地球教の経典や紋章が見つかったことで、全容はともかく地球教団の関与は明らかなものと判断された。
ところがグリルパルツァー大将は、自身の功績のために戦乱を求め、こうした地球教団の陰謀の証拠を隠匿して捜査結果を公表せず犯人不明のままとした。第二次ランテマリオ会戦でのロイエンタール軍の敗北後、エルネスト・メックリンガー上級大将によってウルヴァシー事件の再調査が行われ、ようやくことの真相が発覚することとなる。
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原作では第9巻『回天篇』第五章「ウルヴァシー事件」において事件を描写。
石黒監督版OVAでは第92話「ウルヴァシー事件」において事件を描写している。
関連項目
脚注
- *リュッケ少佐は皇帝首席副官アルツール・フォン・シュトライト中将とともに「皇帝はすでに脱出した」と報告を受けており、虚報と判明後、万一を考え先んじて湖水へと到着していたもの。なお、シュトライト中将は先で別に待機していた。
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