ジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes、1883〜1946)とは、20世紀を代表する経済学者である。
概要
20世紀最大の経済学者の一人である。その業績から経済学の巨人とも呼ばれる。
代表作は「貨幣改革論」、「貨幣論」、「雇用、利子及び貨幣に関する一般理論」。この三つをケインズ三部作というが、特に「雇用、利子〜」は一大センセーションを巻き起こし、ケインズ革命を実現させた。
略歴
1883年ケンブリッジにて生まれる。父親はケンブリッジ大の経済学教授であった。1902年ケンブリッジ大キングスカレッジに入学したケインズは経済学でなく数学を専攻。その後、当時の経済学の重鎮、ケンブリッジ学派を作ったアルフレッド・マーシャルに師事。経済学を志す。
大学を出たケインズはイギリスのインド省に入省するが長く続かず、1908年にケンブリッジ大に戻り経済学講師としての職を得る。1919年、第一次大戦講話条約の内容に憤慨し大蔵省を辞職。その後執筆活動に励む。それからも様々な世界機関で国際経済の安定について努力し、世界銀行の設立を最期の仕事とし1946年亡くなった。その後、2012年の日本に大川隆法氏によって降霊され、日本の現状について言及した。
性格
一言で言えばエリート主義でプライドが高い。その余りの傲慢さは天才ケインズのマイナスの面として批判されることもある。論敵に対しては勿論、師匠であるマーシャルに対しても激しい暴言を残していたりと色々酷い。ケインズのエリート主義を端的に示すのが「ハーヴェイロードの前提」という言葉である。
ハーヴェイロードの前提
ハーヴェイロードの前提とは、ケインズ経済学において経済政策は少数の(ケインズのような)賢い人によって運営されるという言葉。ケインズの生まれ育ったエリートの集住地、ハーヴェイロード6番地にちなむ。ケインズの中ではこの少数の賢い人というのは必ずしも選挙で選ばれる必要はなかった。あんまりなこの前提は後にケインズ政策の格好の叩き材料になっていった。→関連:ノブレスオブリージュ
子供の頃のケインズのエピソード
- 4歳のとき利子の経済的意味を理解した。
- 学校でケインズに難しい宿題を手伝ってもらい代わりに子分になった生徒もいた。
- 14歳の時、奨学金を得て、成績抜群で、いくつかの賞を得て、シャンパンの味を覚え、口髭をたくわえ、ボートを漕ぎ、論争家になった。
- 大学入ってからは当時イギリスの若手ナンバーワン経済学者、ピグーに週一回朝食に招かれた。
- 大学の友達と皇帝一行のフリをしてドレッドノート号に乗り込み、最後まで見破られなかった。
- その悪戯の首謀者(チェンバレン首相の甥である男)は4000ポンドも準備金を用意していた。自由奔放さ、傍若無人さからは、ケインズのエリートの俺達は何をやっても成し遂げてしまうんだ、という自負が感じられる。
- 高級官僚試験を2位の成績で通過。経済学のみ5位で他の科目は全て1位だった。20世紀最高の経済学者としては面白い試験結果である。
業績
- 不景気の時に政府が財政支出を増やす(公共事業を行う)という、ケインズ政策の提言をする。
- IMF(国際通貨基金)やIBRD(世界銀行)の設立に関わる。
- 経済学部の人が習うマクロ経済学は、この人がその基礎を作った。
- 1930年代の大恐慌時、ハイエクとラップで勝負アメリカの指針について激しい論争を繰り広げた。
- 経済学者としてだけでなく、投資家としても才能があった。キングス・カレッジの運用金3万ポンドを38万ポンドにしたという。
ケインズの経済政策
ケインズの不況観
ケインズは当時経済学会を席巻していた新古典派経済学を否定し新しい理論を打ち立てた。
ケインズ以前の不況論:新古典派
- 新古典派は供給はそれ自体需要を創作する(セイの法則)、つまり物を作れば作った分だけ売れるという前提をおいた。よって供給が滞れば不況になる→サプライサイド不況。
- 更に新古典派は、価格メカニズム(人が増えたら賃金が下がって、そのぶん雇用者は失業者を新たに雇えるという考え)において失業者は摩擦的失業者と自発的失業者の二つに大別した。摩擦的失業者とは価格メカニズムが働く途中の失業者(転職途中の失業者)であり、時間と共に消えるものとされる。つまり新古典派では、長い目でみれば、仕事を探しているのに見つからない失業者は存在しないことになる。
ケインズの新古典派への反論
⑴に関してケインズは、文化形成期ならともかく、物余りの現代ではそんなことはありえなく、供給ではなく需要の不足が不況の原因であるとした。→ディマンドサイド不況。
例えば貴方がある年に車を一台買えば、次の年には車を買う必要はなくなる。つまり需要がなくなる。もし国民の殆どが車を買い終わってしまったら、車を欲しいと思う人はいなくなり、車が売れなくなる。これが沢山の業界で起きれば社会全体が不況になるのだ。
これは現代の日本人からすれば当たり前かもしれないが当時は画期的な理論であった。現代の日本はデフレ不況だと言われているが、このデフレというのが有効需要不足である。
⑵に関してもケインズは反論する。ケインズは、一国の総有効需要を満たすのに、全ての国民が働く必要はないと主張。
例えば、ある100人の集落があったとしよう。もし住民全員に一台づつ車を配るとなった場合、その100台の車を作るのに90人が必要だとすると、10人は要らなくなってしまう。つまりその10人は仕事がしたくても、仕事が見つからない非自発的失業者となるのだ。もちろんこの場合の集落は、実際にはアメリカであったり、日本であったりする。
これらが有効需要の理論である。
需要が足りなくて不況になるなら、需要を増やせば良いんじゃね?
→それが乗数理論である。
乗数理論
ケインズは需要を高めるには消費と投資を増やせば良いと考えた。その中でも特にケインズが注目したのは政府の支出である。
乗数理論は恐ろしく簡単に言えば、
「不況になったら政府は借金してでも一杯金使おうぜ。借金は不況が終わった後、増税して返せばいいし」
という理論である。
Y=国民所得(これを増やせば不況は治る)
β=限界消費性向(収入のうちどれくらい使うかの割合。これが0.9なら、国民は収入の90%を使う、0.3なら収入の30%を消費するということだ)
I=投資量(ここでは政府の支出)
これだけではちょっと難しいので、ここは実例で説明してみよう。
ここでは仮に、限界消費性向を0.9として考えてみる。これは10万円の収入ある人が9万円(収入の90%)は使って、残りの1万は使わずに貯金するということだ。
- 政府が1000万円借金をして、それを公共事業で使った。
- 公共事業を頼まれた建設会社は、仕事の報酬として1000万円をゲットする。
- その建設会社はその1000万円のうち900万円で新しく車を買った。
- 車会社は車を売ったので収入が900万円増えた。
- 車会社はその増えた900万円のうち、810万円で新しく広告をだすことにした。
- 広告会社は車会社から810万円を得られたから、そのお金で別の物を買った。
- 広告会社に物を売った会社は、そのお金で何かを買った。
- 以下ゼロになるまでループ。
こうして、最初の1000万からスタートした投資は最終的には1000万を遥かに超えた消費を生み出した。(細かい計算は省くが、この場合は一億円の消費が新たに生まれた、最初の借金を抜いても9000万もお得)
消費が増えれば余ってるものが売れる。結果として有効需要が増え、失業者も就職できる。
これが乗数理論である。
ケインズ政策の評価
ケインズの政策は発表当初から主に若い経済学者(サミュエルソン、クライン、トービンなど)の間で大流行した。反対する学者もいたがケインズの著作は、当時世界恐慌への方策としてアメリカ政府が実施していたニューディール政策の理論的後ろ盾となった。日本でも高度経済成長期には大量の公共事業を行ったり、麻生内閣の定額給付金など積極的に取り入れている。
しかし、その現代では効果は疑問視する声が多く、理論面での権威は70年代に自由主義にとって変わられてし合った感がある。
- 国が借金して公共事業した結果が、この有様だよ!(日本の借金900兆円)
- 国がお金を使う時に恣意的になってるよ! 建設会社ばっか贔屓すんなよ(官民癒着)
- ケインズ政策でアメリカの不況が治ったとかいうけど、実際は世界大戦のお陰だろ!
- お前の論文は結論ありきで進みすぎなんだよ!(論敵の意見を故意に歪めて批判するやり方。結論重視の論理破綻)
などである。
これらの批判は1940年代に共和党のアカ狩りによって最盛期を迎え、ケインズ信奉者は社会主義者と糾弾された。
そもそも、公共事業を増やすと言う事は大きな政府を目指すと言う事であり、自由主義とは相反するものである。市場主義者にとってケインズの政策はとうてい容認できる物ではなかったのだ。
しかしそれでも尚、現代でもケインズ政策をとっている政府は少なくない。その理由としてケインズ政策の「不況は政府が頑張れば何とかなる」というスタンスにあるだろう。
ケインズと同時期を生きた市場主義者のハイエクやシュンペーター等は市場に任せれば何とかなる。逆に言えば不況に対して人間が意識的にできることは無いと言っていた。人間は不都合が起きた時にそれを何とかしたいと考えるものだ。ケインズはその点で他の市場主義者とは一線をかくし、「どうすればよいか」を為政者に教えくれる。だからこそケインズは20世紀の社会に大きな影響を与える事ができたのだ。
その他
バンコール
ケインズはIMFとIBRDの設立にも参加した。その際にバンコールという世界共通通貨を提案したが、アメリカが基軸通貨としての権益を失いたくないため反対し頓挫する。
利子の理論
ケインズの一般理論が非常に難解だとされるの一つはこの利子の理論である。実際のところ編集者もあまり理解できていない。
金融緩和は大事だ!という言葉をニュースで見たことがある人は多いだろう。単純に考えればお金が増えたところでインフレになっておしまい。と思うだろう。 ところがそれだけではないと言ったのがケインズなのである。
ケインズは最初、資本(機械)の話をする。
機械を使うことの利益は機械を増やしてモノを作るほど商品の価格が下がっていくので、低下していく。そして低下していく中で利子率とちょうど等しくなるところまで機械を追加していくというのだ。理由は簡単で、お金を借りて機械を買うなら、当然利子も含めた分も儲からなければならないからだ。
さてお金を増やした時、ものを取引するために貨幣を欲しいとは思わない。理由はお金を増やしたからすぐにモノが作られるわけではないからだ。そのため株や債権に変えられる。すると当然、株を欲しいと思う人が増えて高くても売れるので、株の価格は上昇する。一方、持て余したお金を債権にしたいので利子を下げる。
さて、ここで機械の話に戻ってほしい。利子率が低下したということはもっと機械を導入して生産が推し進められることになる。
このようにして利子率というものを通じて、貨幣を増やすことが企業の生産を活発にし、それによって雇用も増加するというプロセスを考えたのである。ちなみに物価上昇はこの次に起きるので、実体経済うんぬんは関係ない。
他にもいろいろ細かいところはあって、そこもまたケインズ特有で面白いのだが、まぁそれは半泣きになりながら本物を読もう。
ケインズの投資理論
もし貴方が美人コンテストで誰が優勝するかを友人と賭けたとき、貴方は出場者の誰にベットすべきだろうか?
正解は、「貴方が美人だと思う人」ではなく「みんなが美人だと思う人」だ。
株式でもそうである。
貴方がどこの会社に投資するかを決めるときは、「貴方が投資したほうがいいと思う会社」よりも「みんなが投資したほうがいいと思う会社」に投資すべきなのだ。
アニマルスピリット
経済活動の多くは合理的な理由に基づいて行われるが、その一方で投資家は主観的野心によって合理的に説明できない行動を取る事がある。ケインズはこれをアニマルスピリット(動物的衝動)と呼んだ。
流動性選好
一般的に現金というのは何時でも使える一方で、株券なのど債券はそうではない。株券や預金通帳をお店に持っていっても物は買えないのだ。(この、何時でも使えるレベルの高い物を流動性が高いと言う)その理由で人が債券よりも現金を持ちたがる傾向を、流動性選好と呼ぶ。あんまり流動性選好が高いと、政府の金融政策が意味がなくなることもある。それを流動性の罠と呼ぶ。
合成の誤謬
一人一人は正しくても全体としては間違っている事象のこと。
例えば、貯金をすることは倹約家として褒められるものであるが、全ての人が貯金をしてしまったら社会全体としてはお金が回らなくて不況に陥る。
ケインズはそれまでのミクロ経済(個別経済学)だけでは説明できないものを分析するためマクロ経済学(社会全体的経済学)を新たに作った。
現在、経済学部で習うマクロ経済学の基礎は殆どケインズが作った。余計な事しやがってとか言わない。
ケインズサーカス
ケインズはケインズサーカスという厨二病な名前の若手経済学者集団を形成した。ケインズサーカス出身の経済学者はその後皆大成した。
軍事ケインズ主義
ケインズ政策では有効需要を増やす為に公共事業をするわけだが、この時公共事業の代わりに軍事の増強が図られることがある。これはケインズ政策の一形態の一つである。メリットとしては軍事力を高めるのと、軍隊を余り良い教育を受けていない国民の就職先として機能させられる点にある。
ヴェルサイユ条約
第一次世界大戦の終結に当たってドイツに対して賠償を求めることになった際、ケインズはイギリス代表団の一員として参加するが、ドイツに対し懲罰的な賠償金を取り立てる案に激怒し途中帰国、さらに「平和の経済的帰結」という論文を発表し痛烈に批判した。
結局ケインズの指摘通り、ドイツ経済は機能不全に陥りナチスの台頭を招いたのだが、奇しくもそのヴェルサイユ条約がきっかけで回り回って発生した第二次世界大戦による軍事費増大によって、軍事ケインズ主義が達成されることにより、連合国は大恐慌で被った被害を回復することになった。
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ケインズ三部作は、数学は余り使われていないが、それでもケンブリッジ学派独特の表現が多かったり、経済学の初学者に優しいとは言えない。興味が湧いた人は解説本が無難かもしれない。もちろんマクロ経済学を専攻している人は読破に挑戦してみてもよいし、英語に自信がある人は原著に手を出してみても良い。もしくは、三部作以外を読むのも面白いだろう。文章からひしひしと人のことを見下しているのがわかって相当面白い・・・はず。
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