レオパルト2(Leopard 2)とは、ドイツ(西ドイツ)が開発した主力戦車である。
概要
120ミリ滑腔砲と複合装甲を備えた第三世代MBT(主力戦車)。現在の第三世代MBTの基準ともいうべき傑作車両である。
ドイツでは2021年9月から、最新型の「レオパルト2A7V」の運用を開始しており、[1]今も現役で使用されている。
レオパルト2はドイツ語では「レオパート・ツヴォー」と発音する。本来の“2”の発音は“zwei”(ツヴァイ)であるが、“3”の“drei”(ドライ)との聞き間違えを避けるために、敢えて電話で会話する時等の発音である“zwo”(ツヴォー)を採用している。
レオパルト2、M1の配備を待って西側諸国は第三世代MBTの時代になったといえるだろう。(120mm滑腔砲を搭載、複合素材、中空装甲などによる防御力の強化、それらを乗せつつ尚高機動を発揮できる大出力エンジンなど。)レオパルト2の提示した性能は以後西側戦車の標準となり、これを踏まえた戦車が各国で開発されることになる。代表的なのはフランスの「ルクレール」や、日本の「90式戦車」などがあげられる。
開発
レオパルト1配備後、仮想敵国のソ連及びその同盟国が115mm砲を積んだ「T-62」を配備する一方、125mm砲を積むという新型戦車「T-72」を開発中という知らせを受けた西ドイツは、早々とレオパルトの改良に乗り出す。
同時期、戦車開発が完全に行き詰って旧世代のMBTを運用していたアメリカもこれに同調し、両国が戦車を共同開発するKPZ70計画(アメリカ側呼称はMBT70計画)が開始された(後述)。もっとも各国の運用形態が違う主力兵器を二カ国とはいえ共同開発するのは流石に難しく、結果的にKPZ70/MBT70計画は放棄された。また、西ドイツはKPZ70の技術を流用した戦車の設計案(エーバーと仮称)も作成していた。
カイラー
1969年から、西ドイツはKPZ70計画の破綻に備え、独自に戦車開発計画を開始した。アメリカとの協定でKPZ70以外の戦車を開発することは禁じられていたので、「試験開発」という計画名で、重量40トンでラインメタルが開発した口径105ミリの滑腔砲を搭載、1200馬力のエンジンを持つ車両が試作された。KPZ70の中止が決まった後は、試験開発計画は晴れて正式の試作計画になり、カイラー(猪)の仮称が与えられた。カイラーが実質的にレオパルト2の母体といってもよいが、口径120ミリの滑腔砲や、重量、エンジン出力などの違いがある。[2]
レオパルト2
KPZ70と入れ替わりに開発が開始されたレオパルト2は、元々重量を50tサイズとする予定だったのが重量オーバーとなり、あわてて軽量砲塔を作ることに。ところが幸いというかなんというか中東戦争が勃発。歩兵携行対戦車ミサイルがイスラエル側戦車に甚大な損害を与えたことを受けて重量制限を撤廃。改めて装甲や対ミサイル対策を施した上で最終的にレオパルト2として誕生することになった。
当時、アメリカでも「M1 エイブラムス」の開発が行われている最中であり、この二台の戦車は試作開発中も相互に比較評価されることになる。アメリカの要望を組み込んだレオパルト2AV(American Version)と呼ばれる試作車輌がアメリカに送られ、M1との比較を行われている。もっともこのとき搭載していた主砲は105mm砲だったようで性能では互角という評価が残っている。この後、レオパルト2はラインメタル製120mm砲を搭載することになる。(これはアメリカのM1 エイブラムスや日本の90式戦車にも搭載している)
装甲についても第四次中東戦争の戦訓(対戦車ロケットなどの攻撃)や、新たな徹甲弾APFSDSを用いると、その速度と弾体が可能にする貫徹性で従来までの避弾経始を目的として装甲を傾斜させていても意味がないことが判明し、レオパルト2、M1ともこれに対する対応が求められた。
レオパルト2が行った方法は当初は中空装甲で、後に複合素材による装甲になる。複合素材の組合せで複雑な曲面を表現することは難しく、直角で形成される独特な砲塔となった。これにより砲塔正面はRHA(従来型装甲)換算において700mm以上の能力を持ちえたという(レオパルト1では見かけ140mmだというからその進歩は言うまでもない)。(一方、M1は最終的には複合素材装甲の開発に挫折。手っ取り早く装甲傾斜+劣化ウランをサンドイッチした装甲へと切替えている)
1977年の秋に、西ドイツはAV仕様を「レオパルト2」として生産することを決定した。[3]
アップグレード[4]
※レオパルト2A0~A4は生産時期によるマイナーチェンジで、変更点はほとんどない。
- レオパルト2A5…砲塔前面に楔形の増加装甲(ショト装甲)を装着した。このため砲塔前面右側の砲手用サイトは砲搭上面に移設されている。また、砲塔側面とサイドスカートにも増加装甲が装着された他、全周旋回可能な車長用サイトも増設。重量は59.7トンになった。
- レオパルト2A6…主砲を55口径120ミリ滑腔砲に換装し、新型の専用弾「DM53」を用いることで有効射程を伸ばした。しかし、主砲の長砲身化で車体の重量バランスが崩れて機動性が落ちており、砲身が長くなったことで命中精度も落ちたという。
- レオパルト2A6M…Mはマイン・プロテクト(地雷防御)の略。コソボ治安維持部隊としてユーゴスラビアに派遣された経験から生み出されたもので、車体底面に対地雷用装甲パネル、トーションバーには装甲カバー、操縦手席には地雷の衝撃が伝わらないようにハーネスタイプのシートが設置された。
- レオパルト2A6EX…A6の車体前面や砲塔上面に装甲を追加しており、ギリシャやスペインで採用された。
- レオパルト2PSO…不正規戦や治安維持活動などの市街地戦闘を想定して開発されており、主砲は44口径のままで、装甲防御を強化、砲塔上面にRWS(遠隔操作式銃塔)を装備、車体各所のCCDカメラを追加、暴徒鎮圧用に主砲同軸上にサーチライトを備える。
- レオパルト2A7+…PSOをベースに主砲を55口径に換装、装甲をモジュラー型とし、サスペンションやパワーパックを新開発のものに更新することで機動性を改善、APUや新世代の熱線サイト、RWSが追加された。戦闘重量は67トンに増加しているため、トーションバーやブレーキも強化されている。
車体転用派生型
- ビュッフェル…ベルゲパンツァー=戦車回収車。
- パンツァーシュネルブリュッケ2/レグアン…架橋戦車。前者が10m弱の橋体×3で30m弱の架橋が出来るのに対し後者は最大40mの架橋が可能。
- 操縦訓練車型…キャノピーを備えたダミー砲塔を装備した教習車仕様。
- コディアック…海外向け戦闘工兵車。
KPz70/MBT70[5]
1963年8月にアメリカと西ドイツは、当時の米国防長官マクナマラの指導のもと、次期MBTを共同開発する協定を結んだ。設計は両国のメーカーから技術者を集めた合同チームによって行われたが、武装やサスペンション、後にはエンジン/トランスミッションも含んだ重要部分は基本要求だけ設定して具体的な開発は両国が別々に行うことになっていた。
重量は50トンで、油気圧式サスペンションを搭載、エンジンは1500馬力を搭載して高い馬力重量比(トン当たり30馬力)を実現、大型の砲塔には主武装と自動装填装置、副武装、3名の乗員全員を収容(ドライバー席は砲塔前部左側に回転カプセルを設け、常に前方を向く)する設計だった。
まずアメリカが提案した空冷ディーゼルエンジンが信頼性の問題に悩まされ、西ドイツは自国産の液冷ディーゼル採用に転換した。主武装もアメリカの構想では口径152ミリの通常砲弾と対戦車ミサイルの両方を撃てるものが予定されていたが、西ドイツは結局ラインメタルの120ミリ滑腔砲に転換した。
西ドイツは1969年末に計画からの脱退を表明、アメリカでもマクナマラの辞任(1968年)後計画への風当たりが強くなり、1971年に計画は終了した。
冷戦後
ドイツは1990年代前半には2125両ものレオパルト2を揃えていたが、ソ連崩壊後はこれを維持する意味はなくなり、定数見直しだけでなく、アップグレードやスペアパーツの予算も削減され、2017年の時点では稼働車両は95両だけだと報道されている(整備不完全の車両を含めると現役車両は244両、他に部品取り用の定数外が数百両)。[6]
レオパルト2は世界中に輸出(や中古転売)された。この背景にはドイツ人らしい頑固一徹、かつ戦車開発の長い歴史から将来の発展に対応するための余裕のある作りで、各国の要望にあわせた改良が可能だったこともある。例えばスウェーデンに配備されたレオパルト2ベースの「Strv122」はドイツ本国でもない重装甲化となっていたり、スイスの「Pz87 Leo」などのように独自改良を行っているタイプもある。
配備され初めてから30年あまり経過したが、ドイツでは新型戦車開発計画についてまだ形となっているものもなく、今後も使い続けるのだろう。
関連作品
動画
MMDモデル
関連商品
関連コミュニティ
関連項目
- ドイツ(西ドイツ)/ドイツ連邦軍
- 軍事 / 軍事関連項目一覧 / 兵器
- AFV / 戦車 / 軍用車両の一覧
- レオパルト1
- レオパルドン
- サガ2秘宝伝説 …システムの都合で銃としてゲーム内に登場。攻守共に優れた最終装備候補。DS版でのモデリングはA5型
脚注
- *ドイツ最新鋭戦車「レオパルト2A7V」連邦軍で運用スタート 2021.9.19
- *「レオパルト戦車」 浜田一穂 原書房 1987 pp.152-154
- *「レオパルト戦車」 p.168
- *「世界スタンダード「レオ2」最新情報」奈良原裕也 丸MARU 2010年10月号
- *「戦車と機甲戦」野木恵一 1981 朝日ソノラマ pp.153-157
- *「AI戦争論 進化する戦場で自衛隊は全滅する」兵頭二十八 2018 飛鳥新社 pp.286-287
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