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ニコニコ大百科 : 医学記事 ※ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。 |
概要
世界保健機関とは、世界の人たちの健康をまもるために、様々な活動を行っている国際連合の専門機関である。本部はスイスのジュネーブ。2020年5月現在の事務総長は、テドロス・アダノム。
略称の「WHO」は、英語名称「World Health Organization」の3つの単語それぞれの頭文字をとったものである。
世界各国から拠出金を募り、それにより活動している。あとは個人の募金も。
エンブレムは、国連のエンブレム(世界地図とそれを囲むオリーブの枝)に、蛇が巻き付いた杖が組み合わされたもの。この杖は、医術の象徴とされるいわゆる「アスクレピオスの杖」である。
ネット上では陰謀論者を中心に、陰謀の温床と捉えられているが、それらの大半は全く根拠がないのでお察し。
歴史
1948年設立。
1946年に国際保健会議で採択された国際保健憲章によって設立された。同憲章第1条「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目標に掲げ活動している。
組織
- 総会
- 最高意思決定機関。加入各国の代表で構成され、毎年5月にジュネーブの本部で開催される。
- 執行理事会
- 総会で選出された34か国の執行理事によって構成される。年2回開かれ、総会の決定や政策の実施などを行う。
- 地域的機関
- 世界をアフリカ(AFRO)、アメリカ(AMRO)、南東アジア(SEARO)、ヨ-ロッパ(EURO)、東地中海(EMRO)、西太平洋(WPRO)の6つに分け、その地域を管轄している。
- 事務局
- 常設の実務を担当する部署。事務局長は世界保健機関のトップといえる。
天然痘撲滅
世界保健機関の最も偉大な功績が天然痘の撲滅である。
かつて全世界で猛威を振るい、高い死亡率を誇った天然痘は、ジェンナーのワクチン開発により克服可能な病気となった。世界保健機関は1958年に天然痘を根絶させると決定し、世界の各地域でワクチン接種を徹底させ、1978年を最後に天然痘患者はいなくなった(なお、1978年に発症した患者らは天然痘ウイルスを研究していた施設からのウイルス漏洩に端を発していた。よって野生の天然痘ウイルスへの感染に限れば1977年の患者らが最後となる)。1980年には天然痘撲滅を宣言し、以降天然痘患者は確認されていない。
ポリオ撲滅までのカウントダウン
実は撲滅に次に近いのがポリオである。
かつては世界中で小児麻痺を起こす疾患として有名で、日本も含めて犠牲者が多数出ていたが、現在ではアフガニスタン、パキスタン、ナイジェリアの3か国を除いて撲滅状態まで持ち込むことができている。これら3カ国の周辺国では散発的な患者発生が見られるが、いずれも持ち込みによるものとされている。
が、現在でもアクティブな流行を見せている3カ国では、ワクチンに対する嫌悪がみられる。これは、反政府系の組織が、ワクチン接種により実害を与えようとしている、という、日本で言う陰謀論みたいなものが結構主流だったりするためである(実際にアメリカが医療団体を騙って軍事活動をしていたという過去もあるとのこと)。
日本ではかつては生ワクチンが使われていたが、厚労省に対するバッシングが強かった。日本は以前はポリオ流行国だったため、副作用も強いが効果がとても強い生ワクチンを使ったほうが感染症対策に有効だったためである。現在では日本ではポリオ自体が流行していないため、効果が弱い不活化ワクチンでも十分な効果を得ることが出来るのである。
もしも残りの3カ国にてポリオの撲滅が達成された場合、四種混合ワクチンからポリオが抜ける時が来るかもしれない。
世界保健機関の最近の勧告について
世界保健機関が出した最近の勧告の中には、日本ではなかなか受け入れられにくいものがある。以下では、行われた勧告に対する考察を記載する。
帝王切開の割合を減らすように勧告(2015年4月10日)
帝王切開の割合を減らし、自然なお産を増やすように勧告を行っている。
安易な帝王切開は医療資源の浪費にもつながり、かつ手術の際のリスクについても考慮した結果。
この勧告が日本にも伝えられたが、これは日本をターゲットにはしていないとされる。
というのも、この勧告のターゲットはブラジル(出産の50%以上が帝王切開)など、非常に安易に帝王切開を実施している国に対する警告であり、日本(20%)は適正とされる15%をわずかに上回っている程度。
その一方、お産にかかわるトラブルによる医療訴訟のリスクは年々高まっており、たとえ医療側に落ち度がなくても、裁判をされると勝てない可能性があり、時間的消費が増えるという危険性がある。特に産婦人科医は福島で起こった『大野病院事件』をかなり重く受け止めている。その事件は医師の無罪判決にて決着したが、あの事件のインパクトはとても大きかった。
結果として、逆子など、ちょっとでもリスクがあるなら、より裁判のリスクが小さいと考えられる帝王切開を、という選択になるのは時代の流れとしては致し方無いとも言えるだろう。
補足:大野病院事件は医師の手術ミスだ!とする主張があるが、実際には、本来であれば福島県立医大などの大病院で対応が必要なほどハイリスクな状態であったにもかかわらず、患者が地方の小病院であった大野病院での出産を強く主張したことが根本的な要因。この事件がきっかけで『少しでもリスクがありそうなお産や搬送は受け入れない』という風潮が医療側に出来てしまったのは言うまでもない。
子宮頸がんワクチンを一刻もはやく再開するよう、日本を名指しで非難(2015年12月25日)
1日あたり10人の日本人の生命を奪っている子宮頸がん。最近では20代、30代での発症が増えている。それを防ぐために開発されたのが子宮頸がんワクチンである。すでに諸外国で導入されており、大きな副作用もなく、医学研究にて有効性が次々と証明される中での日本への導入だった。
が、導入してしばらくして『記憶がなくなる』『目が見えなくなる』『急に震える』などの症状が報道され、世論は一転して『このワクチンは実はキケンなのではないか?』との意見に包まれ、海外の研究データで因果関係がないを示しながらも国が選んだ選択は『接種の一時中止』であった。
特に小児神経を専門とする医師から『以前から思春期女児にありがちな症状』とする指摘があったものの無視された形。
その後数年間、このワクチンは中止され続け、日本国内では『製薬会社の金儲けのため』『公明党が絡んでいるから』『このワクチンを打つと不妊になる』など、陰謀論を軸とした根拠がない非科学的な激しいワクチン批判が広がり続け、それに患者団体と(科学的に実証されない)独自の理論を持つ小児科医や神経科医が乗っかり、マスコミが報道するという負のループ。タミフル騒動やイレッサ訴訟を思い出させる流れになってしまった。
厚労省はこの症状に対して、『心身の反応』との結論を出した。が、反ワクチン団体により『ヒステリー』『詐病』などと誤解を生むような(医学的に意味合いが当然違う)表現が広められたことで、むしろこの結論をマイナスに捉える動きが加速してしまったのは言うまでもない。
これまで日本独自の研究データがないことが叩かれる要素となっていたが、2015年に名古屋市において大規模な統計調査が行われた。この研究では、『子宮頸がんワクチンを打った女性』と『打たなかった女性』とでデータを比較したもので、その結果としては『ワクチンを打っても打たなくても、同様の症状が同じ頻度で発生した』というものであった。
なお、この研究結果は、速報版ではオッズ比などが表示されていたが、2016年6月に発表された正式版では削除された。被害者団体が不都合なデータを隠すために、オッズ比を削除するように圧力をかけていたようだ(Wedge紙より)※補足4。
また、国内では厚生労働省が研究チームを2つ作って研究を進めているが、現状(2016年5月現在)では因果関係を証明できていない。一部マスコミにより『因果関係あり』と報道されたが、それは池田班の発表をミスリードしていただけである。なお、池田班の発表は、ちゃんと医学・統計学を勉強している人間から見たらあまりにも低質過ぎて議論にすらならなかったりする。
8月22日追記: 厚労省の研究班長を務める池田氏が発表した研究結果(ワクチン接種により脳神経に障害が発生するという報告)について、研究不正があったことがWedge紙によりスクープされ、信州大学が事実関係について内部調査を実施、その結果、信州大は外部の人間を中心とした本調査の実施を決定した。
その直後に池田氏はWedge紙に対して名誉毀損の訴訟を提訴。これは信州大による本調査を行わせないためのスラップ訴訟であるという見方がなされていると同時に、池田氏の弁護士団がHPVワクチン訴訟関係の弁護士と同一人物であることから、HPVワクチン訴訟に対して不利な存在となるWedge紙に対する圧力であるという見方も出来る。
が、裁判はともかく、池田氏は問題となっている研究の詳細を明かさないまま。科学者であるなら詳細を提示して自らの正当性を証明することが最も重要な事であるのだが…。(第二の小保方晴子と呼ばれる理由がこれ)
また、極めて一部の医師により、HANS(HPVワクチン関連神経免疫異常症候群)という病態が提示され、その病態を元に治療を行っている施設が存在するが、現状ではその病態の証明は全くできていない。『線維筋痛症』の概念にワクチン接種の有無が加わっただけだったりするのだが、この『線維筋痛症』自体、日本だけでなく国際的にもコンセンサスが得られている疾患ではない(海外ではただの精神疾患という考え方であり、この方が理論に即している)。あくまで、日本の極めて少数の医師が推し進める新しい病態(証明はできないけどね)にすぎない。
そのような状況にもかかわらず、子宮頸がんワクチンを再開しない日本の対応をWHOが厳しく非難したのがこの声明。女性の健康を害しているなど、かなり強い表現が使われている。日本国内でも、学術団体や小児科学会、産婦人科学会などが一刻も早いワクチン再開を要請しているが、国の対応は未だに『接種は差し止める』のままである。2021年11月26日、ついに2022年4月からの積極的勧奨接種の再開が発表された。(参考)
なお、海外では、現行のワクチンより更に効果が得られる9価ワクチンの使用が始まっている。旧来の子宮頸がん以外にも、肛門がんなど予防できる範囲と効果が広がっている。日本は元々ワクチン後進国と非難されるが、このワクチンについてもどれだけ遅れている状況なのかがよく分かるだろう。
現状の接種率は数%と非常に低いのだが、接種している子供の両親の多くは医療職だったり科学的思考力がある両親であることが多い。『医者は危険だと知ってるから、自分の子供には打たせない』とネットでよく言われるが、実際は『医者は安全性・効果をしっかり理解してるから、自分の子供には打たせることが多い』が真相だったりする。
なお、このワクチンの『被害者』と称する女性と支援者が、国や製薬会社を相手に裁判を起こしている(2016年4月)。100人を超える弁護士団が付いたようだが、果たして『因果関係無し』という結論が付いたこの問題をどうしたいのか、甚だ疑問である。『ワクチンが原因だ』ということにしたい周囲の強い圧力が、実際に症状に苦しむ少女の治療を妨げていることは言うまでもない。本来必要な精神学的アプローチから遠ざけてしまっている。それだけでなく、アルツハイマー病に使われる治療薬を患者に投与する医者が出現する(そして症状が悪化して更に苦しむ)など、『被害者ビジネス』も活況を示しているのが悲しい事実である。なお、彼らが薬害の根拠としている池田氏の発表は、池田氏本人が研究不正を認めているので根拠として成立していない。
補足2:イレッサ訴訟→イレッサという新規抗癌剤による副作用で複数の患者が死亡したとして裁判が起こされた出来事。実際に統計を取ってみると、その副作用のリスクは極めて小さいことが判明したが、マスコミによる悪意がある報道の結果、この抗癌剤が非常に危険だという印象を世間に与えてしまった。実際には多くの患者の命を救っている薬であることは言うまでもない。
補足3:ワクチン危険論者が出すHANSという疾病は確かに一部の小児科医・神経内科医により提言されているが、いかなる検査を行っても実証することができていない。そもそも、『ワクチンを打ったという事実があれば、それが何年前であろうが発症すれば症状とみなす』というかなりの無茶振りで、真っ当な医師はそもそも相手にしていない。が、人と違う過激な意見を採用したくなるマスコミがこの理論に飛びつくのは無理も無いわけで、2016年の小児科学会でのワクチン接種を推奨する宣言よりも、反ワクチンを掲げる医師のインタビューが話題になってしまったのである。
補足4: 被害者団体の主張によると、症状が重複するケースが多く各種症状を単独に評価しても意味が無いことから、オッズ比を削除するように要請したようだ。だが、統計学的にはそれでも有意差が出るので、彼らの主張は統計学的に根拠がある発言ではない。また、名古屋市長の河村たかし氏は、薬害問題で患者側に常に立ってきた人物であり、当人も「今回の調査結果には驚いている」と発言するなど、このワクチンと被害者団体が主張する症状との因果関係を否定されて気に食わない様子が見て取れ、Wedge紙が突っ込まなければそのまま闇に葬り去るつもりだったと思われる。なお、Wedge紙の名古屋市の担当部署に対するインタビューによると、速報版と同じで、正式版でも因果関係は証明されなかったとのこと。
安易な人工ミルクの使用に警鐘(2016年5月9日)
WHOは『世界各国で人工ミルクの使用が広がっていること』に警鐘を鳴らした。当初からWHOは母乳育児を推進する立場にありその主張に沿った発言である。
が、この声明もまた日本をターゲットにはしていない。というのも、日本と海外では人工ミルクに関する状況が異なるからである。主なものを記す。
- 海外の水は安全ではない(安全な水の確保が大変)。
- 海外では哺乳瓶の消毒が徹底できない。
- そもそも粉ミルクの品質に問題がある(コーンスターチを薄めただけの偽造品など)。
- 過激な宗教や乳児の食事制限を行うための手段として非常に成分が悪い代替品が使われる。
日本ではいずれも当てはまらない。日本は衛生的に非常に恵まれ、粉ミルクの品質も非常に優れており、医学研究レベルでは大した差はないと実証されているし、WHOも『医学的な必要が無いのに人工ミルクは使うべきでない』という主張がベースで、逆に言えば、『医学的に必要なら人工ミルクを使いましょう』である。母乳がいいだろうけど、足りないなら粉ミルクを足して無理せず育児しましょう、が日本における風潮であり、それは非常に良い。
が、このWHOの警鐘に乗ったのが母乳信者と呼ばれる人たちである。数は減ったとは言え、日本では『母乳で育てると○○』という主張をする母親や助産師が一定数存在する。当然ながら、その主張の多くは医学的根拠が無い宗教論に近いものである。
特に主張されるのが『母乳で育てると優しい子になる』『母乳で育てると虐待されにくくなる』など。これは『母乳が問題なのではなく、愛着形成の問題』であることがちゃんと考えれば分かることだろう。児に愛着を持てないから母乳を与えない、虐待に繋がるのである。医学研究では『被虐待経験があると自分の子供を虐待しやすい』というデータがある。
何より厄介なのは、育児トラブルがあると『母乳を与えなかったあなたのせい』という極論で片付けてしまうこと。そんなことは全然ないのだが…。不安なママに付け入る悪質な商法も散見されるので要注意。
関連項目
外部リンク
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