水戸電気鉄道とは、かつて茨城県に存在した地方鉄道事業者である。
その路線についても当記事で扱う。
概要
「水戸石岡電気鉄道」として1926年7月に地方鉄道敷設免許を取得。後に「水石電気鉄道」と改称し、更に「水戸電気鉄道」へ社名を変更して1929年11月10日に営業開始。1936年2月に全線営業休止するまでの約6年間を駆け抜けた。正式な営業廃止日は1938年11月19日。
名前の通り、水戸と石岡を接続する電気鉄道の開通を目指していた。
全通した際の末端となる水戸駅と石岡駅は共に常磐線の駅である。常磐線は凡そ陸前浜街道(国道6号)と並行する経路を辿る路線となっているが、水戸駅~友部駅~石岡駅間は街道から大きく西側に逸れた形の経路になっている。
これには常磐線の成り立ちも関わっている。水戸駅から現在の友部駅に当たる区間は元々は水戸線として開業した区間だった。そこから土浦駅までを結ぶ路線として、内原駅と宍戸駅の間に設けた友部停留所から分岐する土浦線が開通し、後の常磐線となったのである。
鉄道局としては街道に並行する敷設計画を示唆していたと言う。にも関わらず敢えてこうした経路が選択された理由としては、涸沼川や涸沼前川流域に広がる低湿地帯に鉄道を敷設するのに必要な土木工事の経費の支出を避けた為とも言われている。
かくして鉄道に大きく迂回された街道沿いの区間を、電気鉄道で短絡する事で街道沿いの住民の利便性を確保する事が目的の路線である。予定路線距離は28.2kmと常磐線同区間の35.5kmに比べ短く、蒸気機関車よりも運転速度の高い電車を運転する事で、大幅な所要時間短縮が見込まれる都市間連絡鉄道としての計画であった。
沿線自治体の首長や助役が鉄道大臣に陳情書を提出するなど、沿線の期待を一身に受けた路線だった事が伺える。
しかしながら水戸と石岡の間には大きな集落も無く、この区間を一気に開業出来ない事には存在意義が薄れてしまう路線でもあった。
開業時には旅客のみの営業で、1930年からは貨物も取り扱った。開業時の運行回数は午前と午後に3本ずつ程度だったが、多い時期には午前と午後に7本ずつ程度で早朝から深夜まで運転されていたらしい。鉄道敷設の許可上は水戸から24.14kmまでは電気動力、それ以降の石岡までは蒸気動力となっている。
営業休止後の同区間の旅客輸送は鹿島参宮バス(現:関東鉄道)に吸収された。貨物輸送については休止後間もなく開始した貨物自動車業に置き換えられ、社号も「常陽運輸」に改称している。
実態
水戸?
そもそも名前に水戸が含まれているが、水戸駅への接続は果たせていない。水戸駅方面へは南東から繋がる形の路線となっているのだが、当時の水戸駅の南側には省線の車両基地があった。それを超えて乗り入れをするには高架線とする必要があり、その費用が捻出出来なかったのだ。
後に当初の起点の下水戸駅から1km程延伸を果たすが、水戸の市街地の中心は水戸駅北側であるのに加え、水戸駅へ向かう水浜電車などへの連絡も無い言う、アクセスの悪さの否定できない路線になってしまった。結局の所、遂に水戸駅への乗り入れは実現しなかった。
石岡?
更に、当初は名前に石岡と含まれていたが、開業時の終点の常陸長岡駅へは水戸石岡間の半分にも満たない距離までしか達していなかった。この常陸長岡駅も長岡村役場から約1kmと中心地から離れており、やはり不便な立地であった。
開業以前の段階で名前から石岡が消えている時点で哀愁が漂っている。
その後も石岡方面へ延伸を続けていたものの、奥ノ谷駅から延伸している段階で資金不足から営業廃止に至ってしまった。
電気鉄道?
今更ではあるが、電気鉄道とは名乗りつつ実は全く電化を果たせていない。元々は直流電化方式の路線として計画していたのだが、敷設免許こそ下りたものの、柿岡にある気象庁地磁気観測所の観測結果に障害を与える可能性から動力を直流電気とする項目が却下されてしまったのだ。
常磐線やつくばエクスプレス線で交直流電車が必要となったり、常総線などで電化が成されない要因となる等、気象庁磁気観測所は茨城の鉄道を語る上で避けては通れない存在であり、水戸電気鉄道も例に漏れず影響を受ける形となった。工事着手期限に着工できない事には免許も失効してしまう為、ひとまず動力問題は棚上げして前途多難ながら開業に漕ぎ着け、気動車(ガソリン動車)や蒸気機関車で運転されることとなった。コスト面を考慮し当時新興のガソリン動車を発注したものの、営業収入に対し営業費、特に汽車費の嵩む一方だったようだ。
それでもあくまで電気鉄道としての営業を目指していたようで、茨城県鉄軌道連盟を通して私鉄経営者協会の前身、鉄道同志会に働きかけ、鉄道同志会長名で内務大臣、文部大臣、逓信大臣宛に陳情書が提出されている。内容としてはざっくりと崩して書くとこんな感じである。
水戸電気鉄道と筑波高速度電気鉄道株式会社は、建設工事に伴う電気事業の許可を申請しているが、容易に認可が得られない。それは直流電化による電車の運転が柿岡磁気観測所の磁気観測に支障があるとして、観測所から30km以内の電気鉄道敷設の可否について調査中の為との事だと言う。
しかし、鉄道と軌道の電化は、現在の文化経済の発達に対応するには必須の設備であるのに加え、近頃発達著しい自動車の脅威に対抗する最大の自衛手段である。
にも関わらず、磁気観測所の存在故に電化が妨げられるのであれば上記の二鉄道は勿論、茨城県内の電化を目論む鉄道と軌道は死滅に追いやられる恐れがある。鉄道の発達と地方民の福利の為、磁気観測所の移転等適切な措置を求める。
1933年になって1936年10月4日を竣工期限にようやく電化が認可されたものの、その頃には赤字が重なり電化を行う体力も無くなっていた。並行する道路に乗合自動車が走り始めると前述の不便さもあって経営不振に陥っていたのである。陳情書の危惧した通りになってしまったと言える。
陳情書に名前が挙げられている筑波高速度電気鉄道も全区間の電化の認可が得られず、最終的に都心区間が京成本線に組み込まれた。
結果
様々な要因(主に資金不足)により水戸駅とは接続せず石岡にも行かず電気でも無い鉄道となり短命で終わってしまった。名前に電気と付きながらも電化が成されなかった路線としては南部鉄道の前身である五戸電気鉄道や磐梯急行電鉄、磐梯急行電鉄、善光寺白馬電鉄、阿波電気軌道など例があるものの、ここまで名付けられた要素が実現しなかった例は珍しいと思われる。
こうした不遇な路線であるが、1926年には許可を急いでか鉄道への政府補助金を辞退しており、この事が後々響いた可能性も指摘されている。
もし目論見通りに全通していれば石岡駅と水戸駅を最短距離で結ぶ常磐線のライバル路線になっていたとも考えられ、また、鹿島鉄道線程では無いが茨城空港の付近を走行する路線にもなっていた事から色々と惜しい感じはしないでも無い。
路線
軌間は1,067mmで全線11.2km。他線へは接続していない。
駅名・経路 | 距離 | 開業 | ■接続路線・備考 | 所在地 |
---|---|---|---|---|
(水戸駅 ) | - | 未開通 | ■常磐線 ■水郡南線 ■水浜電車 |
水戸市 |
柵町駅 | 0.0 | 1931年10月1日 | 水戸駅からの距離は700m程。 | |
紺屋町駅 | 0.7 | |||
下水戸駅 | 1.0 | 1929年11月10日 | 開業時の起点。 本三町目駅(水浜電車)からの距離は300m程。 |
|
蓮乗寺下駅 | 1.6 | 1930年11月20日 | 乗合自動車対策として増設された。 | |
古宿駅 | 2.4 | 1929年11月20日 | 現在の吉田局前バス停付近。 | |
一里塚駅 | 3.5 | 現在の一里塚バス停付近。 | ||
中吉沢駅 | 4.6 | 1930年11月20日 | 乗合自動車対策として増設された。 現在の吉沢車庫バス停や茨城町東IC付近。 |
|
吉沢駅 | 5.7 | 1929年11月20日 | 現在の警察学校前バス停付近。 | |
矢頭駅 | 6.9 | 1931年7月1日 | 乗合自動車対策として増設された。 現在の矢頭バス停付近。 |
茨城町 |
常陸長岡駅 | 8.5 | 1929年11月10日 | 開業時の終点。 国道6号長岡交差点付近。 |
|
小鶴駅 | 10.3 | 1933年12月30日 | ||
奥ノ谷駅 | 11.2 | 1934年11月1日 | 現在の茨城町役場付近。 | |
(堅倉) | - | 未開通 | 小美玉市 | |
(石岡駅 ) | - | ■常磐線 ■鹿島参宮鉄道 |
石岡市 |
車両
- 600形
- 英国ウィルミス・ウイルソン社製蒸気機関車。鉄道省から譲渡された。1B1タンク機関車。
あまり使用されていなかったらしい。
営業廃止後は磐城セメントに転じた。 - キハ1・2
- 梅鉢工場製ガソリン動車。1929年6月製造。定員は50名で内、座席は22名。自重は10トン。最大寸法は9,422×2,640mm×3,349mm。Buda 33.75kWエンジンを搭載した4輪単車で、同系車としては常総鉄道キハ11・12がある。
- キハ11
- 汽車製造会社製ガソリン動車。1931年11月15日製造。定員は60名で内、座席は30名。自重は14トン。最大寸法は10,900×2,600×3,550mm。Buda BA-6エンジンを搭載した半鋼製半ボギー車で、同系車としては北九州鉄道の買収気動車の省キハ5020形がある。
営業廃止後は茨城鉄道(後に茨城交通となる会社の一つ)に転じた。 - 無蓋貨車
- 2両が在籍した。積載量は10トン。
関連動画
関連商品
関連コミュニティ
関連項目
関連リンク
- 水戸市立図書館/デジタルアーカイブ 水戸の町名
- 石岡市立ふるさと歴史館 過去の企画展 | 石岡市公式ホームページ
- もしあの鉄道路線が開業していたら/関東 3.5 水戸電気鉄道(未成区間) - chakuwiki
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