澁澤龍彥(1928年(昭和3年)5月8日 - 1987年(昭和62年)8月5日)とは、かつて存在したドラゴン、あるいは芸術評論家、小説家。
渋沢ではないし、間違っても竜彦などと書いてはいけない。いいね?
別名のペンネームに澁川龍兒、蘭京太郎、Tasso S.など。そのほか呑珠庵(どんじゅあん)、無聲道人などの号も持つ。
概要
明治の財界の大物・渋沢栄一の親族(龍彥の家が本家筋に当たる)という名家に生まれる。
1945年に旧制浦和高校に入学、理系の道に進む。飛行機開発に興味があった一方で、徴兵逃れも意図していた。
当初は理乙(理系ドイツ語クラス)だったがドイツ語に馴染めず、文甲(文系英語クラス)、更に文丙(文系フランス語クラス)に滑り込んだ。その後のフランス語の上達は目覚ましく、神田の古書店に通ってはフランス語の原書を買いあさって熱中したという。この為「フランス関係でわからない事が出来たら澁澤に聞け」として有名だった。
2年の浪人を経て1950年、東京大学文学部に入学。卒業論文は『サドの現代性』で、当時文学者というよりポルノ作家的な扱いを受けていたマルキ・ド・サドを取り上げた為、研究者としての道は開かれず、翻訳家・小説家へと転身する事となる。
浪人時代にバイトで出版業界との関係を構築しており、これが強みとなった。
1954年、ジャン・コクトーの『大跨びらき』を翻訳・出版。この時「澁澤龍彦」という筆名を始めて使う。そのほかにも多くのフランス文学の翻訳をおこない、数々の評論・エッセイをものす。エロスとサディズム、悪魔学や幻想美術の世界を日本に紹介し、高い評価を得る事となった。
これらの著作は彼の名の一文字「龍」を国風にもじり「ドラコニア」と呼ばれ、多くの国民ファンを獲得している。
1961年、いわゆる「サド裁判」によって猥褻文書販売・所持容疑で起訴された。
この時澁澤を弁護すべく、特別弁護人に埴谷雄高・遠藤周作・白井健三郎、弁護側証人として大岡昇平・吉本隆明・大江健三郎・奥野健男・栗田勇・森本和夫など、錚々たる面子が集まった。
澁澤本人も含めて「お祭り騒ぎ」と称して最初から楽しんでおり、寝坊して遅刻するわ、不真面目極まりない態度を取るわで、担当弁護士がカンカンになる事しばしばだったという。
9年にわたる裁判は最高裁において有罪が確定、7万円の罰金刑を受けた。この時問題されたマルキ・ド・サドの小説『悪徳の栄え』は、一部の性的描写が削除された抄訳が発行されたが、その後1992年に完訳版が出版されている。
1986年、下喉頭がんにより声帯を切除。「真珠を呑んで声を失った」と自らを見立て、伝説的な放蕩男ドン・ジュアン(ドン・ファン)にちなみ、「呑珠庵」と号した。
1987年8月、病床で読書中に頸動脈流破裂により死去。享年59歳。
補遺
三島由紀夫との親交は厚く、「サド裁判」では三島から激励の手紙を受け取っている。また三島の戯曲『サド侯爵夫人』は澁澤の影響を受けて書かれたものだった。
その三島が市ヶ谷駐屯地を占拠、憲法改正の為に自衛隊の決起を呼びかけて割腹自殺した後、弔辞「三島由紀夫氏を悼む」を作成。悲しみと怒りを込めた、無二の友へ向けた哀悼の文章として知られている。
1965年、ハンス・ベルメールの「球体関節人形」について雑誌で紹介。この記事を見た人形作家・四谷シモンは衝撃を受け、従来の工法を捨てて球体関節人形の製作に乗り出すきっかけとなった。四谷が手掛けた等身大の少女人形は、現在でも澁澤の書斎に飾られている。
三島由紀夫の紹介で土方巽に出会い、彼が創始者となった「暗黒舞踏」に感銘を受け、舞台公演には必ず駆けつけるなど親交が続いた。その土方が1986年、肝臓がんで亡くなった時には葬儀委員長を務めている。
1959年、「天才少女」と称された矢川澄子と結婚。後に矢川が下訳を担当し、澁澤が翻訳を手掛けたポーリーヌ・レアージュの「O嬢の物語」が刊行されるなど、仕事にも関与した。
しかし1968年に離婚。互いに浮気した事で、澁澤の母が不品行を咎めての協議離婚だった。当時の二人にとって離婚は本意ではなかったらしく、澁澤は大泣きして荒れ、矢川も後に「一度もあの人を嫌いになった事はない」と語っている。
一方で澁澤曰く、娼婦を交えて3Pをさせるなどのやらかしがあったらしい。また堕胎を強要した結果、子を産めない身体になってしまったという。
ちなみに澁澤は自著の中で「私は子供を作らない。もし娘が生まれたら、妻より愛してしまうにきまっているからだ。性的な意味で」と述べている。事実後に再婚する龍子夫人との間にも、子供はいない。
その後、当時編集者だった前川龍子と再婚。先生、もしかして名前で選んだんじゃないですよね?
欧州旅行を始めとした様々な旅行に同道し、澁澤の創作を支えた。
晩年近くに玄関先で箱に入れられていた捨てウサギを拾い、世話するうちに愛着をもって「ウチャ」と名づけて飼っていた。龍子夫人曰く「本を齧るのが大好き」で、ボードレールの本をよくガジガジしていたという。澁澤は「お前もボードレールが好きか」とご機嫌だったとのこと。
漫画・アニメ『文豪ストレイドッグス』では映画版に澁澤と同名のキャラクター(本人ではない)が登場。実在人物の人名を拝借する関係もあってか、龍子夫人の許諾を得ている(スタッフロールに名前あり)。
ちなみに先行上映会には龍子夫人も同席。「カッコよかったし、若い女の子にこんなに喜んでもらって」と好意的なコメントを発したと報じられ、話題となった。
関連動画
関連項目
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