F-117とはアメリカのロッキード・マーティン社が開発した世界初の実用ステルス軍用機である。
概要
愛称はナイトホーク(Nighthawk)。ただし、パイロットたちからはコックローチ(ゴキブリ)とよばれている。また、タミヤなどのプラモデルだと「ステルス」と表記される。
任務記号は戦闘機を示す「F」だが、その実態は誘導兵器による精密爆撃を主眼とした軽爆撃機(攻撃機)である。
117というコードについても付与された理由ははっきりしていない。一説にはF-111以降の番号、112から116までは、アメリカで行われたというソ連製戦闘機(入手先はイスラエルなど?)のテスト機体に使われており、117がその続きだったためという話もあれば、単にロッキード社から出た過去の開発番号の引用だったとか、いやいややはり軍内部の正規コードはF-19で、F-117は政治的な理由…RS-71がSR-71になったような…ものだという説まで諸説紛々である。
初飛行は1981年で翌1982年には正式配備が行われているが、存在が公表されたのは1988年になってからで、しかもこの時は非常に断片的な情報としての公表であった。それほどこの機体に関しては重大な秘密として扱われていた。
開発[1]
1974年にDARPAは空軍と共に、後にXST(Experimental Stealth Technology)あるいは「ハブ・ブルー」と呼ばれることになる低RCS軍用機の原型機を開発する計画を開始した。ロッキード(現ロッキード・マーティン)は途中から計画に参加、スカンクワークスでは傾斜した平面の組み合わせだけで機体を構成する方法を提案した。1976年の選考でロッキードの設計案が採用され、2機のハブ・ブルーが試作された。2機ともテスト中の事故で喪失したが、"シニア・トレンド"(Senior trend)の計画名で実用機F-117の開発が決定、試作1号機は1981年に完成して初飛行、試作機が5機、量産型のF-117Aが59機生産された。
PTD
ロッキードは「エコー1」と呼ばれる、与えられた形状のRCSを計算するコンピュータプログラムを利用してXSTの設計を行っていた。このプログラムでは平面のRCSは計算できるが、平面と平面の境界(エッジ)の処理精度は不十分だった。ロッキードのスタッフはソ連の電子工学者ピョートル・Y・ウフィムツェフが1950年代後半に編み出した「物理光学的回析理論(Physical Theory of Diffraction:PTD)」でエッジの問題を解決できることを見出し、これによってRCSの正確な計算ができるようになった。PTDを適用したエコー1が完成したのはXSTの基礎形が決まった後で、F-117の設計から新バージョンのエコー1が利用された(ソ連はPTDの重要性に気が付かず、論文を機密指定にしていなかったのを米空軍が1971年に英訳して紹介していた)。
機体
ステルスを可能にするためのレーダー波反射を最優先に考えられた機体形状は航空機としては特異的な楔状となっており、安定性は非常に悪く、4重のフライ・バイ・ワイヤシステムによって姿勢制御を行っている。
エンジンはF/A-18でも採用されたGE社のF404ターボファンエンジンだが、ノズルは平べったい形になっており、赤外線放射を極限まで抑えることにより赤外線シグネチャによる探知を困難にしている。もちろん大量の熱を出すことになるアフターバーナーは搭載していない。
またレーダーを搭載しておらず基本的には事前に設定された目標を攻撃する形での運用であり、航法及び爆弾誘導のために赤外線レーダーを搭載している。また機体内部の骨格材料は極力金属の使用率を落としている(唯一の撃墜例から判明したことだが、一部に木材を使用しているらしい)。さらに機体表面はレーダー波を吸収する特殊な塗料が黒を基調とした下地の上に塗られており、運用されるのも夜間のみ(これにより肉眼に対するステルス効果を狙っている。なお昼間の運用を目的とした灰色を基調とした迷彩塗装の実験も行われたらしい)。そして運用時にはほぼ単機(編隊と言えないほど間を空けて複数機で行動することはある)で黙々と任務を遂行する(出発後は無線交信も行わない)。
そんなどこまでも相手に見つからない事を重視して運用されたF-117であるが、戦闘の伴わない基地間移動時には民間機等との衝突を防ぐために外付けでレーダー反射板を取り付けて移動していた。
機体底面のウェポンベイに爆弾を積むのが一般的であるが、ミサイルを積むことも可能ではある。なお機関砲は搭載していない。なお開発中当時主力だったGBU-10ペイブウェイⅡ2000ポンドレーザー誘導爆弾が入るように設計を行ったものの、同時期に開発中だったGBU-24ペイブウェイⅢ2000ポンドレーザー誘導爆弾が完成、このことを忘れていてなんとGBU-24がウェポンベイに入らないというお粗末な問題が発生した。このため急きょ翼を切り詰めて許容サイズ内に収めたGBU-27が開発された。
その他
F-117の唯一の被撃墜はコソボ紛争において発生した。1999年3月24日よりNATOによる爆撃作戦が開始されたが、作戦4日目の夜、1機のF-117がSA-3地対空ミサイルの連射と思われる攻撃によって撃墜されている。脱出したパイロットは数時間後に救出された。[2]
公式には2008年に全機が退役したことになっており、一部の機体が廃棄処分されているものの、未だに多くの機体が維持されており、研究や訓練の支援に使われていることが明らかになっている。[3]
フィクションでの登場
- プレジデントマン - 潜入任務時に空挺ヘリ的な使われ方をしている。
- エリア88(スーパーファミコン版/カプコン) - 敵航空部隊のボスとして登場。
- エースコンバットシリーズ(バンダイナムコゲームス) - 対地攻撃機としての性格が強いが、機関砲やミサイルを装備している。第6作ではアイドルマスターの萩原雪歩が描かれた機体(痛戦闘機)が登場。→ゆきホーク
関連動画
関連商品
関連項目
脚注
- *「ステルスの発達とF-117の開発」浜田一穂 世界の傑作機Special Edition2 ロッキードF-117ナイトホーク 2004
- *実戦に見る現代空軍力➖湾岸戦争とコソヴォ紛争➖
- *F-117ナイトホーク復活!全機退役後も実は耐空性を維持していた!! 2021.9.17
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