ブラックホールとは
本項では1を解説。
宇宙に存在する天体はその大きさや年齢などから様々に分類されるが、質量がとても大きい星が、いわゆる「死」を迎えるとブラックホールになる。(後述、「出来るまで」参照)
天体の重力圏を逃れて宇宙空間に脱出するには、重力の強さに比例した「脱出速度」を超える速度をもつ必要があるが、ブラックホールのそれは重力があまりにも強いために光速を超えてしまう。
質量を持つ物質が光速を超える事は物理的に不可能であるため、ブラックホールの重力から逃れる事は出来ない。
理由は異なる(後述)が光も脱出できないので、可視光を含めたあらゆる電磁波等による観測が出来ない。そのため現在でもブラックホールを直接観測する事には成功しておらず、ブラックホールが周囲の天体などに及ぼしている影響から存在を推定するに留まっている。
光(光子)は質量ゼロなのでいくら重力が強くても引き戻される事は無い・・・と思う人がいるかも知れないが、光そのものが出てこれないのは別の理由による。ブラックホール周辺はその重力のために空間そのものが捻じ曲がっており、基本的に空間に沿って進むものである光はブラックホールの外へ向かうルートが無いために外に出られないのである。
(※ 重力で空間が曲がるのはブラックホールに限った話ではない。質量を、つまり重力を持つ物体ならば全て重力の強さの分だけ空間を曲げている。例えばあなたもあなたの質量相応の重力を放っているし、それによってあなたの周りの空間を歪めている。目に見えるほどの影響を及ぼすのはブラックホール級のみと言うだけである。)
ブラックホールの存在自体は、18世紀末にニュートンの万有引力の法則の発展として、既に理論上は予見されていた。ただし、元々が先述のように極めて観測しにくい存在である上、当時の天文学の技術ではブラックホールの発見は出来るはずもなかった。
しかし20世紀に入ってから、アインシュタインの一般相対性理論の骨子・アインシュタイン方程式における特殊な解でもブラックホールの存在が示唆された。(これを最初に示したのが、後述の「シュヴァルツシルト半径」の名にもなっている、カール=シュヴァルツシルトと言う物理学者である)
その後何人もの物理学者がブラックホールの存在を示唆する解を導き出していたが、ブラックホールそのものの発見が成されるのは1970年になってからである。
X線による天文学が発達してきた1970年代、「X線を発する何らかの物体と、巨大な天体が連星を作ってお互いの周りを回っている」と言う星が発見される。
その公転周期とX線の明るさの変動周期から「連星を成している巨大な天体よりも遥かに大きい質量を持つ」「その割にありえないほど小さい」と言う性質が判明し、これがブラックホールであるとほぼ断定された。
なお、冒頭ではブラックホールは光さえも吸い込んでしまうために、直接的には如何なる手段でも観測できないと書いたが、ブラックホールのある方向を(ある程度の距離から)肉眼で見たとすると、ブラックホールがある事自体は判別出来ると言われている。
繰り返し書いているようにブラックホールそのものは見る事は出来ないため、ブラックホールのある位置そのものは周囲の星々の輝きに対して真っ黒な穴が開いたように見える(だから「ブラックホール」)。これだけでも不自然といえば不自然だが、極めて強い重力によってブラックホールの周囲の空間はブラックホールを取り巻く形で捻じ曲げられるため、ブラックホール周囲にあるように見える星の光もそれにそって捻じ曲げられる。結果、ブラックホールの周囲の景色が円形にぐにゃりと歪んで見える。
内部で核融合を起こし、自ら光り輝いている天体を「恒星」と言うが、そもそも天体と言うものは宇宙空間で物質がお互いの重力で引かれあってくっついているものである。集まれば集まるほど重力は強くなり、1箇所に固まろうとする力が強くなるため、何も無ければ1点になるまで押し固められてしまう。
恒星が一定の大きさ・密度を維持していられるのはこれに逆らう力を持っているからであり、それは内部の高温によって起こる核融合である。核融合によって生まれるエネルギーで膨張をしようとするため、縮もうとする重力と釣り合って一定の大きさになるのである。
しかし、恒星が起こす核融合反応は無限ではない。いつかは終わりが来る。
恒星の大きさ(質量)によって様々なパターンが存在するが、一定以上大きい恒星は、水素を使い果たしヘリウムたっぷりになると、ヘリウムを使ってさらなる核融合を起こす。その後はヘリウムが炭素に、炭素が窒素に、と言うように窒素→酸素→ネオン→マグネシウム→鉄 とどんどんと核融合によって重い元素が作られていく。
核融合が進みきって核が鉄ばかりになると、核融合は止まってしまう。鉄は極めて安定した元素であるため、これ以上核融合が起こらない。核融合が起こらなくなるという事は、自身の重力によって縮んで行く力を支えられなくなるという事であり、どんどんと縮んで行く。縮むとさらに恒星中心部の温度が上昇し、1000億℃を超えたあたりで核融合とは別の反応(光分解)が起き始め、鉄が分解されていく。
しかしこの光分解と言う反応は、核融合のような発熱反応ではなく吸熱反応であるため、これが起こりだすと中心部の温度と圧力が急激に低下する。そうすると星の収縮が一気に進み、内部に極めて高い密度に圧縮された「核」が形成される。核が形成されると、もっと外側にあった物質が収縮してくる衝撃波を外に向けて跳ね返すため、あたかも星が爆発を起こしたかのように飛び散ってしまう。これが超新星爆発である。
問題は、この超新星爆発が起こった後に残された「核」部分である。
超新星爆発前の段階で凄まじいまでに圧縮されているため、全ての物質が中性子になってしまう(あまりにも強い重力のため、原子核の外側を回っている電子が原子核の中にめり込んでしまい、陽子と電子が結合して中性子に変わってしまう。そうして全ての粒子が中性子に変わってしまう)。
一定までの質量であれば、ここで何とか安定して「中性子星」としてその後存在し続けることになる。しかし一定よりも質量が大きかった場合、中性子ばかりになってもまだ重力による収縮を押さえる事が出来ず、さらに縮んで行く。
ここまで来ると、再び収縮力を押し戻すだけの力が発生する事はもはや無いため、どこまでも潰れて縮んで行く。こうして誕生するのがブラックホールである。
太陽の30倍以上の質量をもつ恒星が超新星爆発を起こし誕生する、もっとも一般的なブラックホール。恒星ブラックホールとも呼ばれる。前項で解説されている形成メカニズムで発生するブラックホールのほとんどはこれである。
地球から最も近い恒星質量ブラックホールとして「いっかくじゅう座X-1」が存在する。
太陽の数万倍の質量をもつ大型のブラックホール。具体的な形成メカニズムが分かっておらず、観測数も極めて少ない。2012年に、天体「HLX-1」が初の中間質量ブラックホールとして定義されたほどである(HLX-1自体は2009年にブラックホールとして観測されていた)。その他、天の川銀河の中心「いて座A*」を公転する星団「GCIRS 13E」、その中心にも中間質量ブラックホールが存在している可能性がある。
太陽質量の数百万倍~数百億倍という途方もない質量をもつブラックホール。一説には中間質量ブラックホールがぶつかり合うことで誕生するとされている。
ほとんどの銀河の中心にはこの超大質量ブラックホールがあるとされており、天の川銀河の中心に存在する「いて座A*」の超大質量ブラックホールは、太陽のおよそ400万倍の質量がある。
現在もっとも重いとされているブラックホールは「かみのけ座銀河団」に属する楕円銀河「NGC 4889」の中心に位置するブラックホール。その質量は、太陽のおよそ200億倍以上とされている。
重力はその物体との距離が近ければ近いほど強く働くため、「これより近づくと脱出速度が光速を超える」と言う距離が存在する。これを「シュヴァルツシルト半径」と呼び、その距離を上下左右に球面として表したのが事象の地平面である。
この面よりも内側に入ってしまうと、出てくる事が出来なくなる。
重力もここまで来ると、有限の大きさを持つ物体は「ブラックホールに近い側」と「ブラックホールに遠い側」でも受ける重力に大きく差があるため、ブラックホールに接近した物体は近い側がより強く引っ張られ、針のように引き伸ばされて変形する。または、引き伸ばされるようにして引きちぎられてバラバラになる。そうした後にブラックホールに吸い込まれる。
ブラックホールに吸い込まれていく物体を外から眺めると他の天体に向けて落下して行く時と比べ、かなり変わった現象が観測される(と考えられている)。
まず一つ目に、その物体が赤くなる。重力で引き寄せられているため物凄いスピードで移動していく(外から眺めている人から見れば、自分から遠ざかっていく)ため、光の赤方偏移が起こるからである。だんだん赤へと色が移り変わっていき、その物体から発せられるあらゆる電磁波が可視光の範囲を通り過ぎた時、その物体は(目では)見えなくなる。
二つ目に、その物体がいつまでもそこで止まっているように見える。速度が大きくなるという事はその物体の時間の流れが遅くなるという事である。ブラックホールの、事象の地平面付近では限りなく光速に近いスピードで引き寄せられるため、いつまで経っても全然進まないように見えるほど時間の流れが遅くなってしまうのである。最終的には、事象の地平面の位置で永久停止する。
ちなみに、「これ以上近づくと脱出速度が光速を超える」と言う「事象の地平面」は、ブラックホールにだけ存在するものではない。この世に存在する、質量を持つ(=重力を持つ)あらゆる物体に存在し得る。ただ、ブラックホールになるほど圧縮されていない物体は、事象の地平面よりも本体がデカいために、実質的に事象の地平面より近づく事が出来ないだけである。
逆に言えば、ブラックホールとはその物体自身の質量から求められるシュヴァルツシルト半径よりも小さく縮んでしまうとブラックホールになると言う事も出来る。
例えば地球は5,972,000,000,000,000,000,000,000kgの半径6357kmだが、事象の地平面は半径9mmである。
同様に太陽は1,989,100,000,000,000,000,000,000,000,000kgの半径696000kmで、事象の地平面は3km。
当然だが、地球や太陽が自身の重力で半径9mm・3km以下まで縮む事は無い。
なお素粒子の一種である電子の場合質量が9.11×10^(-31)kgで、事象の地平面は半径1.35×10^(-57)mであるが、素粒子には大きさが存在しないという説に立つと、事象の地平面の内側にブラックホールを形成していることになる。とはいえ水素原子核より遥かに小さい距離のため「近づく」ことは不可能である。
※ 赤方偏移・・・可視光を含めた電磁波は全て「波」であり、波長の長さによって「赤色の可視光」「青色の可視光」「紫外線」「エックス線」等と言った性質が決まる。観測している人から高速で遠ざかっている物体から発せられる電磁波は、本来の波長の長さよりも、その物体が持っていた速度の分だけ波長が引き伸ばされた状態で発せられる。そうすると、本来の性質よりも「少し波長が長い電磁波の性質」に変わるのである。
可視光で言うと、波長が短いほうから紫→藍→青→緑→黄色→橙色→赤 となっているため、これによって波長が引き伸ばされるほど、赤色の方に変化して行く。もっと変化すると赤外線になる。(電気式コタツとかのやつ)
ブラックホールは重力に逆らって膨張する事が無く、また如何なる物も逃れる事ができないが、未来永劫存在し続けるのかと言うとそうとは限らない。
何らかの理由で物質と反物質の対生成が起きた場合、通常はそれらの対ですぐに対消滅を起こして消えてしまう。しかし事象の地平面付近で起こった場合、対消滅が起こる前に片方だけがブラックホールに吸い込まれ、もう片方が逃げ出してしまうという事が起こり得る。
ある物質が「時間の流れに従って運動する」という事は、質量と角運動量以外の全ての性質が逆である反物質が「時間を遡りながら運動する」事と等しい。つまり、ある反物質が「時間の流れに従ってブラックホールに向かって落ちた」場合、それは「正物質が時間の流れを遡りながらブラックホールに向かって落ちた」事であり、言い換えれば「正物質が時間の流れに従いながらブラックホールから出てきた」事になる。(これらのことは(正)物質と反物質が逆でも同様。)
つまり本来何者も抜け出せないはずのブラックホールから物質が逃げ出している事になり、それによってブラックホールは質量が減っていく。物質と反物質の対生成そのものは確率で発生する事だが、これを繰り返しているとやがてブラックホールの質量は0となり、消滅するという理論である。
なおこの物質放出は「熱放出」と言う形で発生するため、あたかもブラックホール自体が熱を持っているかのような状態になる。そうなると、周辺の空間との温度差によって「ブラックホールが冷やされるか否か」と言う境界線が出来る。
この熱はブラックホール自体が小さければ小さいほど高くなるため、「周囲よりも自身の方が熱を持っている」状態になりやすく、冷やされて(=物質が逃げ出して)質量が0に近づいていきやすい。
現段階で言えば、宇宙空間の温度はそこまで低くないため、これによって蒸発して消えてしまうブラックホールは理論上想定されるに留まるような極小サイズのものに限られる。
しかし宇宙空間は現在も常に膨張を続けており、膨張すればする程宇宙全体の密度が下がり温度が下がるため、超々々長い目で見れば、いずれは宇宙の温度は全てのブラックホールよりも低くなり、全てのブラックホールが蒸発していくだろうと考えられている。
ただし、ビッグクランチ説にもあるように、この宇宙はいずれは膨張をやめ収縮に転じる「閉じた宇宙」であるとする説がある。
もしそうだった場合、膨張が止まった時点でそれ以上宇宙の温度は下がらないため、膨張が止まる時点での宇宙空間の温度よりも冷たいブラックホールは、本当に未来永劫消滅しない事になる。
ブラックホールの中心部は特異点(とくいてん)と呼ばれている。
特異点と言う言葉自体は「ある基準の下にある範囲内において、その基準が適用できない例外的な点」を意味するものであり、ブラックホールの中心部に特に付けられた固有名称ではない。
ブラックホールの中心部は密度と重力が無限大になり、この世に存在するあらゆる物理法則が通用しないと言われている(なので特異点)。
Fiction! この項目では創作物上のブラックホールの性質について述べます。また一般的に流通しているブラックホールについての勘違いも含みます。
空間に開いた黒い穴として扱われる。しばしば別の時空と繋がっている穴として描かれる。
「ブラックホール」の直訳が「黒い穴」であることと、ブラックホール中心に別のブラックホールもしくはホワイトホールを繋ぐワームホールがあるという説によるものと思われる。 ワームホールは特異点周りの微小なものとされているがフィクションではブラックホール、事象の地平面そのものが空間に開いた穴として描かれる。
ワームホールは異なる時間空間座標のワームホールと繋がっているとされため、時間旅行や恒星間航行の手段として登場する。
周囲のものを何でも吸い込む球体として登場する。上記の別の時空と繋がる穴としての性質も伴うことがある。吸い込む対象を任意に選ぶことが出来る場合もある。 一般的に勘違いされている性質でもある。
ブラックホールが光すら吸い込んで逃がさないことに由来すると思われる。 ただし実際のブラックホールが何でも吸い込み逃がさないのは事象の地平面、シュワルツシルト半径の内側のみである。 ブラックホールから十分離れた場合ブラックホールもただの1つの質量を持った物体に過ぎない。
しかしフィクションに登場するようなサイズのブラックホール、例えば半径1mのブラックホールの場合地球の100倍程度の質量を持つ。 従って周囲のものは非常に強い重力で何でも吸い込めるだろう。 ただし非常に強い潮汐力でズタズタに引き裂かれるだろう。
非常に重い物体として扱われる。上記二つの性質を伴う場合もある。 一般的に勘違いされることが多い性質でもある。
ブラックホールが超巨大質量の恒星が超新星爆発して発生することと、軽いブラックホールは蒸発して観測されないことに所以する。 軽いブラックホールをマイクロブラックホールとして区別することもある。 事象の地平面が成立する条件は質量の密度であって質量の総量ではない。そのため軽いブラックホールも存在しうる。
ただし太陽質量のシュワルツシルト半径は約3km、地球質量のシュワルツシルト半径は約1cmなのでそれを考えるとむしろフィクションのブラックホールは軽い。
主にブラックホールを発生させる兵器として登場する。ロケットなどの推進装置が付いていることが多い。
半径1cmのブラックホールを生成するのに必要な質量が地球並なので現実的でない。
むしろマイクロブラックホールを安定させる装置に入れておき、その装置を解除することによってブラックホールを蒸発させ膨大なエネルギーによる攻撃をおこなう型の方がまだ現実的だが、マイナーである。
ブラックホールを炉心とした動力炉。最大のメリットは質量を100%エネルギーに変換できることである。反物質が自然界にほとんどないことから、自然界からエネルギーを取り出す動力炉としては最高位の代物。
大抵はマイクロブラックホールを炉心とするが、天体クラスの質量のブラックホールを重力制御装置で運用するものもある。また動力炉の大きさは数m程度から大型宇宙ステーション規模のものまで多様であるが、質量の大きいブラックホールではその質量に対してホーキング輻射の割合が減っていくため、輻射以外でエネルギーを得る必要がある。逆にマイクロブラックホールの場合、輻射の割合が高すぎると蒸発してしまうため常に質量をブラックホールへ投じ続ける必要がある。
ニコニコという宇宙にもブラックホールが存在する。詳細は「サムネブラックホール」の記事を参照。
また、ブラックホールを扱った作品は、主に以下のようなものがある。
主にSF作品で用いられることが多いが、稀にファンタジー系でも扱われることがある。
掲示板
340 ななしのよっしん
2024/04/26(金) 01:17:45 ID: ejDVILv/v0
最近ブラックホール(以下BH)観測の話題いろいろ見てて、いまさらBHと加速器の安全性の話を思い出して調べた
「微小だから蒸発して安全」は、観測で未実証のホーキング放射を前提にしてて微妙に納得できてなかった
https://
実際の安全性評価は蒸発とかより統計的な評価で、とても納得いくものだった
要は、宇宙線の観測によれば同程度~より高強度な粒子衝突が、比較にならないほど数多く太陽系含む全宇宙で常時起こっているが、
各天体でときどきBHが生じて破局的な現象が起こるなんてことは全く観測されず非常に安定しており、統計的に見てまず心配要らない
加速器実験はふだんそこらじゅうで起きてることを測定装置の中心部で狙って起こすことで、精密に観測するにすぎないと理解した
341 ななしのよっしん
2024/04/30(火) 23:59:54 ID: ZiQsDIoDOE
342 ななしのよっしん
2024/10/18(金) 17:30:11 ID: cBYYQThXjQ
急上昇ワード改
最終更新:2024/11/01(金) 08:00
最終更新:2024/11/01(金) 08:00
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