プルトニウム 単語

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プルトニウム

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プルトニウム (Plutonium・Pu) とは、原子番号94番の元素である。アクチノイドの1つ。後述する通り、その名はに核燃料物質として一般的にも良く知られている。

物理的性質

単体のプルトニウムは、常温常圧においてニッケルに似た外観の白色金属固体である。黄色オリーブグリーンとする資料もあるが、それはプルトニウムが非常に化されやすく、素化被膜を構成する事に由来する色である。ねずみのように硬くて脆く、合金化しない限り展性・延性を持たない。また熱伝導率や電気伝導率も低い。融点は639.4℃と低い部類であるが、沸点は3228℃とかなり高い。

プルトニウムは常圧下においては温度によって6種類、圧力をかければもう1種類の結晶構造が存在する。常温常圧において存在するのはα相である。この結晶構造の相転移により、密度は15.9219.86g/cm3と極めて大きく変化する。また機械特性も変化する為、プルトニウムの加工は極めて難しい。なぜなら加工する際の熱や圧力で容易に相転移する為である。プルトニウムを加工する場合、通常は可鍛性を有しており溶接も容易なδ相が用いられる。これは310450℃の間で安定な相であるが、ガリウムを0.8~1.0%加する事で室温でも安定となる為、特にインプロ―ジョン方式の核兵器においてプルトニウムの核燃料にはガリウムとの合金が採用される。プルトニウムガリウム合金はしかしながら完に熱力学的に安定な訳ではなく、時間と共にα相へと相転移し、密度が高まる為に体積変化でひび割れて対称性が損なわれるという、インプロ―ジョン方式としては致命的な欠陥を生み出す。一方でこの特性は、なるべくプルトニウムを高密度として原子核同士が接近し核分裂反応が短時間で起ころうと意図する場合には便利である。

全てのプルトニウムの同位体は放射性同位体であり、最も半減期が長いのは244Pu8000万年である。また、原子炉や核兵器に使用される239Puは2万4110年、RTG (放射性同位体電気転換器) に使用される238Puは87.7年である。一定量のプルトニウムは顕著な熱を放出し、実際リチャード・P・ファインマンは約6.2kgのプルトニウム塊「デーモン・コア」を触った際に暖かいと言及している。

化学的性質

先述の通り、プルトニウムの単体は非常に化されやすい。特に溶融状態では急化が進行する為、真空中や不活性ガスの下で扱われる。湿った空気中では二化プルトニウムと化プルトニウムが表面に形成されるが、過剰な蒸気の元では二化プルトニウムのみが形成される。また水素との反応性も高く、容易に水素化プルトニウムが生成される。粉末状態では容易に自然発火し、塊状態でも400℃以上では発火する。

単体プルトニウムは四フッ化プルトニウムをバリウムカルシウムリチウムのいずれかと1200℃で反応させて生成される。プルトニウムの強い反応性の為、扱われるるつぼの材質はタンタルやングステンのような耐熱金属、あるいは硼化物、炭化物、窒化物、物といったものに限られる。

プルトニウムの直上に位置するランタノイドはサマリウムであるが、実際にはセリウムが一番似た化学的挙動をする為、プルトニウムを扱う模擬実験ではセリウムが代替物質として利用される。

天然での存在

プルトニウムは当初人工的に合成され発見された元素であり、現在でも人工的に合成した物を利用しているが、極めて微量ながら天然にも存在する。地球上において明らか天然由来である事が確認されている元素としては、プルトニウムは知られている最も重い天然に存在する元素である (恒星スペクトルにおいてはアインスタイニウムが発見されている) 。

ただしその量は極めて微量であり、カナダにある世界最大のウラン鉱山であるシガーレイク鉱山における分析では239Pu率にして2.444×10-12 (1兆分の2.444) しか存在しない。これは238Uが自発核分裂で発生した中性子を捕獲するか、二重β崩壊という、いずれも極めて低い確率でしか起こらない反応を経てしか生成しないためである。一方でガボン共和国のオクロ天然原子炉では若干濃度が高いが、それでも取るに足らない量である。

また、超新星爆発で生成したとみられる244Pu現在でも跡量ながら天然で発見されている。これは半減期8000万年と相当長い為で現在でも崩壊しきらずに残っているのである。244Pu天然に存在する最も重い核種である。

一方で、大気内及び水中核実験原子力事故により、人工由来のプルトニウムもまた環境中に放出されている。これは現在でも土壌及び人体に検出されており、これは天然由来のプルトニウムよりずっと多いが、健康被害を発生させるほどの高濃度ではない。

用途

プルトニウムの用途として最も著名なのは核兵器及び核燃料であろう。これはどちらもプルトニウムの核分裂の性質を利用しているが、用途によってその体となる同位体は異なる。

核兵器として利用されるプルトニウムは高純度の239Puが用いられる。球体にして直径約10cm、1016kgで臨界量に達するが、これは235Uの3分の1の量である。しかしながら、プルトニウムを高密度に圧縮すれば臨界量は下がり、例えば長崎市に落とされた原子爆弾ファットマン」で使用されたプルトニウムは約6.2kgである。理論上は4kgで臨界量に達する。これを達成する為には、球体に加工したプルトニウムの周りに多数の爆薬を配置し、同時に爆発させる事でその圧力で圧縮する爆縮レンズが用いられる。この爆縮レンズを用いた核兵器を「インプロ―ジョン方式」と呼ぶが、爆縮レンズに最適な形 (一口にサッカーボールと形容される切頂二十面体) に行きつくのに時間が掛かり、更に10億分の1の狂いも許されない正確な同時の爆破を実現するために新たな雷管である起爆電雷管の開発まで行った為、マンハッタン計画が1945年までにずれ込む一因となった。一方で一度技術が獲得されれば、少ない量で臨界量に達する事から核兵器の小化が可となり、現在力の原子爆弾の大半がプルトニウムを用いたインプロ―ジョン方式になったのはこれが要因である。

一方で、プルトニウムは原子炉の核燃料としても利用される。これは「MOX燃料」と呼ばれるが、これは二化プルトニウムを含んだ二ウランと言う形態から "Mixed Oxide (混合された化物)" という意味の頭文字である。MOX燃料は使用済み核燃料で核反応で生じた1%程度のプルトニウムを再処理で取り出してウランと混ぜて再利用できるようにしたもので、二化プルトニウムを48%程度含んでいる。高速増殖炉向けに開発されたものであるが、適切に加工すれば一般的な原子炉の形である軽炉にも利用可であり、これをプルサーマル利用と呼ぶ。

プルトニウムの用途はこの2つが最も多いが、これはプルトニウム全体に含まれる239Puの濃度で大別される。一般的に239Puを90%以上含んでいれ兵器級プルトニウムと呼ばれ、一般的に核兵器に利用されるプルトニウムにおける239Pu濃度は93%以上である。逆にそれ以下の濃度ならば原子炉級プルトニウムと呼ばれる。これは239Pu自身より、むしろ240Puの濃度の方が関係しており、240Puの濃度が10%以下ならば兵器級プルトニウム、それ以下ならば原子炉級プルトニウムとほぼ同等の意味になる。240Pu239Pu以上に核分裂を起こしやすい同位体であり、MOX燃料としてはそこまで問題にはならないが、核兵器として用いるには不都合となる。240Pu期に核分裂反応を起こして中性子を放出すると、爆縮で十分に圧縮される前に240Puが多くの中性子を起こして核分裂反応が期に暴走い段階で爆発してしまう。これを過爆発と呼び、核兵器の出力が低下する要因となる。240Puの濃度が10%以上だと過走爆発は起こりやすくなるが、一般的な原子炉である軽炉では240Puが20%以上となり、同位体分離も困難である。従って兵器級プルトニウムの生産には240Puが生じにくい炉が用いられる。裏を返せば、炉を持つ国家は、それが然にしろ非然にしろ、兵器級プルトニウムの生産的にそれを所持している事を意味するか、さもなくばそのような転用がい事を明しなければならない。なお、核兵器としてはより単純な「ガンバレル」では、爆発を抑えるには240Puの濃度が1%以下と非現実的な濃度に抑えねばならず、「シンマン」と言う試作品は作られたがこれが兵器として利用される事はかった。ガンバレルでは結局235Uが核燃料として採用され、これが使われたのは広島市に落とされた原子爆弾リトルボーイ」が最初である。

プルトニウムはその管理状況をIAEAに報告しなければならず、各の保有量は毎年表されている。日本は『のプルトニウム管理状況』として内閣府が毎年表している。あまり知られていないが日本の保有量はアメリカに次いで2番に多く、2014年末における未照射プルトニウム、使用済み核燃料中のプルトニウムのそれぞれの保有量は、アメリカが49.0tと637tに対して日本は10.8tと161tであり、次ぐロシアは6.8tと146.5tである。ただしその量は原子炉級プルトニウムでの話であり、これを核兵器として転用する事は不可能ではないにしろかなりの困難が伴う (240Puの過走爆発問題やインプロ―ジョン方式の高度な技術など) ため、単純計算で兵器何発分という事はできない。

まりこれらと較すると知られていないが、238Puを用いたRTGも重要な用途である。RTGは放射性壊変熱をゼーベック効果で電気に変換する装置であり、宇宙空間などの一度手放すと燃料補給が困難な場所での電に利用される。1kgの238Puは570Wの熱を発する。もっとも初期のRTGにはポロニウム同位体である210Poが利用されたが、210Poは半減期が短い故にとしての寿命が短く、しかも崩壊熱が膨大なので自身が融解するのを避けるために冷却装置を付けねばならないなど問題点も多かった。一方で238Pu半減期若干長く、膨大な熱を発生しない為冷却装置は不要である。しかも放出されるのはα線と低エネルギーγ線のみであり、前者は簡単に遮蔽可後者はほとんど問題にならないレベルの放射量である。238Puは簡単な遮蔽で、理想的には周りを囲む装置そのものが防護となるため新たな遮蔽を設置せずとも安全に取り扱う事が可であり、これは重量制限が厳しい宇宙機においては理想的な性質である。ボイジャー1号及び2号ガリレオカッシーニ、キュリオシティなどは238Puを用いたRTGが使われている。また、238Pu心臓ペースメーカーの電としても使われており、一度埋め込むと人間寿命程度は余裕で電力を供給する事から、いちいち手術して電を入れ替える手間やリスクを省く事に貢献した。1970年代リチウム一次電池に置き換わった事により現在では使用されていないが、それでも2003年の時点で50100人程度が238Puを電とするペースメーカーを使用しているとされている。

歴史

プルトニウムが初めて合成されたのは1940年12月14日の事であり、グレン・セオドアシーボーグ、エドウィン・M・マクミラン、J・W・ケネディー、およびA・C・ワールによって合成された。カリフォルニア大学バークレー校にある60インチサイクロトロン合成されたのは、238Uに重陽子を衝突させて合成した238Puである。この発見報告は1941年2月23日化学的に同定され、3月には Physical Review に送られたが、第二次世界大戦の最中と言う状況で表は1946年まで見送られた。

この新元素名前は、ウラン惑星天王星から命名された事に因み、続く元素海王星冥王星 (当時は惑星) に由来させる提案が出された。これは合成前に独立した2つの研究チームが偶然にも同様の提案をしていた事に由来する。これにより新元素冥王星の "Pluto" に因み "Plutonium" と名付けられた。元素記号は "Pu" であるが、これは "Poo" (幼児語で「うん○」という意味) と同じ発音になる事からシーボーグが冗談で使ったものであるが、結局のところ問題視される事く正式に採用されたという経緯がある。

その後239Pu合成され、その原子核の特性研究した際、中性子線を当てると、核分裂反応が入射した中性子線より多くの中性子を放出し、核分裂反応が指数関数的に続く性質が発見された。これは十分な量の239Puがあれば、核分裂反応により生成した膨大なエネルギー都市すら破壊可である事を示していた。そして239Puはマンハッタン計画により1943年に稼働したオークリッジのX-10炉により量産体制が開始された。後に生産拠点ハンフォードのB原子炉に移され、純度の高い239Puが量産できるようになり、またガンバレルとは異なる複雑な構造のインプロ―ジョン方式の核爆弾開発された事で、プルトニウムを用いた核兵器開発完成を迎えた。1945年7月16日239Puを用いた原子爆弾ガジェット」がトリニティ実験場で人類史上初の核兵器といて爆発実験に成功したのは、プルトニウムの発見からわずか5年足らずの事である。そして同原子爆弾ファットマン」が長崎市爆発したのは、それから1ヶも経たぬ8月9日の事である。「プルトニウム」という名前が一般に表されたのは、8月12日表されたスマイス報告におけるものが最初であり、原子爆弾の存在が表された後の事である。

毒性

プルトニウムの性は重金属としての化学性と、放射性物質としての放射線障害の2つの面で考えられる。プルトニウムの性はほぼウランに準ずると推定されているが、化学性が発現するよりかに少量で放射線障害が発生するとされている。急性中による半数致死量は経口摂取で32g、吸入摂取で13mgとされている。

最も深刻とされているのは、粉末を吸引した事にに蓄積する事であり、吸引するとに留まるか、胸のリンパ節にたまるか、あるいは血中に溶け出し肝臓に蓄積する。に200μg程度蓄積するとがんを発症するとされている。また二化プルトニウムを経口摂取した場合、その0.04%が吸収され、肝臓にほぼ半々が蓄積するとされている。その移動はかなりゆっくりであり、更に生物学的半減期は非常に長く、には50年、肝臓には20年とされている。IARCの発がん性リスクでは、239Puとその壊変物のエアロゾルは十分な科学的根拠で発がん性物質であるとしてグループ1に分類している。

ただ、動物実験ではプルトニウムによる発がん性が十分に明されている物の、ヒトに対するものではプルトニウムががんの病原であると医学的に断定された例は1つもない。プルトニウムを含む粉に接する可性のあった核兵器製造施設や原子力施設の労働者長崎市原爆投下における被爆者、およびネバタ試験場におけるプルトニウム注射実験の被験者を追跡調した結果では、実際にがんなどのがんを発症した事例はあったものの、通常の被曝者集団より発症率が低かった事、被曝から発症まで数十年と言う長い期間がある事から、病原をプルトニウムと断定するのには十分な拠がかったためである。

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