自動変速機(オートマチックトランスミッション)とは、自動車やオートバイに用いられる、エンジンの回転数や速度に合わせてギアを切り替える機能を持った変速機の総称である。
略称はオートマチック、オートマ、ノンクラ、トルコン、ATなど。最近流行りの無段変速機(CVT)もこの仲間である。以下、本項では自動変速機やその機構に関することをATと表記し、特に指示のない限り四輪車について記述する。
ギアチェンジを自動化する仕組みは20世紀の初め頃、アメリカで考案されたものが始まりとされる。1908年に発売され、流れ作業方式やフォーディズムという言葉を世界的に広めるきっかけとなった車であるフォード・モデルTは、前進2段・バック1段の半自動変速機を標準装備したものだったが、車の高速化・強力化に伴い3速~4速MTに取って代わられてしまう。
実用的な全自動変速機が登場するのは1939年にゼネラルモーターズが発表したハイドラマチックというもので、この当時はあくまでもオールズモビルのオプション装備という扱いだった。それ以降、AT車の開発がビッグスリー(GM・フォード・クライスラー)を中心に進むとともに、排気量の拡大競争なども相まってアメリカでのAT普及率は1945年の5%未満から1965年には90%を超えるなど爆発的に普及した。
日本においてAT搭載車を初めて市販したのは1957年、中島飛行機(現スバル)のラビットスクーターである。そして、4輪車は意外にも岡村製作所(現オカムラ)という、オフィス家具を作る会社が1958年に出した「ミカサ」という600ccの前輪駆動車が最初であり、数百台程度売れた。日本初のトルクコンバータに2速の変速機を組み合わせたこのATは2015年に機械遺産として認定を受けている。
ちなみに、この車は東京都千代田区永田町にある企業博物館、オカムラいすの博物館に展示されているので興味のある方はその目で日本初のAT車を見てほしい。
そして、その翌年の1959年にトヨタ自動車が商用車の「マスターライン」に搭載した「トヨグライド」が大手自動車メーカーのAT搭載車第1号である。トヨグライドはその後、1962年のパブリカ、1963年のコロナ、1967年のカローラと搭載車を拡大、他社もそれについていく形となりAT車が普及していった。
そこから現在に至るまでAT車は拡大の一途をたどり、現在ではほとんどの車がAT車のみをラインナップするまでになった。それを証明するように、2016年国内販売台数の内、実に98.4%がAT車というデータが発表されている。
しかし、消防車やバス等の大型車や営業で使うバンなどの車は耐久性などの面からMT車がいまだに多く、こうした車にも徐々にAT車が普及しているとはいえ、いまだにAT限定免許を不可とする会社もある。
ATにはその機構によって幾つかに分類される。ただ、道路交通法上AT車はクラッチベダル・レバーのない車のことを指すので、AT限定の免許で乗ることができる。
ここでは主なものを2つ挙げる。これ以外にも乾式単板クラッチ式・乾式多板クラッチ式・電磁クラッチ式、それに流体継手(フルードカップリング)式クラッチなどがある。
よくトルコンといわれるのはトルクコンバータのこと。エンジンから来る動力の伝達にこれを使い、多段式の変速機やCVTと組み合わせる。ATF(ATフルード)という液体を使って駆動力を伝える。一般的なATのほとんどがこれ。
エンジンからトランスミッションへの動力伝達に、潤滑油に漬けられた複数枚のクラッチを用いるものでバイクなどで多く用いられる形。車ではこれと無段変速機を組み合わせた、ホンダ・シビック(1995年式)から搭載されたホンダマルチマチックや遊星歯車式変速機構と組み合わせたメルセデス・ベンツのAMGスピードシフトMCTが挙げられる。
段階的な変速機構と無段変速機に大別される。段階的な変速機構を持つものを、区別のために「ステップAT」ということもある。もともとこうした段階的変速機構は制御可能なものだったがエンジン効率を最大限引き出すには多段化する必要があり、そのせいで重量増や製造コストがかさんでしまうといったデメリットもある。
複数の遊星歯車+トルコンによる変速。中身が単純なのでATの主流である。段数を多くすると変速のショックが小さくなる代わりに、コストや重量がかさんでしまうのが欠点。軽自動車では3~4速、大衆車で5~6速、高級車ともなると8速を積むこともある。
ホンダが1960年代に「ホンダマチック」として開発した形式。常時噛合ギア+トルコン+油圧式の湿式多板クラッチという仕組み。遊星歯車式が特許でガチガチに固められていたのでそれを避けるために開発された。遊星歯車式よりギア比を自由に選択しやすい。
詳しくはCVTの記事を参照。歯車ではなく、プーリーとベルト(チェーン)の摩擦によって変速を行う。日本の、特にコンパクトカーで多く採用されている形式。逆に海外では採用例が少ない。
変速は手動のままでクラッチ操作を自動化したもの。手動変速だがクラッチがないため2ペダルMTともいう。中型・大型車で近年特に用いられる形式。歴史の項目で紹介したフォード・モデルTはこのタイプにあたる。
詳しくはDCTの記事を参照。トランスミッション内に奇数段と偶数段のクラッチがあり、それが変速時にすぐ切り替わるようになっているのが特徴。外車に多く、セミATに含めることもある。
チェンジレバーを目的に応じた位置(シフトレンジ)に入れることで操作する。操作は簡単で、付いている溝に沿ってレバーを上下するだけでよいが、特定のレンジへ入れるときなどの操作をする時は、レバーに付いているボタンを押したり、レバーを手前に引いたりする動作が加わる。ホンダ・レジェンドやアバルト・595などのように、押しボタンでシフトを操作するという車もある。
また、ATにおけるオーバードライブスイッチやCVTのスポーツモードスイッチを切ることで、山道や市街地でのスムーズな走行を可能にしたり、SNOWやPOWERなどといった道路状況に合わせた変速を行うボタンを持つ車種もある。
その名の通り、車の中央部分の床にある。最も一般的な方式でシフトレンジが一直線上に並ぶストレート式と誤操作防止のためにシフトレンジがジグザグに配置されているゲート式の2種類がある。MT車も基本的にはフロア式が多い。
変わったところでは、ジャガーの一部車種に搭載されたダイヤル式のシフトがある。
ステアリングコラム(ステアリングポストともいう。ワイパーやウインカー、ライトを操作するレバーが付いているところ)にある。床にシフトレバーがない分前席のスペースが広くなり、シフトもハンドルに近くなるので操作しやすいが、どこにシフトが入っているか分かりづらいというデメリットがある。昔はMT車がこのタイプだったが多段化し、前述した実用性のなさやダイレクトな操作感に乏しいためどんどん廃れていった。
AT車はシフトレンジが単純なのでこうしたデメリットは小さく、1990年代まではよく使われていたが後述のインパネシフトにほとんど置き換えられている。
インストルメントパネル(略してインパネ。ざっくりいうとカーナビやエアコンのある辺り)にある。
シフトがわかりやすいフロアシフトと前席スペースを広く取れるコラムシフトのいいとこ取りで、近年のAT車はこの方式が主流。これもストレート式とゲート式がある。最近はスズキ・エブリイや三菱ふそう・キャンターなどMT車もこのタイプを採用することが増えてきている。
駐車やキーを抜く時に入れる。寒冷地では、パーキングブレーキが凍結して動けなくなることを避けるためにこれと輪止めを使用して停車するケースもある。一部大型車にはこのレンジがなく、代わりにNで停車する。
バックする時に使用する。このギアに入れればブザーやチャイムが鳴り、Rに入っていることを知らせる。
信号待ちでの停車等に用いる。Pと違って駆動輪は固定されないので外力がかかると車は動いてしまう。このレンジでもエンジンはかけられるが、安全のためPで始動することが推奨される。
通常走行時に用いる。このレンジへ入れておけば、ハンドルとアクセル、ブレーキだけで操作が可能になる。車によってはマニュアルモードといい、チェンジレバーを左右どちらかに倒し上下に動かすことで、ある程度自分のタイミングでギアを切り替えることができる車がある。スポーツ志向・高級グレードの車に多く、パドルシフトといって、ハンドルから手を離さずにシフトチェンジできる装備もつけていることが多い。
下り坂などで、強力なエンジンブレーキを使いたい時に用いる。このレンジは車種やメーカーによって表記が異なる。CVTでは数字を使わず、アルファベットで表記することもある。
例:トヨタ・・・P→R→N→D→S→B
ホンダ・・・P→R→N→D→S→L
日産・・・P→R→N→D→L
AT車はクラッチペダルがなく、右足だけでアクセルとブレーキを操作するので、ブレーキだと勘違いしてアクセルを踏んだ結果、コンビニの壁に突っ込む事故が毎年の様に起きている。勘違いをなくすようにすることが肝心であるが、踏み間違い防止のため左足でブレーキを踏む人もいる(しばしば議論の対象になる)し、過去の経験から誤操作防止ペダルを開発した人もいる。メーカーもこうした事故を防ぐ装置を開発し、軽自動車を始めとする多くの乗用車に装着されるようになったが、過信は禁物。
AT車はエンストしないと思われがちだが、それは間違いである。国土交通省によると
①Dレンジに入れたまま、惰性で坂道から後退していく→エンスト
③坂道で、押しボタン式のエンジンスターターがついた車でエンジンをかける→きちんとブレーキを踏まなかったためエンジンがかかってない
これら操作ミスからエンストを起こし、最終的にブレーキやハンドルが利かずに崖から転落死した事例がある。エンストの状況とその対処法について国土交通省がYouTubeにも動画をアップしているので確認してみて欲しい。
特に誤操作をしているわけでもないのに、AT車がエンストするということは燃料系統等車両内部に重大な故障が起きていることを示しているため、安全な場所へ停車し、ロードサービス等を手配して自動車整備工場で修理を受けることを強く勧める。
AT車は車種により差はあるものの、アイドリング状態でPとN以外のギアに入れて、ブレーキを踏まないでいると、アクセルを踏んでいないのにゆっくりと勝手に進みだす。これをクリープ現象(creep 英語で「忍び寄る」)という。そのため、停車時はしっかりブレーキを踏んていないと前の車にぶつかってしまう危険がある。特にエンジンの始動時やエアコン使用時に強く現れる。
逆にいえば、MTでいうところの半クラッチ状態でゆっくりと動けることになるので車庫入れや渋滞時などはブレーキを少し緩めるだけで簡単に進める。これを活用すればAT車はもっと楽に運転できる。
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16 ななしのよっしん
2023/01/09(月) 22:56:21 ID: qH4YGNxPBI
今社用車でもAT当たり前だから、免許はAT限定でも実用上問題ない。
MTは趣味の世界に……昔はAT限定は結構恥ずかしかった時代もあった。
バイクは逆にATのほうが難しいので注意。
MTの方が簡単。
17 ななしのよっしん
2023/05/20(土) 13:17:32 ID: idaUIjnFK6
免許上はドライバーからのクラッチ操作が可能であればMT。操作ができないものがAT。
モータースポーツではクラッチがドライバーの力のみで駆動されるものがMTで操作できないのがAT。
セミATはクラッチ機構が自動制御とドライバーの操作の両方を受け付けるものを指す。
パドルシフトにしてもクラッチがドライバーからのみ操作されるのはMTになる。
モタスポ上のセミAT車は市販車では一部のトラックやラディカルみたいなプロトタイプカーにナンバー付けたような車ぐらいしかない。
AT限定免許で運転できなくなるので自動車メーカーにとって販売数が見込めないから。
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最終更新:2024/11/14(木) 12:00
最終更新:2024/11/14(木) 12:00
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