ウォーエンブレム(War Emblem)とは、1999年生まれのアメリカで生産されたロリコン元競走馬である。
概要
父Our Emblem、母Sweetest Lady、母父Lord at Warという血統。
父は大種牡馬Mr. Prospectorと13戦無敗でミス・パーフェクトと謳われたPersonal Ensignを両親に持つ超良血馬、母は日本でも大活躍した種牡馬*ブレイヴェストローマンの近親、母父はあのBrigadier Gerardの血を引いているという、見た感じなかなかの血統を持つ。*サンデーサイレンスよりはるかにいい血統である。
とはいえ、Our Emblemは27戦5勝・重賞未勝利という凡庸な成績で、GIでは善戦マン止まりであり、血統がなければ去勢されて乗馬クラブ直行もありえたレベルで、Sweetest Ladyも結構遡らないと*ブレイヴェストローマンに当たらない上、彼女の牝系は活躍馬が出ていない流れであった。
そんな血統故か、西海岸や東海岸の有力厩舎ではなく、中部の有名じゃない厩舎から誰にも知られないスタートとなった。2歳時はデビュー2戦目の芝レースを落としたのみの3戦2勝し、もしかしたら全米一有名なケンタッキーダービー出走が見えてきたかも知れないと思わせる鮮やかな勝ち方も見せていた。
3歳に入るとステークス競走や重賞に挑戦しだし、2戦続けて馬群に怯むなど脆さを見せて惨敗していたが、次走に選んだ一般競走で11馬身ぶっちぎる大楽勝を見せた。「この馬、気分よくさせてやれば猛烈に強い!」と気づいた陣営はケンタッキーダービー出走へ一縷の望みをかけてGIIのイリノイダービーへ向かい、ここも気分よく突っ走り6馬身1/4差で楽勝。ケンタッキーダービーの有力馬勢力の端っこくらいには入ってきていた。
しかし、こういうメジャーじゃないところから来た馬が転売されて有力馬主の顔で出るようになるのがアメリカンスタイル。サウジアラビアのサルマン殿下率いるレース団体ザ・サラブレッドコーポレーションに90万ドルで売却され、厩舎もアメリカ屈指の腕っこきボブ・バファート厩舎へ転厩し、騎手も日本でも馴染みがあるヴィクター・エスピノーザに替わってケンタッキーダービーへ出走。
18頭立ての9番人気止まりではあったが、終わってみればスタートから先頭を突っ走り切った彼と後続馬には4馬身の差があった。中部のローカル競馬場でくすぶっていた彼は、全米のサラブレッドが目指す一度きりの大舞台でも気分よく走るとこんなにも強かったのだ。
続くプリークネスステークスも気分良く先行、さすがに他馬も楽に勝たせまいと3角で早めに先頭に立ったウォーエンブレムを必死に追い詰めたがその猛追を何とかしのぎ二冠達成。三冠をかけたベルモントステークスではベルモントパーク競馬場史上最高となる10万3222人の大観衆の応援を受けて偉業に挑戦したが……魔法が解けてしまったのか、油断があったのか出遅れを喫し、ブービー人気で勝ったSaravaの8着と完敗。三冠の夢は儚く散ったのであった。
その後は同世代相手のハスケル招待ハンデキャップを楽勝したが、古馬相手には気分よく走れず、パシフィッククラシックステークス6着、BCクラシック8着と2連敗し引退。誘導馬に噛み付いたり、機嫌を損ねた勢いで通りがかったバファート師に飛びかかったりと問題行動を連発し、レースでも他馬の後ろについた瞬間にカリカリするという激しすぎる気性が災いしたのか、かなりムラのある成績に終わった。
引退後はサルマン殿下の庇護のもと、二冠を手土産にアメリカで種牡馬入りする……筈だったのだが、まだ現役だった2002年7月にサルマン殿下は急死しており、所有する馬は遺産管財人によってすべて競りにかけられた。そこには、大種牡馬*サンデーサイレンスを、さらに彼が残した優秀な牝馬を活かせるであろう存在*エンドスウィープ、エルコンドルパサーをも2002年に立て続けに失っていた社台グループの姿もあった。
彼らの目標は、*サンデーサイレンスに生き写しの姿(毛色といい本当に似てる)を持つアメリカ二冠馬、日本ではMr. Prospector以外はほぼ異系血統で埋まったウォーエンブレムを競り落とし導入することであった。
*サンデーサイレンスの遺した巨額の保険金という元手があったことや、脆い時は脆いレースぶりや血統がいまいちなのも手伝ってか1700万ドル(当時のレートで約21億円)でなんとか落札。
こうして、アメリカ二冠馬が再び直接日本へ輸入されることとなったのである。社台グループの期待度はどれだけ高かったか、お分かりいただけるであろう。しかしながら……種牡馬入り後は次項参照。
金髪ロリ
日本の競馬ではHail to Reason系やNorthern Dancer系の種牡馬が成功したが、逆に言うと優秀な成績を残した馬がどちらかの系統の場合が多く、配合しにくい状況になっていた。
社台グループはその打開策の一環としてMr. Prospector系の大型種牡馬の導入に着手し、本馬を1700万ドルで購入。サンデーサイレンス産駒の牝馬との配合が容易ということで、大きな期待を寄せられて日本での種牡馬入りを果たしたのである。
しかし、いざ種付けとなったときにウォーエンブレムは牝馬にまったく興味を示さなかった。正確には「好みの牝馬以外にはアレがエレクチオンしないのよォー!!!」という状態であった。
だが関係者の試行錯誤や努力により、なんとか種付けが出来る好みの相手を発見した。それは栗毛の小柄な馬だった。
このニュースは競馬ファンの格好のネタとなり、そうしてウォーエンブレムは「金髪ロリ(ブロンドロリ)専」の愛称が必然的についたのだった[1]。
社台グループもなんとかしようと、金髪ロリでやる気にさせて挿入する段になってから差し替える作戦を敢行したり、世界的な獣医を呼び様々な治療を施したりで一時的に改善したこともあったが、前者はバレてへそを曲げられ失敗(競走馬は人間が思うより賢いのである)、後者は結果は出たが長続きせずで、2010年と2011年はまたもろくに種付け出来ずにシーズン終了。アメリカ二冠馬だし無碍にすることも出来ないし、種付けに成功したらそれなりに走る仔を出してしまうので他に売っ払うわけにも行かず、種なしだったり完全に機能不全だったわけじゃないせいか損害保険も満額下りずとろくなことにならなかった。
*ジャッジアンジェルーチのような明確な大失敗でもないため、悩ましい存在になっていたことは想像に難くない。まさか種牡馬としても気分よくさせてやらにゃならんとは……。その点サンデーは不細工だろうと何だろうと焦らす余裕を持ちつつ数十秒で処理していたんだから半端ない。
ちなみにだが、性嗜好は途中から金髪ロリではなくなったらしい。馬だって移り気です。
……まあ、そういうネタを抜きにすれば、数少ない産駒からブラックエンブレムやローブティサージュ、ウォータクティクス、ショウナンアルバ、シビルウォーらGI馬・重賞馬を多数輩出するなど、まともに種付けできていれば間違いなくリーディングサイアー争いのトップランナーであっただろうと思わせる成績を残した。芝も苦にしないしダートも強いんだから本当に惜しまれる。
さらに余談だが、子供たちも充実してる時はとことん強いが少しでも歯車が狂うと惨敗を繰り返してしまうところがある。どうやら、優れた能力のみならず気分よくさせてやることが大事なところまで子供に遺伝させているようだ。いらんところまでそっくりとか遺伝って怖い。
近年はすっかり人間不信となり、2012年を最後に種付け不能状態となっていたウォーエンブレムであったが、2015年に入ってから「同年中に帰国し、功労馬として暮らす」というニュースがアメリカで報道された。
社台もついに匙を投げ、彼の幸せ(?)を優先するようにしたようだ。幸い、非サンデー系としてはキングカメハメハがすっかり軌道に乗り、ルーラーシップ他後継者も出し盤石の体制を作れたし、彼の件ですっかり懲りて、種牡馬は*ノヴェリストや*ワークフォースのように欧州から取り寄せる方向に転換したことが大きいのだろうか。
しかし、これだけろくに種付けが出来ず、たった105頭しか中央競馬に送り出せなかったというのに、56頭が勝ち上がり重賞9勝(うちGI2勝)を挙げたというのは凄まじい能力を秘めていた証と言える。
サンデーの血が一切入っていない後継者のシビルウォーとオールブラッシュを輩出している。シビルウォーはGI未勝利ながら毎年50頭以上とコンスタントに種付けを行っていたが、地方競馬で重賞馬を数頭出す程度に留まり、2020年を最後に用途変更。入れ替わるように2021年からはオールブラッシュが種付けを開始したが、初年度の種付け数は11頭と苦戦している。
なおこのオールブラッシュも父同様種付けはあまり好きではなく、牝馬が少しでも動くとやる気をなくし、父同様に体格の大きな牝馬も苦手という。牡馬は「発情した牝馬の尿の臭い」を嗅ぐと性的に興奮することから、スムーズな種付けのためにこの方法を試してみたが効果が芳しくない。それでも試行錯誤を繰り返した結果、スノーフラワーという芦毛の牝馬の尿の臭いにのみ興奮を示すことがわかり、以降種付けがはかどるようになったという。もうやだこの親子……。
帰国後
さて、2015年の末にアメリカに帰国したウォーエンブレムであったが、アメリカの土を踏む前に難儀な事態が待ち構えていた。アメリカ農務省の定めた馬伝染性子宮炎という病気の検査である。
この病気、牡馬は症状が一切出ない上に感染力が高いため、一度パンデミックが起こると馬産地が不妊・流産で壊滅する危険がある病気である。それゆえ水際で絶対止めるのが原則のものであるため、日本で種牡馬として活動した経歴のあるウォーエンブレムには必ず検査が義務付けられる事項であった。
そして、牡馬に課される検査は細胞の一部をとって培養する検査と、実際に一発ヤッて、その上で感染させないかどうかを見るというものであった。
「アメリカに無事入国したければヤれ、嫌なら北海道にお帰り!」という究極の二択を迫る形になったのである。
……一応、もう一つ方法はあった。去勢して男としての機能を取り払えば、感染させることもないため検査除外になるのだが御年17歳の中年ホースに去勢手術は命の危険が付きまとう。
そのため関係者はなんとかしてヤらせようとしたが、ウォーエンブレムはいつもの調子で断り続けた。こんな時まで鋼の意志を発揮せんでも……。
関係者の必死の尽力も実らず、結局ウォーエンブレムの鋼の意志を尊重し、命の危険はあるがアメリカ入国に必須の去勢手術を行うこととなった。
手術は恙無く成功。せん馬となった彼は晴れてアメリカの地に帰還することが出来たのであった……。
故郷に帰国したウォーエンブレムは、ケンタッキー州の功労馬繋養施設・オールドフレンズに入厩。自らの三冠を阻止したSaravaなどとともに余生を過ごしていたが、2020年3月に小腸破裂のため急死した。21歳だった。
血統表
Our Emblem 1991 黒鹿毛 |
Mr. Prospector 1970 鹿毛 |
Raise a Native | Native Dancer |
Raise You | |||
Gold Digger | Nashua | ||
Sequence | |||
Personal Ensign 1984 鹿毛 |
Private Account | Damascus | |
Numbered Account | |||
Grecian Banner | Hoist the Flag | ||
Dorine | |||
Sweetest Lady 1990 鹿毛 FNo.20-b |
Lord at War 1980 栗毛 |
General | Brigadier Gerard |
Mercuriale | |||
Luna de Miel | Con Brio | ||
Good Will | |||
Sweetest Roman 1977 鹿毛 |
The Pruner | Herbager | |
Punctilious | |||
I Also | Sky High | ||
Roman Song | |||
競走馬の4代血統表 |
3代母I Alsoの半弟が*ブレイヴェストローマンである。
主な産駒
2004年産
2005年産
- ウォータクティクス(牡 母アドマイヤハッピー 母父*トニービン)
- エアパスカル(牝 母ラフィカ 母父*サンデーサイレンス)
- キングスエンブレム(牡 母スカーレットレディ 母父*サンデーサイレンス)
- シビルウォー(牡 母*チケットトゥダンス 母父Sadler's Wells)
- ショウナンアルバ(牡 母*シャンラン 母父Great Commotion)
- ブラックエンブレム(牝 母ヴァンドノワール 母父*ヘクタープロテクター)
2010年産
2012年産
関連動画
関連項目
脚注
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