「アッシュビーは戦機を測るのが比類ないほど巧みだった。あれはもう天才というしかない」
- アルフレッド・ローザス退役大将
ブルース・アッシュビー(Bruce Ashbey)とは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。担当声優は風間杜夫。
概要
「時の女神に愛された男」と賞賛される自由惑星同盟史上最大の英雄であり、かの「730年マフィア」のボス。
そのわずか15年間の軍歴における数多の勝利は、こと「英雄的」という点でかつてのリン・パオとユースフ・トパロウル、後のヤン・ウェンリーをもはるかに凌駕するものであり、ブルース・アッシュビーの名は同盟軍宇宙艦隊建軍以来最大の栄光として同盟史上に、そして帝国軍にもっとも恐るべき損害を与えた、憎むべき敵将として帝国史上に残った。
前半生
宇宙暦710年に生まれたアッシュビーは、同730年6月、いわゆる「730年マフィア」であるフレデリック・ジャスパー、ウォリス・ウォーリック、ファン・チューリン、ヴィットリオ・ディ・ベルティーニ、ジョン・ドリンカー・コープ、そしてアルフレッド・ローザスとともに同盟軍士官学校を首席で卒業する。この時身長186cm、若くして人の上に立つ風格を備えた偉丈夫であったという。
新任少尉として任官したアッシュビーは順調に昇進し、わずか8年後の宇宙暦738年、のちの「730年マフィア」全員が第一線の指揮官として勇戦したファイアザード星域会戦において、損害対戦果比率15:1という完全勝利を指揮してその名を轟かせた。その後も「730年マフィア」とともにドラゴニア会戦など帝国軍に対し勝ち続け、その名は同740年には「ブルース・アッシュビーなる叛徒どもの巨魁」として帝国軍にも知れ渡るほどになった。
「お前たちをたたきのめした人物は、ブルース・アッシュビーだ。つぎにたたきのめす人物はブルース・アッシュビーだ。忘れずにいてもらおう」
という挑発的な句は、彼が戦いに勝つたびに帝国軍に打電したものである。むろん帝国軍はこれに憤激した。こと二人の息子をアッシュビーとの戦いで失った軍務尚書ケルトリング元帥などは、病に倒れた床で「アッシュビーを斃せ!アッシュビーを斃せ!」とだけ言い残し、ほとんど憤死したほどであった。
女性関係はかなり派手で、2度結婚し2度離婚している。
最初の妻のアデレードは「730年マフィア」の盟友達とも知り合いで、アッシュビーが浮気する度に盟友達は「アデレードが笑っているうちはいいが、笑わなくなったらこわいぞ」という気分でいた。最終的にアデレードと離婚したアッシュビーだが、調停の場に立ち会ったアルフレッド・ローザスは後にヤン・ウェンリーに次のように語っている。
「私も正直こわかったね。なんというか、俗ないいかたで気がひけるが、女性を怒らせるものではない、と、しみじみ思ったものだ」
2人目の妻のルシンダとは、1年足らずで離婚。離婚した後も表向きアッシュビーの姓を名乗ったため、ブルースとは軋轢が生じてしまう。
宇宙暦745年3月、大将に昇進したアッシュビーは弱冠35歳にして宇宙艦隊司令長官に叙せられた。そしてその年の12月5日、英雄としての彼の名を永劫不動のものとした、かの第二次ティアマト会戦が発生する。
第二次ティアマト会戦
第二次ティアマト会戦において、宇宙艦隊司令長官アッシュビー大将が指揮した同盟艦隊の総数は5個艦隊。総参謀長にローザス中将、第4艦隊司令官にジャスパー中将、第5艦隊司令官にウォーリック中将、第8艦隊司令官にファン中将、第9艦隊司令官にベルティーニ中将、第11艦隊司令官にコープ中将と、すべての高位指揮官を「730年マフィア」で固められた布陣は、まず同盟軍のドリームチームと言ってよかった。
開戦直前の作戦会議において彼が妙に高圧的な態度に終始したため「730年マフィア」の間が険悪になるなどのアクシデントはあったものの、会戦前半はまず順調に推移した。この時アッシュビーは他の幕僚には理解し得ない、直感としか考えられない判断によって主力を温存し、同盟軍後背に進出しようとする帝国軍の別働隊に備えている。
会戦後半に至って、彼は第8艦隊から抽出した3000隻を始めとした連合部隊を強引にその指揮下に置き、総司令部直率のもと大規模な繞回運動に着手した。そして11日18時10分、膠着した前線が帝国軍の有利に向かって雪崩を打って傾こうとしたまさにその時、彼の艦隊は帝国軍の左側面に突入し、神技的な戦術機動によって艦隊中央を突破し、同日18時50分までのたった40分間で帝国軍艦隊を完膚なきまでに潰滅させたのであった。
この40分間こそが、「軍務省にとって涙すべき40分間」となった。1時間にも満たないこの僅かな間に戦死せる将官は60名を数え、帝国軍宇宙艦隊は建軍以来最大最悪の損害を被ったのである。
しかし、その「40分間」が終わったわずか17分後、「流れ弾の服を着た運命」が同盟軍総旗艦<ハードラック>を訪れる。被弾による爆発が艦橋を襲い、その第二波によって生まれたセラミック片がアッシュビーの腹部を直撃、2分後の19時9分、英雄ブルース・アッシュビーは出血性ショックによって35年の生涯を終えた。
翌年1月4日、国葬によって弔われた彼は元帥に叙せられる。生きていれば36歳という同盟軍史上最年少の元帥となった彼は、その最絶頂における輝かしき戦死によって、同盟史上の伝説的英雄となったのだった。その命日は、自由惑星同盟の公式記念日としてカレンダーに残されている。
野望
彼はカリスマに溢れる野心家であり、宇宙艦隊司令長官という顕職以上の野望を抱いていた。
その証拠に、第二次ティアマト会戦直前にはリン・パオとユースフ・トパロウルの例を挙げ、政界への転身を示唆するかのような言動もとっている。
この野心を恐れた同盟の政治家が何らかの形でアッシュビーを謀殺したのだ、と推論することもできるが、証拠は無く、推論以上のものではない。
才能
冒頭の言葉の通り「戦機を測るのが比類ないほど巧みだった」という彼は、傍から見れば理由がまったく謎な判断によって艦隊を動かし勝利をつかむ事が多かったという。
この謎を「宿題」として挑戦させられる羽目になったヤン・ウェンリーが帝国軍捕虜クリストフ・フォン・ケーフェンヒラー大佐の供述やその集めた資料などから類推したところによれば、アッシュビーの圧倒的な勝利の秘密は「情報」を意のままにしたところにあるという。
彼は帝国から亡命したマルティン・オットー・フォン・ジークマイスター大将とそのスパイ網の秘密裏の協力を受け、帝国艦隊の動きについて詳細な情報を得ていた。その情報は玉石混交のもので役に立たない情報も無数にあったはずだが、その中から有用な情報を選び出して活用するという点にこそ、ブルース・アッシュビーの偉大な才能があったのである。彼はこのジークマイスター情報によって数多の勝利を得た。そして亡命先の民主政治に失望したジークマイスターもまた、清新でカリスマに溢れる指導者であるブルース・アッシュビーの才能に賭けていたのである。
むろんこれらはすべてヤン・ウェンリーの推論に過ぎず、ケーフェンヒラーの集めた資料もB級重要事項として25年間の封印を受け、真相は闇のままになってしまった。
しかし、情報収集における才能を考えにいれなかったとしても、アッシュビーは戦術家として比類無い天才だった。それは第二次ティアマト会戦でアッシュビーが自ら率いる別働隊を編成した時に現れている。彼は戦闘中の各艦隊から戦列を崩すことなく十分な戦力を抽出し、寄せ集めのはずのこの連合部隊を混乱もなしに統率して繞回進撃を完遂、最終決戦の場に投入してのけたのである。「指揮ぶりの異常なまでの熟練」、「後世の史家を呆然とさせる」とまで評される、極めて困難かつ異様な戦才の発露であった。
ただ彼の天才は戦術面に限定されていたことは、作中でもローザスやヤンによって言及されている。そのため幾多の華麗な戦勝にもかかわらず、それらが帝国に対する同盟の戦略的優位をもたらすようなことには至らなかった。
もちろんアッシュビーに戦略家としての思考が皆無だった訳ではなく、帝国と同盟間の回廊内に巨大要塞を建造する構想があったことも述べられている。しかし要塞建造に巨額の予算が必要なことと、艦隊予算の増額が決定すると、この構想は彼によって放棄された。一方の帝国軍が、第二次ティアマト会戦での大敗後、それまでの方針を転換してイゼルローン要塞の建造に踏み切ったことで、周知のように以後の同盟軍に多大な損害を与え、ひいては同盟国家自体の疲弊をもたらしたことを鑑みれば、彼が自己の得意な戦法(艦隊戦)に固執して自軍の戦略的利益を後回しにしたと見ることもできよう。
関連動画
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関連項目
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